「UX(ユーザーエクスペリエンス)をデザインする」と言われたら、あなたは何から始めたらいいかお分かりでしょうか。
- UI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)の違いが分からない
- UXが重要と言われているが、何から進めたらいいか分からない
このような不安を持っている担当者の方へ、UXデザインを理解する上で押さえておきたい基礎知識を解説します。自社サービスやプロダクトを持つ企業の担当者は、今後UXデザインの理解なしに、市場で生き残っていくのは難しくなっていくでしょう。
本記事ではUIとUXの違いとUXデザインの具体的な事例を紹介し、UXデザインとは何かを分かりやすく解説します。
UXデザインとは?
UXデザインとは、ユーザーがサービスやプロダクトを通じて得られる体験(UX)を、より良い体験にしていくための設計のことを言います。
経済産業省の高度デザイン人材育成事業の調査研究報告書の中では、以下のように捉えられています。
“UXデザインとは、人間中心設計の概念に基づき進められる一連のプロセスであり、ユーザーリサーチ、企画、施策の構築、評価を繰り返しながらユーザー体験を向上させていくアプローチとなる。現在UXデザインのアプローチはアプリなどのデジタルプロダクトにとどまらず製品開発・サービス開発の全体にも適用されており、今後ますます欠かせないものとなっていくと考えられる。UXデザインとはこれら全体のプロデューススキルといえる。”
このようにUXデザインは人間を中心にした考え方であり、その範囲は人とサービス・プロダクトとの接点に留まりません。商品を通して得られるユーザーの主体的な一連の体験を全体的に設計していくスキルが、UXデザインであると言えるでしょう。
UIデザインとUXデザインの違い
UIとUX、それぞれのデザインは何が違うのでしょうか?
具体的に解説していきます。
UIデザインとは
サービスやプロダクトとユーザーの接点をUI(ユーザーインターフェース)と呼びます。
主に、見た目のデザインや操作する画面などを指すことが多いです。WEBサイトを例にすると、表示される文字の大きさや色を整え、入力しやすいようなフォームの大きさを考えることが、UIデザインの領域です。
UXデザインとは
一方UX(ユーザーエクスペリエンス)は、ユーザーがサービスやプロダクトを通じて得られる体験のことを指します。
WEBサイトの場合、カテゴリを整理して探している情報にたどり着きやすくすることや、ページがすぐに表示される工夫がUXデザインです。これらの工夫によって、快適にWEBサイトを閲覧できたというユーザー体験が重要なのです。
このように、サービスやプロダクトを通じて得られるユーザーの体験をデザインすることを「UXデザイン」と言います。
UIデザインとUXデザインとの大きな違いは、時間軸の有無です。
UXデザインで設計する対象となるUX(ユーザーの体験)には、時間軸ごとに4つの種類があると言われています。
(1) 利用前:予期的UX(経験を想像する)
(2) 利用中:瞬間的UX(経験する)
(3) 利用後:エピソード的UX(ある経験を内省する)
(4) 利用時間全体:累積的UX(多種多様な利用期間を回想する)
UXは、捉えるタイミングによってもユーザー体験の内容が変わってしまう性質があります。UXデザインを考える際には、上記のように時間軸を意識して設計をしていく必要があるでしょう。
UXデザインの事例
UXデザインの具体的な事例を見てみましょう。
Airbnbの信頼を作る設計
自分が住んでいる部屋や家などを、他人に貸したり借りたりできる「Airbnb(エアービーアンドビー)」というサービスがあります。
Airbnb は2008年にアメリカで創業され、世界191か国以上で600万を超える宿泊施設が掲載されているサービスです。
Airbnbでは主観的なユーザー体験である「信頼」をデザインし、Airbnbの事業を成功に導きました。自宅を見知らぬ他人に貸し出すホストと、縁も所縁もない他人の家で過ごすゲストの間に、信頼を作り出す仕掛けがAirbnbのサービスには意図的に設計されています。
Airbnbでは以下のような工夫で、利用者のユーザー体験の1つである信頼を設計したと言えます。
【信頼を生み出すデザインの工夫】
- ホストのプロフィールに出身地や状況を設定する項目を設け、ゲストとの類似点を持たせる余地をつくる
- ホストの評判の仕組みを導入し、信頼を定量的に見える化する
- ホストの信頼につながる“過不足のない適度”な情報開示のため、プロフィールメッセージのテキストボックスの大きさを最適化する
サービスの大枠となる設計やUIの反映した細かな配慮によって、Airbnbを利用するゲストの不安はなくなり、信頼してサービスを利用できるようなりました。
これは、単にアプリケーションのUIの問題だけではありません。
ユーザーのサービス利用前の「不安」という体験からUXデザインを検討し、信頼を作る仕掛けを設計した結果と言えるでしょう。
UXデザインの進め方:4つのプロセス
UXをデザインしていくための4つのプロセスを解説します。
1.ユーザーニーズの調査・分析
まずは自社のビジネスのユーザー層に対して、ヒアリングを行います。
フィールド調査やインタビュー調査などの手法を使ってデータを収集します。その後、調査結果を分析して、ユーザーの本質的なニーズが何かを特定します。
分析の結果からペルソナを決定し、カスタマージャーニーマップの作成などを通じてユーザーの課題解決の方向性や欲求を把握していくフェーズです。
2.ワイヤーフレーム・プロトタイプ作成
調査・分析によって抽出された課題に対して、解決方法や価値の提供方法を検討します。
UXデザインではユーザーの一連の体験を意識し、時間軸を捉えて設計を進めていくことが大切です。ユーザー体験の設計ができたら、ワイヤーフレームやペーパープロトタイプ(紙面上で行うレイアウト検討)など、簡単な試作品を作成してみましょう。
3.デザイン制作
プロトタイプによるユーザー体験のたたき台ができたら、プロダクトのデザインの制作を行います。ユーザーからフィードバックを受けられるよう、UIも具体的に検討しながら作り込んでいきます。
4.プレゼンテーション・評価
プロダクトができたら、クライアントからの評価をもらいましょう。
想定されるユーザー体験シナリオを作成し、実際にプロダクトを使って感じたことをフィードバックしてもらいます。客観的なユーザー体験の結果を基に、再度UXデザインのプロセスを回し、改善を繰り返していきます。
まとめ
サービスやプロダクトとの接点がUIであるのに対し、サービスやプロダクトを使って得られたユーザーの体験がUXでした。UXには時間軸が存在しており、UXをデザインするためには時間軸に応じた4つのUXを意識して設計していく必要があります。
UXデザインを作り込むことによってユーザー体験がより良いものになれば、商品の価値は高まり、使い手の満足度を向上させることができるでしょう。
Azureが提供するPower AppsならUXが優れたアプリを簡単に構築できるので、ぜひ検討してみてください。また、UXデザインの考え方は、今回ご紹介したプロセスの他にも「UXの5段階モデル」が存在します。下記の記事ではUXを意識した企画に役立つ「UXの5段階モデル」について解説していますので、あわせてご覧ください。
UXデザインの手法は?5段階モデルも紹介