働き方改革の推進や、コロナウイルスの影響も相まって在宅勤務やテレワークの必要性が急速に高まりつつあります。一方で在宅勤務とテレワークの違いについてあまり理解していない人もいるのではないでしょうか。ここでは、在宅勤務とテレワークの違いやメリット・デメリット、また導入の際に着目すべきポイントについても解説します。
「在宅勤務」と「テレワーク」の明確な違いとは
似たような場面で使われる「在宅勤務」と「テレワーク」。実は、在宅勤務はテレワークの一種とカテゴライズできます。そもそもテレワークとは、「tele=遠い・離れたところ」と「work=働く」を組み合わせて作られた言葉で、本来のオフィスから離れて勤務する働き方を指します。そのため、自宅で働く在宅勤務はテレワークの一つの働き方といえるのです。
テレワークの種類
テレワークは、働く場所の違いによって、在宅勤務以外にもいくつかの種類に分かれます。
在宅勤務
在宅勤務は、その名の通り、従業員の自宅で仕事をすることを指します。一般社団法人日本テレワーク協会によると別名で「自宅利用型テレワーク」という言い方もあります。
モバイルワーク
モバイルワークは、取引先のオフィスや移動中に立ち寄る駅、カフェなどで仕事をすることです。
サードプレイスオフィス勤務
サテライトオフィスやコワーキングスペースなど、会社以外の施設で仕事をすることをいいます。この場合それらの専門的な事業者が提供する場所と、自社が整備し提供している場合があります。
「テレワーク」と「リモートワーク」は違いとは?
「テレワーク」と同じように使われる言葉に、「リモートワーク」があります。この2つの意味は、ほとんど同じです。ただしニュアンスの違いとして、テレワークは政府や大企業がよく利用し、リモートワークはIT企業が利用することが多いようです。オフィス以外での働き方を指す際はどちらを使ってもかまいませんが、厚生労働省が進める「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」をはじめ公的な場では「テレワーク」の方がより一般的だといえます。
働き方を見直す。在宅勤務を積極的に取り組む企業
2020年3月頃から、コロナウイルスによる自粛要請の影響を受け、多くの企業が在宅勤務を実施しました。自社の働き方が一時的に変わった方も多いことでしょう。緊急事態宣言はすでに解除されましたが、働き方の見直しとして、その後も在宅勤務やテレワークの在り方について模索する企業が多くあります。NHKがさまざまな業種の大手企業にアンケート調査を実施したところ、「テレワークの活用や出勤者数の削減など新しい生活様式に対応した働き方の見直しを検討する」と答えた企業は80%を超えました。
実際に在宅勤務の取り組みを始めている企業もいます。
たとえば、ニコニコ動画を運営している「株式会社ドワンゴ」は、5月29日にこれまでコロナウイルスの対策として実施していた在宅勤務を、6月以降も続けると正式発表しました。7月から本格的に在宅勤務制度を導入する予定であり、光熱費や通信費に関わる従業員手当の支給などを継続して行うなど積極的に在宅勤務を取り入れた職場環境づくりをすすめています。
また「ツイッター社」も同じく、コロナウイルス収束後も希望を出せば無制限で在宅勤務可能と発表しています。
ほかに、日用品を販売する「ユニ・チャーム」では、工場勤務の職員を週2日在宅勤務と定め幅広い働き方の推進を促しています。
オンライン化が進み、離れた場所にいても十分にコミュニケーションが取りやすくなったことから、多くの企業で在宅勤務を取り入れる姿勢が見られます。
在宅勤務やテレワークのメリット・デメリットについて
では、在宅勤務やテレワークを導入するメリット・デメリットは何なのでしょうか。ここでは、企業目線でメリット・デメリットを紹介します。
メリットについて
在宅勤務やテレワークにはさまざまなメリットがありますがここでは、その代表的なものを5つ紹介します。
まず1つ目は、家庭の事情に対応しやすいため、女性やシニアなどの労働者を雇用できる点です。人材不足に悩んでいる企業は、在宅勤務やテレワーク制度を取り入れることで今まで雇用できなかった層の労働力の確保が期待できます。さらに少子高齢化が進む日本では介護などをしながらでも働きたい女性などの新たなニーズも生まれつつあるため、それらに対応し得る突破口ともなり、企業の発展につながるでしょう。
2つ目は、すでに雇用している優秀な社員をライフイベントなどで失わずに済むことです。前述と同様に育児や介護など、どうしても仕事を続けられない状況になったときに、柔軟な働き方ができる在宅勤務やテレワークなら働き続けることを選択してくれる可能性があります。在宅勤務は、社員の定着にも効果があるのです。
3つ目は、社員のストレスを軽減し、生産性・生活の質の向上を図れる点です。在宅勤務なら、通勤は必要ないため、通勤時間の削減はもちろん、満員電車などのストレスから解放されます。さらに「上司が帰らないと自分も帰れない」というような、職場の人間関係によるストレスも減るため、社員一人一人がのびのびと働けます。また、自宅やカフェなどでの勤務は、他の業務に煩わされずに自分の仕事に集中できるため、生産性の向上が期待できます。
4つ目は、オフィスがいらなくなることによる経費の削減です。もし全社員を完全在宅勤務にすればオフィス自体構える必要がなくなります。会社としてオフィスを構えるとしても、全社員が入れるスペースを確保する必要がなくなり小規模なオフィスを維持するだけでよくなり、経費削減につながります。
5つ目は、災害や感染症の蔓延などのトラブル時に勤務可能な点です。台風や地震により、出社が難しくなったり、コロナウイルスやインフルエンザのような感染症が蔓延している時期でも在宅勤務ならこれまでの業務が滞ってしまうことなくいつもと同じように働けます。
デメリットについて
在宅勤務やテレワークにはデメリットも存在します。生産性を維持する上でもこれらをどう解決していくか考えていく必要があります。代表的なものを3つ紹介します。
まず1つ目は、仕事とプライベートのオンオフの切り替えが難しいことです。とくに在宅勤務では、職場と自宅が同じ場所になり、通勤時間もなくなるため、仕事とプライベートを分けることが難しくなります。自己管理ができないと、いつまでもダラダラと仕事をしてしまうでしょう。反対になかなか仕事モードから切り替えることができず結果として長時間労働につながってしまう危険性もあります。これらの働き方は、これまで以上に社員一人ひとりの自己管理能力が求められることになり、それらを意識づけるサポート体制の構築など企業側としての努力も求められます。
2つ目にコミュニケーションの取りづらさが挙げられます。業務的な連絡はオンラインでも十分行えますが、ちょっとした相談やたわいもない雑談などのコミュニケーションが取りづらく、孤独を感じてしまうことがあります。プロジェクトチームなど、社員同士で協力してひとつの仕事に取り組む場合は、やはり直接顔を合わせた方がいいという意見も出るかもしれません。その場合は、サテライトオフィスを利用したテレワークを実施するなど、仕事内容に応じて働き方を選択する必要があるでしょう。
3つ目は社員管理が難しい点です。在宅勤務やテレワークでは、基本的に得た成果や成果物で、社員の評価を下します。成果を得るために行った努力や成長は考慮されない場合も少なくありません。社員の成長のために、どのような点で評価を行うのか、これまでとは異なる評価制度を新たに準備して運用していくことも視野に入れなければならないでしょう。
在宅勤務・テレワーク制度の導入ポイント
在宅勤務やテレワークの導入を検討している企業、またそれらを今後も継続的に取り入れたい企業は、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
社員の労働実態を明確にする
在宅勤務では、実際の社員の働き方が見えづらいため、勤怠報告はもちろん、どのような基準で社員の評価を下すのかも明確にしなければなりません。報告形態は何を取るのか、どのタイミングで報告するのか、それによってどのような社員評価をするのかを明らかにしておきましょう。
家での労働環境を整える
在宅勤務を実施する場合、社員それぞれの家に、仕事をしやすい労働環境を整える必要があります。デスクとチェア、パソコン、インターネット環境など、最低限の設備を整えるよう、企業側から指示や援助を行いましょう。
情報漏えいリスク(セキュリティリスク)に備える
在宅勤務やテレワークでは、社員がさまざまな場所からインターネットを使用するため、企業の機密情報が外部に漏れないよう、情報漏えいのリスクに備えなければなりません。セキュリティベンダーの「BitSight Technologies」の調査によると、45%の企業において、社員が在宅勤務に使用するネットワークにマルウェアが見つかったとの結果が出ています。コンピューターウイルスに感染し、企業の大切な情報が外部に漏れて悪用されないよう対策する必要があります。
社員同士がコミュニケーション不足に陥らないために工夫する
社員のコミュニケーションが減ると、孤独を感じたり、チームでの仕事がうまくいかなかったりする恐れがあります。社員が気軽に利用できるコミュニケーションツールや、ビデオチャットなど、離れていても会話しやすいような工夫をしましょう。在宅勤務だけでなくサードプレイスオフィス勤務も取り入れるのもひとつの手です。
まとめ
在宅勤務は、テレワークの一部であり、自宅で働くことを指します。テレワークはより幅広いオフィス以外での働き方を指す言葉です。これらの制度を取り入れる際には、それぞれの違いの把握はもちろん、導入によるメリットやデメリットを理解した上で、企業内の新たな仕組みを構築していかなければなりません。