かつては情報共有基盤の中心的存在だったNotes(ノーツ)が、今ではビジネスの足かせになっていると悲鳴を上げている企業が少なくありません。Notesはロータス・デベロップメント社が開発したグループウェアパッケージ製品であり、ファイル共有/電子メール/電子掲示板/予定管理などの機能を標準搭載し、組織内の情報共有やメッセージのやり取りを一元化するシステムとして1990年代に大企業を中心に広く普及しました。
スクリプト言語を使用して追加機能を開発することも可能で、Notesを基盤に業務プロセスに最適化された情報共有基盤を作りこむのが一般的です。長年コミュニケーションの中心だったNotesを移行すべき理由とは一体何なのか?本稿では、Notesの現状と新しいシステムへの刷新についてお話します。
Notesはなぜ移行すべきなのか?
Notes移行が叫ばれ出したのはここ最近ではなく、実は10年以上前からです。Notesユーザーは減りつつありますが、Notes運用企業の中でさまざまな限界が生じ始めています。それまで多少の問題はあってもNotesを使い続けてきた企業でも、いよいよ限界に達し、会社規模で業務プロセスに大きな影響を与えるようになっています。
では何が問題なのか?第一に、Notesを運用できる技術者が不足していっていることが挙げられます。Notesが初めて提供されたのは1989年であり、早いところで1990年代前半にはNotesを導入し、20年以上運用しているケースも少なくありません。しかし、Notes導入当時に在籍していた技術者は退職・異動によっていないケースが大半であり、Notes環境を理解できる技術者が不在となっています。また、Notesを導入しているすべての企業がスクリプト言語を使用した追加機能の作りこみを行っているため、システムがブラックボックス化しているのです。
次の問題は、スキル取得のメリットが低いことです。Notesでは独自にスクリプト言語を使用して追加機能を開発できるものの、すでに業務プロセスに最適化したシステムが構築されていることから、新たにスキルを習得する利点がありません。また、IT業界では次々に最新技術が登場するため、結果的にNotesのスキルは置き去りになり、Notes技術者を育成しないという企業がほとんどです。その結果、運用を外部業者に委託せざるを得ない場合もあります。
そしてこれら2つの問題が示すのは、Notes運用費用の肥大化です。Notesの保守運用にかかる費用は増加の一途をたどっています。また、ワークスタイルの変化に伴ってモバイル端末を使った外部アクセス環境やWeb化など、現代ビジネスの多様なシーンに対応できる柔軟性が求められていますが、Notesはそれに対応しずらいのです。
Notesの移行先として有力なのは?
Notesという複雑かつ大規模なグループウェアパッケージ製品は業務プロセスのへの依存性が高いことから、なかなか移行に踏み込めない企業が今でも相当数存在します。では、企業はNotes移行先として何を選択すればよいのでしょうか?
今最も有力な選択肢になっているのがクラウドグループウェアです。これについては概要を知っている方も多いかと思いますので、簡単に説明します。
クラウドグループウェアはNotesのような情報共有基盤をパッケージ製品ではなく、Web経由のサービスのとして提供するものです。代表的なサービスがマイクロソフト社のOffice 365やサイボウズ社のサイボウズOfficeがあります。これらクラウドグループウェアはNotesに対して次のような利点があります。
- Web経由のサービスなので、導入にあたりサーバー調達やインフラ整備などの初期投資が不要になる
- 導入までにかかる時間が比較的短時間なので素早くカットオーバー(本格稼働)へ持ち込める
- デジタルネイティブなサービスなのでWebを経由していつでもどこでも同じ情報共有基盤にアクセスできる
- スマートフォンやタブレットにも標準対応しており、専用アプリを利用することで外部からのコミュニケーションも促進する
- サービス料金は基本的にユーザー数とプランに応じた従量課金制なので、グループウェアにかかるコストを視覚化できる
- システムの物理的なメンテナンスや保守運用作業はすべて提供事業者が行うため、Notesに比べて運用負担が大分軽くなる
- 情報共有基盤が社内ではなく社外で管理されるため、災害時対策としても機能する
- 提供事業者が整えているセキュリティ対策に依存するため、特別なコストをかけずにセキュリティ強化につながる可能性が高い
- 独自のビジネスアプリを開発できるサービスも多く、Notes同様に業務プロセスへの最適化が可能である
以上の利点から、Notes移行の際はクラウドグループウェアを選択する企業が大半となっています。移行の際は不安・不満の声も多くなるものの、移行が完了するとNotesが抱えていたさまざまな問題の解消を目の当たりにするため、満足度は高くなる傾向があります。
Notes移行にあたっての課題
Notesを運用している多くの企業は業務プロセスとの依存性を認めています。このため、Notesからクラウドグループウェアやその他の製品へ移行するのは決して簡単なことではありません。では、Notes運用企業はどういった点に注意しながら移行を進めていけばよいのでしょうか?
課題1. 何を移行し、何を移行しないのかの選択
Notes運用企業では、重要な情報資産のほとんどがNotesで管理されており、なおかつスクリプト言語による追加機能で業務プロセスへの依存性を高めています。そこで重要になるのが、情報資産とカスタマイズ機能のうち、何を移行した何を移行しないか?を慎重に選択することです。または、それらが移行可能かどうかを事前に調査した上で、適切な移行計画を立てることがNotes移行の最重要ポイントと言えるでしょう。
課題2. 全社的に利用するシステムだからこそ従業員の不安解消を
Notesのような情報共有基盤は全社的に利用するシステムなので、クラウドグループウェア等へ移行する際は従業員の中に不安や不満を持ち、パフォーマンスが低下してしまう人が一定数存在します。彼らの不安解消に努めることは、Notes移行の円滑化と新しいグループウェアの定着化に欠かせません。
課題3. スモールスタートで実績を積む
長年Notesを運用してきた企業が、いきなり組織全体で新しいグループウェアを使い始めるのは危険です。このため、スモールスタートを心がけて小さい部分での実績を積みながら、徐々に全社拡大していくのが理想と言えます。
Notes移行に際し、課題を解決するのは容易ではありません。しかし、Notes運用に限界を感じているのであれば早急に新しい情報共有基盤を整えないと、運用費用が肥大化するばかりか日々変化するビジネス要件に対応できなくなってしまいます。この機会にぜひ、Notes移行を具体的に考えてみていただきたいと思います。