Azure Machine Learningとは、AI開発に使用するインフラ環境の運用やITリソースの準備などを気にせず、機械学習モデルの構築と運用に集中できるクラウドサービスのことです。本記事では本サービスの概要や従来版との違い、メリット、価格設定などを解説します。
Azure Machine Learningとは
Microsoft社のAzure Machine Learningとは、クラウド上であらゆる機械学習の環境を提供するサービスのことです。アルゴリズムのライブラリが豊富に用意されており、予測モデルの作成とテスト、デプロイ、運用と管理を行えます。なお、機械学習(ML:Machine Learning)とは、コンピューターが自動でデータ解析と学習を行い、何らかのパターンやルールを見出して予測や判断に活用する技術のことです。
本サービスは、モジュールのドラッグ&ドロップ操作でMLモデルの構築や、トレーニング、結果の分析、学習のトラッキングを簡単に行えます。専門家はもちろん、プログラミングの知識がなくてもAI開発できるのが魅力です。PythonもしくはR言語のコード記述やライブラリなども使用できます。
モジュールは機能別に、データ入力と出力、データ変換、機械学習のアルゴリズム、トレーニング、異常検出、テキスト分析、時系列の分析、統計などに分類されています。Pythonのモジュールを使ってカスタム関数も実行可能です。
Azure AI Galleryでは、他の開発者による多様な分析ソリューションが共有されています。コンセプトの実証実験や、さまざまな問題を解決するためのチュートリアル、APIなどのコレクション、カスタムモジュールなどが一例です。こうしたソリューションを、需要予測や異常検知などに役立てられます。
そもそもAzure Machine Learningは、Microsoft Azureというクラウドプラットフォームを構成するサービスの一部として提供されています。Microsoft Azureの詳細や導入メリット、その他サービスなどについては以下の関連記事を参考にしてみてください。
関連記事:Microsoft Azureとは|何ができる?入門内容からわかりやすく解説
機械学習とは
機械学習の主な手法は以下の4種類です。
- 教師あり学習
正解データから学習する方法です。入力と出力の関係性を学習し、未知の入力データに対して学習した正しい回答を出力できるようになります。一般的には、画像認識や天気予測などに適しています。 - 教師なし学習
正解のラベルなしのデータから特徴やパターンを学習する方法です。グループ分けや特徴の抽出などを行います。顧客を属性ごとに仕分ける顧客セグメンテーションなどに利用されることが多くあります。 - 強化学習
出力結果に報酬(ポイント)をつける学習方法です。AIが設定された環境やルールの中で試行錯誤しながら、報酬の最大化ができる行動を判断して学習していくという特徴があります。株式取引や迷路探索などに利用されます。 - ディープラーニング
ニューラルネットワークを活用し、複数の層で学習する方法です。人間の脳をモデルにしており、データの特徴量を探索します。大量の学習データから自動で特徴を抽出し、高度な認識をすることが可能です。画像認識や音声認識などに向いています。
機械学習モデルを作成する場合、クラウドのAIサービスがよく利用されます。例えば、Azure Machine Learningは、大規模な機械学習モデルの構築に適している企業向けのAIサービスです。専用のAIインフラストラクチャを使用できるなどのメリットがあります。
Azure Machine Learning Studio(classic)との違い
Azure Machine Learning Studio(classic)は、GUIベースの統合開発環境で、視覚的な操作によって機械学習モデルを作成できるクラウドサービスです。予測モデルのテストに便利であり、特に回帰アルゴリズムを用いた需要予測などのケースに適しています。
もともとは2015年にリリースされたサービスですが、その後2018年12月にAzure Machine Learningが新サービスとして登場しました。そのため、新旧サービスの混同を避けるために従来版のStudioの末尾に(classic)が付け加えられています。なお、従来版のStudioは2024年8月31日に廃止予定のため、利用中の場合は現行のAzure Machine Learningへの移行が必要です。
また、Azure Machine Learning Studio(classic)には未サポート機能が存在するなど、いくつかの制限があります。そのため、最新の環境で機械学習モデルを構築したい場合は、Azure Machine Learningを利用するのがおすすめです。
Azure Machine Learningのメリット
Azure Machine Learningを導入する主なメリットを、MLの開発・運用の面から3つ紹介します。プログラミング専門知識なしでも機械学習に取り組める開発環境や開発・運用工程を高度に自動化する機能が利用できて便利です。
コード不要で自動化された機械学習、オープンソースもサポート
ドラッグ&ドロップに対応した簡単な操作で、コード記述なしでも簡単に機械学習モデルを構築可能です。また、自動機械学習(AutoML)の使用によって、機械学習モデル開発の品質維持とスケール・効率性・生産性のいずれも高いパフォーマンスを保ったモデルを構築できます。PyTorch、TensorFlow、scikit-learnなどのオープンソースの機械学習プラットフォームで構築したモデルも使用可能です。
機械学習用のDevOpsで信頼の高いイノベーションを実現
機械学習 (ML) のワークフローとデプロイを自動化および簡素化する一連のプラクティスをMLOpsといいます。機械学習のデータ準備からAIの運用と監視までの、エンドツーエンドに関わるライフサイクルの効率化が可能です。MLOpsは機械学習の開発や運用を効率化するフレームワークとしても機能します。MLOpsの仕組みを利用することで、機械学習のモデル管理やデプロイを効率化できる点がメリットです。
柔軟性のあるスケーリング、機械学習モデルの保護
Azure Machine Learningでは、処理量に合わせてCPUとGPUを柔軟にスケーリングすることにより、処理時間の短縮やリソースの最適化などに寄与します。
さらに、構築した機械学習モデルは、再現可能な自動化ワークフローで評価されます。説明可能性やエラー分析などで評価し、責任あるAIプラクティスの実現に繋げることが可能です。また、機械学習のライフサイクル全体に適用される包括的なセキュリティ機能が提供されており、機械学習モデル、ビジネス資産、データの保護が行われます。
Azure Machine Learningの導入例
某コーヒーショップでは、販売予測と在庫最適化のためにAzure Machine Learningを導入しました。課題として高価格・低価格の製品販売や過剰生産、売れ残り、顧客需要の理解不足があり、その解決にAzure Machine Learningのサービスが貢献しています。
販売予測をするにはデータアナリティクスが必要です。データアナリティクスとは、集めたデータの整理と分析をしてトレンド、パターンを抽出し、ビジネスで重要なインサイトを得るための活動やプロセスのことです。
データアナリティクスは次の4ステップで構成されます。
- データ探索
- モデル構築
- 結果検証
- 視覚化とデプロイ
上記の4ステップのうち、Azure Machine Learningでは「2.モデル構築」〜「4.視覚化とデプロイ」のステップを実行可能です。
販売予測をすることによって、以下のようなメリットを得られます。
- 将来発生する注文を早期に確認できること
- 販売の事前計画が立てられること
- 高価格帯と低価格帯の製品販売に関するインサイトが得られること
- 過剰生産と在庫余りのコストやムダの削減(在庫最適化)
このように、Azure Machine Learningの活用によって某コーヒーショップは利益の拡大を実現しました。
Azure Machine Learningの価格設定
Azure Machine Learningは常時無料枠に設定されており、利用料金は発生しません。仮想マシン(VM)やその他Azureサービスを使用した分だけ支払う従量課金制です。アカウントの作成や解約手数料については無料です。
価格は機械学習を構築する規模やコンピューティングのスペックによって変動します。以下の価格を参考にするとともに、信頼できるパートナー企業に相談することがベストです。
また、料金計算ツールを使用すれば、サービスの利用前に従量課金の料金見積もりを算出できます。
関連記事:価格 - Azure Machine Learning | Microsoft Azure
まとめ
Microsoft社のAzure Machine Learningは、機械学習環境を提供するクラウドサービスです。企業のデータ活用や生産性の向上、ビジネスの重要なインサイトの発見といった様々なメリットを得られます。MLOpsによる開発・運用工程の効率化や簡単な操作で機械学習モデルを作成できる点も本サービスの特徴です。機械学習ライフサイクル全体の効率化にも役立つため、ぜひ利用を検討してみてください。