「Azure Stack HCIとはどんなサービスだろう」「ハイブリッドクラウド実現の1つの手法になるかな」
当記事をお読みの方は、上記の考えをお持ちではないでしょうか。
当記事ではAzure Stack HCIの基本概念、メリット、デメリットを解説します。それだけにとどまらず、料金体系や構築方法、類似サービスとの比較についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
Azure Stack HCIの基本概念
Azure Stack HCIを一言で説明すると、AzureのHCIサービスです。まずはHCIについて解説し、その後Azure Stack HCIや関連キーワードについて解説します。
Azureに関しては、以下の記事で詳しく解説しています。本記事と併せてご覧ください。
Microsoft Azureとは|何ができる?入門内容からわかりやすく解説
HCIとは?
HCIとはハイパーコンバージドインフラストラクチャの略称です。インフラストラクチャ(以下、インフラ)はCPU、ストレージ、ネットワークなどのことを指します。HCIは複数のインフラを統合(コンバージド)して、1つのインフラとして利用する技術です。
HCIにすることで複数あるインフラを1つの基盤として扱えるため、設定や管理、運用を楽に実施できるようになります。HCIの他のメリットは、スケーラビリティや可用性の向上につながることです。
インフラの台数を増やせば、HCIとしてさらに高性能なシステムを構築できます。また物理的に離れた位置にあるインフラでもHCIにできるため、災害や停電時にも遠い場所にあるインフラが稼働していればシステム全断の回避が可能です。
Azure Stack HCIとは
Azure Stack HCIとは、Azureが提供するHCIサービスです。オンプレミス環境にあるインフラと、Azureクラウドで提供されているインフラをHCI化できます。Azure上のインフラとHCI化することで、多くのメリットを享受できるでしょう。
オンプレミス環境だけで運用しているシステムをクラウドへ移行することは、多くの企業が行っています。しかし、クラウド移行するためには多くのハードルがあり、移行の実現が難しい企業も少なくありません。例えば、利用しているインフラのバージョンが古いために、クラウド上で互換性があるインフラを用意できないケースが考えられます。
このサービスを利用すれば、古いシステムの古いバージョンを継続し、かつクラウド化による冗長性や可用性の向上が実現可能です。
Azure Stack HCI OSとは
Azure Stack HCI OSは、Azure Stack HCIで利用できる専用のOSです。HCIを1つのインフラとして扱うために利用し、オンプレミス環境のシステムを管理しやすくなります。
利用するためには、HCI化する各サーバーにインストールが必要です。HCI化したサーバー群をクラスターと呼び、クラスター単位で管理できます。クラスターを構成する際にはいずれかのインフラにWindows Admin Centerをインストールし、クラスターを管理することで、HCIを実現しています。
Azure Stack HCI OSは各サーバーにインストールして、クラスター化を実現するためのOSです。
Azure Stack HCIを利用するメリット
以下のメリットがあります。
- HCI化による運用や管理が簡略化される
- オンプレミス環境でAzureサービスを利用できる
- システムの冗長性や拡張性を高められる
- 古いOS上のシステムを延命できる
HCI化による運用や管理が簡略化される
このサービスでインフラをHCI化することで、運用や管理が簡略化されるメリットがあります。
複数のインフラがある場合、運用や管理にはインフラの台数分だけ負担が大きくなります。例えば、各サーバーにインストールされているOSやソフトウェアのアップデートが必要です。またネットワークの疎通確認やCPU、メモリの利用状況など監視する項目もインフラの台数分だけ増えることになります。
しかしHCI化をすれば1つのインフラとして扱えます。複数のインフラに対して必要だった管理や監視・運用が1台分ですむため、運用部隊の負担削減が可能です。
オンプレミス環境でAzureサービスを利用できる
オンプレミス環境でAzureのサービスを利用できるという点もメリットです。
例として、オンプレミス環境のストレージにデータが保存され、Azure Functionsでデータを処理するケースを考えてみましょう。データの処理をAzure Functionsが実施する場合は、Azure基盤との通信経路が必要です。また、オンプレミスとクラウド間でのデータ送受信に時間がかかります。
しかし、このサービスを利用してオンプレミス環境でAzure Functionsを利用する場合、オンプレミスの閉域網内でデータ処理が可能です。またオンプレミス内でデータ処理をするため、データ送受信にかかる時間も短縮できます。
このサービスを用いれば、Azureのサービスをオンプレミス環境で利用可能です。
システムの冗長性や拡張性を高められる
システムの冗長性や拡張性を高められるメリットがあります。
HCIによりクラスター化したサーバー上で動作するシステムの場合、サーバーが1台残っていればシステム自体が止まることにはなりません(性能が下がります)。Azure上のインフラとクラスター化をしておくことで、オンプレミスとAzureのデータセンターの複数箇所にインフラの配置が可能になります。よってシステムの冗長性を高めることができるのです。
また、クラスター化するインフラの台数をAzure側で増やすことで、容易に性能の拡張性を高められます。オンプレミス環境のインフラ増設よりは、はるかにハードルが低いでしょう。このため、システムの性能拡張性も高まります。
古いシステムを延命できる
古いシステムの寿命を伸ばすことも可能です。
古いシステムを抱えているために、OSやハードウェアのアップグレードや移行を実施できないケースがあります。このサービスを用いれば、古いシステムが載っている既存ハードウェアのHCI化が可能です。HCI化することで、パフォーマンスやセキュリティの強化ができます。
最終的にはマイグレーションなどが必要になりますが、それまでのつなぎとして利用してみてはいかがでしょうか。
Azure Stack HCIを利用するデメリット
以下のデメリットがあります。
- 通常のAzure利用より初期コストが高い
- Microsoftサービスへの依存度が高まる
- 使いこなすための習熟が必要
- アップデートやセキュリティリスクは自社の責任
通常のAzure利用より初期コストが高い
初期コストは、AzureのIaaSやPaaSを利用するより高くなります。
Azureの仮想マシンやネットワーク、データベースなどの大半のサービスは従量課金のサービスであり、初期費用は不要です。しかし、このサービスはオンプレミス環境の準備が必要となります。オンプレミスで運用中のインフラでもカスタマイズが必要なため、Azureの他のサービスと比べて入り口のハードルが高いことがデメリットです。
Microsoftサービスへの依存度が高まる
Microsoftサービスへの依存度が高まるというデメリットがあります。オンプレミスのインフラをAzure(Microsoft)と連携させることになるためです。
依存度が高いことは必ずしも悪いことではありません。しかし、Microsoftサービス以外のサービスの不具合や移行時の負担になる可能性があります。依存度が高くなることで、Microsoft側でトラブルがあった際のダメージが大きくなることは頭に入れておきましょう。
使いこなすための習熟が必要
使いこなすためにスキルが必要となるデメリットがあります。
どんなサービスでも習熟は必要です。しかしAzure Stack HCIは、オンプレミス環境との連携や専用OSなど当サービスに特化した設定、知識を必要とします。
先述した「通常のAzure利用より初期コストが高い」にも関連しますが、他のサービスと比べてスキル獲得のために必要なコストがかかることも考えておくべきです。
アップデートやセキュリティリスクは自社の責任
アップデートやセキュリティリスクの一部管轄が自社となるというデメリットがあります。
クラウドサービスの場合、利用するサービスよりも下のレイヤーではアップデート、メンテナンス、セキュリティの管轄はクラウド事業者となることが一般的です。しかし、このサービスには当てはまらない部分があります。オンプレミスのインフラに対するアップデート、メンテナンス、セキュリティの管轄が自社になるためです。連携しているAzureのインフラはMicrosoftの管轄となります。
このため、HCI化されてもMicrosoftに管理を一任できないので、Azureの他のサービスよりも自社の責任範囲が広くなってしまいます。
Azure Stack HCIの料金体系
Azure Stack HCIの従量課金は、HCI化するオンプレミスのサーバーのコア数で決まります。
インスタンス | タイミング | 料金 | Azure ハイブリッド 特典付きの価格 |
Azure Stack HCI | 月単位のサービス料金 | 1,480円/物理コア/月 | 0円/物理コア/月 |
ホストサービス料金は、オンプレミスにあるサーバーのコア数に比例して料金が発生します。またアドオンワークロードは、オンプレミスサーバーにWindowsをインストールした場合に発生する料金です。アドオンワークロードは利用しない選択もできます。
また、それぞれ最初の60日間は無料試用版を利用できるため、利用を開始してから60日間は料金がかかりません。
加えて、このサービスで利用するAzure基盤側のインフラが必要です。カタログから購入してください。
Azure Stack HCIの構築手順
構築例を、以下の手順で解説します。
- 事前準備
- クラスターを作成する
- Azureに登録
事前準備
事前準備として、以下を用意してください。
- オンプレミス、Azure側のインフラを揃える
- 各サーバーでAdministratorsグループのユーザー
- オンプレミスのActive Directoryドメインコントローラー
- Azureサブスクリプション
- 管理用パソコンにWindows Admin Centerをインストールし、Azureに登録
注意点として、Active Directoryはオンプレミスのものが必須です。AAD(Azure Active Directory)は利用できません。
クラスターを作成する
次に、オンプレミスやAzure上のインフラをHCI化するに当たって、クラスター化をします。
- Windows Admin Center→「すべての接続」配下の「追加」を選択
- 「リソースの追加」上の「Windows Server cluster」→「Create new」を選択
- 「Choose cluster type」→Azure Stack HCI」を選択
- 「Select server locations」→「All servers in one site」を選択
- 「作成」を選択、作成ウィザードが表示される
作成ウィザードでは、ネットワークやストレージ、クラスタリングの設定を実施します。
クラスター作成後は、Windows Admin Centerの「すべての接続」でクラスター化されたインフラが追加されています。必要に応じてインフラを追加してください。
Azureに登録
作成したクラスターをAzureに登録することで、運用を開始できます。手順は以下の通りです。
- Windows Admin Centerで「Cluster Manager」を選択
- 「クラスター接続」で登録するクラスターを選択
- 「Azure Arc」で、Azure Stack HCI登録とArc対応サーバーが接続済みとなっていることを確認
登録されていない場合は「Azure Stack HCIの登録」で「登録」に進んでください。
Azure Stack HCIの類似サービスとの比較
Azure Stack HCIには類似サービスがあります。それぞれとの比較を解説します。
- Azure Stack Hubとの違い
- Hyper-Vとの違い
Azure Stack HCIとAzure Stack Hubの違い
Azure Stack HCIとAzure Stack Hubの違いは、インフラの構成です。
Azure Stack HCIの場合は、オンプレミス環境とAzure基盤環境を統合することで実現されます。一方でAzure Stack Hubは、Azureとして利用できるインフラを提供されるサービスです。
VMはもちろん、PaaSやResource Managerなども含めたAzureのさまざまなサービスをオンプレミス環境で運用できるようになります。ただし、費用が高額になりやすく、セキュリティなどの運用を自社で責任を負うことがデメリットです。
Azure Stack Hubは、「Azureと共有したくないデータがあるが、Azureのサービスを利用して処理をしたい」といったケースの際に利用を検討しましょう。
Azure Stack HCIとHyper-Vの違い
Azure Stack HCIとHyper-Vは、利用目的が異なる仮想化技術です。
Azure Stack HCIは、オンプレミス環境とAzure環境によるハイブリッド環境を構成するための1つの技術といえます。一方でHyper-Vは、ハイパーバイザーベースの仮想化プラットフォームであり、あくまでVMを作れる環境を提供する技術です。
両者が共通するポイントは、Microsoftが提供する仮想化技術であることです。このため、似ているサービスとして扱われることがありますが、利用する目的が異なるので覚えておきましょう。
Azure Stack HCIはオンプレミスとAzure基盤のHCIの1種、Hyper-VはVMを作れるハイパーバイザーの1種です。
まとめ
Azure Stack HCIは、オンプレミス環境とAzure基盤でHCIを構成し、ハイブリッドクラウドを実現する技術です。
オンプレミス環境から単にAzure環境へ移行する場合と比較して、メリット・デメリットがあります。しかし、「オンプレミス環境の利用を継続しつつ、Azureの利用も進めていきたい」と考えるユーザーにはぴったりのサービスです。本記事を参考に、ハイブリッドクラウドの実現を目指しましょう。