顧客や消費者から長く支持される企業になるためにはどうしたらいいでしょうか。その答えのひとつが、社会的責任(CSR)をしっかり果たす企業になることです。本記事ではCSRの意味や重要性、CSR活動の取り組み事例などを解説します。実際に進める際のポイントなども紹介するので参考にしてください。
CSR(Corporate Social Responsibility)とは?
CSRとは「企業の社会的責任」を意味する言葉です。英語で正式には、“Corporate Social Responsibility”と表記します。簡単に言うとCSRとは、企業は自社の利益を追求するだけでなく、自分たちの事業が社会全体に与える影響を意識し、社会貢献に取り組むべきであるという考えです。
CSRを実践するための活動(CSR活動)の範囲は幅広く、人権の尊重や地域社会との共存、環境問題への配慮など多岐にわたります。もしかしたら、こうした活動がサステナビリティ(持続可能性)の実現に向けた取り組みと似通っていると感じた人もいるかもしれません。サステナビリティとは環境や社会をより良い形で次世代へ残していくことを意味しますが、実際、CSRの実践は、サステナビリティにも通じるものであり、より良い社会の実現に寄与するという基本的な理念も共通しています。
しかしサステナビリティは、あらゆる国家・企業・その他の組織や個人が分け隔てなく共有すべき理念であるのに対し、CSRはあくまでも企業がその事業活動において果たすべき責任であるというところに違いがあります。また、両者の関係としては、「サステナビリティを実現するための手段のひとつがCSR活動である」と表現できるでしょう。
なぜCSR活動が注目されるようになったのか
昨今、CSR活動が注目される第一の理由として、消費者からの信頼を得る必要が大きくなったことが挙げられます。昨今では事業活動の多角化やグローバル化などによって企業間の競争が激化し、利益を追求するあまり不祥事を起こす企業も現れるようになりました。そのような中で、世間には利益至上主義的な企業のあり方に疑問を持つ人が多くなり、企業としてもブランドイメージを良くするためにCSR活動に取り組む必要が生じたのです。
第二に挙げられるのは環境問題の深刻化です。昨今では地球温暖化をはじめとする環境問題が非常に深刻化しており、環境保護に向けた取り組みを重視する人が増えています。2015年には国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)に取り組むことが全会一致で可決され、日本政府もカーボンニュートラルの実現など、自然環境に配慮した事業活動を企業に求めるようになっています。CSR活動に取り組む企業が増えたのは、こうした社会的要請に応えるためという面もあります。
CSR活動の具体例
では、CSR活動とは具体的にどのような取り組みを指すのでしょうか。
多くの企業が取り組んでいるCSR活動としては、第一に自然保護運活動が挙げられます。具体的には、工場から出る温室効果ガスの排出を少なくしたり、生産活動による土壌や河川の汚染を防いだりすることなどです。あるいは、オフィスの省エネ化や植林などの活動もここに含められます。地域の自然を保全するにあたっては、地域社会と協働することも多いようです。
次に挙げられるのは、教育活動への貢献です。たとえ教育関係の職種ではなくとも、小中学生に対して仕事見学の場を提供することなどでも教育活動への貢献は行えます。また、途上国の子どもへ食糧支援をしたり、児童福祉施設へ資金援助をしたりする企業もあります。
地域社会への貢献もCSR活動においては欠かせません。たとえば地域の清掃活動をしたり、地域で開催するイベントなどに協賛団体やボランティアとして参加したりすることで地域貢献が行えます。また、仕事で訪問サービスを行う企業の場合は、その特性を活かして高齢者の見守りサポートを提供することもあるようです。
その他、文化財の保護のために寄付をしたり、ダイバーシティ(多様性)を促進するために高齢者や障がい者、外国人の雇用を積極的に行ったりするなど、CSR活動の形はさまざまです。公益社団法人企業市民協議会が作成した『CSR実態調査事例集』という名の以下の資料に、企業のCSR活動の事例が一覧となって記載されているので、活動内容のヒントにしてみてください。
CSR活動が企業価値向上につながる理由
CSR活動はさまざまな観点から企業価値の向上に役立つと考えられます。
たとえば、CSR活動に積極的に取り組むことは企業の社会的信用の向上につながります。社会的信用はブランドイメージと言い換えてもいいでしょう。昨今では商品やサービスの内容によって競合他社から差別化することが難しくなっていますが、CSR活動やその宣伝を通して好印象を持ってもらえれば、自社の商品を選択してもらいやすくなるでしょう。
社会的信用の向上は、人材獲得にもつながります。社会的責任をしっかり果たしている企業という評判が広がれば、安心して働ける就職先として好まれやすくなるでしょう。仕事にやりがいや意義を求めている人もいるので、CSRやサステナビリティなどに関心のある人材を引き付けやすくなることも考えられます。また、社会的責任を果たしている会社、あるいは社会的信用の高い会社で働いていることは、スタッフの自負心を高め、エンゲージメントを向上させる効果も見込めるでしょう。
また、社会的責任を果たすことは、法令や規則、企業倫理の遵守などを意味する「コンプライアンス」の前提であることから、CSR活動はコンプライアンス体制の強化にもつながります。
CSR活動を実行する上での注意点
では、CSR活動を実施する際の流れに沿って、注意点をおさえましょう。
まず決めるべきなのは、自社でどのようなCSR活動を行うか決めることです。その際のコツとしては、なるべく自社の事業に沿った内容を洗い出すことです。たとえば食品会社ならフードロスの削減や、食育に取り組むことなどがその具体例になります。自社の事業の延長線上にCSR活動を置くことにより、自社の個性を出しつつ、活動の負担を下げることが可能です。
次のステップは、上記で決めたCSR活動の予算やスケジュールを決めることです。いくら社会的に意義深いこととはいえ、本業に差し支えるほどの予算や労力を割いてしまっては本末転倒です。無理のない予算やスケジュールを策定しましょう。資金や人材の限られた中小企業にとって、このステップはなおさら大切です。
続いて、大事になるのがCSR活動の活動メンバーを決めることです。CSR活動の内容によっては、総務や広報などの担当者が兼務することも選択肢ですが、本来の業務に加えてCSR活動に付随する諸々の仕事を行うのは負担が大きすぎることもあるでしょう。したがって、CSR活動を専門に行うチームや人員を新規に設置することも検討できるかもしれません。
CSR活動を成功させるためのポイント
CSR活動を成功させるためのポイントを3点取り上げます。
まず基本となるのが、自社がどのような形で社会貢献をしたいのか、自社の企業理念などと照らして整理することです。また、自社が行いたいCSR活動が社会規範に沿ったものであるか、あるいは社会的にニーズがあるか、達成したい目標は何かの検討も欠かせません。
これらの検討を通して活動内容やその目的が決まったら、それらについて社内共有します。上からの命令で社員が嫌々ながらCSR活動を行っているようでは、どこかに歪みが生じてしまいます。したがって、CSRに関する社内研修などをするのもおすすめです。
そして、活動内容についてはしっかり社外へ発信することも忘れてはいけません。せっかく社会貢献しても、それがごく一部の人にしか知られていないようでは非常にもったいないことです。活動内容を自社のWebサイトやSNSなどでしっかり発信することで、自社のブランドイメージの向上や、CSR活動の影響力を高めていくことが可能になります。
まとめ
本記事ではCSRの意味や、CSR活動の具体的な取り組み事例やその流れなどを解説しました。CSR活動は自社の社会的信用(ブランドイメージ)を高め、企業価値を高めることに役立ちます。
CSR活動を実施する際には、その活動内容が自社の事業に適しているか精査した上で計画を策定し、社内共有やチーム作りなどを進めていくことが重要です。本記事を参考に、ぜひCSR活動に取り組んでみてください。