近年のマーケティングのやり方において、一般大衆が対象であったマスマーケティングから、顧客一人ひとりのニーズを満たすマーケティングへと変化しています。ECサイトをはじめWeb上で商品の購入やサービスの申し込みが一般的となったことにより、顧客ごとの属性や行動履歴などのデータ活用が求められ、「CRM施策」の重要性が高まってきているのです。
「CRM施策」とはCRMを活用して売上アップを図る取り組み
CRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)施策とは、顧客の属性や行動履歴などのデータを分析することで、営業活動のスピードアップや新規顧客の獲得などにつなげるための施策です。顧客一人ひとりのニーズを知ることで、ニーズに沿った商品やサービスを開発したり改善したりするなど、顧客満足度の向上やブランディングにつなげます。
CRM施策をする場合においては、「CRMシステム」を活用することが一般的です。CRMシステムには顧客管理機能の他に、データベース機能やメール配信機能、フォーム連携機能などが含まれます。
CRMマーケティングとは
インターネットの普及や技術革新により、デジタルマーケティングが必要になり、顧客一人ひとりに合わせたマーケティングが求められるようになりました。
「CRMマーケティング」とは、CRMツールを使って顧客に関するさまざまなデータや行動履歴などを分析することです。分析したデータを基に消費者のニーズを満たしている商品開発やサービスの改善を行い、顧客満足度の向上やブランディングにつなげます。
CRM施策が重要な2つの理由
CRM施策が重要である理由として、次の2点が挙げられます。
- ニーズが多様化している
- 生涯顧客価値がより重要になった
1. ニーズが多様化している
インターネットの普及により、自身で情報収集を行って商品やサービスを選択できるようになりました。だれしもが自分にピッタリの商品やサービスを見つけやすくなったことで、それぞれ細かいニーズが生まれます。
マーケティング活動としても、不特定多数にアプローチするマスマーケティングではニーズの異なるターゲットに届く訴求が難しく、効果は減少してきています。
そこで、ニーズの異なるターゲットごとに、適切な訴求を実施するためのOne to Oneのマーケティング活動が重要になりました。
CRMを活用することで、顧客それぞれのニーズ情報が収集できます。その収集した顧客情報をもとにニーズに合わせた商品開発やプロモーションができるようになります。
2. LTV(生涯顧客価値)がより重要になった
LTV(Life time Value)は、日本語では「生涯顧客価値」と呼ばれ、顧客が自社の商品やサービスに対して支払う費用の総額を表す指標のことです。顧客が、長期間にわたってその商品やサービスを使い続ければ、LTVが高くなります。再販率の向上やブランド価値を上げることでLTVを上げることができます。
LTVが注目されている背景として、近年では消費者のニーズに合わせた商品やサービスを開発しているため、競合商品(競合サービス)が多くなり、商品やサービスにおいて差別化が難しくなっていることが挙げられます。
LTVを上げるためにも、CRMを導入することでリピーターを重要視した売上モデルを設定することが重要です。
顧客と良好な関係を築くための主なCRM施策
顧客との良好な関係を築くために、さまざまなCRM施策が導入されています。本記事ではCRM施策の一部として次の5種類を紹介します。
- おすすめ情報を配信
- ステップメールの配信
- メルマガ
- 問い合わせフォーム
- ポイントカード
おすすめ情報を配信
CRMで集めた顧客の購入履歴や問い合わせ履歴などを分析して、関連する商品やセール情報などをメールに差し込んで配信します。顧客一人ひとりのニーズに合った情報を提供できるため、顧客満足度の向上や売上アップにつながりやすくなります。
例えば、顧客が買おうかどうか悩んでいる商品の割引クーポンがあれば、購入を後押しできます。ためらっていた理由が価格だけであれば、購入する可能性は高くなるでしょう。
ステップメールの配信
ステップメールとは、ユーザーのアクションをきっかけとして配信するメールを指します。具体的には、商品の購入や、資料請求、メルマガ登録などのアクションです。
まずは、お礼のメールから始まり、あらかじめ決めていたシナリオに沿って顧客に合わせたスケジュールで配信します。
たとえば、商品購入の場合はまずお礼のメールを送り、その後商品に不備がないか、使い心地はどうかといったメールを、さらに一緒に使うと便利な商品の紹介メールを送り、セールのお知らせを送る、といったステップを踏みます。
顧客が求める情報を、適切なタイミングで送るため、より強くアピールできるというメリットがあります。
あるべきステップメールの形を追求するためにも、CRMで顧客の属性や行動内容などを分析することが求められます。
メルマガ
メルマガは、比較的コストを抑えながらも顧客にアプローチする方法です。メルマガの主な目的は既存顧客に送る場合クロスセルやアップセルであり、より高価な商品や関連商品を購入してもらって顧客一人ひとりの単価をアップします。
購入につなげるためにも、それぞれの顧客のニーズに合った情報を提供する必要があります。そのためにはCRMを使って、顧客ニーズをつかむことが重要です。ですが、メルマガはあまりに頻繁だと顧客が押し売りのように感じてしまい、顧客に悪い印象をあたえる可能性があります。メルマガは内容だけでなく、タイミングも大切です。
問い合わせフォーム
CRMツールを利用してWebページやランディングページなどに問い合わせフォームを設置することで、データベースに自動で情報が集積されます。CRMツールを利用しなくてもフォームの設置は可能ですが、その場合データの集積は自力で実施するか、他ツールとの連携を組む必要があります。
問い合わせフォームは顧客情報を獲得するツールとして活用できます。
顧客に有益な情報を提供するために、問い合わせフォームに入力してもらい、顧客情報を獲得していくケースをよく目にすると思います。
ポイントカード
さまざまな店舗において運用しているポイントカードを発行する際には、個人情報を記載することが一般的です。集めた個人情報はCRMに登録し、それぞれの顧客に合った有益な情報をメールやダイレクトメールで送ったり、クーポンを発行したりなどマーケティングに活用できます。
さらに、レジ担当者がポイントカードを読み取る際に顧客とコミュニケーションをとることで、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
CRM施策における成功事例5選
各企業はさまざまな方向でCRM施策を進めています。それぞれに施策の目的は異なりますが、成功事例を知ることにより今後CRMを導入する場合に参考にできるでしょう。
成功事例1. 株式会社NTTPCコミュニケーションズ
株式会社NTTPCコミュニケーションズでは、CRM施策をすることで営業効果の最大化を目指しました。顧客の行動履歴や属性、営業プロセスなどをデータ化し、マーケティング施策に活かしています。
これまでは、問い合わせの内容や広告効果を把握できていない状態でした。その結果、それぞれの営業担当者に任せきりになっており、属人化や非効率的といった点が課題だったのです。
そこで、顧客に関するデータを集約できるCRMシステムを導入しました。問い合わせをはじめとした行動履歴と顧客情報を組み合わせて、顧客情報をセグメントしそれぞれに適したメール配信をしたのです。
CRMツールの導入により、顧客の行動データやプロセス、流入した経緯などを可視化し、より成約の高い見込み客の発掘に成功しただけでなく、コスト削減にもつながりました。
参考:HubSpot
成功事例2. 日本ピザハット・コーポレーション株式会社
日本ピザハット・コーポレーション株式会社は、以前は宅配ピザをメインに行っていましたが、最近ではテイクアウト販売を強化しており、これまでとは違った客層にアプローチをしています。メールの作成に時間がかかることや開封率が10%未満と低いことなど、メール配信やメルマガにおいて大きな課題がありました。さらに、メルマガを改善するために行う「ABテスト」にも多大な時間がかかっていたことも課題の1つでした。
そこで、メール配信やABテストの効率化を目標にCRMツールを導入しました。メール配信における効果を分析したところ、メールからの注文が少ないことが判明したのです。より注文の多いアプリに注力するために、アプリを紹介する内容をメールに多く載せるようにしました。その結果、アプリの利用者が増えプッシュ通知を活用した集客ができるようになりました。
CRMツールの導入において、メール作成やABテストにかかる時間を短縮することでメール事業の効率化に成功し、メール経由の売上が大幅にアップしたのです。並行してアプリに対してのアプローチを強化したことから、コンバージョン数がこれまでの1.4倍と明確な結果が出た例となりました。
参考:MarkeZine
成功事例3. 株式会社はなまる
株式会社はなまるは、メルマガを活用して商品キャンペーンの配信をしていましたが、メルマガの効果に疑問の声が上がるようになりました。そこでコミュニティーサイトを制作し、登録を促すことにしたのです。登録時に取得したデータには居住地域が含まれているため、顧客の居住する地域の店舗のキャンペーンやクーポンを配信できます。これにより、多くの人に利用してもらえるようになりました。
参考:物流ニュース
成功事例4. パナソニック株式会社
パナソニック株式会社では、顧客総合窓口として「CLUB Panasonic」という会員制サイトを開設しました。商品の取扱説明書からの誘導だけでなく、ネット広告からも登録を促すことで顧客以外の会員数を増やすことに成功しています。
商品レビューや美容に関するコミュニティーなど、顧客にとって有益なコンテンツを用意していることも成功の秘訣(ひけつ)です。
さらに、顧客の購入履歴から古い商品を使っている場合には新製品の案内をしたり、新製品を安く試せる「モニター販売」を実施したりするなどさまざまな方法で活用しています。
参考:avanade
成功事例5. ロクシタンジャポン株式会社
ロクシタンジャポン株式会社では、マーケティングにLINE公式アカウントを活用しています。デジタル会員証を発行することで顧客データを集め、CRMの基盤構築やECの売上を向上させることが目的です。顧客や店舗に対して、デジタル会員証の登録を促進し、LINEアカウントで顧客ごとに合わせた商品を紹介しています。
結果的に、デジタル会員登録数が大幅に増え、セグメント経由でのECでの売上が5倍に増加したのです。
CRM施策を行う6つのメリット
CRM施策を行ううえでは、次の6つのメリットが挙げられます。
- 顧客情報を管理・蓄積できる
- ブランディングができる
- 経営戦略に活用できる
- PDCAサイクルがスムーズになる
- 他のツールと連携できる
- 既存顧客と良好な関係を継続できる
メリット1. 顧客情報を管理・蓄積できる
CRM施策を実施するためには、CRMツールを使って顧客情報や行動履歴の管理や蓄積を行います。顧客情報を活用することで、顧客一人ひとりに合った適切なアプローチの選定をしたり今後の商品開発に活かしたりするなど、さまざま方法でマーケティングや営業活動に役立てることができるでしょう。
さらに、アプローチをした結果を蓄積することで施策の効果測定をスムーズにできます。
顧客から電話やメールで問い合わせがあった場合、過去の対応履歴を記録していればスムーズな回答が可能です。説明が何度も必要になると、顧客の満足度は低下します。CRM施策において顧客情報や行動履歴を管理することは、顧客満足度の向上や営業担当者の属人化の防止にもつながるのです。
メリット2. ブランディングができる
インターネットやスマートフォンが普及したことにより、顧客はさまざまな情報を得て、複数から比較ができるようになりました。そのため、競合他社に対して差別化するためのブランディングが重要です。CRM施策をすることによって、複数のチャネルから顧客に対してアプローチができます。
CRMツールを使ってより見込みの高い顧客をセグメントすることで、顧客一人ひとりに対して適切なアプローチができます。自分のニーズが高い情報を提供してくれると企業に対しての信頼度が上がり、顧客満足度の向上につながるのです。
メリット3. 経営戦略に活用できる
CRMツールには顧客の属性の他に、営業した履歴が全て蓄積されていきます。そのため営業担当者ごとの成果だけでなく、営業組織や企業としての実績や成果を全てデータ化できます。
売上につながった数値以外にも、解約や購入しなかった場合など営業に失敗したデータも全て累積することによってさまざまな分析に役立つのです。失敗した理由を明確にして営業戦略にフィードバックをし、対策を立てることによって営業も全体的に改善できます。
営業業務において全てのデータを可視化すると、他の部署や経営陣も把握できるため、経営戦略において非常に有効な要素となるのです。
メリット4. PDCAサイクルがスムーズになる
CRMツールを活用することによって、顧客に関連するデータや過去のアプローチ、営業に関連した情報など全てが可視化できます。そのためPDCAサイクルをスムーズに回すことができ、企業全体の生産性向上や業務効率化につなげることが可能です。
具体的な例として、メルマガの開封率が低い場合は配信する内容やターゲットの見直し、配信するタイミングを変えることで次の施策につなげられます。より効果的にPDCAサイクルをスムーズにするためには、KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)の設定が必要です。KPIとは重要業績評価指標であり、企業が設定している目標に対して進捗度や達成度を測る具体的な行動指標です。目標となる数値が設定されていれば、現在の進捗(しんちょく)状況がより明確になるからです。
メリット5. 他のツールと連携できる
CRMツールはMA(Marketing Automation)やSFA(Sales Force Automation)など他のツールと連携をすることで、より効果的に活用できます。
CRMによって購入する確率が高い顧客を見つけ出し、MAツールを使ってマーケティング担当者が見込み客を育成するなど、企業として全体的な流れをよりつかみやすくなるのです。SFAを活用することで営業の業務活動が可視化でき、マーケティングや営業業務を総合的に進められます。
メリット6. 既存顧客と良好な関係を継続できる
CRM施策を進めることで、既存の顧客との間でより関係性を高められます。既存客をリピーターにすることで、安定した売上につながるのです。新規顧客は、既存客の維持と比較するとコストや手間がかかるうえに市場が縮小していることから、容易に獲得できなくなっています。
CRM施策によって顧客分析をすることで顧客のニーズをリアルタイムで把握できるため、ニーズに合った商品開発や情報提供が可能です。誕生月にセール情報を提供したり、購入した商品の関連商品を紹介したりするなど、顧客が求めている情報を提供し続けることで顧客の信頼度が上がります。
企業や商品に対して顧客が信頼感を高めることで、競合他社に対して差別化ができます。企業に対する信頼感が高いと、他の商品を販売した場合にも興味を示してくれる可能性が高まるでしょう。
CRM施策を進めるためにすべきこと
CRM施策を効率的に進めるためには、ただデータを累積して可視化するだけではいけません。主に次のことを実施することが重要です。
- 顧客データを分析する
- マーケティング施策を立案する
- 改善を行う
顧客データを分析する
CRM施策をするうえで自社の顧客分析をして、購入している商品や価格帯、頻度、時間帯などの購買データを把握することが必要です。顧客データを基に、自社における課題や売上向上につながる余地があるかどうかの把握をします。
マーケティング施策を立案する
CRM施策において集められるデータは、顧客の属性以外に購入した商品や金額、日付などと関連付けて集めることが重要です。顧客が商品を購入するにあたって、購入する理由やどのような顧客が多いのかなど特徴を使うことで、効果的なマーケティング施策となるでしょう。
さらに、クロスセルやアップセルなどによる客単価を増やしたり、LTV(Life Time Value、顧客生涯価値)指標を計測したりするなど、具体的にKPI戦略を立てることが重要です。
改善を行う
顧客データ分析によって明確にした課題に対して、改善するための施策を進めていきます。結果に結びつかない部分に対して、改善策を導入することで売上や生産性の向上につなげられるのです。
例えば、顧客が購入画面でページから離れていることが分かった場合、セール情報や関連商品を表示するなど離脱を回避するための対策を検討できるでしょう。顧客データを分析することによって、現状の把握や対策するべきことが明確になります。
CRM対策におすすめのツール
CRM施策にはCRMツールが必要ですが、どのツールにするのか迷うこともあるでしょう。「Microsoft Dynamics 365」はERP機能の他にCRM機能も兼ね備えており、顧客関係管理や潜在顧客を見つけ出すなどのさまざまな機能があります。さらに、それぞれの顧客に対してのサポートや売上金額の管理など一貫した業務の実現が可能です。
Microsoft Dynamics 365は高度なデータ分析ができるため、最適で迅速な判断ができます。そのため、CRMをより効率的に導入するために有用です。
まとめ
CRM戦略とは、顧客の属性や購買履歴、問い合わせ履歴などを蓄積から分析まで進めることにより顧客一人ひとりのニーズをつかみ、売上につなげたり生産性を高めたりすることです。
さらに、消費者のニーズが変化し生涯顧客価値がより重要になっていることからCRM施策の需要が高まっています。CRM施策には、ステップメールの配信やメルマガ、問い合わせフォームの設置などさまざまな方法があり、企業の目的に合わせた方法を選ぶことが重要です。
Microsoft社が提供するMicrosoft Dynamics 365は、CRMとERPを兼ねそなえたツールです。導入により顧客管理や売上、入金、顧客サポートまでさまざまな業務の効率化が可能となります。また、必要なツールだけを導入したり、少しずつ導入したりといった柔軟な対応も可能です。