Transact-SQLとは、SQL Serverなどのリレーショナルデータベース管理システムで利用できるデータベース言語であるSQLの拡張機能です。この機能を活用すると、フロー制御言語やデータベース向け関数の利用、ストアドプロシージャの作成などが可能となります。本記事では、Transact-SQLの概要と活用例、そしてTransact-SQLが使用できるツールについて解説します。データベース設計に興味のある方は参考にしてください。
Transact-SQLとは
はじめにTransact-SQLの概要と、一般的なSQLとの違いについて説明します。
Transact-SQLの概要
Transact-SQLは略してT-SQLとも呼ばれており、データベース言語であるSQLの拡張機能として開発されました。従来のSQLに機能を追加することで、より複雑な制御アルゴリズムを記述できるようになります。Microsoft社のSQL Serverや、SAP社のAdaptive Server Enterpriseなどのリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)で利用できます。
他のSQLの拡張言語には、Oracle社のOracle Databaseで利用できるPL/SQLや、PostgreSQLで利用できるPL/pgSQLなどがあります。いずれも従来のSQL言語よりも複雑な処理を実現し、パフォーマンスを高める目的で開発されました。Transact-SQLを含めたこれらの拡張言語は、どのデータベースでも使用できるわけではありません。データベースの製品ごとに異なる言語を使用することが一般的です。
Transact-SQLとSQLの違い
SQLはデータベース言語のなかで最も普及している言語です。ユーザーがデータベースの操作や制御を行うために用いられる言語であり、データベースに対してデータの探索・追加・削除・更新などを実行します。データベース言語はユーザーが指定した条件に合うデータを見つけ出すことに特化しており、文法は他のプログラミング言語と比べてシンプルです。
SQLの拡張機能であるTransact-SQLでは、条件分岐や繰り返しなどのフロー制御言語や、文字列・日付・データなどの処理に用いる関数、局所変数やグローバル変数などが追加されました。これらの拡張機能により、プログラムがデータベースに対して行う処理手順を記述するなど、よりプログラミング言語に近い操作が可能です。
Transact-SQLの活用
Transact-SQLを導入すると、SQLの通常機能よりも高度な処理を実現できます。ここでは、Transact-SQLの機能の活用例について解説します。
複雑な制御を記述できる
Transact-SQLでは、プログラムの実行順序を決めるフロー制御言語を利用できます。具体的には、条件分岐を実現するIF...ELSE構造、ループ処理を実現するWHILE、一括で実行するプログラムを定義するBEGIN...END構造などが挙げられます。
また、データベースで使用できる関数も多く用意されています。値の集計に用いる集計関数、移動平均や集計途中経過を計算する分析関数、日付や文字列を扱う関数などがあります。DECLAREステートメントを用いるとプログラム内で変数を利用でき、関数にパラメータ値を渡すことも可能です。
ストアドプロシージャの作成
ストアドプロシージャとは、データベースに対する処理内容をリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)に保存したものです。呼び出しの命令文を実行すると、RDBMSに保存されたストアドプロシージャが起動し、処理を実行できます。
Transact-SQLでは条件分岐や繰り返しなどのフロー制御に対応しているため、データベース内のデータに対して一日に何度も集計するなど、同じ内容の処理を繰り返すことが可能です。データベースに実行したい内容としてあらかじめストアドプロシージャを登録しておけば、ユーザーが何度もデータベースにアクセスする必要がなくなります。ユーザーの手間を削減できるだけではなく、SQLを何度も実行することから生じる記述ミスも減らせるでしょう。また、ストアドプロシージャはRDBMSでの実行に適した形で格納されているため、処理速度が早い点もメリットです。
Transact-SQLを利用できるツール4選
Transact-SQLを利用できる4つのツールを紹介します。いずれもSQL Serverと連携して使用するツールです。
1. SQL Server Management Studio(SSMS)
SQL Server Management Studio(SSMS)は、リレーショナルデータベースであるSQL Serverを管理する統合環境です。Microsoftから提供されており、無償で利用できます。SQL Serverへの接続、データベースの作成や削除、データの作成や変更・登録などSQLによるプログラム作成に対応しています。
2. SQL Server Data Tools(SSDT)
SQL Server Data Tools(SSDT)は、SQL Serverデータベースに関連するさまざまなツールが統合されている開発支援ツールです。SSDTを用いると、SSMSで実施していたデータベースに関する操作をVisual Studioで完結できるようになります。スキーマ構造をベースとしたデータベース設計に対応し、スキーマ自体もバージョン管理されます。既存のデータベースのスキーマのインポートや、2つのデータベースのスキーマ比較などにも対応しています。
3. sqlcmd
sqlcmdは、SQL Serverをコマンドラインで使用するためのツールであり、Transact-SQLのプログラム作成やスクリプトファイルの実行ができます。かつてはisqlコマンド、osqlコマンドなどもありましたが、現在ではsplcmdに置き換えられており、SSMSに対応するなど機能も強化されました。コマンドプロンプト上でSQL Serverに接続すると、Transact-SQLの文の記述やプログラムの実行ができるようになります。
4. Azure Data Studio
Azure Data Studioは、クロスプラットフォームに対応したデータ分析ツールです。SSMSはWindowsのみに対応しますが、こちらはmacOS、Linux環境にも対応します。オンプレミスとクラウド両方のSQL Serverと接続してデータベースの開発や監視ができるため、幅広い開発環境に対応していることが特徴です。SSMSと比べて機能は限られていますが、実行動作は軽く快適に操作ができ、必要に応じて拡張機能の利用もできます。Azureと連携すれば、データベースのバックアップや復元にも対応します。
まとめ
データベース言語SQLの拡張機能であるTransact-SQLは、プログラミング言語に近い記述が可能となり、SQLよりも高度な機能を実現できます。フロー制御言語やデータベースの集計・分析ができる関数を扱えるようになり、データベースへの処理内容をまとめたプログラムであるストアドプロシージャの作成も可能です。
Transact-SQLは、SQL Server Management StudioやAzure Data Studioなどのデータベース管理の統合環境にも対応しています。特にAzure Data Studioは、WindowsやmacOS、Linuxすべてで動作し、オンプレミスとクラウドのどちらにも対応できるため、幅広い開発環境で利用できるデータ分析ツールです。