近年MR技術の進歩が話題になっていますが、MRを活用した新しい技術として「Microsoft Mesh」が注目を浴びています。本記事ではMRやMicrosoft Meshの概要、Microsoft Meshで実現できること、MRに必要なデバイスなどをご紹介します。
MRとは何か
近年話題の「MR(Mixed Reality)」とは、どのような技術なのでしょうか。はじめにMRの概要やAR、VRとの違いについて説明します。
MRは「Mixed Reality」の略です。日本語では「複合現実」と呼ばれています。この「複合」とは、現実世界と仮想世界を複合するといった意味合いです。また、MRの捉える概念は広く、ARとVRの複合とも考えられています。
ARは「Augmented Reality」の略で、日本語では「拡張現実」と呼ばれています。ARは現実世界をベースとした視点で、現実世界に足りない要素をデジタル画像などで補完するイメージです。人気スマホゲーム「ポケモンGO」などがARの代表例と言えます。
一方のVRは「Virtual Reality」の略で、日本語では「仮想現実」と呼ばれます。現実世界を起点としていたARとは異なり、VRは仮想現実を中心とした技術です。VRでは装着したヘッドセットを通して、立体的な映像を映し出すことができます。
ARとVRの複合形であるMRのスコープは広く、Microsoft社では完全な現実世界以外の世界をMRとして解釈しています。MRによって現実世界と仮想世界を融合させ、現実世界にバーチャルなホログラムをまるで実物のように表示させることが可能です。MRのデバイスとしては、Microsoft社のHoloLens 2などが使用されます。
Microsoft Meshとは何か
続いて、MRに関連するシステムである「Microsoft Mesh」について説明します。Microsoft Meshとは、クラウドサービスであるMicrosoft Azureを活用したMR技術のプラットフォームとして構想されており、今後さまざまな場面で活躍が期待される技術です。
Microsoft Meshによって、異なる場所にいる人々がさまざまなデバイス上でコラボレーションをしたり、バーチャルなホログラフィック体験を共有したりすることが可能です。つまり、別々の場所にいるため通常では交流できないような相手とも、Microsoft Meshを使うことによってまるで同じ空間にいるような共有体験を得ることができます。
また、Microsoft Azure上で展開されているため、Microsoft Azureが提供する堅牢なセキュリティやプライバシー機能を利用することができます。他にも、膨大なサーバ処理リソースやビッグデータ、AI技術などの他サービスとの相乗効果が期待できます。
Microsoft Meshの活用範囲は幅広く、自転車やジェットエンジンといったモバイル業界やスポーツスタジアムなどの施設に至るまで適用可能です。Microsoft Meshを活用するデザイナーやエンジニアは、どこからでも自分の3Dアバターを使って仮想空間に入ることができ、スタッフ間でホログラフィックモデルの共有ができます。例えば建築家であれば、ホログラフィックモデルを使って建築物の中を自身のアバターで回遊することも可能です。それにより、実際に建築現場にいなくても3D空間で細部まで建築物を確認できます。
Microsoft Meshで何ができるのか
異なる場所にいてもまるで1つの空間にいるようなMR体験ができるMicrosoft Mesh。では、具体的にどのようなことが実現できるのでしょうか。ここでは、Microsoft Meshによって実現が可能になる具体的な事例についてご紹介します。
離れた人と共同作業できる
Microsoft Meshを活用することで、物理的に離れた相手とも仮想空間上で共同作業ができます。それぞれ違う場所にいる人々が、自分自身の3Dアバターやホロポーテーションを通して、まるで現実世界で同じ空間にいるように情報のやり取りや協業ができるようになります。
これまでも電話やチャット、オンライン会議などを使ったリモートコミュニケーションは可能ではありました。しかし、それらはいずれも情報のやり取りを中心としたものであり、物理的な空間には隔たりがあるということが前提でした。
これに対しMicrosoft Meshでは、単なるリモートでの情報交換にとどまらず、空間においてもまるで現実世界で隣にいるかのような仮想空間を提供します。Microsoft Meshを応用すれば、これまで危険性が高く実施が難しかった調査も可能になるでしょう。例えば火山周辺の鉱山の調査は、火山噴火の危険から人員の派遣には大きなリスクが伴いました。しかし、Microsoft Meshを使うことで、物理的に離れた地点からでも精緻な調査が可能になるのです。
離れたところから専門的なトレーニングが受けられる
Microsoft Meshを利用できるようになれば、物理的に離れた場所からでも専門的なトレーニングを受けられます。離れた場所からの共同作業だけでなく、お互いに別な場所にいても、技術者から訓練生への直接的な技能伝達なども実現します。
例えば、農作について豊富なスキルや経験を持つ農業者が地方にいて、農業について学びたい都市部の学生がいるとしましょう。これまでは、都市部の学生が農業を学びたい際は、地方まで見学に出向く必要がありました。しかし、Microsoft Meshで現実と同様の仮想空間を実現できれば、遠く離れていても農業者から学生へ農業のノウハウを伝承できます。このように、属人化が進む職業に関して、未来の若者へ伝承するといったスキルトランスファーも促進できる効果が見込めます。他にも、外科手術や機器のメンテナンスなど、高度な専門技術のトレーニングでも遠隔地から受けられるため、習熟が難しい技術習得のサポートにも役立ちます。
MRを活用したオンライン会議が行える
Microsoft Meshは、オンライン会議にも活用できます。Microsoft社は、仮想空間上での会議や共同作業ができるサービス、「Mesh for Microsoft Teams」を発表しました。2022年の上半期にプレビュー版をリリースする予定とされています。
Teamsは、主にビジネスシーンで利用者間でのチャットやオンライン会議ができるクラウドサービスです。Teamsでは、会議参加時にカメラ機能をオン/オフどちらにするかを選択し、オンライン会議に自分の姿を映し出すかどうかを決められます。しかし、自分の姿を映し出すことに抵抗を感じる人もいるため、プライバシーの面で課題がありました。
それに対しMesh for Microsoft Teamsでは、自らの代わりとなるアバターを映し出せます。また、将来的には実際に相手が自分と同じ空間にいるかのようにホログラムを表示することも可能となる見込みです。物理的に離れていても同じ空間にいる感覚で、仕事上の課題に関してホログラムを一緒に見ながら会議を実施することが可能です。
開発者はMicrosoft MeshのWebサイトからSDKにアクセスでき、プラットフォームとデバイスを自由に選択して独自のアプリ開発を行えます。
MRで用いられるデバイスとは
MRには仮想空間を体験するためのゴーグル型のデバイスを使用するのが一般的です。代表的なデバイスはMicrosoft社のHoloLens 2ですが、そのほかOculusシリーズやiOS/Android搭載のスマホやタブレットもサポートしています。
HoloLens 2は、現実世界をベースとしながらも、バーチャルな映像や音声などを融合させた体験を得られます。HoloLensを装着した状態であれば、自宅の好きなところにWebブラウザやアプリを投影し、情報取集やビジネス、趣味などの時間を過ごせます。さらに、MR空間で構築した環境は、自分だけでなく他人との共有も図れます。例えば、自宅の部屋一面に趣味のキャラクターやアプリ、イラストを設置したとしましょう。その後、同じ趣味を持つ友人が自宅に訪問した際に、HoloLensを装着すれば同じ空間を体験できます。もちろん、HoloLensを装着していなければ通常の部屋のレイアウトのままです。つまり、物理的には同じ部屋でも、HoloLensを使うことで現実世界とMR空間の両方を使い分けられる、ということです。
まとめ
MRは現実世界と仮想世界を融合させる新技術です。Microsoft Azure上で駆動するMicrosoft Meshを利用すれば、HoloLens 2の装着で、離れていても同じ場所にいるようなバーチャル空間を体験できると期待されています。これによりあらゆるコミュニケーションは、劇的によい方向に変わっていくでしょう。