世情や多様なライフスタイルに合わせ、働き方にも柔軟な変化が求められている近年、「在宅勤務」という言葉を耳にする機会が多くなりました。ニーズが高まる在宅勤務制度の導入を検討している企業へ向けて、在宅勤務の概要やメリット・デメリットについて詳しく解説します。
新しい勤務形態「在宅勤務」とは?
「在宅勤務」とはその名の通り、オフィスへ出勤せず、インターネットや電話、FAX等を用いて自宅で仕事をする働き方です。
育児や介護などによるライフスタイルの変化があった場合や、台風や地震、大雪といった自然災害等によりオフィスへの通勤が困難になった場合でも、在宅勤務制度を活用すれば継続勤務が可能になります。近年はICT(情報通信技術)の発達にともない、制度を導入する企業が増えています。
在宅勤務、テレワーク、リモートワークの違いとは?
そもそも「テレワーク」とは、ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方の総称です。テレワークは一般社団法人日本テレワーク協会によって、働く場所ごとに大きく3つに分けて定義されています。
- 在宅勤務(自宅利用型テレワーク)
- サテライトオフィス勤務(施設利用型テレワーク)
- モバイルワーク(移動中や顧客先での勤務)
つまり在宅勤務はテレワークの一種ということになります。
なお、「リモートワーク」はオフィスから離れた働き方全般を指す言葉であり、テレワークと同じ意味で使われます。テレワークのように明確な定義はありませんが、在宅勤務もリモートワークのひとつと考えられるでしょう。
在宅勤務が注目されている背景
テレワークが日本に初めて導入されたのは、NEC(日本電気株式会社)がサテライトオフィスを設置した1984年だとされています。以来、「オフィス以外で勤務する」という発想は少しずつ広がりを見せてきましたが、近年特に在宅勤務が注目されている理由はどこにあるのでしょうか。
まず考えられるのは、インターネットや通信デバイスの普及です。ICT(情報通信技術)の発達により、パソコンやスマートフォンなどの通信機器さえあれば、遠隔でも手軽に情報をやり取りできるようになりました。チャットやファイル共有のためのツールも充実し、情報を受け渡しするためにオフィスで対面する必要性は低下しています。
次に、オフィスでしか仕事ができないことへの危機意識が高まった点が挙げられます。自然災害の影響で交通手段がストップした場合や、新型コロナウイルスなどの感染防止策で人同士の接触が禁じられた場合にも、オフィスで勤務する選択肢しかなければ、その時点で会社の業務はすべて停止してしまいます。平時から在宅勤務の制度を設けておくことで、緊急時に業績へ影響を及ぼさないためのリスクヘッジができるという考え方です。
さらに、厚生労働省が働き方改革を推進する中で、ワークライフバランスの重要性が広く認知されてきた点も影響しています。たとえば在宅勤務制度で通勤にかかる時間をなくすことにより、従業員の負担を肉体的にも精神的にも軽減することができます。育児や介護、配偶者の転勤といったライフスタイルの変化があっても、働き方の選択肢が広がるため仕事を続けやすくなるはずです。
こうした社会的ニーズの高まりによって、在宅勤務制度はより一層注目されるようになりました。
企業において在宅勤務制度を導入するメリット
ここからはもう少し具体的に、企業が在宅勤務制度を導入するメリットについて考えてみましょう。
生産性の向上
在宅勤務なら、それまで通勤に充てていた時間を趣味や資格の取得など別の有意義なことに使えます。精神的にゆとりが生まれ、業務意欲の向上にもつながるでしょう。
内閣府が公表している「平成30年度 年次経済財政報告」内の分析によると、テレワークに関する取り組みを積極的に行った企業は、そうでない企業と比較して、労働生産性の伸び率が年平均3~4%ほど高くなると示唆されています。また、テレワーク等を積極的に取り入れている企業の6割以上が労働時間の減少に成功したと回答しています。
これらのデータから、働き方の見直しが業務効率を上げ、生産性の向上に寄与すると考えられます。
オフィス賃貸費・通勤費の削減
従業員全員がオフィスで勤務する場合、それぞれの作業スペースを確保するためにはそれなりの広さが必要になります。通勤しやすい立地にも考慮する必要があるでしょう。従業員数に応じて、オフィスの賃貸費や設備費などの固定費が発生します。従業員の通勤にかかる費用も見逃せません。
在宅勤務制度を導入した場合、全従業員分のデスクを確保する必要はなくなるため、その分オフィスを縮小することができます。通勤費の総額も抑えられ、コスト面で大きなメリットを享受できるのです。
優秀な人材の確保
少子高齢化による労働人口の減少が危惧される昨今、優秀な人材の確保はあらゆる企業が注力すべきポイントです。その中で、在宅勤務制度が整っている企業は、能力のある人材をそのライフスタイルや居住地にかかわらず採用できる大きなアドバンテージを持っています。
出産・育児、介護など、ライフスタイルの変化によって通勤が難しくなり職場を離れざるを得なくなった優秀な従業員に、場所を変えて働き続けるための選択肢を示すことも可能です。
在宅勤務制度の導入は優れた人材の獲得や流出防止に大きく貢献してくれるでしょう。
業務に注力
オフィス環境では同僚らと対面でやり取りできる一方、集中して作業したいタイミングで声をかけられたり、急な来客で作業を中断せざるを得なかったりする場面があります。在宅勤務ではこうした「従業員の業務を妨げる外的要因」が少なくなるため、集中力が上がり業務に注力できるというメリットを得られます。
在宅勤務制度のデメリット
多くのメリットがある在宅勤務制度ですが、導入するためにはいくつかのデメリットについても考えなくてはなりません。ここからは、注意したいポイントについて詳しく解説します。
労働時間の管理が困難
在宅勤務をする従業員の中には、育児などで通常の業務時間内に業務を行えず、夜間などにその埋め合わせをすることもあるかもしれません。従業員がいつ働いているかが管理者から見えにくいため、適正な労働時間の把握・管理が困難になる恐れがあります。
セキュリティリスク
オフィス外へ仕事を持ち出すにあたって、その中にどうしても業務上の機密情報が含まれる場合もあるでしょう。情報の保管場所が分散すれば、その分漏洩のリスクは高くなってしまいます。使用するパソコンや通信回線のセキュリティ対策を徹底するのはもちろん、従業員一人ひとりの情報保護意識を高めるために、ガイドラインを作ったり、セキュリティ研修を行うなどの工夫が必要です。
人事評価
在宅勤務では、上司は部下が働いている姿を直接確認できません。そのため、オフィスで対面している状態と比較して、勤務態度や仕事の進め方についての評価は難しくなりがちです。どのようなポイントで人事評価を行うのか、新たに基準を設ける必要が出てくる可能性があります。
コミュニケーションの希薄化
オフィスで直接会話をする機会が減ると、お互いの意思疎通が困難になり、孤独感にさいなまれるメンバーが出てくる恐れがあります。チームや組織の一員である帰属意識が薄れる、出勤しているメンバーとの間に情報の格差が生まれるといった懸念も高まるでしょう。
企業側は、従業員間の積極的なコミュニケーションを促すためのシステムを構築しなければなりません。
在宅勤務を導入する際に気をつけるべき事とは
在宅勤務制度の特徴を理解した上で、実際に企業にはなにができるのか、どういった点に気を付けるべきなのかを考えてみましょう。
評価方法の見直し
働きぶりの見えやすさの違いから、在宅勤務とそうでない社員の間に人事評価の格差が生まれやすい点を考慮するべきです。どの勤務形態でも業績を正しく評価できるよう、評価方法を見直し、新たな基準を設けるのがよいでしょう。
勤怠管理の徹底
いつ、誰がどのくらい働いたのかが不透明では、思わぬ長時間労働や、反対に労働時間が規定に足りていないなどの問題に気がつきにくくなります。これでは企業側にも従業員側にも不利益となるでしょう。
適切な労務管理を行うために、始業・終業の時刻や勤務内容を日々報告・管理するためのシステムを導入するのがひとつの方法です。勤怠管理を徹底することで、企業側、従業員側それぞれが安心感を持って業務に取り組むことができます。
社内外の情報共有
従業員間のコミュニケーション不足によるトラブルを防止するためには、オンライン上で円滑にやり取りするためのツールが欠かせません。在宅勤務もそうでないメンバーも等しく利用できるチャットやメール、ファイル共有、Web会議などのシステムをあわせて導入しましょう。
まとめ
在宅勤務は、生産性の向上やオフィス経費の削減など、従業員だけでなく企業側にも多くのメリットがある制度です。就職先を選ぶ条件として、在宅勤務制度の有無を重視している求職者も増えています。コミュニケーション機会が減るなどのデメリットはオンラインツールの活用でカバーするなど、自社にあった運用方法を検討してみましょう。