近年、国内市場は成熟化が加速しており、商品やサービスが飽和状態にあるといっても過言ではありません。このような社会的背景のなかで、競合他社との差別化を図るためには「顧客体験価値」の創出が不可欠です。本記事では、顧客体験価値の意味や具体的な構成要素、現代市場で重要視される背景などについて解説します。
顧客体験価値とは?
「顧客体験価値」とは、顧客がプロダクトを通じて得られる一連の体験価値を指す概念です。ビジネスの領域では、「顧客」を意味する「Customer」と、「体験」と訳される「Experience」の頭文字をとって「CX」とも呼ばれます。混同されがちな用語として「UX」が挙げられますが、「UX(ユーザー体験)」はプロダクトの利用そのものによって得られる体験価値を意味するのに対し、「CX(顧客体験)」は商品やサービスに関わるすべての体験価値を指す概念です。
たとえば、CXは商品の認知やサービスの比較・検討、ブランディングの演出、プロモーションの印象、購入前の応対品質、購入後のアフターサポートなど、プロダクトを取り巻く全体的な顧客接点における一連の体験価値を意味します。また、UXはプロダクトの直接的な利用者の体験価値を指しますが、CXの体験価値はエンドユーザーに限定されません。このように、見込み客や既存顧客がプロダクトの購買プロセス全体において体験する付加価値を「顧客体験価値」と呼びます。
顧客体験における5つの要素
商品やサービスには性能・品質といった「物理的な価値」と、充足感・権威性などの「精神的な価値」という2つの側面が存在します。顧客体験価値は物理的な価値の提供はもちろん、プロダクトとの関わりを通して得られる精神的な価値を含む概念です。そして、精神的な側面における顧客体験価値は以下の5つの要素によって構成されています。
- Sense(感覚的価値)
- Feel(情緒的価値)
- Think(創造的・知的価値)
- Act(行動、ライフスタイルにかかわる価値)
- Relate(準拠集団への帰属価値・社会的経験価値)
Sense(感覚的価値)
「Sense」とは、顧客の視・聴・嗅・味・触を通して得られる体験価値です。飲食業界を例に考えるなら、店舗の評価は料理の品質のみで決まるものではありません。店内の雰囲気や清潔感、BGMによる空間演出、丁寧な接客対応、美麗なインテリアデザインなど、感覚的価値が評価に多大な影響を及ぼします。したがって、いかにして顧客が五感を通して快適だと感じられる体験価値を創出するかが重要な課題です。
Feel(情緒的価値)
「Feel」は、顧客の感情面に訴えかける体験価値を指します。たとえば、現代はデジタル技術の発展に伴ってコンピュータ市場がコモディティ化の様相を示しており、CPUの性能やメモリの容量といった物理的な価値では差別化を図るのは困難です。このような時代のなかで競争優位性を確立するためには、所有欲をかき立てるデザイン性の追求や、優越欲求をくすぐるハイエンドモデルの提供、ホスピタリティに優れるカスタマーサポートの設置といった体験価値の提供が求められます。
Think(創造的・知的価値)
「Think」とは、顧客の創造性や知的好奇心に働きかける体験価値です。具体的な事例としては、機械式腕時計が挙げられます。腕時計の愛好家が安価なクォーツ式よりも高価な機械式を好む理由のひとつは、内部の精密な機構の創造性に感嘆し、知的好奇心を刺激されるためです。その他には、最先端の技術革新を採用するITソリューションや体験プラットフォーム、歴史と文化を学べる博物館なども創造性や知的好奇心に訴えかけるサービスに該当します。
Act(行動、ライフスタイルにかかわる価値)
「Act」は、顧客の行動や生活の変化に対する体験価値を指します。たとえば、現代は空前のアウトドアブームが到来しており、なかでも一時的なブームからカルチャーへ移行しつつあるのがキャンプです。アウトドア未経験のユーザーがテントやシュラフなどの道具をそろえることで、キャンプという未知なる体験へアクセスする契機が創出されます。このように、普段の行動や生活に対して、大きな変化を及ぼす体験価値がActです。
Relate(準拠集団への帰属価値・社会的経験価値)
「Relate」とは、特定のコミュニティに属することで得られる体験価値です。代表的な事例でいえば、会員制のファンクラブやオンラインサロンなどのコミュニティに属し、学びや価値観の共有によって得られる精神的な付加価値を指します。人間は仲間を求める「親和欲求」という心理作用が備わっており、本能的に孤独な環境を避けたがる生物です。近年、SNSが隆盛を極めているのも、親和欲求や承認欲求などの心理作用が多大な影響を与えていると考えられます。
顧客体験価値が重要視される背景
顧客体験価値が重要視される背景にあるのは「競合他社との差別化」です。現代は技術革新の進歩・発展に伴って市場の成熟化が加速しており、消費者や顧客のニーズは多様化し、製品ライフサイクルは短命化していく傾向にあります。さらに、消費傾向が精神的価値を求めるコト消費に遷移している現代では、物理的価値の訴求のみで競合他社との差別化を図るのは不可能といっても過言ではありません。市場の競争優位性を確立するためには競合他社との差別化が不可欠であり、いかにして優れた顧客体験価値を創出するかが重要な経営課題となっています。
顧客体験価値を高める方法
競合他社にはない独自の顧客体験価値を提供するためには、自社の事業形態に最適化された戦略を設計しなくてはなりません。その際に重要な課題となるのが、「顧客像や顧客体験の把握」と「顧客接点における課題を明確にする」、そして「PDCAサイクルを回す」の3つです。
顧客像や顧客体験の把握
優れた顧客体験価値を創出する最初のステップは、消費者のインサイトや見込み客の潜在需要を理解することです。そのためには、自社の参入市場を俯瞰的な視点からリサーチするとともに、提供する商品やサービスの顧客像を明確化し、そのターゲットが求める顧客体験を把握しなくてはなりません。このプロセスでは、顧客の購買心理や消費行動などを時系列順に整理するカスタマージャーニーマップを作成し、ターゲットの購買プロセスを俯瞰的な視点から分析する必要があります。
顧客接点における課題を明確にする
次に重要となるのが、作成したカスタマージャーニーマップを分析し、既存の顧客接点における課題を明確化するプロセスです。市場調査によって精度の高いカスタマージャーニーマップを作成できれば、ターゲットが求める顧客体験が明確化され、既存の事業戦略に足りない要素や課題を発見できます。現状の経営課題が浮き彫りになれば、その解決に必要な戦略や人材、ソリューションなどが明確化され、自社の事業形態に最適化された顧客体験価値の設計につながります。
PDCAサイクルを回す
顧客体験価値を高めるためには、「計画(Plan)」→「実行(Do)」→「評価(Check)」→「改善(Action)」のPDCAサイクルを回し続ける継続的な改善が必要です。顧客体験価値の向上に取り組む本質的な目的は、見込み客の顧客化と既存顧客のロイヤルカスタマー化にあります。変化の加速する現代市場で顧客に選ばれ続けるためには、常に消費者のインサイトや潜在需要の発掘を推進するとともに、仮説と検証を繰り返しながら改善に取り組む経営体制を構築しなくてはなりません。
まとめ
顧客体験価値とは、プロダクトの認知から比較・検討、購入後のアフターサポートに至る一連の体験価値を指す概念です。成熟化が加速する現代市場で競争優位性を確立するためには、競合他社にはない顧客体験価値の創出が必須であり、そのためには優れたソリューションの戦略的な活用が欠かせません。顧客体験価値の向上を推進する企業は、マーケティングやカスタマーサポート、営業支援といった領域を支援するERPシステム「Microsoft Dynamics 365」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。