アプリ開発は、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスで動作するソフトウェアを作成するプロセスです。初心者にとっては、どこから始めればよいのか、どのようなスキルが必要なのかといった疑問が多いでしょう。
アプリ開発の知識がないにもかかわらず、自社アプリの開発担当に抜てきされた場合には、まずアプリ開発に関する基本的な知識を身につけなければなりません。
本記事では、アプリ開発の経験が浅い方に向けて、アプリ開発の基礎知識や自社でアプリを開発するメリット、アプリ開発の手法、大まかなフローについて解説します。学習方法やアプリ開発に必要なプログラミング言語も紹介します。
初心者向け|アプリ開発の基礎知識
アプリ開発を理解する上で、まず押さえておくべきことは「アプリの種類」と「アプリ開発に必要なもの」です。
アプリケーションの種類
アプリケーション(アプリ)は、主に「Webアプリ」「ネイティブアプリ」「ハイブリッドアプリ」の3種類に分類されます。
Webアプリは、インターネット接続時にWebブラウザ上で動作するアプリのことで、インストール不要で利用できるのが特徴です。また、同じアカウントでログインすることで会社ではパソコン、家ではタブレット、外出先ではスマートフォンというように端末を変えても、同じサービスを利用できるという強みがあります。
ネイティブアプリは、モバイル端末やパソコンにインストールして利用するアプリのことで、インターネット環境の影響を受けずに動作できるのが特徴です。さらにネイティブアプリは動作が軽く、Webアプリでは利用できないカメラやマイク、プッシュ通知、位置情報の取得など、端末に付属する機能が利用できます。
ハイブリッドアプリは、Webアプリの性質とネイティブアプリの性質をあわせ持つアプリです。ハイブリッドアプリは、Webサイトをつくるのと同様の技術を用いて開発でき、ネイティブアプリのように端末に付属の機能が利用できます。
アプリ開発に必要なもの
アプリ開発には、パソコン、プラットフォーム、プログラミング言語が最低限必要です。ここでのプラットフォームとは、アプリの動作に必要な基盤となるもので、WindowsやMacOS、Android、iOSなどのオペレーティングシステム(OS)のことを指します。また、Webアプリを開発する場合には「サーバOS」「ミドルウェア」「データベース」から構成される「サーバ」というプラットフォームの構築も必要です。
最低限必要なPCスペック(iosのアプリ開発はMacが必須)
CPU |
Mac:M1以上 Windows:core i5以上(おすすめはi7以上) |
メモリ |
8GB以上 |
ストレージ |
256GB以上 |
※高度なアプリ開発になれば、より高性能なスペックが求められます。
プログラミング言語とは、コンピュータに命令して処理を行わせるために使用する言語のことです。どのようなアプリをつくりたいかで、使用すべきプログラミング言語が変わってきます。例えば、Windowsアプリをつくりたい場合には「Visual Basic」を使用すると、Microsoft Officeと簡単に連携できるので便利です。さらにiOSアプリやMacOSアプリを作成するのであれば「Swift」、Androidアプリをつくりたい場合には、応用力が高く初心者でも扱いやすい「Java」がおすすめです。
ほかにもよく使う機能を1つの枠組みとして、パッケージ化されたフレームワークや開発をアシストしてくれる便利なツールを活用するとより開発がしやすくなります。
自社でアプリを開発するメリット
自社でアプリを開発することによって、さまざまなメリットが得られます。ここでは代表的なメリットを3つ紹介します。
データの蓄積・分析ができる
住所・年齢・性別といった顧客の属性データに加え、購入履歴や気になる商品など顧客の購買に関するデータを収集するアプリを開発し、そのアプリを顧客に利用させることで顧客の行動データを会社で蓄積できるようになります。蓄積したデータを分析して顧客をより深く理解できれば、顧客のニーズにさらにマッチした商品やサービスの提供が可能になります。
マーケティング戦略が可能に
アプリで収集・蓄積した顧客データは、マーケティング戦略に活用できます。例えば、アプリ利用者の購入履歴をもとに、よく購入されている商品を目玉商品にしてセールを行い、来店者数を増やすというような戦略を立てることが可能です。
また、自社のチラシやクーポンを配信したり、ポイントアップなどのお得情報をプッシュ通知したりするアプリを開発すれば、顧客とのコミュニケーションがとりやすくなり、売り上げアップにつなげることが期待できます。このように自社で開発したアプリは、顧客に向けた効果的な情報発信の実現に貢献します。
柔軟に開発できる
自社でアプリを開発する最大のメリットは、柔軟に開発できる点です。外部の開発会社に依頼する場合、要件変更や機能追加への対応が遅れることが多いですが、自社開発ならば迅速に対応できます。
また、自社のビジネスニーズに合わせたカスタマイズが可能であり、競合他社との差別化を図ることも容易です。さらに、ユーザーからのフィードバックを即座に反映させることができ、常に最適な状態のアプリを提供できます。
アプリ開発の手法
アプリを開発するための主な手法は「ウォーターフォール開発」と「アジャイル開発」の2通りです。
ウォーターフォール開発
ウォーターフォール開発は、最初にどのようなアプリを制作するのか全体像を定め、しっかりとした計画を立てて、それに基づいて決められた手順を守って開発していく手法です。川の流れのように逆流することはなく、一度終わらせた工程には後戻りしません。
ウォーターフォール開発は、基本的に計画決定後に変更が起きないような、つくるアプリが明確な場合に採用されることが多い手法です。
アジャイル開発
アジャイル開発は、開発途中で仕様変更が起きても構わないように、小さな単位で開発を繰り返してアプリを完成させる手法です。まず基本機能を作り、要望に応じて少しずつ機能を追加して改善します。
アジャイル開発は、将来的なアプリの全体像があいまいで、アプリに搭載する機能を状況に応じて柔軟に決めていきたい場合に採用することが多い手法です。
アプリ開発のフロー
アプリ開発は一般的に「要件定義」→「アプリの(外部・内部)設計」→「開発」→「テスト」→「リリース」という流れで行われます。リリース後にアプリの運用を行い、定期的なアップデートや保守業務も欠かせません。
1.要件定義
アプリ開発の最初のステップであり、プロジェクトの成功を左右する重要なフェーズが要件定義です。要件定義では、アプリの目的や機能、ユーザーターゲットなどを明確にし、開発チームとステークホルダーが共通理解を持つことが求められます。
具体的には、ユーザーがどのような課題を抱えているのか、それを解決するための具体的な機能は何か、また、アプリの使いやすさやデザインに関する要望などを詳細に整理します。さらに、システム要件や技術的制約も検討し、必要なリソースやスケジュールを明確化します。
また、ステークホルダーとの合意形成を図ることで、プロジェクト進行中の方向性のブレを防ぎ、期待値の管理が可能となります。要件定義は、プロジェクトの全体像を描くと同時に、具体的な実行プランを策定するための重要なプロセスです。
2.アプリの設計
設計工程は基本設計とも呼ばれる「外部設計」と、詳細設計とも呼ばれる「内部設計」に分けられます。
外部設計では、アプリの開発環境を決めたり、使いやすさに配慮した画面や機能を設計したりします。そして次の工程の内部設計では、外部設計の内容を効率よくプログラミングできるように細かく設計します。
3.アプリの開発
アプリの設計ができたら開発工程に移ります。設計工程で決まった指示を忠実に守って、プログラミング言語やフレームワークを使用し、プログラムを組みます。
4.テスト
テストフェーズは、アプリの品質を保証するための重要な工程です。開発されたアプリが要件を満たしているか、期待通りに動作するかを確認します。テストは通常、単体テスト(ユニットテスト)、統合テスト、システムテストの順に行われます。
- 単体テスト(ユニットテスト):個々の機能が正しく動作するかを確認
- 統合テスト:複数の機能が連携して正しく動作するかを検証
- システムテスト:全体の動作やパフォーマンスをチェック
バグや不具合が発見された場合は修正を行い、再度テストを繰り返します。このプロセスにより、高品質で信頼性の高いアプリをリリースすることが可能となります。
5.リリース
リリースは、開発とテストが完了したアプリをユーザーに提供するステップです。アプリストアへの提出や、Webアプリであればサーバーへのデプロイが行われます。リリース前には、最終確認としてシステムテストを再度実施し、すべての機能が正常に動作することを確認します。
リリース後も、ユーザーからのフィードバックを収集し、初期段階で発生する可能性のある問題に迅速に対応する準備が必要です。スムーズなリリースを実現するためには、各チーム間の連携と準備が欠かせません。
6.運用・保守
アプリのリリース後、運用・保守フェーズが始まります。運用・保守はアプリの安定した稼働を維持し、継続的に改善を行うために必要なプロセスです。運用段階では、サーバーの監視や障害対応、ユーザーサポートが主な業務となります。
また、ユーザーからのフィードバックや利用状況のデータを分析し、必要に応じて機能追加や改善を行います。定期的なアップデートを通じて、セキュリティの強化やバグ修正、新機能の導入を図ります。保守活動は、アプリの寿命を延ばし、ユーザー満足度を維持するために不可欠です。
初心者向け|アプリ開発の勉強方法
アプリ開発に興味を持った初心者が勉強を始める方法はいくつかあります。自分に合った学習スタイルを見つけることで、効率的にスキルを習得し、目標に近づくことができます。以下では、独学、プログラミングスクール、オンライン学習サービスの3つの方法について詳しく解説します。
本やWebサイトで独学
独学は、自分のペースで学習を進めたい人に最適な方法です。書店や図書館には、アプリ開発の初心者向けに多くの書籍が出版されています。初心者向けの入門書は、基礎から丁寧に解説されており、プログラミングの基本や開発の流れを体系的に学ぶことができます。
また、Webサイトやブログには最新の情報や具体的なチュートリアルが多数掲載されています。例えば、YouTubeなどのプラットフォームでは、動画形式の解説が充実しており、視覚的に学べるため理解が深まります。
さらに、GitHubやStack Overflowなどのコミュニティサイトを活用することで、他の開発者と交流し、疑問点を解消することも可能です。独学には自律性と計画性が求められますが、コストを抑えて自分のペースで学べる点が魅力です。
プログラミングスクールに通う
プログラミングスクールは、体系的なカリキュラムと専門的なサポートを提供しています。そのため、アプリ開発初心者は、短期間で効率よく学習できます。
スクールでは、プロの講師が直接指導し、実践的なプロジェクトを通じて即戦力となるスキルを身に付けることができます。また、同じ目標を持つ仲間と学ぶことでモチベーションを維持しやすく、交流の機会も豊富です。
多くのスクールはカリキュラムを通じて、アプリ開発の基礎から高度な技術までを段階的に教え、就職支援やインターンシップの機会も提供しています。さらに、オンライン形式のスクールも増えており、自宅からでも質の高い教育を受けることができます。費用はかかりますが、投資に見合った価値を得られるのがプログラミングスクールの魅力です。
オンライン学習サービスを活用する
オンライン学習サービスは、柔軟な学習スケジュールと幅広いコースを提供するため、多忙な人や自分のペースで学びたいアプリ開発初心者にも適しています。これらのサービスでは、ビデオ講義、インタラクティブな演習、プロジェクトベースの課題を通じて、実践的なスキルを身に付けることができます。
また、コースの修了証を取得できるため、学習の成果を証明することも可能です。オンライン学習の利点は、場所や時間に縛られずに学習できる点と、最新の技術やトレンドに即した内容を学べる点です。
さらに、ディスカッションフォーラムやQ&Aセッションを通じて、講師や他の学習者と交流し、疑問点を解消することもできます。費用は比較的安価であり、手軽に始められるのがオンライン学習サービスの大きな魅力です。
アプリ開発に必要なプログラミング言語
アプリ開発に必要なプログラミング言語は、開発対象のプラットフォームやアプリの種類によって異なります。
iOSアプリの開発では、SwiftやObjective-Cが主に使用されます。SwiftはAppleが開発したモダンな言語で、使いやすさと安全性が特徴です。Androidアプリの開発には、JavaやKotlin、C#が主流です。KotlinはJavaと互換性があり、簡潔なコードが書けるため人気が高まっています。
1つの言語で、複数のプラットフォームに対応できるアプリを開発する手法であるクロスプラットフォームのアプリ開発には、JavaScript、React、Flutterが用いられます。さらに、ウェブアプリ開発にはHTML、CSS、JavaScriptが必要です。各言語の特徴と利点を理解し、適切に選択することが、効率的で高品質なアプリ開発の鍵となります。
【無料あり】初心者でも使えるアプリ開発に便利なツール
アプリ開発は、技術的なスキルが必要とされる領域ですが、近年では初心者でも簡単に使える開発ツールが多数登場しています。ここでは、無料で利用できる初心者向けのアプリ開発ツールを2つご紹介します。
Power Apps
Microsoftが提供するPower Appsは、ノーコードおよびローコードでアプリケーションを開発できるプラットフォームです。ビジネスユーザーから開発者まで、幅広いユーザーに対応しており、ドラッグ&ドロップで簡単にUIを作成できます。
特に、Microsoftの他のサービス(Excel、SharePoint、Dynamics 365など)との統合が容易で、データの取り込みや自動化が簡単に行えます。さらに、AIビルダー機能を使えば、AIをアプリに組み込むことも可能です。
Power Appsは、基本的な機能を無料で利用できるプランが用意されており、個人のプロジェクトからビジネス用途まで幅広く活用できます。また、活発なコミュニティがあり、多くのサンプルやチュートリアルが公開されているため、初心者でも困ったときに助けを得やすいのも大きな魅力です。
Join Apps
JointAppsは、アプリ開発の経験がない初心者でも、手軽にモバイルアプリを作成できるプラットフォームです。シンプルで使いやすいインターフェースを提供し、迅速にアプリをリリースできます。
ガイド付きのウィザードやチュートリアルが豊富に用意されており、初めてのユーザーでも迷うことなくアプリを作成できます。デザインや機能を自由にカスタマイズできるため、独自性のあるアプリを作成することが可能です。さらに、プラグインやウィジェットを追加することで、機能の拡張もできます。
JointAppsは、無料プランでも多くの機能を利用できるため、コストを抑えつつ高品質なアプリ開発が可能です。また、ユーザー同士のコミュニティも活発で、質問や情報交換がしやすい環境が整っています。
アプリ開発は外注もおすすめ
アプリ開発は専門知識やリソースが必要なため、外注することで効率的に高品質なアプリを制作できます。外注先の専門知識を活用することで、スピーディーに市場投入できるのも魅力です。
アプリ開発を外注するメリット
アプリ開発を外注する最大のメリットは、専門的な技術と豊富な経験を持つプロに開発を依頼できることです。これにより、内部リソースを節約しつつ、高品質なアプリを開発できます。
外注先は、最新の技術トレンドや市場動向に精通しているため、競争力のある製品を提供できます。また、プロジェクトの規模やニーズに応じて、柔軟にリソースを調整できるため、開発コストの管理もしやすくなります。
さらに、自社のスタッフが他の重要な業務に集中できるようになるため、全体の業務効率が向上します。外注により、新しい視点やアイデアを取り入れることができ、より革新的なアプリを生み出すことが可能です。
アプリ開発を外注する際に注意すべき点
アプリ開発を外注する際には、信頼できる外注先を選ぶことが重要です。過去の実績やクライアントの評価を確認し、技術力と信頼性がある外注先を見極めましょう。契約内容を明確にし、プロジェクトのスコープ、予算、納期について詳細に合意しておくことも大切です。
また、コミュニケーションが円滑に行われるよう、定期的なミーティングや進捗報告の仕組みを設けることが必要です。外注によるメリットを最大限に活かすためには、綿密な計画と管理が求められます。
まとめ
アプリにはWebアプリ、ネイティブアプリ、ハイブリッドアプリの3種類があり、アプリの開発にはパソコン、プラットフォーム、プログラミング言語などが必要です。自社でアプリ開発をすると、顧客の購買に関するデータを蓄積・分析してマーケティングに利用できるなどのメリットがあります。
Microsoft社が提供する「Power Apps」は、アプリ開発やプログラミング知識がない方でも簡単にアプリ開発ができるビジネスアプリケーション作成ツールです。まずは自社でコストを抑えつつ、シンプルなアプリを開発してみたい場合には、「Power Apps」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。