企業が中長期的に発展するためには、見込み客を顧客化し、既存顧客は優良顧客化へと導く仕組みを構築しなくてはなりません。そこで重要となるのが、見込み客や既存顧客を育成する「ナーチャリング」です。本記事ではナーチャリングの概要や必要とされる背景を解説するとともに、具体的な施策やおすすめのソリューションを紹介します。
ナーチャリングとは?
「ナーチャリング(Nurturing)」とは、英語で「育成」を意味する概念であり、マーケティングの分野では「顧客の育成」という意味で用いられます。まず原則として、ビジネスで売上を拡大する方法は基本的に「新規顧客の獲得」「顧客単価の上昇」「購買頻度の向上」の3つしかありません。企業が中長期的に発展していくためには、新規顧客の獲得を最大化するとともに、既存顧客の優良顧客化による顧客単価の上昇と購買頻度の向上が不可欠です。
マーケティングにおけるナーチャリングの目的には、見込み客の顧客化や既存顧客の優良顧客化、休眠顧客の掘り起こしがあります。さまざまなチャネルから集めたユーザーと継続的なコミュニケーションを図ることで信頼関係を構築し、見込み客の購買意欲を醸成したり既存顧客のファン化を促進したりすることを目指します。ナーチャリングは新規顧客の獲得と顧客単価の上昇、購買頻度の向上という3つの領域すべてに関わるため、マーケティング戦略を展開する上で非常に重要度の高い施策です。
なぜナーチャリングが必要なのか
マーケティングにおいてナーチャリングが必要とされる背景のひとつに「1:5の法則」が挙げられます。これは「新規顧客を獲得するコストは既存顧客を維持するコストの5倍かかる」という法則であり、新規顧客の獲得だけでなく既存顧客とのつながりを重視する必要があることを示すものです。また、「既存顧客の離脱を5%改善することで利益率が25%向上する」という「5:25の法則」と呼ばれる原則もあるため、マーケティングでは既存顧客のリピートを促進する戦略的なアプローチが求められます。
消費者や顧客の購買行動が変化していることも、ナーチャリングの重要性に大きく関わっています。現代は情報通信技術の加速度的な進歩に伴って消費者や顧客の情報リテラシーが高まっており、従来の購買行動に「Webメディアを活用した情報検索と口コミの共有」というプロセスが加わりました。これにより、関心の高いプロダクトをインターネット上で比較・検討するという購買行動が生まれ、競合他社との差別化が非常に困難となっているため、見込み客や既存顧客の育成というプロセスの重要度が高まっているのです。
ナーチャリング施策のやり方
ナーチャリングの具体的な施策としては、メールマガジンやDM、セミナーなどのさまざまな手法が挙げられます。しかし、まずはこのような手法を実践する前に「誰に対して」「何を」「どのように提供するのか」という方向性を明確化する必要があります。ナーチャリングにおける重要課題はターゲティングであり、この方向性を見誤ると、どのような施策を講じてもナーチャリングの目的は達成できません。
そこで押さえておきたいのが「OATHの法則」です。これは「Oblivious(無知)」「Apathetic(無関心)」「Thinking(思案)」「Hurting(苦痛)」の4段階から成るターゲットの問題意識レベルを表す指標です。「Oblivious」は問題に気付いていない段階、「Apathetic」は問題を認識しているが解決する意思がない段階を指します。「thinking」は問題に対して危機感を抱いている段階、「Hurting」は今すぐに問題を解決したいと切望している段階です。
例えば、「Oblivious」の見込み客にいきなりセールスを仕掛けたとしても、必要性を伝えられず成約につながらないため、まずは問題提起からスタートしなくてはなりません。一方で「Hurting」の見込み客に対しては、回りくどいアプローチを仕掛けるよりも、プロダクトのベネフィットをストレートに伝えることで成約率が高まる傾向にあります。それぞれの段階によって求められる戦略は異なるため、セグメントされたターゲットの購買プロセスを分析し、それぞれに最適化された施策を立案・策定することが大切です。
ナーチャリングの具体的手法
ナーチャリングの手法としてまず挙げられるのが「ステップメール」と呼ばれるものです。これは設定されたスケジュールに沿ってメールマガジンを配信する手法であり、見込み客の属性に最適化されたナーチャリングが可能となります。また、オウンドメディアやSNSを通じて有益なコンテンツを継続的に配信することも、見込み客の獲得や既存顧客の優良顧客化につながります。動画配信サービスを利用したセミナーの配信やホワイトペーパーの提供、あるいはテレアポやDMのような従来の手法を地道に実践するといった施策も有効です。
これらの手法に共通しているのは、継続的なコミュニケーションを通じて見込み客や既存顧客との信頼関係を築くことで購買意欲の醸成や直接的なアプローチにつなげる点です。ステップメールやコンテンツ配信などは見込み客を育成する手段でしかなく、どのような施策を実践するのかはそれほど重要ではありません。こうしたアプローチを通じてターゲットとの信頼関係を構築することがナーチャリングの本質的な目的であり、客層に合わせて適切な施策を選択するという意識を持つことが重要です。
ナーチャリングを行うメリットと注意点
ナーチャリングの実践によって得られる大きなメリットには、顧客接点の強化による信頼関係の構築とブランド価値の浸透があります。電機メーカーにおける事例では、見込み客のWebサイト内における行動履歴を分析し、関心度の高い見込み客を抽出するという施策を実践しました。見込み客の潜在的なニーズやインサイトを発掘するとともに、継続的なメール配信によって信頼関係を築き、自社ソリューションの有用性を伝えることで商談獲得数や成約率の増大に成功しています。
その他にも、休眠顧客の掘り起こしやブランディングの再構築化、購買サイクルの最適化など、さまざまなメリットを組織にもたらします。しかし、その一方でデメリットもあります。見込み客や既存顧客との信頼関係は一朝一夕で築けるものではなく、事業目標の大きさに比例して時間や人的資源、資金などの経営資源を必要とします。部門をまたいだ全社横断的な協力体制も不可欠となるため、いかにしてナーチャリングの仕組みを体系化するのかが重要な課題です。
Dynamics 365 for Marketing を活用したナーチャリング
マーケティング戦略における顧客獲得の戦略に「デマンドジェネレーション」があります。これは、「リードジェネレーション(見込み客の獲得)」「リードナーチャリング(見込み客の育成)」「リードクオリフィケーション(見込み客の選別)」という3つのプロセスを経て実行するものです。これらのプロセスには多大なリソースや組織全体の協力体制が不可欠です。
このような施策を行う際には、「Dynamics 365 for Marketing」を導入することでさらなる効果が期待できます。Dynamics 365 for Marketingは、Microsoftが提供するERPシステム「Microsoft Dynamics 365」に内包されるソリューションのひとつで、見込み客の発掘や顧客接点の許可といったマーケティングの領域を総合的にサポートします。単体ツールとしての導入も可能であり、全社横断的な情報共有や業務連携の強化に寄与するため、効率的かつ合理的なナーチャリングを推進する企業にとっては有効なソリューションです。
まとめ
ナーチャリングはマーケティングの領域で「顧客の育成」を意味する概念であり、見込み客の顧客化や既存顧客の優良顧客化を目的とします。ビジネスにおいて売上を拡大する「新規顧客の獲得」「顧客単価の向上」「リピート率の上昇」の方法において、ナーチャリングはそれらすべてに関わる重要な施策です。データを起点とした戦略的なマーケティングを展開するためにも、Dynamics 365 for Marketingの導入を検討してみてはいかがでしょうか。