クラウド導入において、クラウド環境の適切な設計はシステムの運用効率を大いに改善します。しかし、現場においては思うようにいかないことのほうが多いかもしれません。
本記事では、クラウド設計時に利用できるチェックリストであるWell-Architected Frameworkの概要や利用上の注意点について詳しく解説します。
Well-Architected Frameworkはなぜ注目されている?
新しいクラウドを構築する際や既存のシステムをクラウドに移行する際は、安全性や信頼性、効率性をどう担保するかが重要な課題になります。Well-Architected Frameworkを利用すると、最適なクラウド設計を確認することができ、適切な運用ができるようになります。
ここでは、Well-Architected Frameworkが注目される理由をさらに詳しく2点に分けて解説します。
設計原則
Well-Architected Frameworkにおいては、以下のように一貫した設計原則があります。
アーキテクチャの進化を踏まえている
仕様は常に変化し、進化するものであり、新たなサービスやツールを利用する際は構成も併せて進化できるようにしています。
意思決定にはデータを活用
最適な意思決定ができるように、収集したデータを使用します。
ビジネスチーム内での教育や有効化
組織内の構成や決定、ベストプラクティスを文書化して共有することで、組織内の各ユーザーに対して適切な意思決定の教育を行います。
自動化
自動化によって運用コストを削減し、人為的エラーも削減することで業務の俗人化を防ぎ、環境の一貫性を確保します。
ベストプラクティス
Well-Architected Frameworkは、クラウドサービス提供者のベストプラクティスから作られており、クラウド設計に関して非常に実践的な内容で構成されています。
アーキテクチャの設計においては、「こうすれば必ずうまくいく」といったやり方があるわけではありません。ただしアーキテクチャやテクノロジー、クラウドプロバイダーなどを問わず、基本的に当てはまる普遍的な考え方はあります。
Well-Architected Frameworkはクラウド設計の普遍的な考え方をポイントごとに整理しているため、安全で柔軟なアプリケーションの構築に役立ちます。
Well-Architected Frameworkは包括的な概念ではありませんが、ポイントごとに整理して構成されているため、それらに注目することで高レベルのソリューションを構築できます。
Well-Architected Frameworkを構成する5本柱
Well-Architected Frameworkには、基本的な柱が存在します。多くのクラウドプロバイダーは、「コスト最適化」「運用上の優秀性」「パフォーマンス効率」「信用性」「セキュリティ」の5本の柱で構成されています。
ここからは、Well-Architected Frameworkにとって重要な5本の柱について解説します。
コスト最適化
コスト最適化とは、費用対効果が最大になるようにシステムを利用することです。
適切なアーキテクチャ設計と運用を行うことでコスト最適化が図れますが、コスト管理が不十分だと必要以上にコストがかかるリソースタイプを選択してしまうことがあります。
それを回避するために、費用発生個所の把握と管理、正しいリソースタイプの選択、ビジネスニーズに応じた適切なスケーリングなどを実施します。
意図しないコスト発生の可能性を早期に発見できる仕組みも、コスト最適化における大切な要素の一つです。
このようにして組織全体のコスト計画を実施・分析し、不要なコストを特定して改善することがコスト最適化です。
運用上の優秀性
運用上の優秀性とは、ビジネス価値の提供に必要なシステムの実行とモニタリング、プロセスの手順と継続的改善を行う能力のことです。この柱には、実際に運用する際のポイントや効果的な運用方法のヒントが書かれています。
具体的には、システムログの管理方法や通常時における運用業務の注意点、障害発生時の対処ポイントなどが記載されています。
また、イベントへの対処や変化の自動化なども主なトピックとして挙げられるでしょう。
システムに障害や問題が発生する前に、最悪の場合でも顧客が気付く前に問題を検出できるよう、クラウドを運用していくことが大切です。
パフォーマンス効率
パフォーマンス効率とは、システムの要件を満たすためにコンピューティングリソースを効率的に使用し、様々な変化・進化があっても効率を落とさない能力のことです。
投入したコストとパフォーマンスが釣り合っているかを点検するため、コスト最適化の柱と併せて確認することで、自社に最適なサービス構成を判断できます。
具体的には、ワークロードの要件に適したリソースタイプ・サイズの選択やビジネス用件の増大に応じた効率の維持に必要な意思決定などが当てはまります。サービスに対する需要は常に変化するため、需要に合わせて柔軟にリソースの調整を行う能力が、アーキテクチャには不可欠なのです。
信頼性
信頼性とは障害を防ぐ能力や、障害から早期に復旧し、ニーズに応じたコンピューティングリソースを動的に回復する能力を指します。
システムを運用していく上では障害や障害からの復旧は非常に重要な問題であり、確認の必要性は高いと言えます。
具体的には、復旧計画や変更の処理方法、分散システムの設計が当てはまります。
特に24時間常に万全な稼働が期待されるビジネス領域では、障害発生時でもユーザーに対する影響を最小限に抑えつつ、迅速にエラー処理を行う必要があります。顧客からの信頼を確保し、万全のサービス提供を行うためには、信頼性の柱をしっかり確認することが不可欠です。
セキュリティ
セキュリティとは、クラウド上のデータ管理が安全に行われているかどうかを確認することです。リスクの評価・軽減の戦略を通してビジネスに価値をもたらす、情報やシステムの安全性を確保する機能がセキュリティです。
具体的には、権限管理における権限の特定・管理、システムの保護、セキュリティインシデントの検出システムの確立、データの機密性・整合性の確保などが挙げられます。
セキュリティが確保されていなければ、顧客からの信頼を失うだけでなく賠償問題に発展する可能性もあります。そのため、組織で保存・処理されるデータや顧客に関するデータ、データを保存するインフラストラクチャを守ることが非常に大切になります。
Well-Architected Frameworkを利用する上での注意点
Well-Architected Frameworkはシステムの運用効率を高めるために有効ですが、利用にあたっては注意すべき点もあります。それは活用法をきちんと理解しておくことです。
MicrosoftやAmazonなど大手クラウドベンダーは、Well-Architected Frameworkを活用するための詳細なチェックリストを用意しています。このチェックリストを活用して、抜け漏れなく移行計画やTO DOリストを用意することが、Well-Architected Frameworkをよりよく利用する上では欠かせません。
アプリケーションの設計やデータ管理、実装段階などの各フェーズにおいてチェックリストが用意されています。それぞれの内容を確認し、それに忠実に移行業務を遂行していくことが、効率的なシステム運用では不可欠なのです。
まとめ
適切なクラウド設計のチェックリストであるWell-Architected Frameworkを利用することで、クラウドを適切に運用することができます。Well-Architected Frameworkは5本の柱で構成されています。包括的ではないものの、各項目を忠実に実行することで抜け漏れのない設計が実現します。Well-Architected Frameworkにはデータ管理や設計、実装などの各フェーズにチェックリストが用意されているので、内容を確認しながらクラウド設計を進めていきましょう。