一般的に「SAP(エスエーピー)」と呼ばれているSAP社のERP製品は、どのような仕組みで企業の課題を解決するのでしょうか。ERPの考え方や手法・SAPの基本に加え、製品導入のメリット・注意点も含めて紹介します。
「SAP」はSAP社が提供するERP製品
SAP(エスエーピー)社は、エンタープライズ・アプリケーション・サービスを展開しているドイツのソフトウェア・ベンダーです。SAP社が製造するERP製品のことを「SAP」と呼んでいることも多いのですが、正確にはSAPとは企業名であり、製品名ではありません。
SAP社では、企業内のあらゆる資源を管理するシステムをERP製品として開発し、世界180か国以上の顧客にサービスを提供しています。
ERPとは
ERP(Enterprise Resources Planning (企業資源計画))とは、ヒト・モノ・カネという企業の経営資源の管理に関する考え方・手法です。ERPの考え方をシステム商品として実現したものがERP製品です。ERP製品は、1つのソフトウェア(アプリケーション)として提供されていますが、オンプレミス型とクラウド型に分かれます。ERP内部はモジュールと呼ばれる機能で構成されており、各モジュールが会計・人事といった個別の役割を担っています。
ERPが誕生した背景
各企業では、製造部門であれば部品在庫や製造ラインなど製造に関わる情報を管理する「製造管理」、人事部門であれば採用や労務、人材育成、福利厚生などを管理する「人材管理」というように、部門ごとに独自のしくみで情報を管理しています。
インターネットが発達し、企業のシステム化が進むと、製造管理システム・人材管理システム・経理システム・調達管理システム・販売システムというように部門ごとにシステムが立ち上がり、これまで人手でおこなっていた業務をシステムで置き換える動きが進みました。
ところが、実際の企業活動においては、例えば、調達部門が管理している発注部品数が分からないと製造部門は生産計画が立てられません。また、販売部門で必要とされる人数が分からないと、人事部門は新卒採用の計画が立てられません。
企業において部門内だけで完結する業務はほとんどありません。そのため部門ごとに最適化したシステムだけでは、部門間の情報共有がうまくできず、余計な時間と労力がかかっていました。たとえば調達部門が調達管理システムから発注部品数の情報を抜き出し、メールに転記して製造部門に送信、製造部門が製造管理システムに受け取った情報を入力し直すといった作業が行われていたのです。
これでは時間もかかって非効率であり、いつヒューマンエラーが起きてもおかしくありません。そこで生まれたのが、"企業"全体の"資源"を一元的に管理する"計画"、ERP(企業資源計画)という考え方です。
この考え方をシステム商品として実現したものがERP製品です。
SAP社とは
ERPシステムをはじめて世に送り出したSAP社は、1972年の設立以降、今や世界130か国の支社を含めて10万人を超える社員を抱える大手IT関連企業です。SAPジャパンでも、日本企業の競争力強化と真のグローバル化を目指し、ソフトウェアの開発販売・教育・コンサルティング事業を展開しています。IDC Japanによる、国内におけるERP製品ベンダーのシェアに関する調査(2018年度)では、2位の富士通、3位のオービックを抑えてSAP社が1位を獲得しています。世界規模で見ても、ガートナー社の「Market Share Analysis:ERP Software、Worldwide、2018(2018年のERPソフトウェア世界市場シェア分析)」レポートによれば、2年連続で売上第1位を獲得しています。ERP製品に関してはグローバルリーダーといえるでしょう。
SAPの種類
SAP社が展開するERP製品にはどのようなものがあるのでしょうか。
・SAP ERP
SAP社の主力オンプレミスシステム向け製品です。
各機能間のデータ連携は決められた時間に行うバッチ処理ではなく、リアルタイムでできる点が大きな特徴です。
・「SAP S/4HANA」
別名を「SAP Business Suite 4 HANA」といいます。データベースの管理において、プログラム実行時にストレージを使わず、メインメモリ上にプログラムやデータを呼び込み、"インメモリ"での高速処理を実現しています。
・「SAP S/4HANA Cloud」
「SAP S/4HANA」のクラウド版です。SaaSの仕組みを取り入れたことで、拠点の移動やシステム構成の変更など、環境が変わった際も即座に対応ができます。
・「SAP Business One」
中小企業向けのERP製品です。企業が成長したときのために備え、拡張性に優れています。オンプレミス型とクラウド型とがあります。
SAPの導入のメリット
SAP導入の一番のメリットは、企業全体での業務効率化です。SAPは、世界の優良企業の業務プロセスをベースとして開発されているため、導入すると自社の業務プロセスが優良企業レベルに標準化されます。
コスト削減もSAP導入のメリットのひとつです。部門ごとに最適化されたシステムでは、部門間調整や情報共有に人材を割く必要がありました。SAPを導入することで、部門ごとに集計したデータを統合してリアルタイムで共有・管理できるため、人的コストが不要です。
SAPのモジュール
SAPのプラットフォームは4つのモジュール(機能)で構成されています。
会計モジュール
財務会計・管理会計機能を担当します。財務会計で外部会計・制度会計を行い、他のモジュールの財務データをまとめて管理します。管理会計は内部会計を行い、業務内で発生する費用の管理や調整を行います。
ロジスティックモジュール
販売管理・在庫管理機能を担当します。販売管理では、販売データの入力、在庫管理では品目マスタや商品マスタの入力など、手動で行うと誤りやすいデータ入力作業が多数あります。この機能を使ってデータ管理を行うことで手動入力の必要がなくなり、打ち間違いなどのヒューマンエラーが低減します。
人事モジュール
あらゆる企業人材に関わる人事管理を行います。企業内の人材の採用から退職まで、部門の異動や統廃合があった場合でもその人材の情報を一元管理します。
その他のモジュール
その他、生産・プロジェクト・プラント機能があります。生産は生産活動における業務管理、プロジェクトはプロジェクト進行に必要なチェックやデータ共有、プラントは製造における設備の保守などを担います。
SAPを導入する際の注意点
SAPを上手く運用できれば導入効果が非常に高まりますが、導入にあたり注意すべき点があります。SAPに関わるコストには、ソフトウェアのライセンス費用・サーバ費用・システム構築料金があります。クラウド版であっても約1,000万円の初期費用を見込んでおく必要があります。
また、SAPは各社員が使いこなせてはじめて効果を発揮します。導入前にSAPのしくみや使い方などの教育や研修の機会を提供することが重要です。なお、「SAP ERP」や「SAP Business Suite」の保守は、2027年で終了する予定になっていることも、導入にあたり検討すべき点のひとつです。
まとめ
世界のERP製品のトップシェアを誇る「SAP(エスエーピー)」は、計画的に導入することではじめて効果を発揮するアプリケーションです。企業規模や事業形態により様々なラインナップがあるため、導入の計画は自社の業務を見直すところから始めましょう。