トップセールスマンになるための条件とは何か?これを、ひとことで言い現わすのはあまりに難しく、トップセールスマンになるためには様々な資質・知識・スキルが必要になります。
ただし、トップセールスマンにより近づくための近道は何か?という質問ならば簡単です。それは「聞く力」を磨くことでしょう。営業の世界ではよく「セールスマンは“トーク力”よりも“ヒアリング力”が大事」という言葉を聞きます。これは、顧客が現在置かれている状況や抱えている課題を理解するために、顧客の話を親身になって聞くことが大切だからです。もちろん、御用聞きになるのではなく、あくまで顧客を理解するための「聞く力」です。
この「聞く力」を強化するためのフレームワークが、実は存在します。それが「SPIN」という話法です。本稿ではこのSPIN話法について解説し、現代セールスマンに必要な営業術についてご紹介します
SPIN話法とは?
さっそくSPIN話法について解説します。このフレームワークが誕生したのは1988年、英国イングランド出身の心理学者・作家のニール・ラッカムが発表した「SPIN Selling」で広く知られるようになります。「SPIN Selling」はSPIN話法を、企業がどのように使えるかに焦点を当てたビジネス書籍であり、New York Timesのビジネスベストセラーの一書として認知されています。
日本では1995年にニール・ラッカムの書籍「MAKING MAJOR SALES(1991年出版)」の日本語訳版「SPIN式販売戦略」が出版され、SPIN話法が広く認知されるようになります。
すでにお察しの方も多いでしょうが、SPIN話法とはS・P・I・N、それぞれを頭文字に始まる4つの質問で構成された話法です。
S=Situation Question<状況質問>
P=Problem Question<問題質問>
I=Implication Question<示唆質問>
N=Need-payoff Question<解決質問>
これら4つの質問を「S⇒P⇒I⇒N」の順番で行っていくことで、顧客が潜在的に抱えている課題を引き出し、それを認識させ、商談につなげていけるのがSPIN話法です。
各質問の目的と役割
SPIN話法では、所定の質問を段階的に行うことで効率的に商談へ繋げていくことができます。まずは、それぞれの質問を投げかける目的と、質問の役割について知っていきましょう。
Situation Question<状況質問>
初めてコミュニケーションを取る顧客に対して、「当社にはこんな商品があり、こんなことができます!どうですか?導入しませんか?」といきなりセールストークに入るのはナンセンス、ということを多くの方が理解しているでしょう。現代営業に必要なのはまず、顧客について理解し、顧客の立場になって考えることです。そのために、「Situation Question<状況質問>」で客がどのような状況に置かれているかの質問を投げかけます。
あなたの会社がクラウドストレージサービスを売り込みたいのであれば、「現在、どれくらいのサーバー台数が稼働されていますか?」と質問を投げかけます。この他、顧客が置かれている状況に対する質問をいくつか投げかけてみて、現時点での状況把握を一緒に行っていきます。SPIN話法では「顧客と一緒に確認していく」という意識がとても大切です。
P=Problem Question<問題質問>
次に、「Problem Question<問題質問>」で顧客が抱えている「かもしれない」問題を掘り起こしていきます。業務上の問題というものは、顧客自身が認識していないものも含めたくさん存在します。すべての問題を解決することは不可能でも、業務に与える影響力が大きい問題を優先的に解決することができれば、必ず業績が向上したり、職場環境が改善されたりします。そうした問題がある部分にこそ商品やサービスを売り込むスペースが空けられているのです。
そこで、「サーバー台数に対して、ストレージ容量は不足していませんか?」や「サーバー台数が少ないことでパフォーマンス低下を実感していませんか?」など、問題を掘り起こす質問を投げかけてみましょう。ここで大切なのは、自社商品やサービスを利用するような顧客は、どんな問題を抱えているかを統計的に整理し、それを頭に叩き込んでおくことです。この質問からそうした問題を掘り起こすことができたら、次のフェーズに進んでいきます。
I=Implication Question<示唆質問>
現状把握から始まり、潜在的な問題を掘り起こすことにも成功した。しかし、それだけで商談につなげることができませ。顧客はまだ「この会社の商品を買いたい!サービスを利用したい!」とは思っていないからです。そこで、商談という最終フェーズに入る前に「Implication Question<示唆質問>」を投げかけます。この質問の意図は、「何らかの解決が必要だ!」と顧客に認識させることです。
たとえば「ストレージ容量が不足すると、システムパフォーマンスが低下して様々な業務システムでUXを損ねている可能性があります。部門ユーザーへの調査を実施したことはありますか?」など、ある問題がさまざまなシーンにあたえる影響をについて整理するのです。そうすることで顧客は、「確かに、今まで考えが及ばなかったけれど、日々実感しているシステムパフォーマンスの低下はそうした問題からきているのかもしれない…」と、問題に対する危機感を抱くようになります。
ただし、「こんな影響がありませんか?あれ、こんな影響も考えられますね?どうですか?この問題、解決が必要でしょう?」といったように、強引に質問を投げかけてしまうと、商談に繋げたくてこんな話をしているのだなという感じが前面に出てしまいますので注意しましょう。
N=Need-payoff Question<解決質問>
ここでSPIN話法のフィニッシュです。最後に、解決案を提示するために質問、「Need-payoff Question<解決質問>」を投げかけます。ここまでのフェーズを問題無く進むことができたら、顧客はコミュニケーションの中で何らかの危機感や、解決のためのニーズを抱くようになります。そして最後に、「この問題が解決できたら、こんな良いことがあると思いませんか?」と、解決に向けた質問をしていきます。
「新しいサーバーを増設せずに、既存のサーバーデータを別の場所に移行しつつ、コスト削減もできたら組織全体にとってシステムパフォーマンス及び業務効率の向上になると思いませんか?」といった質問から、「実は、当社の商品ならばこの問題を難なく解決することができます!」と商談へと繋げていきます。
SPIN営業術を身に付けよう!
SPIN話法は誕生から30年以上が経過した現在でも、セールスマンに欠かせないフレームワークとして知られています。これを活用したSPIN営業術を身に付ければ、今よりもっとトップセールスマンに近づけるはずです。ただし、SPIN営業術では何よりも「顧客を理解し、親身になり、一緒の課題を解決していく心構えを持つこと」が大切です。これが崩れてしまうと、ただ商品やサービスを売り込みたくて「聞き役に徹しているセールスマン」だと認識されてしまうので、その点に注意しましょう。