2018年9月7日、経済産業省が発表した『D X(デジタル・トランスフォーメーション)レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開』による、日本企業が今後直面するとされる「2025年の崖」について紹介されました。これは従来のITシステムが抱える諸問題を放置することで、2025年には企業単位・経済界全体において障害や損失が甚大になることを示しています。
そして「2025年の崖」を飛び越えるためのソリューションとして注目されているのが、「レガシーマイグレーション」です。本記事では、多くの日本企業が今後取り組むべきレガシーマイグレーションについて分かりやすくご紹介します。
レガシーマイグレーションとは?
レガシーとはつまり「レガシーシステム」のことであり、企業で古くから稼働している遺産のようなITシステムを指します。もちろん、良いイメージの言葉ではありません。レガシーシステムは「負の遺産」とも呼ばれ、継続的に運用することで様々な問題を引き起こします。このレガシーシステムを移行・刷新するのが、レガシーマイグレーションです。
前述したDXレポートによると、日本企業が古いITシステムを運用し続けた場合、2025年には6割ほどが導入・運用から21年以上のものになると指摘しています。では、レガシーマイグレーションを実行しないと具体的にどのような障害・損失が発生するのでしょうか?
- 市場変化に応じてビジネスモデルを柔軟・迅速に変更することができずに、デジタル競争の敗者に
- システム音維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上に達する
- 多くの技術的負債を抱え、業務基盤そのものの維持・承継が困難になる
- サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失・流出などのリスクの高まり
- 技術的負債の保守・運用にリソースを割かざるを得ず、最先端のデジタル技術を担う人材が確保できない
- レガシーシステムのサポートに伴う人月商売の受託型業務から脱却できない
- クラウドベースのサービス開発・提供という、世界の主市場を攻めあぐねる
レガシーマイグレーションを実施するメリット
レガシーマイグレーションには手間も費用もかかります。その対価として得られるメリットとは何でしょうか?
メリット1. ビジネス変化へ追随するための柔軟性確保
レガシーマイグレーション最大の問題は、肥大化かつブラックボックス化されたITシステムが業務プロセスとの依存性を高めており、容易な変更が不可能なことです。ビジネスを取り巻く環境が刻一刻と変化する中、ITシステムが変更できないことは業務プロセスやビジネスを変化させることもできず、時代に取り残されることになります。
一方、レガシーマイグレーションを実現した環境ではビジネス環境の変化に追随することで柔軟性の高いITシステムを確保し、ビジネスモデル・商品・サービスへの変革をより簡単に起こすことが可能です。
メリット2. ITシステムの運用コスト削減
ITシステムの肥大化・ブラックボックス化が引き起こす問題は他にもあります。前述のように、レガシーシステムを放置することでIT予算に占める運用コストが9割以上に達し、積極的な投資ができなくなることです。
ITシステムの停滞はビジネスの停滞を意味します。レガシーマイグレーションは増大するITシステム運用コストを削減し、新しいIT技術へ積極的に投資するための費用を捻出するためにも欠かせない取り組みなのです。
メリット3. ITシステムのオープン化による新技術の採用
ブラックボックス化したITシステムレガシーマイグレーションを実施し、オープン化に成功すれば新しいデジタル技術の採用も積極的に行えます。ソースコードが見えないレガシーシステムの変更を加えることは早々にできないため、利用価値の高いオープン系技術も採用できないのが現状です。
レガシーマイグレーション後はそうした心配もなく、新しいデジタル技術をどんどん採用した業務効率化やビジネス最適化を実現できます。
メリット4. 現行資産を活用した新しいITシステムの構築
実は、レガシーマイグレーションは現行資産を刷新するだけでなく、継続して稼働させるためのITシステム構築としても有効です。アプリケーションと業務プロセスの依存性が高い場合、ITシステム運用基盤だけを移行して現行資産に引き続き投資することが可能になります。
これまで積み上げてきたIT資産を無駄にすることなく、新システムへ移行することも有益なレガシーマイグレーションと言えるでしょう。
メリット5. クラウドを採用することでのセキュリティ強化
レガシーマイグレーションの選択肢は多様に存在します。その中でクラウドを採用すると、セキュリティ強化を図れることをご存じでしょうか?大手ベンダーが提供するクラウドプラットフォームは信頼性に優れ、堅牢なセキュリティ体制が取られています。
このため、クラウドを採用するだけでセキュリティ強化に繋がることが多く、レガシーマイグレーションと新しいセキュリティ対策の実施が同時に行えます。
レガシーマイグレーションの注意点
最後に、レガシーマイグレーションを実施する際の注意点をご紹介します。
注意点1. 現行資産の可視化
レガシーマイグレーションの事前準備として欠かせないのが現行資産の可視化です。現時点でのIT資産を整理し、それぞれの繋がりなどを可視化します。ITシステムの現状が一目で判断できるようにマッピングするのもよいでしょう。
また、レガシーマイグレーションの目的はレガシーシステムの問題点を解消し、効率良く稼働するITシステムを構築することです。今あるITシステムの中でどの機能を捨てて、どの機能を残すのか?さらには新しくどんな機能が必要かなどを明確にします。
注意点2. アセスメントの実施
アセスメント(事前評価)では、レガシーマイグレーションを実施した後にどれほどの移行効果が得られるのか?を試算して、マイグレーションの意義を見出します。また、アセスメントの結果から運用計画まで想定することが大切です。
注意点3. ITシステム全体を見据えた設計
レガシーマイグレーションの失敗原因としてありがちなので、レガシーシステムのオープン化が目的になってしまうことです。レガシーマイグレーションは確かにレガシーシステム等を刷新するための取り組みですが、ビジネスとの繋がりを忘れてはいけません。
ITシステム全体を見据えて、レガシーマイグレーションがビジネス価値の創出に繋がるものかどうかを常に意識しながら設計する必要があります。
いかがでしょうか?レガシーマイグレーションにはいろいろと注意点もあるので、各ポイントを意識しながら移行を進めていきましょう。また、レガシーマイグレーションの方法は多様にあるため、様々な方法の中から自社環境に最適なものを吟味した上で、適切なレガシーマイグレーションが実行できるようにしましょう。