「DX」という言葉が盛んに取り上げられている今日ですが、単に古いシステムを最新のものに入れ替えたり、アナログな作業をデジタル化したりすることがDXであるという誤解を持っている人も多いようです。そこで本記事では、DXとは本質的にどのような取り組みを指すのか、基本から分かりやすく解説していきます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DXとは、「デジタル技術による変革」を意味する概念です。特にビジネスにおいては、会社の成長や競争力を高めるために、デジタル技術を使って業務そのものや組織体制、ビジネスプロセス、企業文化などを変革しようという経営戦略を指します。
企業が押さえておくべきDXの本質
DXの正しい理解において重要となるのは、単なるデジタル化・IT化はDXとは言えないということです。これに関して経済産業省は、2021年の『DXレポート2』において「変化に迅速に適応し続けること、その中ではITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革することがDXの本質」であると指摘しています。
(引用元:https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-3.pdf)
つまりDXとは、単にITシステムを導入するといった一過性の取り組みではなく、変化への柔軟かつ迅速な適応性を身につけること、いわばアジャイル的な経営体制を確立することであると言えるでしょう。
DXとデジタイゼーション、デジタライゼーションとの違い
上記で指摘したように、DXは単なるデジタル化とは異なる概念です。ところで、デジタル化を指す概念として、英語には「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」という2つの言葉が存在するのはご存じでしょうか。
デジタイゼーションとは、紙などで保存されているアナログな情報をデジタルへと置き換えることを意味します。
他方、デジタライゼーションとは、特定の業務プロセスのデジタル化を示す概念です。たとえば手紙や電話で行っていた連絡業務をメールやチャットなどに置き換えることは、デジタライゼーションの一種といえるでしょう。
ここまで説明してきたことを振り返れば、デジタイゼーションおよびデジタライゼーションとDXの違いは明らかです。DXとは、ビジネスモデルの転換や新たな価値の創出を目指す取り組みを指します。しかし、紙の情報を電子データ化したり、手紙での連絡をメールに変えたりすることは、それ自体ではビジネスモデルの抜本的な転換や新たな価値創出までは見込めません。
とはいえ、DXを有効に機能させるためには、デジタイゼーションやデジタライゼーションが必要になるのも確かです。たとえば変動する顧客ニーズを的確に捉えて新たな価値を創出するためには、緻密な顧客分析が欠かせません。そして顧客分析を効率的に行うためには、顧客データがデジタル情報として蓄積されていることが重要になります。つまり、DXの本質である「変化への対応性」を獲得するには、デジタル化の取り組みが前提として必要になると言えるでしょう。
DXが必要な理由
現在の日本において、DXの必要性がこれほど盛んに唱えられている理由とは何でしょうか。以下では、DXが求められている背景について解説していきます。
ビジネスモデルの変革
DXが必要な第一の理由は、インターネットの普及やIT技術の発展に伴って、市場そのもののビジネスモデルが、様々な業界で変わってきていることが挙げられます。
たとえば、Eコマースの登場は小売業界のあり方や、ショッピングという体験そのものを大きく変えました。
また、消費者の価値観の多様化に伴い、昨今では「モノ売り」から「コト売り」へと価値提供の仕方が変化しておきており、動画や音楽のストリーミングサービスやサブスクリプション形式のサービスなども一般的になりました。
たとえば、一昔前ならゲームと言えば、専用のハード機とソフトを買ってテレビで楽しむのが一般的でしたが、いまや基本料金無料ながら「課金」で稼ぐスマホゲームが1兆円規模の市場を形成するまでに至っています。
さらに、市場のグローバル化により、市場競争が激化しているのもDXが求められる理由のひとつです。世界中の企業を相手に厳しい競争を生き残っていくためには、DXを実現し、市場の変化への対応力を養っていく必要があります。
システムの老朽化
多くの企業においてシステムの老朽化が進んでいることもDXが必要な理由です。経済産業省が2018年に発表した『DXレポート』では、多くの日本企業が老朽化した基幹システム(レガシーシステム)を技術的負債として抱えていることが「2025年の崖」という標題の下で指摘されています。
このレガシーシステムの管理運用には多大なリソースが必要になるため、企業の財政状況を圧迫し、新たな技術に投資するための余裕を奪います。結果、企業は競争力を低下させ、デジタル競争の敗者となる可能性を高めてしまうのです。
先に指摘した通り、古いシステムを最新のものに置き換えるだけではDXとは言えませんが、レガシーシステムがDXの阻害要因となるのは確かです。それゆえ、レガシーシステムを早急にモダナイズすることが、DXの実現に向けた第一歩であると言えます。
人手不足
昨今、あらゆる業界で人手不足が深刻化しつつあることもDXが急がれる理由です。内閣府の資料によれば、少子高齢化によって日本の人口は既に減少に転じており、2050年代には1億人を下回る見込みです。しかも、総人口に占める高齢者率は2036年に33.3%、つまり国民の3人に1人という状態に至ることが予測されており、現状のビジネスモデルを維持したままでは、事業が立ち行かなくなっていくのは明らかと言えるでしょう。
こうした人手不足に対応するためには、積極的にICT技術を取り入れ、ビジネスプロセスの自動化や効率化を進めることが欠かせません。また、ICTの活用によって従業員の業務負担軽減やワークライフバランスの改善に取り組むことで、従業員エンゲージメントを向上させ、従業員の離職を防ぐことにもつながります。
DXによってもたらされる変革とは
続いては、DXによってビジネスにどのような変革がもたらされるのかを解説します。
生産性向上
DXは企業に生産性の向上をもたらします。ITツールを活用すれば、日々のルーティン業務の自動化・効率化により、ヒューマンエラーの抑制や作業時間の短縮、人件費の削減、業務品質の向上など様々なメリットを得られます。また、BIなどの分析ツールで膨大なデータの可視化・分析を行い、経営判断のスピードを速めることもできます。
データドリブン経営
データドリブン経営とは、データに基づいて経営戦略や企業方針などの意思決定をする経営手法のことです。データドリブン経営は、意思決定のプロセスを根拠あるもの・透明性のあるものに変えると共に、多様な顧客ニーズに対応した柔軟なビジネス展開を可能にする土台をつくります。DXの過程で行われるデジタイゼーションやデジタライゼーションは、データ分析の土台となるデータの収集・蓄積を効率化する効果があります。
新たなビジネスモデルの発掘
DXは新たなビジネスモデルやイノベーションを生む土壌を育みます。高度なデータ分析に支えられたマーケティング技術は新たな市場需要の発見につながり、最先端のデジタル技術は、従来では不可能だったことも可能にします。デジタル技術の活用を通して新たなサービスやビジネスモデルを構築・開発することは、DXのまさに本質とも言えるものです。
まとめ
DXの本質とは、デジタル技術の導入・活用の先にあるビジネスモデルの変革です。また、DXは一過性の取り組みで終えず、市場の変化に対する敏感な対応力を持ち続け、継続することが重要です。コロナ禍、少子高齢化、不安定な国際情勢など、現在の不透明な時代を企業が生き抜いていくためには。早期にDXに取り組むことが欠かせません。