新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、日本のビジネスにも大きな影響を及ぼしています。特に、グローバル化が進む日本企業においては、海外子会社におけるガバナンスの再構築が急務です。日本本社の目が届きにくいなどの課題は元々あったものの、その重要性はコロナ禍でより高まっています。
しかし、どのようにガバナンスを見直すべきか分からず、頭を抱えているグローバル企業も多いでしょう。そこで本記事では、コロナ禍におけるグローバル企業のガバナンス体制について、重要性や必要なことなど幅広くお伝えします。
海外子会社のガバナンス体制の重要性
そもそも、なぜコロナ禍において海外子会社のガバナンス体制が重要となるのでしょうか。その背景には、コロナ禍による渡航制限をはじめとした世界情勢の変化が大きく関係しています。
遠隔地にある海外子会社に対して、日本本社が適切なガバナンスを取ることは、コロナ禍以前から簡単ではありませんでした。そのため多くのグローバル企業は、日本本社から主導者を海外子会社に派遣していたでしょう。
しかし、コロナ禍では諸外国への渡航制限が課されることも多くなりました。たとえ日本のコロナ感染状況が落ち着いていても、対象国の状況によっては渡航が難しくなります。それにより日本本社から人材を派遣できない、日本への帰国を余儀なくされる、などの事態も発生しやすくなったのです。
また、渡航制限は世界情勢などにより緩和・強化されることがあります。現状では問題なく渡航できたとしても、今後どのように変化するかは予測できません。そのため、日本本社から人材を派遣できないことを前提とした、ガバナンス体制の構築が急務なのです。
コロナによるガバナンス体制の変化
実際のところ、コロナウイルスによってグローバル企業のガバナンス体制には変化が生じています。多くのグローバル企業は、海外に駐在する日本人従業員の削減・引き揚げを実施しています。経営不振による人員整理や、対象国での感染拡大など理由は様々ですが、いずれもコロナ禍により引き起こされた変化でしょう。
日本人の主導者を現地に配置しづらくなったことで、直接的に指揮をとることは難しくなりました。そのため昨今のガバナンスにおいては、海外子会社とリモートで連携することが重要となっています。現地調達した主導者を海外子会社に配置し、従来の日本人主導者が国内からリモートでアシストする、といったガバナンス体制です。現地に日本人主導者を置かない管理が、今後より重要となるでしょう。
ニューノーマル時代のガバナンスに必要なこと
ニューノーマル時代に順応するために、グローバル企業のガバナンスに必要となるのは次の3つです。
- リモートでのチェック・モニタリング体制
- 情報共有の円滑化
- 経営の現地化
それぞれの詳細について、順番に解説します。
リモートでのチェック・モニタリング体制
前述の通り、日本人主導者が現地で直接的に指揮をとることは難しくなっています。今後のガバナンスには、リモートでのチェック・モニタリング体制が欠かせません。まず、ネットワークを介してやり取りが行えるITシステムの導入が必要不可欠です。ITシステムの導入前には目的や運用ルールを明確にし、現地の従業員にも周知しましょう。
それに加えて、日本人主導者がチェック・モニタリングするためのルール作りも必要です。具体的には、実施タイミングやチェック対象項目、問題があった場合の対応などを明確にする必要があります。リモートの場合は日本人主導者の目で直接確認ができない分、現地主導者に対する十分な事前指導を行うことが大切です。
情報共有の円滑化
現地主導者がリモートのやり取りだけで全ての情報を日本本社へ伝えることは、当然ながら不可能です。また、リモート会議には準備を含めて多くの時間がかかるため、頻繁には実施できません。よって、幅広い業務情報を海外子会社・日本本社間でリアルタイムに共有できるシステムの構築が求められます。
日本人主導者が国内にいながら現地の情報を参照できれば、現地主導者の負担も大幅に減らせるでしょう。ただし、セキュリティ性や拡張性を兼ね備えるシステムをオンプレミスで構築するためには、多大なコストがかかります。こうしたシステムを容易に実現できる、クラウド型のITシステムが必要不可欠です。
経営の現地化
日本人主導者が現地にいなくてもガバナンスを保つためには、経営の現地化も欠かせません。具体的には、主導者を含めて優秀な人材を現地調達し、現地だけで大部分の経営が行えるように育成する必要があります。現地主導者には経営の意思決定権を与えるとともに、日本本社との連携手段なども周知します。
こうした体制の立ち上げ時には、ある程度日本本社が主導していくことになるでしょう。ポイントとなるのは、日本本社がどれだけ現地のガバナンスに介入するか、そのバランスです。日本本社が過剰に介入すると、現地ならではの事情を考慮しないガバナンス体制になってしまいます。かといって現地に任せすぎるのも、日本本社との連携が取れなくなるでしょう。
リモート可能な体制の整備は長期的な利益をもたらす
コロナウイルスは、今後も世界で感染拡大を繰り返すことが予想されます。また、コロナウイルス以外の新たな脅威が生じることも、あり得ないとは言い切れません。よって、グローバル企業におけるガバナンスのリモート化は、その場しのぎで終わらない対応が求められます。
また、リモート可能なガバナンス体制を整備することは、長期的に見て企業に利益をもたらすでしょう。グローバル企業に関わらず、クラウド上で必要な業務データを活用できる仕組みがあれば、リモートワークが容易となります。リモートワークは「働き方改革」の重要なテーマでもあります。
リモートワークを取り入れれば、日本本社だけでなく海外子会社にもメリットが大きいでしょう。通勤による従業員の負担軽減や、業務効率化が期待できます。直接的なやり取りを前提とした従来のガバナンスでは、予測できない脅威に対応できません。グローバル企業には、長期的な視点での体制整備が求められます。
まとめ
今回は、コロナ禍におけるグローバル企業のガバナンス体制について、重要性や必要なことなど幅広くお伝えしました。
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大によって、グローバル企業には様々な影響が及んでいます。特に大きな影響は、渡航制限によって日本本社からの人材派遣が難しくなっていることです。現地に日本人主導者を置くことが難しいため、現地と日本本社がリモートで連携することが重要となります。
しかしリモートのやり取りだけでは、十分なガバナンスを取ることはできません。業務データのクラウド化によるグローバルな情報共有や、現地の人材育成による経営の現地化も必要です。これらの実現は簡単ではないものの、ニューノーマル時代の予測できない変化に対応するためには欠かせません。
また、グローバル化に対応できるガバナンス体制を構築することは、リモートワークの促進による業務効率化などのメリットも期待できます。グローバル企業の経営者には、広い視野でのガバナンス体制の見直しが求められます。