企業活動はさまざまな部署から構成されており、扱うデータベースも部署によって異なるのが常です。そのような状況を背景に、データを一元管理し統合的にデータを運用できるERPが登場しています。製造業ではERPが立案した生産計画に基づき、より緻密で正確な製造工程を管理できるようにするため、複雑な要素をシステムで制御し製造工程を効率化するMESが誕生しました。本記事ではERPとMESの違いや連携によるメリット、システム導入における注意点を中心に解説していきます。
ERP・MESとは?基本概念の解説
ERPとMESとの違いについて解説する前に、それぞれの基本概念や果たす機能について理解する必要があります。まずはERPとMESについて見ていきましょう。
ERPとは?
データのデジタル化が進んでいる現在において、ERPは非常に重要な概念です。ERPが誕生した背景に触れるとともに、その基本概念と機能について解説します。
ERPの基本概念
ERPはEnterprise Resources Planningの略称で、日本語では基幹システムや統合パッケージなど、さまざまな呼称で用いられる用語です。企業の経済活動においては、会計処理、在庫管理、販売管理、人事給与、生産管理が基幹業務として機能しています。これらの機能を統合し、データを連携させることによって業務の効率化を図るのがERPの基本概念です。
元々これらの業務は、異なる部署ごとに別々のシステムで管理されていました。しかし、実際の業務は部門間で連携しなければならないことが多く、部門間でシステムが分断されているとデータ連携に時間がかかり非効率であることが問題でした。このような背景で誕生したのがERPです。
ERPの機能
ERPの基本機能は、システム間のデータ連携を通じてデータを一元管理することです。これにより、1つの管理画面を使って複数のシステムで発生したデータを確認できるようになります。EPRにおけるデータはリアルタイムで統合的に管理され、最新のデータに基づく意思決定やリスクの察知を迅速に行うことが可能です。
ERPにおけるもう1つの重要な機能は運用面にあります。ERPは企業の根幹となる機密情報を扱うため、障害によってデータが消失することのないようハードウェアやネットワークの冗長化を通じてデータのバックアップをします。不正アクセスがないようネットワーク監視やログ監視を行うのもERPの機能です。
MESとは?
工場における製造工程の背景には、デジタルを通じたさまざまな管理が実行されています。それがMESです。MESの基本概念とその機能について解説します。
MESの基本概念
MESはManufacturing Execution Systemの略称です。日本語では製造実行システムと呼ばれ、生産管理システムにおける製造に焦点を当てたシステムです。生産管理システムは、原材料の調達、原価管理、発注購買管理、製造管理、品質在庫管理など、生産における一連の全行程を網羅します。そのため、MESは生産管理システムの一部である製造工程を主に担います。しかしながら、MESは生産管理システムから切り離されているというのではなく、生産管理システムにおけるその他の工程と密接に連携しています。
MESにおいては、原材料の在庫状況をリアルタイムに把握しつつも製造工程におけるスケジュール管理や人材の適切なアサインし、製造の効率化を目指します。
MESの11の機能とは
MESの機能は製造対象となる製品に応じて機能が異なります。しかし、アメリカのMESA Internationalが提唱するMESの機能は次の11です。
■製造の前提
原材料などを管理する「生産資源管理」
作業工程を定義した「作業仕様書」
製造に不可欠な機器や工具などの「設備管理」
■実際の製造作業
作業者の「スケジュール管理」
「生産投入管理」
「作業者の監視」
「工程の進捗管理」
「プロセス管理」
■製品が完成した工程
「製品の品質管理」
「製品の追跡管理」
「製造の実績分析」
ERPとMESの主な違い
ERPとMESの違いを明確にするため、それぞれの目的や機能について確認しましょう。ERPとMESが双方で連携するケースについても触れていきます。
目的の違い
ERPは、異なるシステムのデータを一元管理することで業務の効率化を図り、迅速な意思決定を後押しすることが目的です。
また、セキュリティ対策やバックアップを通じてデータを保全することにより、データに関するガバナンスを強化するという目的もあります。ERPはそのデータ管理の仕方によって、会社全体としての抜本的な経営の在り方を左右します。
一方で、MESは生産管理システムの製造工程にフォーカスしており、製造における業務プロセスの可視化や効率化を目的としています。MESを使用する対象者は、製造に関わる作業者や現場監督者が中心です。
機能面での違い
ERPとMESが扱うデータの単位は異なります。一般的に、ERPは日単位から年単位でのデータが主体です。MESは製造プロセスと密接に関わるため、秒単位から日単位でのデータが主体となります。
システムとの連携という観点では、ERPは在庫管理、購買管理、会計管理、人事管理など、異なる業務システムを統合するハブとしての役割を果たします。MESは生産管理システム内での各システムと連携し、製造過程で使用する機器から情報を収集することがあります。
企業におけるそれぞれの役割
企業の業態に応じてERPとMESの双方が採用されるか、そのどちらかが採用されることがあります。業態によっては、どちらかが不要ということもあるでしょう。
ERPとMESの双方が採用されるケースでは、製造工程においてERPはMESに対する上位システムとして生産計画を作成します。
ERPが作成した生産計画に基づき、MESは製造フェーズにおけるスケジュール管理や製品の品質、製造工程の進捗状況を管理します。MESは製造が完了した製品情報をERPに送り、その後ERPはその製品情報に基づいて販売計画を作成します。
ERPとMESとの連携
製造業ではERPとMESとの連携をうまく活用することで、業務を効率化することに成功しているケースがあります。ここではその連携について深堀りしましょう。
双方の連携で広がる可能性
ERPとMESが連携することで、シナジー効果を発揮できます。モノを生産する業態においては、大きく「計画」「実行」「制御」の3つに分けられます。
計画はERPがその役割を担い、月単位や年間単位での生産計画を立てます。その情報を受け取ったMESは実行役として秒単位、日単位でのより細かな製造工程へと落とし込み、必要な原材料、調達から製造までのスケジュール設定、作業者のアサインなどを行います。ERPではできないことをMESで実行し、MESでできないことはERPで実行する、というように、双方の連携によって製造全体を最適化できるようになります。
一体化による業務効率化
上述のように、ERPとMESがシステム連携しているケースでは、データの受け渡しが自動化されるため、製造する前の生産計画から実際の製造工程までがスムーズに進み、結果として業務の効率化を図れます。
ERPとMESが別々のシステムとして独立しているケースでは、ERPからいったんデータを吐き出し、それをMESに手動入力するという工程が発生するため、データの登録ミスなどのヒューマンエラーが発生しやすくなるでしょう。
ERPとMESを連携させる際の注意点
ERPとMESとの連携はシナジー効果の発揮と業務を効率化させるメリットがある点を説明しました。しかし、この連携には解決しなければならない難しい課題もあります。
時間管理が難しい
ERPは複数の業務システムを統合し、データを一元管理するという役割を果たすため、日単位から年単位でのデータ管理が中心となります。MESは生産管理システム内の製造工程を中心にデータを管理するため、秒単位から分単位のデータの取り扱いがメインです。
このようにERPとMESは扱うデータの時間単位が異なるので、お互いのデータを突合させるのがシステム管理上、複雑になりやすい傾向があり、データ連携に矛盾が生じやすくなります。ERPとMESを連携させる際は、データの時間帯が双方で異なる点を考慮し、慎重に要件定義する必要があるでしょう。
連携エラーが起こる可能性がある
ERPとMESが異なるベンダー製品の場合はERPとMESとの情報連携がうまくいかず正しい情報のやり取りが双方でできなくなることがあります。例えば、ERPから送信した生産計画情報のデータをMESが受け取る際にデータの欠損が発生すると、MESが適切な製造スケジュールを算出できないということが発生します。
原因の例として、想定を超えたトラフィック発生によるサーバの負荷やネットワークの不具合、プログラムのアップデートによる情報連携のミスマッチなどが挙げられます。このようなことから、ERPとMESを連携する際には十分な要件定義と、受け入れテストの実施が不可欠といえるでしょう。
MES機能付きのERPも選択肢に
ERPとMESの連携には、時間管理やデータ連携の点でさまざまな問題が発生するリスクがあることが分かりました。そのような問題を解決する方法として、MESの機能が付いたERPを導入する方法があります。ERPにはあらかじめMESの機能が含まれているため、時間管理やデータ連携のために新しい機能を開発する手間を省けます。
ERPとMESの連携には高度なエンジニアリングの他、ある程度の予算と時間が必要です。製造業でERPとともに製造工程を効率化したい企業は、MESの機能が実装されているERPを導入することをおすすめします。
ERPとMESのシステム選びと導入のポイント
ERPとMESの選定は、一筋縄ではいかない難しい領域です。ここでは、システムを選定する前のアドバイスや前提条件について解説します。
効果的なシステムの選び方
ERPとMESの導入には、システムの選定、相見積もり、ベンダーとの契約、要件定義、設計、開発、テストなど、検討すべき多くのプロセスがあります。長い時間と高いコストが伴うため、1度運用を開始すると、別のシステムに乗り換えることは容易ではありません。
EPRとMESの選定には高度な知識や経験が必要となります。社内にそのような専門性を持つ人材がいない場合は、専門のコンサルティング会社へ相談するというのも1つの方法です。コンサルティング会社へ問い合わせする際は、自社と同じ業界や業種のコンサルティング経験があるのかを考慮しましょう。
導入の際の注意点
業界や業種によって、自社にマッチするシステムは異なります。システムを選定する際の最も重要な選定事項として、自社の業界や業種にふさわしいシステムであるかを検討してください。システムを提供するベンダーのWebサイトは事例を紹介していることも多いので、目を通してみることをおすすめします。
使い勝手のよさや理解のしやすさも重要な選定条件です。現場の作業担当者が日々の業務で使いこなせるインターフェースを備えているか、タブレットやスマートフォンなどのパソコン以外の端末にも対応しているのかも確認しましょう。
Dynamics 365とMESとの統合
Dynamics 365の正式名称はMicrosoft Dynamics 365 Supply Chain Managementで、Microsoftが提供するソフトウェアです。他ベンダーが提供するMESと統合することによって製造工程における機器や設備、作業員の作業進捗状況などをリアルタイムで情報連携ができます。
Dynamics 365はMESに製造オーダーをMESに受け渡し、MESはそこからより高度で詳細な製造工程におけるプロセスを管理します。MESがアップデートする各製造プロセスの情報は、自動的にDyamics 365へ連携されます。
まとめ
製造業におけるDXは、ERPやMESの導入を通じて業務の効率化や生産性の向上、経営における迅速な意思決定を後押しし、数多くの企業で実践されています。とりわけMESは製造業において大きな成果を上げている企業も出てきており、無視することのできない領域と言っても過言ではありません。業務の効率化や製造工程の可視化において課題を抱えている企業は、ERPやMESの導入を検討してみましょう。