ドイツ政府主導のもと「インダストリー4.0」が提唱され、製造業に変革のときが訪れています。現代の製造現場において最も注目を集めているのが「IoT」です。製造業を営むさまざまな企業がIoTを導入し、生産性の最大化を実現しています。そこで今回は、製造業にIoTを導入することで得られるメリットについて詳しく解説します。
製造業にIoTを導入するメリット
「IoT」とは「Internet of Things」の頭文字をとった略称で、日本語では「モノのインターネット」と訳されます。IoTは、センサー機器や駆動装置といったモノに情報通信機能を搭載し、インターネットと接続・連携させる技術です。
製造業にIoTを導入した場合、工場内のあらゆる生産設備がインターネットに接続され、機器の稼働管理や故障感知などが自動化されます。このようなIoT技術を導入している工場を「スマート工場」と呼びます。工場をスマート化することで得られるメリットは「故障の検知・防止」「社員育成」「コスト削減」の3つです。まずは、これら3つのIoT導入メリットについて解説します。
故障の検知・防止
IoTにより、工場の生産設備をインターネットに接続することで、故障の検知と防止が可能です。スマートファクトリーでは、IoTによって工場内のあらゆる機器をインターネットとつないで一元管理します。機器からリアルタイムに稼働データを収集できるため、故障や異常箇所の検出を自動管理できるのです。
製造業において、生産設備の管理は非常に重要な課題です。機器の故障は製造スケジュールの遅れやコスト増加を招くため、製造現場では徹底した機器管理が求められます。しかし、どれだけ管理を徹底していても、機器の故障はいずれ必ず起こります。そのため、機器稼働状況のチェックや、故障に備えて代替機器を用意するといった対策が必要です。IoTを導入することで故障検知が自動管理されるため、人的リソースや修理期間のタイムロス軽減につながります。
社員育成に役立つ
優秀な人材の確保は、あらゆる業種において重要な課題のひとつです。とくに製造業は現在、多くの企業が人手不足という課題を抱えています。2020年5月に経済産業省が発行した「2020年版ものづくり白書」によると、製造業を営む企業の多くが、「人手不足」が経営課題であると回答しています。具体的には中小企業が42.2%、大企業が41.9%となっており、いかに製造業において人手不足が深刻な問題かが見て取れるでしょう。
また製造業では、若年層の入職者数が減少傾向にあり、就業者の高齢化が進んでいるのも大きな問題です。そもそも製造業は高度な技術が求められる仕事であるため、人材育成が急務となっています。
IoTは、あらゆる業務データを可視化することで、社員育成に貢献します。たとえば、従来は可視化が困難であった、ベテランのもつ暗黙知を形式知へと変換可能です。つまり「職人の技術(暗黙知)」を「マニュアル化(形式知)」することで業務プロセスが可視化され、組織全体で共有できるのです。IoTによる遠隔操作トレーニングも可能となるため、社員一人ひとりのスキルアップにつながるでしょう。
コスト削減
IoTの活用は、さまざまなコスト削減に貢献します。たとえば、製品の品質検査に画像認識技術を取り入れることで、自動化が可能です。製造業において製品の品質は、企業のブランドイメージを左右する重要な要素です。したがって、品質管理マニュアルの作成や検査員の教育管理、不良品に関する報告書作成、再発防止策の立案など、徹底した品質管理業務が欠かせません。
IoTを導入することで品質検査の精度が向上し、不良品の事前検知が可能になります。これにより、不良品の回収・再生産コストや管理業務コストの削減につながるでしょう。
製造業にIoTを導入する際のポイント
IoTは、製造業の在り方を大きく変えるソリューションです。しかし、導入の際にはいくつか注意点があります。ここでは、製造業にIoTを導入する際のポイントについて見ていきましょう。
IoTで解決すべき課題を事前に整理
IoTを導入する前に、企業の経営課題を明確にする必要があります。なぜなら、IoTの導入には莫大な設備投資が必要になるためです。企業や工場の規模によって必要なコストは異なりますが、いずれにしてもIoT導入は低予算で実現できるものではありません。
IoTは、センサー機器や駆動装置といった生産設備とインターネットをつなぎ、あらゆる情報を一元管理するシステムです。しかし、古い生産設備や機器は、IoTを利用した情報管理を前提として作られてはいません。そのため、現在使用している機器やプロトコルをすべて最新設備に入れ替えなければならない可能性もあります。
このような背景から、資金力のない中小企業ではIoTの重要性を理解しながらも、導入できないという事例も少なくありません。よって、事前に解決したい経営課題を整理し、最も費用対効果の高いソリューションを選択する必要があります。
現場の担当者が適切に利用できる仕組みを構築
IoTのような産業技術は、適切に利用してこそ価値を生みます。IoTを導入したとしても、高度な技術を組織全体で共有できなければ、業務効率化は実現できません。
製造業は就業者の高齢化もあり、デジタルソリューションに対して苦手意識をもつ人材が多い傾向にあります。しかし、IoTを適切に活用できれば業務プロセスが可視化され、業務の属人化防止につながります。従業員一人ひとりのスキル差が小さくなるため、デジタルソリューションに対して苦手意識をもつ人材ほど、大きな恩恵を得られるでしょう。
IoTを最大限活用するためには、社内セミナーや専用マニュアルの配備などを行い、従業員の知識レベルの向上が欠かせません。
製造業のIoT導入事例
IT技術の発展とともに、ビジネスを取り巻く環境は日々進歩しています。製造業が大きく発展するためには、IoTの導入が必須です。ここからは、実際にIoTを導入して高い成果を生み出した企業の事例についてご紹介します。
事例1: 株式会社IHI
総合重工業メーカーの「株式会社IHI」は、顧客が要求する製品を適切なタイミングと価格で提供するために、さまざまな改善活動に取り組んでいました。IoT導入の目的は、作業の効率化と工数の削減・負担軽減です。
たとえば、センサーの小型化とネットワーク化を取り入れ、人口知能によって情報解析することで、より細かく多様な情報の取得を可能にしました。また、作業員の意図に応じて機器がサポートしてくれるため、工数の削減と業務負担の軽減につながります。同社は、人と機械が協働することで、労働生産性の最大化を実現した事例といえるでしょう。
事例2: 三菱自動車株式会社
自動車メーカーの「三菱自動車株式会社」は、かねてから労働力不足という課題を抱えていました。自動車産業は右肩上がりで成長している業界でありながら、生産年齢人口が減少傾向にあります。そのような状況を打破するために、業務プロセスの改善が急務となったのです。
そこで、業務効率向上と生産性の最大化を実現すべく、IoTの導入に踏み切りました。具体的に取り組んだ課題は、生産稼働の「見える化」です。生産機器やロボットといった設備から情報を収集し、稼働状況をリアルタイムに把握することで、止まらない生産ラインを構築しました。また、さらなる作業効率化に向け、音声認識や画像での情報伝達なども取り入れています。IoTの導入で「見える化」「つながる化」「リアルタイム化」を実現した、製造業における理想的な事例といえます。
まとめ
IT革命で大きな変革を遂げた製造業の、さらなる飛躍につながるのがインダストリー4.0であり、IoTの導入です。今後、少子高齢化と人口減少によって、あらゆる産業が人手不足に陥ると予測されます。製造業がさらなる発展を実現するには、IoTソリューションを導入し、自社にしか提供できない付加価値を生み出す必要があるでしょう。