顧客インサイトを知れば、今までのマーケティングは大きく変わります。
マーケティングの基本は「顧客(消費者)のニーズを把握すること」ですが、ここ日本の消費者はモノに対する欲求が満たされており、あらゆる市場が飽和状態になりつつあります。つまり、単純に製品やサービスを提供するだけでは激しい市場競争を勝ち残ることが難しくなっているのです。
さらに、成熟期を迎えた市場において、品質向上や機能追加などに力を注いでも、顧客自身がその市場に興味を持っておらず、従来の製品やサービスで満足しています。こうした中、市場競争を勝ち抜いたり、新しい市場を開拓したりするには、何に取り組めばよいのでしょうか?
その答えの1つが顧客インサイトです。本稿ではその意味と手法を解説していきますので、気になる方はぜひ参考にしてください。
顧客インサイトとは?
「インサイト(Insight)」という言葉の意味を検索すると、「洞察(力)」「見通し」「眼識」などの言葉が並びます。ただし、マーケティングにおける顧客インサイトは少し意味合いが違います。
多くの顧客は、なぜその商品を購入したのか?なぜその店舗を選んだのか?といった、自分自身の欲求に対する行動の説明付けができません。そもそも、説明する必要性もないのです。たとえばあなたが顧客アンケートを実施して、「なぜ自社の商品を選んだのですか?」と問うても、明確な答えは返ってこないでしょう。なので、アンケート調査だけに頼ってマーケティングを展開することは、実は危険なのです。
そこで、顧客インサイトが登場します。これは「表面的な出来事から、その奥にある本質を見極める」という意味であり、顧客の内面を理解するために欠かせない活動です。
間違ってはいけないのが、顧客インサイトは「発見するもの」ではなく、「自発的に視点を変えて得るもの」ということです。顧客インサイトについて説明している記事の中には、よく「顧客も気づかない無意識の気持ちを発見すること」と意味づけていますが、結局は顧客任せの活動になってしまいます。発見するのではなく、企業やマーケティング担当者がどんどん視点を変えていき、顧客本人すら気づかないニーズを得ることが、顧客インサイトの本質です。
顧客インサイトとニーズの違い
次に、「ニーズ」という言葉との違いを説明します。ニーズ(Needs)というのは「必要性」を意味し、「顧客が今必要としているモノ/コト」のことです。ニーズは顧客自身が自覚しているものがほとんどであり、調査すれば誰もが簡単に把握できます。
競合他者が調査すれば当然同じ結果にたどりつくので、ライバルの多くが同じニーズをめがけてマーケティングを展開することになります。最終的には消耗戦に持ち込まれるので、生き残れるのは資本力の高い大手企業だけです。特定の大手企業が席捲している寡占市場というのは、ここで説明したことが現実に起きているのです。
では、顧客自身が気づいていないニーズ、「潜在ニーズ」は顧客インサイトと同義なのでしょうか?
潜在ニーズは顧客すら気づかないニーズのことではありますが、必ずしも売上に繋がるものではありません。たとえば、携帯電話(ガラケー)利用者の多くは、スマートフォンへ移行することに対して「人としての感受性が失われそう」「1つの大きな波に飲み込まれそう」という、漠然とした不安を抱えています。これは潜在ニーズの1つですが、知ったところでどうこうできる問題ではなく、売上にはつながりません。
一方で、顧客インサイトは「売上に繋がるような洞察かどうか」がポイントになります。先の事例で説明すれば、「スマートフォンに携帯電話的要素が加われば移行してもいいな」というような思いが、顧客インサイトです。
顧客インサイトの分かりやすい事例
Dollar Shave Club(ダラー・シェイブ・クラブ)というサービスをご存じでしょうか?これは、「月1ドル~でカミソリをお届けします」という米発祥のサービスです。2012年に創業し、わずか4年間で220億円を売り上げるほどに成長し、会員数は320万人に達しました。米国の10~20代に絶大な人気を誇るスポーツ週刊誌Sports Illustratedのデジタルマーケマーケティング部門ディレクターを務めたMichael Dubinと、プロダクト開発のベテランMark Levineが共同創業しました。
Dollar Shave Clubの何がすごいかというと、寡占市場にあった髭剃り市場において、大手2社を押しのけてシェアをどんどん奪っていったことです。髭剃り市場はP&G(GilletteやBraunを保有)とEdgewell(Shickを保有)により、8割のシェアを持っています。
なぜ、Dollar Clubは寡占市場にあえて挑み、成功したのか?そこには入念な顧客インサイト調査による、顧客自身も気づかないニーズをがっちりと捉えた戦略があります。
確かに、新品の髭剃りを定期的に届けてくれて、かついつでもやめられるサービスを想像したことはありませんが、便利そうではあります。「利用してみようかな」という気持ちになるのもうなずけますね。
このように、顧客インサイトを知ると成熟市場での競争力を手にするだけでなく、寡占市場に新しいイノベーションを起こし、ビジネスに新しい価値を生み出すことが可能です。
顧客インサイトを得るには?
まず前提として理解しておきたいのは、「多くの顧客は本音と建て前という2つの顔を合わせ持っている」ことです。人は少しでも自分を良く見せようという欲がありますし、日本人は周囲の意見に合わせることで波風を立てないという文化が定着しています。そのため、単純なアンケート調査などでは、顧客インサイトを探れない可能性があるのです。
そこで利用していただきたいのは、TwitterなどのSNSです。たとえば、「ハンバーガーといえば」と検索をかけてみましょう。すると、「ハンバーガーといえば…」の検索結果が表示されます。この「ハンバーガーといえば…」に続く文章は「ハンバーガーとはこういうものだ」という、顧客が持つ常識や先入観です。そこから、顧客がハンバーガーに対してどういった認識を持っているかを見極められます。
次に、「ハンバーガーなのに」と検索してみましょう。そこで得られる結果は、「ハンバーガーはこうあってほしい」、「しかし実際はこうだった」という意見が読みとれるはずです。「こうあってほしいのに、こうだった」という対比構造を知ることで、顧客インサイトを知れることがあります。
顧客インサイトを知る方法はインターネットインタビューやグループインタビューなど様々な方法があります。大切なのは、その中から最適な方法を選び、顧客インサイトを把握することです。