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パスワードレス認証とは?その仕組みやメリット・デメリットを解説

パスワードレス認証とは?その仕組みやメリット・デメリットを解説

オンラインサービスが主流な現代において、従来のパスワード認証方式では利便性の低さやセキュリティリスクの高さが課題となることがあります。こうした中、注目されるのが「パスワードレス認証」です。文字通りパスワードを必要としないこの方式は、ユーザーの利便性を向上させつつ、サイバー攻撃のリスクを軽減可能です。本記事では、その仕組みやメリット・デメリット、その他認証方法について解説していきます。

パスワードレス認証とは|分かりやすく解説

パスワードレス認証とは|分かりやすく解説

私たちは日々多くのオンラインサービスを利用していますが、その際各サービスごとに異なるパスワードを設定して管理することは煩雑で手間がかかるだけでなく、セキュリティリスクも伴うでしょう。

こうした課題を解決する方法として、近年注目を集めているのが「パスワードレス認証」です。

パスワードレス認証の基礎知識

パスワードレス認証とは、従来のIDとパスワードによる認証方式に代わり、生体認証やデバイス認証を用いて本人確認を行う方法です。

例えば、スマートフォンを使った指紋認証や顔認証、あるいはセキュリティキーを利用したワンタップ認証などが挙げられます。
この仕組みの中核を担うのが「公開鍵暗号方式」です。一般的には次のような流れで認証が行われます。

  1. ユーザーがサービスに登録する際、デバイス上で公開鍵と秘密鍵が生成される
  2. 公開鍵はサービス側に保存されるが、秘密鍵はデバイス内に厳重に保管される
  3. ユーザーがログインを試みる際、サービス側は公開鍵を使って認証要求を生成し、ユーザーのデバイスに送信する
  4. デバイスは秘密鍵を使って認証要求に署名を行い、これをサービス側に返送することで本人確認が完了する

このプロセスによってパスワードの代わりにデバイスや生体情報が認証の鍵となり、高いセキュリティを実現できます。

さらに、生体認証では指紋や顔情報が直接サーバに送信されることはなく、ユーザーのプライバシー保護も考慮されています。

パスワードレス認証が注目されている理由

パスワードレス認証が注目される最大の理由は、従来のパスワード認証方式が持つセキュリティリスクを軽減できる点にあります。

従来の方式では、ユーザーが同じパスワードを複数のサービスで使い回したり簡単なパスワードを設定したりすることで、ハッキングやフィッシング詐欺のリスクが高まっていました。また、データ漏えい事件が発生した場合は、漏えいしたパスワードが広範囲で悪用される危険性もあります。

一方、パスワードレス認証ではこうしたリスクを大幅に軽減できます。

スマートフォンの指紋認証を使用する場合、指紋情報はデバイス内にとどまり、外部に送信されることはありませんし、デバイス認証ではユーザーが物理的にスマートフォンやセキュリティキーを所持していないとログインができないため、なりすましのリスクも軽減可能です。

また、複数のパスワードを覚える必要がないという利便性の向上も注目される理由の1つとなります。

パスワードレス認証の安全性について

パスワードレス認証の安全性について

従来のパスワード認証方式は、利便性の低さやセキュリティリスクの高さが問題視されることが増えてきましたが、そこで注目されているのが「パスワードレス認証」です。

ここでは、従来のパスワード認証が抱える問題点を整理した上で、パスワードレス認証の安全性について解説していきます。

パスワード認証が問題視される理由

パスワード認証が一般的に普及している一方で、ユーザー自身の負担や管理の難しさ、さらには外部攻撃によるリスクが挙げられます。

具体的な例を挙げて説明していきます。

パスワードの使いまわし

多くの人が複数のWebサイトで同じパスワードを使いまわしているといわれています。

そのため、1つのサイトでデータ漏えいが発生した場合、他のサービスでも同じパスワードを使っていれば、その他のサービスでのパスワードも漏えいしたことになります。

これを防ぐためには、サービスごとに異なる全てパスワードを設定する必要がありますが、現実的には難しいというのも課題の1つとなっているでしょう。

類推されやすいパスワードの使用

同じパスワードを使い回さなかったとしても、多くの人が簡単に覚えられるパスワードを選ぶ傾向があります。

例えば、「123456」「password」「qwerty」などはハッカーにとって格好の標的となるため、ブルートフォース攻撃と呼ばれる総当たり方式で簡単に突破されることがあります。

さらに、個人情報にもとづいたパスワード、誕生日やペットの名前なども同様に推測されやすく、SNS上の公開情報を手掛かりに悪用されるケースも後を絶ちません。

パスワード入力の手間

従来のパスワード認証では、利便性の低さも問題となっています。

ログインするたびに長いパスワードを入力するのは手間がかかり、特にスマートフォンでは入力ミスが発生しやすいです。

この煩わしさを回避するために、多くのユーザーが簡易的なパスワードや自動入力機能を利用していますが、これが逆にセキュリティリスクを高める要因にもなっています。

パスワードレスは安全なのか

パスワードレス認証は従来のパスワード認証の課題を解決する新しい方式として注目されていますが、その安全性はどの程度なのかについては仕組みを理解することで見えてきます。

パスワードレス認証の代表例としてデバイス認証生体認証があり、デバイス認証ではユーザーのスマートフォンやハードウェアキーを利用し、公開鍵暗号方式を用いて認証を行います。

秘密鍵はデバイス内に保存されて外部に漏えいすることがないため、不正利用のリスクが減ります。例えば、FIDO2規格にもとづくセキュリティキーは、フィッシング攻撃やブルートフォース攻撃にも強い耐性を持っています。

一方で生体認証では指紋や顔認証を用いており、一人ひとり異なる特性を利用するためパスワードのように推測される心配がありません。例えば、スマートフォンの指紋センサーを使った認証では指紋データは端末内部にのみ保存され、クラウド上には保存されない仕組みのため、データ漏えいのリスクが軽減されるだけでなく、認証時のデータ通信量も削減できます。

ただし、パスワードレス認証が万能というわけではなく、デバイスの紛失や盗難によるリスクがあります。

さらに、利用者がデバイスや生体認証システムに依存しすぎることも、セキュリティ意識の低下につながる可能性があるため注意が必要となるでしょう。

パスワードレス認証の仕組みと種類

パスワードレス認証の仕組みと種類

私たちが普段使っているパスワードは、セキュリティの要として重要な役割を果たしてきましたが、パスワードが漏えいしたり、使い回しや簡単すぎるパスワードが原因で不正アクセスが発生したりするリスクが後を絶ちません。

ここでは、そのようなパスワード認証と対をなすパスワードレス認証の仕組みや種類について詳しく解説していきます。

所持認証(デバイス認証)

所持認証(デバイス認証)は、ユーザーが所持している物理的なデバイスを用いて本人確認を行う方法で、スマートフォンやハードウェアセキュリティキーがこの役割を果たします。

この認証方式の特徴は、デバイス自体に秘密鍵が保存され、認証プロセスで公開鍵暗号技術を使用する点です。

公開鍵はサービス側に保存されるため、たとえデータベースが攻撃されても秘密鍵が漏えいすることはありません。また、デバイス認証はフィッシング攻撃にも強く、認証プロセスが特定のデバイスに限定されているため、他人による不正アクセスが難しくなります。

この方式の課題としては、デバイスを紛失した場合に認証ができなくなるリスクがありますが、リカバリーコードや予備デバイスを設定することで対応が可能です。

生体認証

生体認証はユーザーの体の特徴を利用して本人確認を行う方法です。

代表的な例として、指紋認証、顔認証、虹彩認証などが挙げられますが、これらの技術は物理的なデバイスだけでなく、ユーザー自身を認証の鍵として利用する点が特徴です。

例えばAppleのFace IDは顔の3Dマッピングを使用して本人確認を行いますが、従来のパスワードやPINコードよりも安全性が高く、顔データは端末内にのみ保存されるので外部に送信されることはありません。

同様に、指紋認証も高い精度を持っているため、銀行のアプリログインや支払い承認に広く使われています。

マジックリンク

マジックリンクはメールアドレスを介して認証を行う方式で、ユーザーがログイン画面でメールアドレスを入力すると、そのアドレス宛にログイン用リンクが送信されます。

そしてそのリンクをクリックすることで認証が完了します。

例えば、SlackやNotionなどのツールでマジックリンクが利用されており、この方式の利点は、ユーザーがパスワードを覚える必要がない点とリンクが1度きりしか利用できないため、不正アクセスのリスクを軽減できる点です。

また、ユーザーにとってはメールを確認するだけでログインが可能なため、手間がかからない方式となっています。

しかし、メールアドレス自体がハッキングされるリスクやリンクが有効期間内に第三者に共有される可能性があるため、完全な安全性を確保するには注意が必要です。

FIDO認証

FIDO(Fast Identity Online)認証は、パスワードレス認証の中でも特に安全性と利便性を兼ね備えた方式です。

この方式はFIDOアライアンスが定めた規格にもとづいており、公開鍵暗号技術を利用します。FIDO認証では秘密鍵がデバイス内部に厳重に保管されるので、認証の際にサーバへ送信されることはありません。

GoogleやMicrosoftが提供するログインサービスではFIDO準拠の認証をサポートしているので、セキュリティキーや指紋認証を使用してパスワードなしで安全にアクセスできます。

また、FIDO認証は多要素認証とも組み合わせが可能で、さらなるセキュリティ強化が図れます。

FIDO認証の導入が進む背景にはフィッシング攻撃への耐性が挙げられます。FIDO認証では秘密鍵をサーバに送信しないため、ユーザーに偽サイトでパスワードを入力させる手法のフィッシング攻撃が成立しません。

パスキー認証

パスキー認証は最近注目されているパスワードレス認証方式で、Apple、Google、Microsoftが共同で推進しており、デバイス間で安全に認証情報を同期させる仕組みが特徴です。

例えば、Apple IDでiPhoneからMacにログインする際、パスキー認証を利用することでデバイス間で認証情報がシームレスに共有されます。

パスキー認証はFIDO認証をさらに発展させたものであり、スマートフォンやパソコンなど複数のデバイス間で同期が可能なため、ユーザーが特定のデバイスを紛失しても別のデバイスから復元できる点が大きな利点です。

パスワードレス認証のメリット

パスワードレス認証のメリット

ユーザーとシステム管理者の両方にとって多くの利便性をもたらすパスワードレス認証方式ですが、ここではパスワードレス認証のメリットについて解説していきます。

推測されやすいパスワードを使うことがない

パスワードレス認証は、生体情報(指紋や顔認証)やデバイス認証(スマートフォンやセキュリティキー)を使用するため推測可能な文字列を使う必要がない点がメリットです。ユーザー固有の特徴を利用するため、他者が容易に模倣できない仕組みとなっています。

先述したように、従来のパスワード認証では、ユーザーが簡単に覚えられるパスワードを設定した場合、ブルートフォース攻撃の標的になりやすく、セキュリティリスクが高いのが現実です。また、SNSや公開情報を元に個人情報を推測され、なりすまし被害が発生するケースも少なくありません。

パスワードレス認証であれば、このようなリスクは回避できるでしょう。

複数のパスワード管理の手間が省ける

パスワードレス認証では、指紋認証やスマートフォンによるデバイス認証を用いることでパスワード管理の負担を大幅に軽減できる点がメリットです。

セキュリティ性を高めようと思えば、各Webサイトで全て違うパスワードを使う必要があります。それらを全て覚えるのは難しいため、どこかに書き留めたりファイルに保存したりする人が多いのではないでしょうか。パスワードレス認証では、それらの管理にかかる負担がなくセキュリティリスクの軽減ができます。

管理者のパスワード管理やリセット等の手間がなくなる

企業においても、パスワード管理の手間はIT部門にとって大きな負担となることが多いです。

パスワードのリセット依頼や期限切れ通知、セキュリティポリシーの運用などに多くの時間とリソースが割かれています。また、従業員がセキュリティポリシーに従わずに弱いパスワードを設定することで、企業全体のセキュリティが脆弱になるリスクもあります。

この場合でもパスワードレス認証を導入することで、管理業務が大幅に削減可能です。

例えば、デバイス認証を採用する企業ではユーザーごとにデバイスを登録するだけで済み、パスワードリセットの対応は不要となります。また、Microsoft Entra IDやOktaのようなクラウドID管理ツールを併用することで、従業員のログインプロセスが簡略化されるのでIT部門の負担が軽減されるとともにセキュリティ向上も期待できます。

パスワードレス認証のデメリット

パスワードレス認証のデメリット

利便性や安全性で多くのメリットがある一方で、パスワードレス認証にもデメリットが存在します。ここでは、認証方法や技術面における課題について解説していきます。

認証方法次第では手間がかかることがある

パスワードレス認証の導入によって利便性が向上するはずが、逆に手間が増える場合があります。

例えば指紋認証や顔認証を利用する場合、センサーの精度や周囲の環境によって認証が失敗したり、湿った指では指紋が認識されなかったり、暗い場所で顔認証が正常に動作しなかったりするケースがあるでしょう。

また、マジックリンクの方式では、メールを受信するまでの待ち時間やリンクが期限切れになるリスクなども考えられます。

生体情報の流出やデバイスの盗難によるセキュリティリスクがある

生体認証はユーザー固有の情報を利用するため安全性が高いとされていますが、一方でその情報が流出した場合には取り返しがつかなくなってしまいます。

パスワードは変更可能ですが指紋や顔データは一生変えることができません。また、デバイス認証に依存する場合、スマートフォンやセキュリティキーが盗難に遭うリスクも考慮する必要があります。

これを防ぐには、リモートでデバイスをロックする機能や生体認証とPINコードを組み合わせる多要素認証の実施が効果的です。

パスワードレス認証ならEntra ID(旧AzureAD)の導入がおすすめ

パスワードレス認証ならEntra ID(旧AzureAD)の導入がおすすめ

パスワードレス認証はセキュリティリスクの軽減とユーザー利便性の向上を両立できる認証方式ですが、その中でもMicrosoftが提供する「Entra ID」(旧AzureAD)は、特に企業や組織に最適なパスワードレス認証として注目されています。

Windows HelloやMicrosoft Authenticator、FIDO2セキュリティキーを活用してフィッシング攻撃やパスワード漏えいのリスクを大幅に減らせる他、管理者のパスワードリセット対応や運用負担も軽減できます。

セキュリティ強化と効率化を両立したい企業には、Entra IDの導入がおすすめです。

まとめ

まとめ

本記事では、パスワードレス認証の基本構造やメリット、またデバイス紛失や生体情報漏えいのリスクといった課題について具体例を交えながら解説してきました。

パスワードレス認証は、従来のパスワードに依存する認証方式が抱える課題を解決できる認証技術です。

その仕組みとしては、生体認証やデバイス認証、FIDO2キーなどがあり、推測されやすいパスワードや多重管理の負担を排除し、セキュリティと利便性を両立できます。

また、MicrosoftのEntra IDはパスワードレス認証の中でも特にセキュリティ強化において注目されており、多くの企業でも導入され始めています。

セキュリティリスクの軽減と業務効率化を目指したい企業は、ぜひパスワードレス認証としてEntra IDの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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