急速にIT技術が進化していく中、社会全体でDXへの取り組みも加速しています。そんな中で問題となるのが、古くなったシステムをどのように最新テクノロジーに合わせて最適化するかです。本記事では、古くなったシステムが抱えるさまざまなリスクへの対応策として、「ITモダナイゼーション」の概要やその手法について紹介します。
IT Modernization(モダナイゼーション)とは
そもそも、「ITモダナイゼーション」とはどのような意味でしょうか。
「モダナイゼーション」は「モダン(modern)」から派生した言葉で、日本語にすると主に「近代化」と訳されます。企業が長年使用し続けた古いシステム、いわゆる「レガシーシステム」は、企業の重要なデータを膨大に蓄える一方で、長年に渡る多くの仕様変更などによって複雑化し、使い勝手が悪くなっています。ITモダナイゼーションとは、このような古くて不便になったIT資産を最新技術に対応させて、近代化することを意味します。
より優れたシステムへの刷新は業務効率を高め、生産性の向上に寄与します。競合他社との競争に打ち勝ち、会社の安定した利益を守るためには、このITモダナイゼーションは非常に重要です。
ITモダナイゼーションが注目される背景
「最先端の技術を使うべき」とは、企業にとって当たり前の意見に思えるかもしれません。しかし、IT分野においてことさらモダナイゼーションの重要性が強調されるのには、いくつか理由があります。以下では、ITモダナイゼーションが注目されている背景について解説します。
IT技術の進歩
ITモダナイゼーションが注目される理由の1つとしては、「IT技術の進歩」が挙げられます。近年のIT技術の進歩は目覚ましく、特にコンピューターの情報処理能力や記憶容量は、以前と比べ物にならないほど飛躍的に向上しました。さらにはAI・IoT・ブロックチェーンなど、新たな技術も次々と実用化されており、一昔前と今とでは、システムを構築する際の前提条件が大きく異なっています。
このような状況にある中、レガシーシステムは最新のテクノロジーとの適合性が悪く、コストパフォーマンスも次第に落ちていきます。ITモダナイゼーションは、新旧のシステム間にあるこうしたギャップを埋め、より効率的で拡張性の高いシステムを構築するために必要なのです。
ビジネスモデルの変化
ITモダナイゼーションは、現代のビジネスモデルの変化に対応するうえでも大切です。近年では、グローバルな事業展開を見せる企業も増えてきています。そのような中、複雑で汎用性の低いレガシーシステムを使っていると、拠点ごとあるいは部門ごとに業務プロセスを分断してしまい、効率的なシステム連携を阻害する可能性があります。
また、従来は紙で行っていた業務においても急速なDX(デジタル化)が進む今、以前の社会状況や働き方を反映して作られたレガシーシステムは、それに対応できなくなってきています。とりわけ現在は新型コロナウイルスの流行を受けて、テレワークの導入が社会的に推奨されています。
しかしながら、オンプレミスな環境を想定して作られたレガシーシステムは、こうした状況にも適応していけません。
システムと現実とのギャップは、業務の遅滞を引き起こしかねず、それによって顧客の信頼低下を招く可能性すらあります。こうした事情から、レガシーシステムを刷新するITモダナイゼーションの重要性が叫ばれているのです。
レガシーシステムが抱える課題
レガシーシステムを無理に継続運用しようにも、今やさまざまな面で行き詰まりを見せています。先述したこと以外にも、例えばセキュリティ上の不安や、システムの古さゆえにノウハウを持ったエンジニアが少なく、IT人材の入れ替えとともにブラックボックス化してしまう懸念も抱えています。
しかしながら、日本ではこうしたレガシーシステムに関わる問題が、多くの企業で放置されているのが現状です。経済産業省はレガシーシステムの放置がもたらすリスクについて、次のように警鐘を鳴らしています。
避けては通れない2025年の崖
「2025年の崖」とは、経産省が2018年の「DXレポート」において提起した問題です。このレポートでは、2025年には21年以上稼働しているレガシーシステムが、日本におけるシステム全体の6割を占めると予想されています。
このシステム環境の遅れは、先に挙げた諸問題や国際競争力の低下を引き起こし、2025年以降、最大で年間12兆円もの経済損失をもたらすと推定されています。レガシーシステムの問題は、もはや日本経済の先行きにすら影響を与えるほど深刻化していることがわかります。
ITモダナイゼーションの手法
このように、レガシーシステムの放置は大きなリスクを孕んでいます。では、それを解決するITモダナイゼーションは、どのようにして成し遂げられるのでしょうか。以下ではITモダナイゼーションを実現する3つの手法について、簡単に解説していきます。
リプレース
「リプレース」とは、既存のレガシーシステムを丸ごと新規に再構築する手法を意味します。リプレースをする場合には、主に2つの可能性が考えられます。
まず1つは、一般に提供されている既存システムに移行することです。例えば、自社の運用に適した既存のシステムパッケージが存在する場合や、発送を逆転して新規システムに自社の業務プロセスを合わせる場合は、これが選択肢として考えられます。
もう1つは、自社に合わせた独自仕様の新規システムを一から構築するという選択です。この場合、自社のニーズを高いレベルで満たすシステムを作れる可能性が高いですが、その分、必要な経済的・時間的コストが大きくなります。
いずれにせよ、リプレースは大胆な業務プロセスの見直しを図りたいときに効果的なITモダナイゼーションと言えます。
リライト
「リライト」とは、レガシーシステムの古いプログラム言語を新しい言語に書き換える手法です。例えば、COBOLから将来性の高いオープン言語であるjavaへ書き換えることで、最新技術への対応をしやすくします。
リライトは、コストを抑えながら最新技術へ移行できる反面、言語を書き換える前のドキュメント管理が徹底されている必要があります。また、レガシーシステムの初期導入やカスタマイズに携わっていた技術者の協力が必要となる場合もあります。つまり、レガシーシステムが古ければ古いほど、適切なリライトの難易度は高くなるということです。
なお、リライトの場合は、基本的にプログラム言語を書き換えるだけになります。したがって、従来の業務プロセスを根本的に変えることにはつながりません。
リホスト
「リホスト」とは、エミュレーターなどを使って、サーバ・OS・ミドルウェアなどのみを刷新する手法です。具体的には、例えばWindowsのOS更新などが行われた際、新しいOS上でも既存システムを利用できるようにするためにリホストが使われます。
リホストは、主に既存システムをそのまま保存したい場合に適した手法ですが、それは一方で、最新技術への適合性の低さという問題を残すことも意味します。どちらかと言えば、OSのサポート切れなどに際して、レガシーシステムを延命するための対症療法的なモダナイゼーションと言えるでしょう。
最近では、システムをクラウド環境に置き換える方法も登場しています。上記のような弱点を抱えたリホストの場合、クラウド環境の利点を最大限に活用することは難しいですが、オンプレミスなシステムをクラウドに移行する方法としては、最も迅速かつ簡単な選択肢です。
まとめ
多くの企業でクラウドプラットフォームやサービスを活用することで、運用負担を軽減とともにインフラ環境の刷新を検討されています。特に、レガシーシステムが抱えるリスクを回避するためには、紹介した各手法による「システムの近代化」が欠かせません。
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ITインフラの見直しを検討されている方は、ぜひご確認ください。