近年では、ビジネス環境が急速に変化し、ビジネスを支えるIT資産に対してもより一層の柔軟性や効率性が求められるようになりました。しかし、既存のシステムやアプリケーションの維持・運用に多くの作業工数やコストがかかり、レガシーシステムの刷新や運用に課題を抱える企業も少なくありません。このような環境下において、「モダナイゼーション」の重要性はますます高まっています。
本記事では、モダナイゼーションの概要や注目される理由に加え、モダナイゼーションにおいて重要な「7つのR」と成功ポイントについて解説します。
モダナイゼーションとは
はじめに、モダナイゼーションの概要や、混同されがちなマイグレーションとの違い、モダナイゼーションが注目される理由を解説します。
モダナイゼーションの概要
「モダナイゼーション(Modernization)」とは、日本語で「近代化」や「現代化」を意味する言葉です。最近ではIT分野でも多く用いられるようになり、「古いIT資産を活かしながら最新のシステム環境に整備し直す」という意味で使われます。モダナイゼーションの対象となるIT資産は、主に販売管理システムや在庫管理システムなど、企業経営の根幹を担う基幹システムです。
マイグレーションとの違い
モダナイゼーションと似た意味を持つ用語に、「マイグレーション(Migration)」があります。マイグレーションは、直訳すると「移動」や「移住」です。IT分野においては、「システムの機能や性能を変えずに、新しいIT環境に移し替える」意味合いで使われます。つまり、マイグレーションが「新環境への移行」に特化した取り組みであるのに対し、モダナイゼーションは「システム環境の最新整備」といったより広範囲な取り組みを指すと言えるでしょう。
モダナイゼーションが注目される理由
では、なぜモダナイゼーションが注目されているのでしょうか。注目される大きな理由として、経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の壁」があります。「2025年の壁」とは、2025年までに企業がレガシーシステム刷新などのDX化ができないと、最大で年間12兆円にのぼる経済的損失が発生することが言及された問題です。この「2025年の壁」に加え、ビジネス環境が急速に変化し続けていること、IT人材不足が顕在化してきていることなども理由として挙げられます。
モダナイゼーションで重要な「7つのR」
ここでは、モダナイゼーションを行う際に重要な考え方である「7つのR」について紹介します。「7つのR」はAWSが提唱するシステム移行時の概念(※)で、以下の7つの項目があります。
Retain(維持)
クラウド移行する必要がないシステムにおいては、これまで通りオンプレミス環境での運用を維持します。
Retire(停止)
今後のビジネスにおいて不要と判断したアプリケーションやデータベースは停止します。
Relocate(リロケート)
主に仮想環境を対象に、オンプレミス環境からクラウド環境に移行します。既存のアプリケーションやデータベースへの変更はなく、IPアドレス変更も不要です。
Rehost(リホスト)
オンプレミス環境で運用していたシステムをクラウド環境に移行します。ただし、既存のアプリケーションやデータベースへの変更は行いません。
Repurchase(再購入)
これまでのライセンスモデルからSaaS型へ製品を切り替えることで、アプリケーションやデータベースの柔軟性向上、コスト効率化を図ります。
Replatform(リプラットフォーム)
既存のアプリケーションやデータベースを部分的に変更しつつ、クラウド環境に移行します。
Refactor(リファクタリング)
アプリケーションやデータベースを大幅に改修し、クラウド移行を行います。
モダナイゼーションを行う際は、まず既存のシステムが今後のビジネスにおいて本当に必要かどうかをゼロベースで考え、不必要であれば終息(Retire(停止))を検討しましょう。そして、オンプレミス環境など移行が不要な仕組みは残しつつ(Retain(維持))、段階的にクラウド環境やSaaS製品へ移行していくとよいでしょう。
モダナイゼーションの成功ポイント3つ
本章では、企業がモダナイゼーションを成功させるために大切な3つのポイントを紹介します。
①現状のIT資産や体制を漏れなく確認する
モダナイゼーションの遂行にあたり、まずは現状のIT資産や運用体制を抜け漏れなく洗い出すことが重要です。IT資産や運用体制の棚卸しが不十分なままモダナイゼーションを行った場合、後々のスケジュール遅延や、運用コストの増大につながるおそれがあるためです。企業全体としてモダナイゼーションを円滑に進めるために、事前のIT資産や運用体制の確認にも手を抜かないようにしましょう。
②ゼロベースの業務改革も並行する
モダナイゼーションにおいては、ゼロベースでの業務改革も大切です。なぜなら、現状の業務プロセスが必ずしも最適であるとは限らないからです。例えば、現状の業務プロセスにこだわった状態でモダナイゼーションを実行した場合、システム環境が最新化されただけで結果的にビジネス効率化や競争力強化などの成果に結びつかない可能性もあります。さらに、現状の業務プロセスを前提としたままモダナイゼーションを行うと、複雑なシステム移行となり、移行期間や作業工数が膨れ上がるリスクもあります。したがって、モダナイゼーションでは単にシステムを最新化するだけでなく、ビジネス成果を上げるための本質的な業務改革が重要です。
③リスクを考慮したスケジュール管理を行う
リスクを考慮して、余裕を持ったスケジュールをたてることも大切です。モダナイゼーションは一朝一夕では完遂できず、中長期的なスケジュールのもと改革を断行することになります。
しかし、経済産業省の調査にもある通り、多くの日本企業はレガシーシステム刷新を含むモダナイゼーションやDX推進に慣れていません。よって、想定外のリスクが発生することを考慮した実行計画や予算計画をたてるとよいでしょう。
まとめ
ビジネス環境の急速な変化や経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の壁」を背景に、モダナイゼーションの重要性が高まっています。モダナイゼーションとは、主に企業の基幹システムを対象に「古いIT資産を活かしながら最新のシステム環境に整備し直す」ことであり、実行においては「7つのR」の考え方が重要です。また、企業がモダナイゼーションを成功させるためには、「現状のIT資産や体制の網羅的な確認」「ゼロベースの業務改革」「リスクを考慮したスケジュール計画」が大切です。これら3つのポイントを理解した上で、次に置き換えるシステムを検討する場合は、クラウドサービスの活用を検討してみると良いでしょう。
潮流としては、ビックバン的にクラウドに移行するのではなく、オンプレミスとクラウドを併用するハイブリットクラウドも増えてきています。
Microsoft Azureは、モダナイゼーションを実行していくための機能が豊富に提供されています。ハイブリットクラウドの構築はもちろんのこと、セキュリティや監視まで幅広いソリューションを利用できますので、ぜひ活用してみてください。