製造現場においてもデジタルテクノロジーの発展は強く影響していて、さまざまなメリットを与えています。現在の製造現場が抱えている問題を解決するきっかけとして、AR活用が今後は広く認知されていくでしょう。この記事では製造現場におけるAR活用の基本的なポイントと、具体的な事例を紹介します。
AR技術と幅広い分野で広がるXRについて
幅広いビジネスシーンで活用が進められるAR技術は、製造現場でも利用されるようになっています。また、近年はAR技術だけでなくXR技術も注目され、現場での活躍が大いに期待されているのです。
このようにビジネスでの影響力を強めるAR関連の技術について、基本情報を解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
AR技術とは?
ARとは「Augmented Reality(拡張現実)」の略称で、現実の情報に対してコンピューターのデジタル情報を反映させていくことを意味します。
スマートフォンやタブレットなどのデバイス機器を使ってリアル世界に仮想の映像を重ね合わせて、情報を拡張表示する技術をAR技術と呼びます。
例えばAR技術は、スマートフォンのカメラをかざしてあたかもそこにキャラクターがいるように見せたり、カメラに映る人物にCGの服やアクセサリーを着せたりといったことが可能です。
また、ビジネスシーンでは、自室の写真に実寸大の家具の映像を重ねて、模様替えのシミュレーションをAR技術で行うなどの事例が見られます。
現実世界にデジタルを融合させるのが特徴で、ゴーグルなどのアイテムを着用しなくても技術体験ができます。
VR技術とは?
VRとは「Virtual Reality(仮想現実)」の略称で、擬似的に作成された仮想世界を意味します。
専用のVRゴーグルやHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を着用してヴァーチャル世界に入り込み、その世界のなかで動き回る擬似体験を促すのがVR技術です。
VRの仮想世界はCGで作られるものだけでなく、実際にカメラで撮影された360度の映像を使うこともあります。
VRの歴史は古く、元々は1930年代に飛行機運転をシミュレーションするために開発が行われました。
ゲームなどエンターテイメント分野で広く活用され、その市場規模はさらなる拡大を続けています。しかし近年は消費者を対象としたものだけではなく、製造現場、医療、教育などのビジネスシーンにおいても、スタッフの技術トレーニングや遠隔での会議などに活用されています。
MR技術とは?
MRとは、「Mixed Reality(複合現実)」を意味する言葉で、ARの発展系として捉えられる分野です。MRはAR同様現実世界にCGを導入しますが、専用ゴーグルやスマートグラスなどのデバイスを通して擬似体験をするのが特徴です。
MRは現実の世界にCG映像を重ね合わせる技術なので、実際の手で目に見えている仮想空間上のアイテムを自由に動かすことが可能です。
例えばMicrosoftが開発した「Microsoft HoloLens」は、HMDから見えるホログラム映像を実際の手の動きで操作することができます。
MR技術を応用すれば同様の仮想空間を複数人で体験することも可能となり、今後はエンタメだけでなく製造現場や医療現場での活用にも期待がされています。
XR技術とは?
XRとは「Extended Reality」の略称で、ここまで紹介してきたAR、VR、MR技術を総称した呼び名です。
近年は関連技術の発展によってそれぞれの分野の境界線が曖昧になってきているため、XRという「あらゆるリアリティ体験」を意味する汎用性の高い言葉も使われるようになっています。
製造現場、医療、教育などの分野では、現状XRに含まれる技術の一部が使用されています。しかし今後それぞれの技術発展が進めば、XR技術全体が一つのパッケージとして使われるようになるかもしれません。
また近年は、代替技術を意味する「SR技術」も浸透しはじめています。仮想空間に触覚までも取り入れるSRが発展すれば、これまで以上に現実世界でARをはじめとしたデジタル技術を活用できる環境が整備されると予想されるでしょう。
ARが製造現場で活用される理由
製造現場では既に幅広くAR活用が進められていて、さまざまなシーンで業務を補っています。
AR活用が進む背景には、製造現場ならではの課題が関係しています。
一つは、製造現場における人材不足の問題です。
製造現場では働く人材が減っているため、ARをはじめとしたIT技術の導入によってその穴埋めが画策されています。日本は製造現場において技術が高いことに定評がありますが、人材不足と技術者の高齢化が進むなか、どうやって技術継承を行っていくのかも課題になっています。
ベテラン技術者のノウハウを残すための手段の一つとして、AR活用が進められているのです。
また、日本は諸外国と比較してIT活用が遅れているとされるため、最新のAR技術を取り入れてその巻き返しを進めているケースもあります。
ARはハンズフリーで使えるデバイスも多く、製造現場のような手作業を基本とする仕事でも活用しやすいです。高性能なARデバイスも開発されるようになっているため、今後も製造現場においてARの活用が進められていくでしょう。
このような理由から、製造現場においてARは広く活用される結果になっています。
製造現場が抱える問題点の解消・改善を目的とする場合には、将来的にもAR活用が求められると想像されます。
AR活用|製造現場でのメリット
製造現場でAR活用を進めることには、いくつかのメリットがあります。
具体的には、以下の3つの要素がメリットとして挙げられます。
- 人手不足とコスト問題の解消
- 生産性の向上
- 技術者の教育によるスキルの向上
AR活用は、人手不足に悩む製造現場においてコスト問題を解消するきっかけになっています。
例えばARのシステムを活用して、遠い場所にいる技術者や監督者から簡単に指示を出せるようになります。
製造現場ごとに従業員を補充する必要がなく、技術力の高い人材を広範囲で活用することにもつながるでしょう。
ARデバイスの導入にはコストがかかりますが、従業員の移動にかかる交通費や新規で人を雇う人件費を考慮するなら、長期的に見てコストの削減にもなります。
また、ARの特性は生産性の向上というメリットにもつながっています。
先にも触れた通り、遠隔での指示やハンズフリーによる新しい製造作業は、これまで発生していた無駄な行動や時間をなくします。作業工程でわからないことがあってもすぐに確認でき、片手にマニュアルを持ちながらもう片方の手で作業をするといった非効率な業務も削減可能です。
そしてAR活用は、製造現場におけるスムーズな技術継承をも実現します。
ARでは映像を用いた技術トレーニングが実施できるので、職人の培われたノウハウを簡単に目で見て学ぶことが可能です。個別のデバイスでそれぞれがトレーニングを行えるため、技術継承のための時間を長時間設ける必要がなくなるのです。技術者全体を一律で教育していけるため、製造現場全体のスキル向上につながるでしょう。
AR活用|製造現場での事例
AR活用を検討されるのなら、まずは製造現場における事例を確認することがおすすめです。
事例を参考にすることで、ARを今の製造現場に導入したときの具体的なシミュレーションが行えます。
以下では、実際に製造現場で実施されたAR活用の事例を紹介します。
遠隔地から製造現場へのサポートと保守
日立製作所鉄道ビジネスユニット笠戸事業所は、ARを活用して遠隔地から製造現場のサポートと保守を行っています。
日立製作所は機器類をボルトで確実に固定するために、自動でボルトの締結力を測ってタブレットPCに記録するという作業を行っていました。しかし、タブレットPCと連動した情報を確認するのに時間がかかり、作業に手間が発生していたのです。
そこで日立製作所はARのメリットを活用するために、HMDに作業に必要な各種情報を表示するシステムを製造現場の従業員のために用意しました。
HMDにはAR技術でボルトの3Dモデルが表示され、技術者は簡単に締結すべきボルトの位置と、規定された締結力をクリアしているかがわかるようになっています。作業の結果はPCによって遠隔で管理され、不十分な対応と判断された場合にはその旨が指示されるのです。
AR技術の活用によって、多くの手間をかけずに製造工場のラインにいる作業員全員へのサポートが可能となっています。わざわざ指導者や技術者が現場に向かわずとも、正確性を保ったまま作業を完了させることができます。また、HMDに設置されたカメラを使って熟練の技術者の作業内容をデータ化し、今後の指示に活かすことも可能。
将来的には作業効率のさらなる向上が、AR活用で実現されるかもしれません。
製造現場でARを使用したトレーニング
本田技研の鈴鹿製作所は、ARを活用した車体の組み立てトレーニングを実施しています。
これまで車体の組み立て方法を学ぶ際には、研究のために用意されているテスト車を使った実物でのトレーニングが行われていました。
ARトレーニングの導入によってテスト車は必要なくなり、製造現場における効率化が促進されています。
近年のAR技術は高度なものとなっているため、決してリアリティを欠いたトレーニング内容にならない点がポイントです。
車両の組み立てにおいても、きちんと作業スペースが再現され、検査車両の動きや光源がアニメーションによって正確に再現されています。現実の製造現場に近い環境でトレーニングが行えるため、ARでも必要な能力を伸ばしていけるでしょう。
AR技術を用いたデバイスはさらなる発展を続けていて、近年では複合現実ヘッドセット「HoloLens 2」などの高性能端末も、B to B向けの商品として展開されるようになりました。
AR活用のための環境作りは難しくなくなっているため、そのほかのソリューション導入と併せてビジネスにおける課題の解消がより目指しやすくなっています。
例えばARデバイスを導入しつつ、リアルタイムでの情報更新が行える統合ソリューションである「Dynamics 365」を活用すれば、製造現場における課題をまとめて処理し、生産性向上や業務効率化を実現できるでしょう。
この機会にAR活用と同時に、Dynamics 365のような基幹システムの導入も検討することをおすすめします。
まとめ
製造現場における現状の課題を解決するためには、ARなどのXR技術を新たに導入することが考えられます。
少しでもAR活用に興味がある場合は、必要なデバイスや環境を確認してみてはいかがでしょうか。
その際には、同時に製造業向けのソリューションであるDynamics 365の導入もおすすめです。
クラウドビジネスアプリケーションであるDynamics 365は、製造現場の業務を各種システムで的確にサポートします。
この機会にAR技術と一緒に導入を検討してみてはいかがでしょうか。