企業を経営するにあたって、どのような組織を作るかは非常に重要です。企業の組織形態にはいくつかの種類がありますが、本記事では代表格である事業部制組織を取り上げ、その概要やメリット・デメリットなどについて、基本からわかりやすく解説します。
事業部制組織とは?特徴を解説
事業部制とは、本社部門の下に、事業ごとに編成された部署(事業部)を配置した組織形態をさします。この方法で組まれた組織は事業部制組織と呼ばれます。
事業部制は、大多数の上場企業で採用されている一般的な組織形態です。日本では1933年に松下電器(現パナソニック)が、初めて導入しました。
事業部制の特徴は、各事業部に多くの責任や権限が委ねられていることです。自律的に業務を行うため、原則として事業部ごとに「開発」「製造」「販売」などの必要な部署が設置されます。例えば、あるメーカーが事業部制を導入し、A、B、Cの事業部を置いた場合、3事業部にはそれぞれ「開発」「製造」「販売」などのセクションが設けられるのです。
事業部制のもとでは、各事業部で迅速で適切な意思決定が可能になると同時に、本社部門の負担が軽減されます。
カンパニー制との違い
事業部制とよく似ている組織形態がカンパニー制です。日本では、1994年にソニーが初めて導入しました。それ以降、トヨタ自動車や楽天などの大手企業も導入しています。
事業部制とカンパニー制の大きな違いは「どの程度本社から独立しているか」にあります。事業部制では、各事業部が開発や製造といった権限を有していますが、あくまで特定の事業に限られます。経営資源(ヒト・モノ・カネ)に関する権限は本社が保有したままで、事業部が本社から独立するわけではありません。
一方カンパニー制は、事業部が個別の会社(カンパニー)のように独立して運営を行います。権限に加え経営資源も委譲された事業部制の発展形態ともいえます。独立採算制をとっているので、事業部の生んだ損失を本体が埋めることはありません。
職能別組織との違い
職能別組織とはその名の通り、業務の内容ごとに部門として編成された組織です。機能別組織とも呼ばれることがあります。
職能別組織として編成された部門名の例として以下があります。
- 人事部
- 開発部
- 営業部
職能別組織は業務内容がそのまま部門名になります。そのため、自部門以外から見ても何をしているか分かりやすいことが特徴です。また部門内で同質の業務をしているため、部門内での知見が高まりやすいメリットがあります。
事業部制組織は各部門ごとに開発チーム、営業チームなどが編成されます。プロジェクトや製品のように事業単位で編成されている組織が事業部制組織です。一方で職能別組織は事業は関係なく、業務単位で編成されている組織となります。
マトリックス組織との違い
マトリックス組織は各社員が2つの組織に所属する組織形態です。
以下はマトリックス組織の例を示しています。
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開発 |
人事 |
営業 |
東京 |
社員A |
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大阪 |
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社員B |
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北海道 |
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上記はエリアと職能でマトリックス化した場合の組織図です。社員Aは開発部、東京エリア担当、として2つの組織に属することになります。
マトリックス組織は各組織ごとに目標を立てます。よって社員は複数の目標達成を目指して業務をすることになり、目標達成に向けた同時進行がしやすいことがメリットです。
事業部制組織は事業ごとに連携性を保ちやすいことがメリットになります。1事業の開発部門と営業部門は連携しやすいほうが、お互いの業務に相乗効果を発揮しやすいためです。しかし、所属する組織は1つのためマトリックス組織のように、複数組織の目標達成を同時に進行させることは難しいでしょう。
事業部制組織の組織図の例
事業部制組織の組織図は以下のようになります。
経営者(社長)がおり、その配下に各部門が配置されます。特徴は各事業部ごとに営業部や開発部などの職能別部門が編成されていることです。事業部制組織では事業部の部長が、各部門を束ねています。
事業部ごとに決定権や裁量が委ねられているため、各事業部を会社と見た場合、部長はその会社の社長、というイメージです。経営層に確認することなく意思決定が可能なため、スピーディな判断を下せることが事業部制組織のメリットでもあります。
一方で以下の職能別組織の組織図と比較してみましょう。
職能別組織は経営者の配下に職能別の部門が編成されています。事業部制組織で経営する企業と同じ社員数で職能別組織を経営する場合、部門ごとの人数が多いです。このことでマネジメントが難しくなる、部門同士のつながりが弱ければ業務が回りにくい、などのデメリットが生じます。
自社は当てはまる?事業部制組織を導入すべき企業とは?
ここまでで「自社も事業部制組織を導入すべきだろうか」と考えた方もいるのではないでしょうか。ここからは、組織構造の選び方や事業部制組織を導入すべき企業の特徴を解説します。
適切な組織構造を選択する基準
自社にて最適な組織構造を選択するためには以下の基準に着目しましょう。
- 企業の規模
- 意思決定権
- 事業の成長見込み
企業規模が大きいほど組織は複雑化するため、1部門に所属する人数が多ければマネジメント業務の負担も大きくなります。よって企業規模が大きく、社員の人数が多い企業は細かく組織化できる組織構造を選択すべきです。
組織の意思決定権は大きく2つに分かれます。リーダーが決定権を持つ組織と、各社員が決定権を持つ組織です。命令や遂行を重視する場合は前者、社員ごとのアイデアや責任を重視する場合は後者を選択しましょう。
事業の成長見込みが高い場合には、事業ごとに分ける組織構造のほうがより高い成長を見込めます。一方で成長見込みが低い場合は職能別組織にすることで、別事業を担当する社員同士の相乗効果が生まれ、成長が見込めるでしょう。
事業部制組織を導入すべき企業の特徴
上記を踏まえ、事業部制組織を導入すべき企業の特徴は以下の通りです。
- 企業の規模:大きい
- 意思決定権:リーダーに委ねる
- 事業の成長見込み:高い
事業部制組織は、企業規模が大きく社員数が多い企業が導入するとよいでしょう。管理者のコストを減らせる点がメリットになります。
また意思決定権をリーダーに委ねることで、迅速な意思決定ができます。社員はリーダーの命令に従うことでパフォーマンスを発揮することが可能です。
事業の成長見込みが高いのであれば、事業ごとに組織編成することで、組織内での相乗効果が生まれやすくなります。
事業部制組織の分類
事業部制組織は次の3つに分類できます。事業部制を導入する場合、企業の特徴に合った分類方法を選ぶのが望ましいでしょう。
製品別事業部制
企業が扱う製品やサービスごとに事業を分けるという、もっとも一般的な分類です。
電機メーカーを例にあげるなら、「家電事業部」「IT・デバイス事業部」「エネルギー事業部」といった事業部を設置します。
製品に特化した「くくり」にすることで、特定製品に関する知識や技術などを有した専門性の高い人材を育成できます。
地域別事業部制
エリアによって事業部を設置する方法です。
「関東事業部」「関西事業部」「海外事業部」などの分け方が、これに当たります。
例えば本社を東京に置きつつ全国展開や海外への進出を狙う場合、製品別事業部制より地域別事業部制の方が、エリアの特性に合わせたスピーディーな対応が実現できます。
顧客別事業部制
顧客の特性によって事業部を分ける方法です。
「法人事業部」「個人事業部」のくくりのほか、「公共事業部」「金融事業部」のように顧客の業界で分けたり、「性別」「年齢層(年代)」「家族構成」「年収」「職業」「ライフスタイル」といった属性で分けたりします。
顧客別で分けることで、それぞれのニーズをすばやく把握し、製品、サービス、開発や販売に活かせます。
事業部制組織のメリット
多くの権限を委ねられ自律的に業務遂行する事業部制には、以下のようなメリットがあります。
現場のみで迅速な意思決定や行動ができる
大きな権限を任されているので、各事業部は市場の変化を踏まえつつ、スピーディーな意思決定が可能です。事案が発生するたびに本社とやりとりする必要はありません。また大きな問題が発生し、早急な対応が必要とされるときも、迅速かつ柔軟に行動できます。
スピードが重視されている現在のビジネス環境では、本社の判断を待っている間に市場が変化し他社に追い抜かされるというリスクがあります。
本社とのやりとりを挟まずに事業部内で迅速かつ的確に判断することで、競争力強化と事業衰退のリスク軽減につながります。
本部は会社全体の経営に集中できる
各事業部に多くの権限が譲渡される事業部制では、事業の手続きや判断を各事業部内で行うため、本社部門の負担が軽くなります。その結果、本社部門は経営戦略の策定、新規事業の立ち上げなど、全社レベルの意思決定に注力できるようになります。
責任の所在を明確化できる
大きな権限が与えられることは、事業部のトップが当該事業に関わる全てに責任を負うことを意味します。
事業部制では事業部ごとに損益計算書を作成するので、会社全体で赤字か黒字かではなく、事業部ごとの利益責任が明確化されます。業績が悪い事業部は、業績の改善に向けて能動的に働くことが期待できます。業績がよい事業部には昇進や賞与といったインセンティブの付与が可能です。
責任が明確になることで、事業部間の競争が生まれ、結果的に会社全体の業績アップも期待できるでしょう。
経営に必要な視点を持つ人材の育成がしやすい
事業部制の場合、事業部トップには経営者としての経験を積ませることができます。
各事業部は、営業や生産など事業運営に必要な機能を網羅しています。そのため特定業務に特化するのではなく、経営者に必要な「全体最適の視点」で事業をとらえる人材が育ちやすいのです。
需要の高い事業の可視化
前述のように各事業部で損益計算書を作成するため、事業ごとの売上や前年比を明確に把握しやすくなります。
需要の高い事業や成長を見込める事業に優先的に経営資源を配分することで、業績アップが狙えます。また事業の可視化は、今後の経営戦略立案にも役立つでしょう。
事業部制組織のデメリット
事業部制には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットも有しています。デメリットも把握したうえで事業部制導入を検討しましょう。
壁が各事業部の間で生まれる可能性がある
事業部制では事業部内で業務が完結するので、他の事業部と連携が減って、閉鎖的になる恐れがあります。これにより、事業部をまたぐ新商品や新サービスが開発されにくくなることが指摘されています。さらには全社一丸となったプロジェクトなども遂行しにくくなるでしょう。スムーズかつスピーディーな事業展開のためには、事業部制のメリットを活かしつつ、事業部の横のつながりを生む施策が必要です。
また予算配分や賞与などインセンティブについて事業部間で差が生まれると、事業部間の対立に発展する恐れもあります。このような軋轢は、社員のモチベーション低下や離職の原因にもなるので要注意です。
経営資源のロスが発生する可能性がある
事業部ごとに業務に必要な機能をもつ場合、全社レベルでは機能が重複することがあります。これは経営資源のロスにつながります。
例えば「生産」という業務に注目してみましょう。コスト面でベストなのは、単一の工場を各事業部で共有することです。しかし、事業部制では、事業部ごとに別の工場を持つことになります。そのため、工場の建設費用や毎月の運用コストが重複し、無駄につながります。
このような無駄なコストが生まれないようにするためにも、事業部間の横の連携が必要です。
【事例】事業部制組織を採用している企業
事業部制組織は主に大企業で採用されています。例として以下の企業です。
- パナソニック株式会社
- ソニー株式会社
パナソニック株式会社は1933年に日本で初めて事業部制組織を採用したとされている企業です。以来、同社は成長を続け、現在はグループ会社を事業会社としています。同社は「事業会社制組織」として、現在も成長を続けています。
ソニー株式会社は国内だけでなく、海外の事業部にも事業部制組織を導入しました。各事業部の部長に責任と権限を委ねています。
Dynamics 365の導入でさらに円滑な事業部経営
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またDynamics 365はMicrosoft 365の各アプリとの連携性も高いです。自社でWordやExcel、OutlookのようにMicrosoftの製品が使われているのであれば、Dynamics 365はより高い効果を発揮します。
新規顧客への提案に向けた準備、組織内プロセスの改善、既存顧客へのさらなる提案のためにもぜひDynamics 365を利用しましょう。
まとめ
事業ごとに分かれて活動する事業部制は、市場のニーズを踏まえた迅速な意思決定や、柔軟な対応を可能にします。その一方で、事業部間の壁を生むなど、企業内の横のつながりが希薄になる弊害も抱えています。
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