新型コロナウィルス(COVID-19)によるパンデミックは世界的な猛威をふるい、各国に多大なダメージを与えました。
経済の回復には時間がかかりそうですが「従来の世界には戻れない」と覚悟を決め、新しい企業経営を標榜する経営者がいます。また、外出自粛からリモートワークを導入して働き方を考える契機になった企業も多いことでしょう。
ここでは、まずパンデミックの歴史を振り返り、新型コロナウイルスがもたらした世界の変化を整理し、これからを予測します。その整理と予測を踏まえた上で、デジタルリスクを未然に防ぐソリューションを展開する株式会社エルテスの知見から、アフターコロナの世界におけるデジタルリスク管理の実践方法を考察します。
歴史から学ぶ、パンデミックとその後の世界
まず人類の歴史を振り返り、パンデミック発生後の変化を整理します。パンデミック後には、さまざまなパラダイムシフト(概念や価値観などの革新的変化)が起こりました。歴史の変遷にしたがって概要をまとめます。
14世紀の「ペスト(黒死病)」後は、近代資本主義への移行が加速
アルベール・カミュの小説名としてもよく知られたペストによる14世紀の死者数は推計5,000万人。深刻な労働力の不足と農奴制の実質的な崩壊をもたらしました(数値は、厚生労働省検疫所のファクトシート)。ペストのパンデミックによって近代資本主義の移行が加速しました。また、ニュートンはこの期間の前後に万有引力の法則の発見など主要な業績を残し、この時期は「創造的休暇」と呼ばれています。
17~18世紀の「天然痘」後は、アメリカ大陸の征服を実現
天然痘自体は紀元前から存在していましたが、コロンブスの上陸以降、ヨーロッパからアメリカ大陸に運ばれた天然痘は、免疫を持たないアステカ帝国やインカ帝国の人口を激減させました。このパンデミック後に、アメリカ大陸の征服が実現しました。その後、天然痘は1980年代にWHOが世界根絶宣言を発表、人類が根絶した唯一の感染症になっています。
19世紀の「コレラ」後は、公衆衛生の確立
コレラは19世紀にインドのガンジス川河口流域からパンデミックを引き起こしました。この背景には、産業革命によって蒸気機関車や蒸気船など交通機関が進歩したこと、インドの植民地化があります。コレラ防止を徹底した結果、先進国を中心に上下水道のインフラが整備され、近代的な公衆衛生が確立しました。
20世紀の「新型インフルエンザ」「HIV」後は、バイオテクノロジーが発展
20世紀の代表的なパンデミックには、新型インフルエンザとして1918年のスペイン風邪、1981年のHIV(後天性免疫不全症候群)つまりエイズがあります。人類はこの試練に果敢に挑み、ワクチンの研究開発、遺伝子の解析などバイオテクノロジーがめざましく発展しました。
アフターコロナの世界はどのように変化するのか
それでは、21世紀にアフターコロナの世界はどのように変化するのでしょうか。社会、政治と経済、働き方とテクノロジーの3つの視点から現状とこれからを考察します。
社会の側面: ソーシャルディスタンスによる変化、医療分野における重要性の高まり
世界の主要都市でロックダウンが行われ、ソーシャルディスタンスの徹底、外出自粛が要請されました。医療従事者の需要が高まる一方、地域によっては医療崩壊が起きています。デモが暴動や略奪に発展して、社会不安が増加した国家もあります。
インターネット上のSNSなどソーシャルメディアでは、暴力を助長する投稿、過剰な誹謗中傷などが問題になっています。今後は企業や個人の行動の監視が強化され、従業員によるプライベートな行動に企業責任を求められることが予想されます。
一方、日本におけるICT教育の遅れが浮き彫りになりました。MOOCs(Massive Open Online course)のようなオンラインの動画による学習が加速し、学校教育はもちろん社会人教育の分野で成長が期待されます。
政治と経済の側面:国交断絶、インバウンド需要の減少など経済の後退
政治ではパンデミックを抑えるための国交断絶だけでなく、国家間の対立から緊迫状態が続いています。経済に対しても深刻な影響を与え、国内から海外へのアウトバウンド、海外から国内へのインバウンドが抑制、日本では東京2020オリンピックの延期もあって景気が大幅に後退しています。圧迫された財政を立て直すために、増税が行われる可能性があります。
マイナンバー制度とシステムが連携せずに、結局、行政の大半では特別定額給付金の申請を郵送で行うことになりました。インターネットによる行政のシステム化、官民のシステム同期に早急な対策が求められるでしょう。
働き方とテクノロジーの側面: 加速するDXと支援サービスの需要の高まり
リモートワークを支援するツールとしてZOOMが活用され、遠隔の協働を実現するプラットフォームに注目が集まっています。
先端技術に対する意識の高まりからデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速、対応可能な企業と対応できない企業で働き方が分化し、格差が生まれるかもしれません。あらゆるデバイスや環境を選ばずに業務を遂行できるDaaSのようなシステムは、今後検討すべき環境になるでしょう。
ビフォーコロナでは緊急ではなかった働き方改革が重要かつ緊急の位置づけに変わり、十分な検証や教育が行われないまま、未知のテクノロジーを導入する場合が考えられます。したがってBCP(事業継続計画)の観点から、先端技術の導入支援、業務を継続できるシステム、セキュアな環境のニーズが高まると予想されます。
アフターコロナのデジタルリスク管理
アフターコロナの世界では、停滞していたデジタルシフトの潜在需要が明らかになり、導入が加速する反面、デジタルリスクが高まると考えられます。アフターコロナのデジタルリスク管理は、次のようなステップで行います。
デジタルリスク管理は3つのステップで実施
従来の統計的かつ経験に基づく知恵が通用しない不確実性の高い時代では、現場の最新の情報を収集および評価からリスク対策を始めることが重要です。
デジタルリスク管理は、「リスクアセスメント(リスク評価)」「リスクマッピング(リスク分類)」「リスクコントロール(リスク抑制)」といった3つのステップで行います。概要を示します。
リスクアセスメント
自社と自社を取り巻く環境で発生し得るリスクを可能な限りリストアップし、推定損失、発生する確率を推定します。
リスクマッピング
リスクが発生したときの推定損失の大小を縦軸、リスクの発生する確率を横軸に、4象限のマトリックスを作成します。そして、リスクアセスメントで抽出したリスクをプロット(配置)します。
リスクコントロール
マッピングされたリスクは、回避(損失大:確率大)、移転(損失大:確率小)、低減(損失小:確率大)、保有(損失小:確率小)に分類できます。回避のリスクは移転か低減にシフトさせる取り組みが必要であり、移転と低減のリスクは保有にシフトさせる取り組みが必要です。このようにして対応を検討します。
アフターコロナのデジタルリスク管理で、チェックしておくべきポイント
新型コロナウイルスによって、企業のデジタルリスクも変容します。というのは働き方の見直しによって、必要なデジタルツールが変わることがあるからです。このような状況では「業務とリスク」「システム」「社内教育」を見直すことが必要です。
最低必須項目をリストアップしました。
業務とリスクの見直し
- 従業員の利用するプラットフォームのデジタルリスクが評価されているか。
システムの見直し
- 業務フローの一部だけデジタル化されていないか。
- 従業員の活動をモニタリングできているか。
- リモートワークのためのコミュニケーションツールは整備されているか。
社内教育の見直し
- 最新のデジタルツールの利用方法、デジタルリスクに関連する教育研修が十分か。
まとめ
新型コロナウイルスが終息しても、以前のようなポテンシャルを発揮することが難しい場合があるかもしれません。しかし人類の歴史を振り返ると、大きなパンデミックの後にパラダイムシフトがありました。
変革には必ずリスクが生じます。デジタルリスクを過剰に恐れず正しく認識して、リスクを未然に防ぐことが、アフターコロナという変化の時代に攻めのビジネス展開をする盤石な経営基盤になります。
参考資料:
アフターコロナのデジタルリスクマネジメント(株式会社エルテス)