製造業や建築業、都市開発プロジェクトなどで注目されているAzure Digital Twinsというサービスをご存じでしょうか?
AI(人工知能)やVR(仮想現実)の技術を応用した、デジタルツインを作成するために、このAzure Digital Twinsを使います。
本記事では、Azure Digital Twinsについて名前は知っているけれどどのようなサービスか分からない、活用方法が分からないという方向けに、Azure Digital Twinsの概要を解説します。
製造や建築、農業、都市開発、ロケット、ロボット開発といった業界に関わる方はぜひご覧ください。
Azure Digital Twinsとは
Azure Digital Twinsは、Azure上でデジタルツインを実現するためのサービスです。
リアルタイムのデータ収集や建設、製造現場での作業効率改善、災害対策などさまざまな場面で活用されています。
まずは、Azure Digital Twinsとはなにかについて詳しく解説します。
デジタルツインとは
Azure Digital Twinsは、デジタルツインの技術を活用したサービスです。
デジタルツインとは、現実世界から収集したさまざまなデータをコンピュータ上で実現するための技術を指します。IotやVR(仮想空間)の技術を応用して、仮想空間上でAIが分析やシミュレーションを実施できるということで注目を集めています。
「現実世界」と「コンピュータ上」で双子のように、同じものを再現する技術であるため「デジタルツイン」という名前が採用されています。
デジタルツイン技術の活用シーン
現実と仮想空間に同じものを作り出すデジタルツインの技術は、さまざまなシーンで活用されています。実際にどのように使用されているのか、主な活用シーンを3つ紹介します。
リアルタイムデータを使った分析や未来予測
デジタルツインを利用し、センサーからのリアルタイムデータを統合し、現在の状態を正確に反映できます。
これにより、パフォーマンスの分析や、将来の動向の予測が可能です。例えば、エネルギーシステムの最適化、トラフィックフローの管理、生産ラインの効率化など、さまざまなシナリオで実用化されています。
仮説検証やシミュレーションを行う
デジタルツインは、新しいアイデアや戦略の仮説検証に役立つ技術です。実際の案件の実施や変更を行う前に、デジタル環境でシミュレーションを行うことで、案件のより精緻なリスク管理が可能となります。この技術は、新しい製品の設計、工程の改善、災害対策計画などに使用されています。
ロボットや機械の遠隔監視
デジタルツインは、ロボットや機械の遠隔監視にも活用されます。実際の装置のデジタルツインを作成し、その状態や動作をリアルタイムで追跡することで、メンテナンスの時期を予測し、ダウンタイムの削減が可能です。これは、製造業、物流、さらには宇宙探査などの分野で注目されています。
デジタルツイン技術を活用している業界・分野
デジタルツインの技術は、主に以下の業界・分野で活用されています。
- 製造業
- 建設業
- 都市開発
- 農業
- 災害対策
それぞれの分野で実際にどのように活用されているのか解説します。
製造業でのデジタルツインの活用
製造現場の業務効率化・重大事故の防止
仮想空間上で製造現場を再現し、人や機械、ロボットの動きを詳細に把握・分析する仕組みを作るためデジタルツインが使用されています。
生産性の高い工場では、どのような点が優れているのかなどを遠隔地でも分析可能です。作業効率改善や品質管理、重大事故防止にも役立てられています。
作業指導の教材として活用
未経験者が作業にあたる場合、作業手順がわからず、危険個所も十分に把握できていないため、事故が発生する可能性があります。デジタルツインの技術を使えば、実際の機器に触る前に、仮想空間上に作成した現場の作業スペースでシミュレーションできます。このように、デジタルツインは新人教育にも活用できるでしょう。
データの一元管理
製造ラインをデジタル空間で実現し、どの製品にどの部品・どのロット(材料)を使用したのか、細かく把握するシステムを構築可能です。生産ラインのデータを一元管理し、部門間の連携強化を目的とした活用事例もあります。
建設業でのデジタルツインの活用
資材調達の効率化
クラウド上に蓄積したデータを分析して、調達する材料の種類、数量、発注のタイミングを最適化する用途でもデジタルツインが活用されています。資材調達の見積もりを自動化でき、調達業務の効率化を実現しています。
設計シミュレーション
3Dモデルを使った設計にも活用されています。遠隔地で共有しながら設計を行い、業務の効率化や耐震耐熱性能などのシミュレーションにも利用可能です。
施工後の建物・設備のリスク予測
施工設備の災害や倒壊リスクを分析、アフターサービスにも活用されています。
都市開発でのデジタルツインの活用
デジタルツインを使ってビル、学校、公園、道路を3D化できます。設計に使うだけでなく、交通量、人の流れ、環境のシミュレーションでの活用事例もあります。
農業でのデジタルツインの活用
農作物の栽培環境を画面上で再現し、栽培シミュレーションが可能です。
栽培指導に使ったり、仮想空間上で、冷暖房のシミュレーションや病害虫診断も行われています。
災害対策でのデジタルツインの活用
災害発生時の被害予測にもデジタルツインが活用されています。被害予測だけでなく、災害発生時の対応シミュレーションも可能です。
Azure Digital Twinsの主な機能
ここまで詳しく解説してきたデジタルツインをAzure上で実現するためのサービスが、Azure Digital Twinsです。ここからは、Azure Digital Twinsにどのような機能が実装されているのか深堀りしていきます。
モデルの機能を使ってデジタルツインを定義する
Microsoft公式より画像引用
モデルは画像のようなJSON形式と呼ばれる形式で表記します。
このモデルを使って、現実世界の人や車といった実体のある「もの」を生成します。
あらかじめ定義したモデルを組み合わせて、仮想空間上にデジタルツインを作成するため、適切にモデルを定義することが重要となります。
Azure Digital Twins Explorerでモデルの操作や連携データの可視化
Azure Digital Twins Explorerは、モデルを組み合わせたデジタルツインを視覚化し、実際に動かすための機能です。
この機能を使って、デジタルツインの構造を確認、編集できます。
Iotデバイスとの接続
Azure Digital Twinsでは、IoT(Internet of Things)デバイスとの接続が重要な機能です。
この機能により、センサーや機器などのデバイスからデータを直接収集し、デジタルツインに統合できます。これによって、デバイスが実際に収集したリアルタイムのデータをもとに、デジタルツインを常に最新の状態に保つことが可能になります。このプロセスは、遠隔監視、パフォーマンスの追跡、および予測メンテナンスなど、多くの用途で非常に有用です。
収集したデータをストレージなどに出力
Azure Digital Twinsでは、収集したデータを安全にストレージに保存し、出力する機能があります。
これにより、データは長期間にわたって安全に保管され、後で分析やレポート作成のためにアクセスできます。ユーザーはこれらのデータを使って、パフォーマンスの傾向を分析したり、将来の予測を立てたりすることが可能です。
Azure Digital Twinsの料金体系
Azure Digital Twinsについて、AIや3D技術といった高度な技術を使うためサービスの利用料は高額になるのではないかと考えている方もいるのではないでしょうか。
Azure Digital Twinsは、初期費用がかからずシンプルな料金体系となっています。ここからはその料金体系について詳しく解説していきます。
料金 | |
メッセージ | 100万 メッセージあたり ¥224.408 |
操作 | 100万操作あたり¥538.578 |
クエリ ユニット | 100万クエリ ユニットあたり ¥104.724 |
金額は公式HP参照 ※2023年11月時点、東日本リージョンで使用した時の金額です。
料金プランの概要
Azure Digital Twinsを使うとき、初めにかかる費用や解約時の手数料は必要ありません。そして、利用料は、実際に使った分だけ支払う従量課金制です。
料金体系には「操作」「メッセージ」「クエリユニット」の3つのカテゴリーがあり、これらの使用量に基づいて料金が決まります。毎月の請求は、その月に使った操作、メッセージ、クエリユニットの量に応じて行われます。
Azure Digital Twins用のインスタンスを作成すると、そのインスタンス自体の運用費は発生しますが、操作などを行っていないため、Azure Digital Twinsに対しての費用は、発生しません。1度お試しで利用してみたいという方も、料金を気にすることなく環境構築ができるでしょう。
操作
Azure Digital Twinsを他のAzureサービスや他社サービスと連携する場合、APIを設定してAPIを呼び出すことでデータのやり取りが可能です。
このデータのやり取りは、「操作」カテゴリーに分類されており、データを送って返答があった場合、往復分で2回の操作とカウントされます。
メッセージ
Event Grid:サービス使用中にエラーが起きたり、警告が発生した場合にメッセージを送る機能。
Event Hubs:データ ストリーミング サービス。
Service Bus:アプリとサービスを相互に分離するためのメッセージキューサービス。
Azure Digital Twinsから上記のAzureサービスなどにメッセージが送られるごとに料金が発生します。
エラーが起きて、Event Gridで管理者にメッセージを送り、Service Busを介して他のアプリに設備にアラートを知らせるメッセージを送るという動作が起こった場合は、メッセージ2回としてカウントされます。
クエリユニット
モデルを組み合わせたツイングラフを呼び出すときに、クエリの実行を行います。クエリを実行すると、ツイングラフの情報量に合わせてクエリ ユニット (QU)が発生します。
基本的に、情報量が多いほどクエリユニットが大きくなり、このクエリユニットに応じて料金がかかります。
チュートリアル:AzureポータルでAzure Digital Twinsを構築
Azure Digital Twinsは、デジタルツインの構築と管理を容易にするツールです。このチュートリアルでは、Azureポータルを使用してAzure Digital Twinsをセットアップする方法を紹介します。
Azure Digital Twins用のVMを作成する
- Azureポータルにアクセスし、アカウントでログインします。
- VM(仮想マシン)の作成
「リソースの作成」を選択し、「コンピューティング」カテゴリから「仮想マシン」を選択します。 - 必要な設定(リージョン、仮想マシンのサイズ、OSの種類など)を行います。
- ネットワーク設定: 仮想マシンのネットワーク設定を適切に構成します。パブリックIPアドレスとセキュリティグループの設定を行います。
- リソースの確認と作成
入力した設定を確認し、「作成」をクリックしてVMをデプロイします。
Azure Digital Twins Explorerを開く
- Azure Digital Twinsインスタンスの作成
Azureポータルで「リソースの作成」を選択し、「Azure Digital Twins」を検索して選択します。必要な設定を行い、「作成」をクリックします。 - Azure Digital Twinsインスタンスが作成されたら、リソースにアクセスし、「Azure Digital Twins Explorer」を選択します。
- Explorerでは、デジタルツインのモデルを作成、編集、視覚化することができます。モデルを作成して、実際のオブジェクトやプロセスをデジタル空間にマッピングします。
- Explorerを使用して、IoTデバイスや他のデータソースからのデータをデジタルツインに統合します。
上記のステップで、Azure Digital Twinsを使用したデジタルツインの構築が行えます。
実践!Azure Digital Twins事例
Azure Digital Twinsを使って、業務を行った企業の活用事例を3選紹介します。
川崎重工の事例
製造業でのAzure Digital Twinsの先行事例の1つ川崎重工の事例を紹介します。
川崎重工は、製造工程のクラウド/IoT基盤にMicrosoft Azureを導入しています。まずは、Azure IoTやAzure PerceptといったIotを活用するためのサービスを導入しました。そして、過去から未来にわたる製造ラインの動作状態を把握するために、Azure Digital Twinsを活用しています。
動作状況を把握することで、遠隔地からでも故障やトラブルの原因を特定し、異常の早期発見、早期解決に役立てています。
参考:impress
AB InBevの事例
続いて、世界トップクラスのビール会社「AB InBev」のAzure Digital Twins活用事例を紹介します。AB InBevは、製造過程において、原料の調達から醸造所の工程、販売までの流れを一元管理する包括的なデジタルモデルを作成しました。
醸造工程では、原料の状態が重要となりますが、原料の状態や収穫状況は日々変化します。
Azure Digital Twinsで、醸造のリアルタイムデータを可視化できるため、状況に合わせた原料の選定や使用量などの判断が可能になっています。
現場作業員も、品質や生産履歴情報の確認が容易になり業務効率化に役立てられています。
参考:Microsoft
Itronの事例
最後に、エネルギーと水に対するリテラシーの向上、省エネ・節水の促進と環境問題に取り組むItronの事例を紹介します。
Itronは、Azure Digital Twins を活用して、ロサンゼルスのダウンタウン地区における建築資材、インフラ、さまざまなセンサーなどのデジタルツインを作成しました。
ユーザーは、頭につけるタイプのホログラフィックコンピューター「Microsoft HoloLens 」を使用して、仮想的にセンサーを設置し、屋根の材質や交通パターンなどの変更、植樹などができます。この仮想空間上のシミュレーションによって、あらかじめ作成していた環境ですべての人、車、学校、建物にどのような影響があるか確認が可能になります。
参考:Microsoft
まとめ
Azure Digital Twinsは、現実世界の人や物、道路などを仮想空間で表現するデジタルツインを作成するためのサービスです。設計や設備の監視、設備メンテナンスだけでなく、作業指導のための教材としても利用可能なため幅広い分野での活用が期待できます。
デジタルツイン自体が比較的新しい技術となるため、どのように活用できるか具体的なイメージを持てるように活用事例もあわせて紹介しました。
今回紹介した事例の中で、自社で活用できるものがあれば、Azure Digital Twinsの利用をご検討ください。