皆さんは、「こんな商品があったら便利だな」と考えて、その商品について調べた際に、想定していたような商品が見つからなかったという経験をしたことはありますでしょうか?ごく稀にそのようなことはあるかもしれませんが、ほぼないのではないでしょうか。
そうです。この日本において「買えないモノはない」というほど、多種多様な商品にあふれており、そしてそれらの商品を手にするのに難しいステップは不要です。パソコンやスマートフォンからWebブラウザを開き、検索して、カートに入れて、支払い方法や配送先を指定して、購入ボタンを押すだけです。
インターネットが普及してECサイトが発展した現代において、「良いモノを作れば売れる」という図式はすでに成り立たなくなっています。もちろん、良いモノであることに越したことはありませんが、それは前提条件のようなもの。商品の物質的価値で差別化を図ることは難しい時代であり、それはつまり、新しい価値を生み出す必要性に迫られていると言い換えられます。
重要なのは「カスタマーエクスペリエンス(CX)」です。顧客や消費者が、商品を通じて、あるいは会社との関係性を通じて得られる「体験」こそが、現代ビジネスにおける差別化のポイントとなっています。
本稿ではこの概要を理解していただくために、カスタマーエクスペリエンスについて分かりやすく解説していきます。
カスタマーエクスペリエンスについて知り、改善策を実施することで価格競争に巻き込まれがちだった現状を打開して、事業成長に確実に貢献するようなビジネス体質へと変貌していきましょう。
カスタマーエクスペリエンスとは?
まずは、カスタマーエクスペリエンスの明確な定義として米調査会社のガートナーが提唱しているものを引用します。
「顧客の期待どおりの、または期待を超える顧客対応(顧客との交流や対話)を設計・提供することにより、顧客の満足度、ロイヤルティ、支持を向上させる取り組み」
この定義によれば、顧客や消費者は期待通りの、または期待を超える顧客対応を受けた時に満足度とロイヤリティが向上し、その商品やブランドそのものを支持したくなる心理があると明示しています。
皆さんは、商品自体の価値に着目するのではなく、「スタッフの対応が親切だった」などの理由で「またこの店舗で買い物をしよう」と思ったことはないでしょうか?人間ですから、欲しい商品が手に入るかどうかだけでなく、店舗スタッフがどのような顧客対応をしているかどうかも重視しているはずです。この心理こそが、カスタマーエクスペリエンスの設計/提供に成功した証です。
ちなみにカスタマーエクスペリエンスを形成するのは顧客対応に限らず、商品をどのように知ったか、商品をどのように買ったかなど、商品購入に至るまでのプロセスも関係してきます。認知~購入まで、商品やブランドそのものにかかわる時間すべてがカスタマーエクスペリエンスを形成する要素なのです。
カスタマーエクスペリエンスはなぜ重要なのか?
「カスタマーエクスペリエンスの概要は分かった。でも、良質な顧客対応は日ごろから心掛けていることで、今更新しく設計/提供するのはなぜなの?」と疑問符を浮かべている方もいらっしゃるでしょう。確かに、改めてカスタマーエクスペリエンスを設計/提供する理由とは何でしょうか?
1.良質な体験を生むことでリピーター獲得に貢献できる
ビジネスが成長する要素として決して欠かせないのが「リピーター」の存在です。少し特殊な例ですが、東京ディズニーランド/シーのリピーター率は98%に達すると言われており、それは唯一無二のカスタマーエクスペリエンスを提供している他ありません。
良質な体験は、「またこの店舗を利用したい」「またこの商品が欲しい」といった心理を生み出し、リピーターを獲得するのに大きく貢献します。新規顧客をバンバン獲得していくビジネススタイルにいずれ限界が訪れるのは、周知のことです。しかし大量のリピーター創出に成功すれば、ずっと楽にビジネスを成長させていけます。
2.顧客ロイヤリティが高まり口コミの波及効果が生まれる
世の中で最も宣伝交換高い広告媒体は何でしょうか?答えは「口コミ」です。人間は近しい人から得た情報というのは信頼しやすいもので、故に口コミで商品やサービスについて紹介されると、「買ってみたい」「試してみたい」という気持ちになる傾向があります。
皆さんも家族や友人から「この商品すごく良いから使ってみて」と紹介されて、実際に購入した経験はないでしょうか?口コミはリスティング広告のCVT(コンバージョン率)の比ではないほど、圧倒的な広告効果を持っています。
カスタマーエクスペリエンスを設計/提供して顧客ロイヤリティを高めることで、商品やブランドそのものに対する口コミが増えるのであればカスタマーエクスペリエンスの改善活動に取り組まない手はありません。
3.ブランド乗り換えのリスクを押さえてLTVが向上する
人間は安定を求める生物です。つまり、自分の身の回りのものをお気に入りの商品で固めることに安心感と満足感を覚えます。質の高いカスタマーエクスペリエンスを提供し、顧客ロイヤリティが高まっている商品やブランドでは、そうした心理も相まってブランド乗り換えのリスクが非常に低い傾向にあります。
それは顧客が商品を長く使い続け、ブランドと長期的に関係することを意味しているため、自然とLTV(顧客生涯価値)が高まりより多くの利益を会社にもたらすことへと繋がっていきます。
このように、カスタマーエクスペリエンスがビジネスに与える影響は非常に大きく、だからこそ現状の顧客体験を整理した上で、新しく設計し、提供し、商品やブランドを通じて顧客が得られる体験に磨きをかける必要があるのです。
カスタマーエクスペリエンスを改善するための基本
カスタマーエクスペリエンスの重要性について理解し、すぐにでも改善に取り組みたいと考えても、「一体何から取り組めばいいの?」と悩む方は多いでしょう。そこで最後に、カスタマーエクスペリエンスを改善するにあたり基本中の基本とも言える取り組みについてご紹介します。
その取り組みとは「ペルソナ(Persona)」と呼ばれるものです。これは顧客心理を理解するための手法の1つであり、Webマーケティング業界から生まれ、今では多くの業界で実践されています。
方法はまず、商品やブランドにとってターゲットとなる「顧客像」を固めていきます。ポイントは細かいところまで設定し、1人の仮想顧客を作り上げることです。年齢、性別、居住地、職業などの属性情報はもちろん、休日の過ごし方、興味があること、家族構成、日ごろ抱えている悩みなども設定します。多くの場合は、そうして作り上げた仮想顧客に名前を付けて、実在する1人の人間として扱い、そのペルソナを参考にしながらカスタマーエクスペリエンスを設計していくのです。
ペルソナを実施するにはポイントがあるので、様々な文献を参考にしながら取り組んでみていただきたいと思います。
大切なのは、まず行動することです。皆さんの商品やブランドが持つカスタマーエクスペリエンスを向上するためにも、今できることについて考えてみてください。