「Azure NetApp Files(ANF)」は、Microsoft Azure上で提供されているクラウドサービスです。クラウドサービスでありながらオンプレミスと同レベルの性能を有し、管理・運用の手間がかからないことから、使い勝手のよいサービスとして知られています。本記事では、ANFの特長やメリットをご紹介します。
Azure NetApp Files(ANF)とは
「Azure NetApp Files(ANF)」は、Microsoftのクラウドサービス「Microsoft Azure」上で提供されているストレージサービスです。NetAppのストレージサービスは「ONTAP」と呼ばれるストレージOSを基盤としており、Azure NetApp Filesでも同様に、このONTAPを用いたストレージをAzure上で活用します。これにより、オンプレミス用のNetAppストレージとの高い互換性や、オンプレミスと同等の高いパフォーマンスを実現しながら、サーバーの構築から運用のトラブル対応、セキュリティの監視まで、フルマネージドストレージサービスとして展開しています。
情報データを保管するストレージ選びは、企業の競争力をも左右する重要な決定事項です。テレワークのためのAVDやVDI、SAPのクラウド移行、Oracleを活用したアプリケーションのクラウド化など、多くの企業がオンプレミスからクラウドへの移行に踏み切る中、オンプレミスと同様の性能が保証されている点はANFの強みといえるでしょう。
Azure NetApp Filesのシステム構造
ANFの最上部にはAzureサブスクリプションがあり、その下位にNetAppのアカウントが設置されます。NetAppのアカウントを作成したら、それに紐づく「容量プール」を作成します。容量プールの最小単位は4TiBです。
容量プールから、さらに「ボリューム」というものを切り出していきます。このボリュームが、ユーザーに提供されるストレージのサイズかつANFの最小利用単位であり、100GiBから利用することが可能です。
Azure NetApp Files誕生の背景
NetAppは、高性能なオンプレミス用のストレージサービスを多く提供している大手ストレージベンダーのひとつです。NetAppとMicrosoftは、もともと20年以上にわたりパートナーシップを結んで協業してきた実績があります。
ANFは、「クラウド上でもオンプレミスと遜色ない高パフォーマンスのストレージサービスが欲しい」という顧客の声をもとにローンチされました。25年間で30万社への導入実績があるNetAppのストレージOSを、Azureのファシリティ上に実装してユーザーが利用できるようにしたソリューションです。Azureのネイティブファイルサービスとして提供されるため、ユーザーはPaaSのような感覚でNetAppのストレージを利用できます。
性能的にはSMBのほか、NFSプロトコルの採用やActive Directoryとの連携、アクセス管理、暗号化、高可用性機能、スナップショット機能など様々な機能を備えているのが特長です。
これまでオンプレミス でNetAppのストレージを利用してきたユーザーにとっては、従来と同じアプリケーションや運用方法などをそのままAzureにも持ち込めるので、ハイブリッドクラウドやマイグレーションといったシステム構成が容易になるでしょう。
Azure NetApp Filesの3つの特長
数あるストレージサービスと比較して、ANFにはどのような特徴があるのでしょうか。ここからは、「高パフォーマンス」「ストレージ管理が簡単」「確実に移行・実行できる」というANFの3つの強みについて、詳しく解説していきます。
高パフォーマンス
ANFは業界トップレベルといえるNetAppの高性能テクノロジーを活用し、Azureで最も要求の厳しいLinuxやWindowsのアプリケーション、複数のファイルアクセスプロトコルをサポートすることが可能です。
さらにHPCやSAP S/4 HANA、LOBアプリケーション、AVS、AVD、ハイパフォーマンスのファイル共有など、複雑なエンタープライズワークロードに対して、ベアメタルのパフォーマンスとわずかミリ秒の待機時間、統合データ管理を実現します。
たとえばANFを導入すれば、パフォーマンスの低下が懸念されるVDI環境も快適に利用することができます。近年では、働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、テレワークを導入する企業が多くなる一方、VDIのパフォーマンスが低いために業務効率が上がらないという声も聞かれます。ANFは、I/Oストームが発生する状況下でもサイジングを大幅に変更できるため、ストレスなくVDI環境を維持することが可能です。
ストレージ管理が簡単
ANFではストレージの管理が簡単です。使い慣れたAzure portal エクスペリエンスやCLI、PowerShell、REST APIなどを使用でき、数分程度で設定が完了するため、シームレスな管理を可能にします。
またNFSv3やNFSv4.1、SMB3.1など、1つのサービスに複数のファイルストレージプロトコルがサポートされており、様々なアプリケーションのリフトアンドシフトを実現します。その際、コードを変更する必要はありません。
ANFには「Standard」「Premium」「Ultra」という、3種類のパフォーマンスレベルが用意されています。いずれも簡単なクリック操作でプロビジョニングできる柔軟性の高さが特長です。
確実に移行し実行できる
パフォーマンス集中型のファイルワークロードは、待機時間の影響を受けやすく、クラウドで実行するのが困難な場合があります。しかしANFなら、基幹業務やストレージの担当者はコードを変更することなく、複雑なファイルベースのアプリケーションを簡単に移行することが可能です。
ANFには保存時のFIPS140-2準拠のデータ暗号化や、ロールベースのアクセス制御、Active Directory認証、ネットワークベースのアクセス制御リストといった機能があり、セキュリティにも優れています。
さらに、HIPPAやGDPRといった業界をリードする認定に準拠しており、はじめから99.99%の可用性が提供されるため、産業用アプリケーションをAzureで確実に移行・実行できるでしょう。
Azure NetApp Filesのメリット
ANFを導入する一番のメリットは、運用・管理の手間がかからないことです。
オンプレミスの場合、ハードウェアの運用やOSのアップグレード、チューニングなどをユーザー自らが行う必要があります。それに対し、フルマネージドのクラウドサービスであるANFは、管理・運用が不要なため、ストレージの専任者を設ける必要もありません。これまで運用や管理にかけていた時間と工数を有効に使えれば、DXの推進やアプリケーションの開発など、より付加価値の高い業務に集中できるでしょう。
このほかにも、「SAP S/4 HANAを正式にサポートできる」「大規模なSAPシステムも高性能で稼働できる」「バックアップシステムが充実している」といったメリットがあります。
Azure NetApp Filesの価格について
ANFの価格(東日本リージョン)は先述した通り、パフォーマンスのレベルによって3種類あります。
【Standard】
- 料金:¥ 19.78592 /GiB/月
- スループット:1TiBあたり16MiB/秒(主要HDDに匹敵)
- 用途:静的Webコンテンツ、ファイル共有、データベースのバックアップ
【Premium】
- 料金:¥ 39.49008 /GiB/月
- スループット:1TiBあたり64MiB/秒(主要SSDに匹敵)
- 用途:データベース、SAPなどのエンタープライズアプリケーション、分析、エンジニアリングアプリケーション、メッセージキュー
【Ultra】
- 料金:¥ 52.7352 /GiB/月
- スループット:1TiBあたり128MiB/秒(フラッシュアレイに匹敵)
- 用途:非常に高いパフォーマンスやスループットが要求されるアプリケーション、ハイパフォーマンスコンピューティング
ANFでは、プロビジョニングされたストレージの容量に応じて課金されます。プロビジョニングされる容量は、容量プールを作成することで割り当てられ、容量プールはGiB/月あたりの料金に基づき1時間単位で課金される仕組みです。システム構造の項目でご説明した通り、容量プールの最小サイズは4TiBです。ユーザーは4TiB以上の容量をプロビジョニングしたあと、1TiBずつ容量を追加していくことができます。
まとめ
フルマネージドのクラウドストレージ「Azure NetApp Files」は、オンプレミスと同等のパフォーマンスを誇ります。データやアクセスの量に合わせて柔軟にサイジングを変更することで、利用料金の最適化が可能です。これからクラウドストレージの導入をお考えの方は、ぜひ活用を検討してみてはいかがでしょうか。