クラウド運用を効果的に行うためには、専門領域の人材や設備などを適切に集約して取り組むことが大切です。CoEの中で、特にクラウド運用の成功を目指し組成されるチームを指して「クラウドCoE(CCoE)」と呼んでいます。この記事ではCCoEのあらましや、CCoEで重点的に取り組むべき内容ついて詳しく説明していきます。
そもそもCoEとは
CoEとは「Center of Excellence」の略で、特定の分野に関する高度な専門性を持った人材が集約されて、ビジネスの創出や人材育成などの拠点となっている組織やチームを指す言葉です。CoEは社内のあらゆるセクションに対して継続的にサポートや指導を行い、ビジネスの仕組みを整えていくような役割を担っています。組織の壁に制約されず横断的に活動して社内中の情報を集約し、そこから得られる知見をもってあらゆる組織に働きかけ、経営の効率化などを実現するために置かれるチームがCoEなのです。
クラウドCoEの原則
業務システムのクラウド化を推進することを目的として置かれるCoEが「クラウドCoE(CCoE)」です。CCoEの主要な役割の一つに、システムの状態に応じて使用サーバーの規模や能力を増強したり縮小したりする「スケーリング」があります。
クラウドサービスを使うメリットとして、必要に応じて使用サーバーの増減を行えるという点があります。クラウド利用では、システムに負荷がかかるときにはサーバーを増強し、必要がなくなればサーバーを減らすなどして、常に必要最小限のサーバーのみを稼働させることができるので、オンプレミスに比べコスト面で有利になります。
ビジネス上のニーズに応じて適切なクラウドリソースの配置や、利用モデルを提案し、コストパフォーマンスの最適化を図るためのチームがCCoEです。組織の最適化を図り変革を促すだけではなく、周囲の変化に合わせて自らも常に進化し続けていくというマインドがCCoEには原則として求められています。
クラウドCoEに求められる多方面とのコラボレーション
CCoEの活動においては、組織のあらゆる部門とコラボレーションすることが必要になります。その範囲はシステムやクラウドに関する技術的なものにとどまらず、ビジネスモデルの創出やマーケットの試算など幅広い分野にわたります。具体的なコラボレーションの例を紹介します。
クラウド導入
まずは、それまでのシステムをクラウドコンピューティングに置き換える「導入」に取り組むことになります。大規模システムを支えるITインフラには、ネットワークの確保、外部システムとの連係、基盤システムの整備、大容量データベースなどの要件が必要です。もちろん、そのすべてに信頼性の高さとレスポンスの良さが求められます。
この局面でCCoEが果たすべき役割は、各部門のエンジニアや社内外の技術者だけではなく、ビジネスに関わるあらゆる関係者と連係しながらシステムの仕様詳細や導入スケジュールなどを定め、各所に適切にフィードバックしナビゲーションを行うことです。事業とITインフラ構築のバランスを取るために、CCoEは事業そのものについても熟知しておく必要があります。
クラウド戦略
もちろん、システムに必要な機能や性能はビジネスの優先順位に応じて決められるものです。このシステムの要件決定をリードするのもCCoEの役目です。
まずは、ビジネスにおいてクラウドを導入する「動機」や目指すべき「成果」「目標」を割り出し、それを実現するために必要な「クラウド戦略」を早い段階で定義しておくことが重要です。そして、プロジェクトのあらゆる局面において、クラウド導入の取り組みがビジネスの優先度からかけ離れたものになっていないかどうか、常に両者を照らし合わせて整合性を検証し、調整を繰り返しながらバランスを維持することがCCoEの果たすべき役割となります。
クラウドガバナンス
システムを始めからクラウドサービス上に構築する「クラウドファースト」の動きも生まれていますが、クラウド利用ではオンプレミスに比べ、セキュリティ面の問題やユーザーのコンプライアンス違反などのリスクが高く、リスクを下げるためのルールが細かく決められる場合もあります。
しかし、行き過ぎたルールや規制は、クラウドを使用するメリットやユーザーの利便性を損ない、本来のビジネスに悪影響を及ぼすことにもなりかねません。ビジネスに限らず、すべての行動は本質的にリスクを伴うものです。「コスト」「リスク」「効率」「利便性」 の状況を把握して、リスクとリスクの許容範囲を見定めて、必要に応じて調整する「クラウドガバナンス」の確立もまたCCoEの重要な職務の一つです。
クラウドプラットフォーム
システムを作り上げる基盤となる「プラットフォーム」には、ビジネスを過不足なく行うのに十分な機能が求められます。プラットフォームをクラウドサービス上に構築する「クラウドプラットフォーム」を選択する場合ももちろん例外ではありません。
Microsoft AzureやAWSなど現代のクラウドプラットフォームサービスでは、多種多様な機能やサービスを備えたパッケージの提供が一般的です。こうしたパッケージにはアプリ開発・管理機能やセキュリティ機能はもちろん、信頼性のある堅牢なストレージや、自由度が高く汎用性のあるデータベースシステム、ユーザーに向けたコンテンツ配信機能など、オンラインで実現しうるあらゆるサービスが盛り込まれており、各社ともしのぎを削っています。これらを見定めるのもCCoEチームの主要な責務の一つです。
クラウド自動化
クラウドの導入や移行が完了し、システムが稼働を始めた後は、主要なオペレーションを自動化して、安定した運用を図ることが必要不可欠です。同時に、絶え間なく変化する状況に合わせたアップデートやアプリ改修も必要です。この2つを両立させるために、開発チーム(Development)と運用チーム(Operations)が協力してシステムの開発と運用を行う「DevOps(デブオプス)」という概念が生まれました。この体制のもとで、よりよいサービスや製品の提供を継続的に行うことがビジネスの目標となります。
専門のベンダーによって最新のアップデートや改修が行われた状態で常に提供されるクラウドサービスは、このDevOpsの思想と非常に相性がよく、画期的なイノベーションが促進されやすいというのもクラウド利用のメリットです。
ここでのCCoEの役割は、DevOpsの思想に基づいて、開発チームと運用チームの間を取り持ち、効果的な取り組みを見いだして実践していくことにあります。
クラウドCoE導入における注意点
クラウドシステムの稼働が始まった後にCCoEとして必ずやっておきたいことが「バックログ」の作成です。バックログとは開発において、着手できなかったり完成に至らなかったりした積み残し事案を表す言葉です。クラウド運用でも積み残しの開発事案はもちろん、将来的に必要になると想定される事柄や達成目標などの課題を「バックログ」として明確にリストアップし、現時点での優先度をつけておくことが重要です。このバックログのリストは、事業の将来性を見極めたり、必要なサービスやベンダーを選定したりするための非常に有効な判断材料になるため、具体的な内容として残しておくことが望まれます。
まとめ
現代では、自社のみで独自にシステムを作り上げて管理するのではなく、クラウドサービス上に業務システムを構築することが一般的になっています。多彩で柔軟性に富むサービスが次々と提供されるのがクラウドの魅力です。クラウド運用を成功させるためには、頭脳集団「CCoE」を編成して集約的に取り組むことが大切です。