昨今、企業と顧客の関係をより密接にするための取り組みのひとつとして、注目されているマーケティング手法が「オムニチャネル」です。オムニチャネルの概要をはじめ、重要視されている背景、「マルチチャネル」や「クロスチャネル」「O2O」など、一見よく似た用語との違いについて解説します。また、オムニチャネル化から得られるメリットや、成功するために欠かせない基本的なプロセス、他社の成功事例も紹介しているので、参考にしてみてください。
オムニチャネルとは?
近年、デジタル技術の進歩や消費者の価値観が変化し、企業による顧客との関わり方が大きく変化しています。代表的なものが、「オムニチャネル」と呼ばれる方法です。では、オムニチャネルの基本となる概要から解説しましょう。
オムニチャネルの意味
オムニチャネルとは、顧客が企業から提供された、販売チャネルやタッチポイントを意識することなく、商品やサービスを購入・利用できる状態を指します。従来、企業の販売経路は実店舗などの限られたチャネルが主流でしたが、現在は数多くのチャネルが用意されるようになりました。
例えば、自社サイトやECサイトなどのWebサイト、SNS、スマートフォンアプリなどは、インターネットの普及によって、急速に広がってきたチャネルです。イベントやポスター、カタログなども、顧客との接点として扱えるでしょう。コールセンターも、顧客と直接コミュニケーションを取れるチャネルです。オムニチャネル化を進めれば、顧客にとっては利便性が向上し、企業にとっても販売機会が増えるきっかけになります。
オムニチャネルの重要性
企業と顧客との接点が多様化する中、顧客一人ひとりのニーズを満たすため、チャネルを横断した総合的なアプローチが注目され、オムニチャネル化を進める企業が増えています。
そもそもチャネルが多様化し、オムニチャネルが急速に拡大してきた背景には、インターネットやスマートフォンなどのデバイスの普及が大きく関わっていると考えられます。かつて消費者は、企業が用意したチラシや看板を見て、直接店舗に足を運んでいました。しかし現在は、スマートフォンなどから、インターネット上に散らばっている広告を見たり、日々新しい情報が投稿される膨大な口コミを読んだりすることによる、商品を認知した購買行動が主流です。
消費者は企業が発信する情報よりも、実際に購入した顧客の声をより重視する傾向にあり、消費行動のプロセスは大きく変化しています。
オムニチャネルと似た用語との違い
企業と顧客をつなぐ複数のチャネルをシームレスに連携する意味を持つオムニチャネルには、他にもよく似た言葉があり、混同しがちです。ここでは、「マルチチャネル」「クロスチャネル」「O2O」との違いについて解説します。
マルチチャネルとの違い
マルチチャネルとは、企業が顧客に販売する機会を増やすために、さまざまなチャネルを用意することです。顧客にとっては、単一のチャネルよりも購入・利用しやすくなります。
ただ、それぞれのチャネルは独立して機能している点が特徴であり、情報が紐付けられていません。そのため、顧客が異なるチャネルで行動を起こした際、企業はその異なるチャネルでの行動履歴がわからないため、同じ内容を繰り返し尋ねる必要があるなど、双方に手間が発生する点に注意が必要です。
一方、オムニチャネルでは、複数のチャネルの統合によりデータを一元化させ、全体的な売上の向上を目指せるメリットがあります。顧客にとってもチャネル間の壁を感じることなく、より利便性を感じられるでしょう。
クロスチャネルとの違い
クロスチャネルとは、マルチチャネルが発展した形であり、各チャネルの持つデータを連携させることです。例えば、販売店舗ごとに管理している商品の在庫データがある場合、それらが完全に独立していると、在庫が切れた際に他店舗から取り寄せられず、貴重な販売機会を逃しかねません。最近では、ECサイトで購入した商品を実店舗で受け取れる仕組みを導入した企業も増えています。このように、分散した各データをシステム上で統合させる仕組みが、クロスチャネルです。
さらに、クロスチャネルがより発展したものがオムニチャネルであり、顧客ごとに付与したIDをもとに、すべてのチャネルを密接に連携させて、総合的なアプローチを実現できます。その結果、よりパーソナライズしたサービスを提供するなど、より質の高い顧客体験の提供が可能になるでしょう。
O2Oとの違い
O2Oとは、「Online to Offline」の略称で、インターネット上のWebサイトなどのオンラインから、オフラインである実店舗へ顧客を誘導する仕組みや施策のことです。インターネットを活用して実店舗の顧客を増やし、テコ入れを実施したい場合に、この手法がよく使われます。例えば、Webサイト上において、実店舗のみで使える割引クーポンを発行するなど、来店の催促もO2Oを活用した施策のひとつです。しかし、この手法はあくまでも、短期的な来店者数の増加や売上の向上は見込めるものの、リピーターを獲得するにはハードルが高くなります。
一方、オムニチャネルでは、オンラインやオフラインを意識することなく、総合的な顧客獲得を目指すため、根本的に異なる概念です。
オムニチャネル化するメリット
オムニチャネル化は、企業側と消費者側の双方にとって、さまざまなメリットが生まれます。まず、消費者側にとっては、複数のチャネルにおいて、ストレスなく商品やサービスを購入・利用できる点が挙げられるでしょう。消費者の利便性が上がることは、つまり企業にとっても、顧客体験価値(CX)の向上を意味します。消費者からの信頼が厚くなれば、リピーター獲得や収益アップも期待できます。
また、顧客の属性や購買履歴など、さまざまなデータの包括的な収集・マーケティング分析が可能なため、より効果的な施策につなげやすくなる点も大きなメリットです。
さらに、購入に前向きな見込み顧客のデータを各チャネルから集め、離脱される前にクーポン情報を流すなど、販売機会を失わないための攻めるアクションも重要なポイントになります。
オムニチャネル戦略を進める手順
オムニチャネル化は、全社で取り組まなければならない、大きなプロジェクトです。そのため、課題を洗い出し、いつまでにどう進めていくのか、全体的な流れを可視化した上で「ロードマップの策定」を始めましょう。
次に、「カスタマージャーニーマップ」を作成し、顧客の感情と行動について時系列に可視化します。その結果、顧客体験価値を高めるべき接点が見えてきます。
ビジョンややるべきことが明確になれば、すべてのチャネルで認識を統一しましょう。社内の各部署が、管理・運用しているシステムなどをまとめて、必要な機能を統合することも必要です。
一旦、これら一連の流れが完了してもPDCAを回せば、今後もよりよい顧客体験を継続しつつ提供できるようになります。
オムニチャネルの事例
オムニチャネル化は、今こそさまざまな企業で実践され、成功を収めている事例も多く見られるようになりました。例えば、生鮮食品を扱う店舗では、売り場に二次コードのPOPを設置し、それを自社アプリで読み取ることで、その食材を使ったおすすめのレシピを入手できるように工夫しています。
また、売り場に配備されたタブレットを使ってECサイトを検索し、欲しい商品が店舗に置いていない場合でも、レジで代金を支払えば、自宅へ配送してもらえるサービスも人気です。顧客はわざわざ献立を考えたり、商品の受け取りのために再来店したりすることが不要になるため、利便性が大幅に向上しました。
これらは、オムニチャネル化によって、自社アプリやデバイスの連携から、顧客が面倒だと感じるウイークポイントを上手くカバーしている、よい事例でしょう。
まとめ
オムニチャネルは、インターネットや通信デバイスの普及によって急速に広まり、導入する企業が続々と増えています。ただ、実際に取り組む際には、マイクロソフト社が提供する、ビジネスアプリケーションツール「Microsoft Dynamics 365 Customer Service」での運用がおすすめです。効率のよいチャネル管理で、顧客からの印象もアップするでしょう。顧客への総合的なアプローチを行い、満足度向上を図りたい場合に活用してみてください。