Azure AI Studioは、初心者から上級者まで幅広い層の開発者がAIモデルを簡単に作成、トレーニング、デプロイできる強力なプラットフォームです。AI開発に関する知識や設備がなくてもAI開発が可能となるため、ビジネスプロセスの自動化や最適化を促進します。
本記事では、Azure AI Studioの基本的な使い方、機能、料金、デプロイ手順などについて詳しく解説します。
Azure AI Studioとは?基本概要を解説
Azure AI Studioは、Microsoftが提供するAI開発プラットフォームで、さまざまなAIモデルの開発、トレーニング、デプロイを行うためのツール群を統合しています。導入により、自社のアプリケーションにAIを組み込み、ビジネスプロセスを効率化することが可能です。
まずは、基本的な概要から解説します。
Azure AI Studioとは何ができるのか?
Azure AI Studioでは、開発者がAIソリューションをスムーズに開発・導入できるよう、多くの機能が備わっています。これにより、AIの専門知識がなくても、簡単にカスタムモデルやAI機能をアプリケーションに組み込むことが可能です。ここでは、Azure AI Studioを利用することで実現できる代表例を3つ紹介します。
カスタムAIモデルの開発
利用することで、自社のビジネスモデルに応じた独自のAIを開発可能です。具体的には、社内の既存データを活用し、特定の業務ニーズに応じたAIモデルをトレーニングし、利用できます。また、ビジネスプロセスに最適化されたモデルを作成することで、自社に特化した独自の分析や予測が可能になります。
独自のCopilot開発
利用することで、独自の「Copilot」を開発できます。Copilotとは、Microsoftが提供しているAIアシスタントサービスで、WindowsやMicrosoft 365と統合して利用可能です。
Azure AI Studioを活用した独自のCopilotを開発することで、より自社の業務に特化したAIアシスタントが実現します。
アプリへのAI導入
Azure AI Studioを通じて開発したAIモデルは、簡単にアプリケーションに統合可能です。AIを既存のアプリに組み込むことで、自社で提供している顧客向けアプリにAIチャットボットの機能を組み込んだり、社内で利用する業務アプリに対してAIによる分析機能などを容易に追加したりできます。AI機能を導入することで、より高いユーザー体験が実現するでしょう。
Azure AI Studioの機能
主に4つの機能を有しています。
モデルカタログ
Azure AI Studioでは、Open AIをはじめとしたさまざまなAIモデルが公開されています。モデルカタログからモデルを選択するだけで容易にそのモデルを利用できます。
プロンプトカタログ
ユースケースに応じたプロンプトの例が公開されており、用途に応じた検索により、適切なプロンプトを探し出すことが可能です。
例えば、画像に何が映っているのかを把握するためのプロンプトを探してみると、「Image Tagging Assistant」というプロンプトが検索できます。このプロンプトを利用、もしくはカスタマイズして利用することで、適切なプロンプトを作成できるようになります。
ビルド
AIプロジェクトを作成し、AIモデルをビルドします。ビルドしたAIモデルは、デプロイして利用できるようになります。
ベンチマーク
ビルドしたAIモデルを評価します。特に、異なるAIモデルに対して同等のデータを投入することで、どちらがより高性能なのか、といった点について分かるようになります。
Azure AI Studioのメリット
大きなメリットは、AI開発がより容易に行える点にあります。AI開発といえばPythonを利用してプログラムを書き、AIモデルを作成するのが一般的でした。
Azure AI Studioは、コードを書くことなくAIを利用できるノーコードの機能や、ビジネスの規模やニーズに応じた柔軟なモデルの開発機能を有しているため、AIの開発が非常に容易となりました。また、従量課金であるため初期投資が少なくて済む点や、社内のデータ量が多くても対応できる点は、企業規模に関わらず、非常に強力なツールとなります。
また、Microsoft Azureのサービスとの強力な連携機能も大きな魅力であり、容易にAIソリューションを開発できます。
Azure AI Studioと他のAIツールとの違い
Azure AI Studioは、他のAIツールと比較して、特に開発のしやすさとビジネスに特化した機能が充実していることが特徴です。しかし、Microsoftが提供する他のAIツールも存在します。
ここでは、他のMicrosoft製AIツールとの違いについて解説します。
Azure AI StudioとAzure OpenAI Studioの違い
Azure OpenAI Studioは、OpenAIが開発した高度な言語モデルを使ったアプリケーションの構築に特化しています。自然言語処理(NLP)に強みを持ち、チャットボットや文章生成など、テキストベースのAIソリューションに特化した開発が可能です。
一方で、Azure AI Studioはより幅広い用途に対応しています。NLPだけでなく、画像認識、音声処理、予測分析、カスタムAIモデルの開発など、複数の分野にまたがるAIソリューションをサポートしています。
そのため、Azure OpenAI Studioは端的にいうと、「ChatGPTと同等の機能を用いた対話型生成AIを用いたアプリケーションの構築に特化している」と考えてください。
Azure AI StudioとCopilot Studioの違い
Copilot Studioは、Microsoft Copilotのカスタマイズに特化したソリューションです。ただし、Azure AI StudioでもカスタムCopilotの構築自体は可能です。
2つの大きな違いとしては、Azure AI StudioはLLM(大規模言語モデル)を用いた対話型AIの構築に特化しているのに対し、Copilot StudioはMicrosoft 365との統合や、ルールベースのカスタマイズといった機能を有しています。そのため、「よりCopilotに特化した社内向けアプリ構築を可能とするのがCopilot Studio」と考えるとよいでしょう。
Azure AI Studioの料金を解説
ここからは、Azure AI Studioを利用する際の料金体系について解説します。
Azure AI Studioの料金
Azure AI Studioには固定的な金額は設定されておらず、利用したAIモデルなどに応じた課金が発生します。
また、AIモデルによって基本料金が設定されており、利用料金の計算方法に違いがあります。モデルカタログに利用料金が記載されていますので、利用する際にはそのカタログを参考に料金を計算可能です。
OpenAIの言語モデルを利用する場合の料金例
例として、Azure OpenAI ServiceでOpenAIの言語モデルを利用する場合の料金例を紹介します。
最新のGPT-o1-Previewが利用できる、米国東部2リージョンにおける、2024年10月時点での料金は以下の通りです。
モデル | 入力(100万トークン当たり) | 出力(100万トークン当たり) |
o1-preview global | 15ドル | 60ドル |
o1-mini global | 3ドル | 12ドル |
4o-global | 2.50ドル | 10ドル |
4o-mini global | 0.15ドル | 0.6ドル |
GPTの課金単位には「トークン」という概念が利用されます。質問やそれに対する回答の回数ではなく、どの程度の量の文章を入出力したか、という観点で課金されるため注意しましょう。おおよそ、1単語につき1トークンが消費されると考えて差し支えありません。
例えば10単語程度で構成する簡単な質問を想定した場合、入力は10トークンです。それに対する回答(出力)は、質問により誤差はありますが目安としては1,000トークン程度と考えて算出してみましょう。
これを1,000人のユーザーが1日10回程度利用した場合を考えます。その場合
入力:10トークン × 1,000人 × 10回 × 31日 = 3,100,000 トークン
出力:1,000トークン × 1,000人 × 10回 × 31日 = 310,000,000 トークン
となりますので、4o-globalのモデルを利用した場合、
入力に$7.75、出力に3,100ドルとなり、合計で約3,108ドル程度の料金となります。
もちろん、この計算式は例であり、実際に利用された場合のトークン数によって大きく料金が異なります。注意点としては、入力より出力の方がトークン当たりの値段が高いという点です。ChatGPTなどの生成AIを利用したことがある方であれば、入力(プロンプト)に対して長文が返答されることが多いのではないでしょうか。一般的に、入力よりも出力の方が多くのトークンが消費されますので注意しましょう。
Azure AI Studioの使い方を徹底解説
Azure AI Studioは、あらゆるレベルのユーザーに対応し、多様なビジネスニーズを解決するための強力なAIツールです。ここからは、使い方について、実際の画面を利用しながら解説していきます。
Azure AI Studioを利用できるシーン
Azure AI Studioは、多様なビジネスニーズに対応するために柔軟な利用が可能なプラットフォームです。
例えば、以下のようなシーンで利用できます。
- 顧客サポート用のチャットボットを構築し、問い合わせ対応を自動化する
- Dynamics 365などのCRMからデータを抽出し、AIで分析することで、マーケティングの活動に寄与する
- 製品データを抽出、分析し、次の開発のためのデータ活用基盤として活用する
- もちろん、ここで紹介したシーンはほんの一例です。Azure AI Studioを活用することで、ビジネスへのAI導入をより容易に実現できると考えましょう。
Azure AI Studioの基本的な使い方
Azure AI Studioは、Webブラウザからアクセスするだけで利用でき、全てクラウド上で完結できます。そのため、AIを動作させるための専用パソコンやサーバといった機器を用意する必要はありません。
Microsoft AzureからAzure AI Studioの利用を開始すると、以下のような画面が表示されます。
メニューは左側にありますので、利用したいメニューを選択して利用可能です。
例として、「モデルカタログ」を選択します。
モデルカタログでは、以下のようにさまざまなモデルが選択できますので、自社の利用用途に応じて適切なモデルを選択するだけで、簡単にデプロイが可能です。
例として、「gpt-4o-mini」を選択します。
選択すると、以下のようにそのモデルの説明やモデルのIDが確認できます。
モデルを利用する際の注意点も含めて記載されていますので、モデルカタログを利用する際には、この画面に記載されている内容をよく読んだ上で利用してください。
Azure AI Studioのデプロイ
Azure AI Studio上で利用できるモデルは多岐にわたり、利用用途に応じて適切なモデルを利用することでより効果的なAI活用を実現できます。
また、Azure AI Studioで選択したモデルは、AI Studio内でテストするだけでなく、APIとしてデプロイすることでAPIを経由してモデルを利用したり、自社提供するアプリケーションの1機能として組み込んで利用したりすることが可能です。
Azure AI Studioで作成したモデルは、数クリックでモデルをクラウド上にデプロイでき、ビジネスアプリケーションに組み込めます。AI専用のサーバーを自分で用意する必要はなく、すぐに実用化が可能です。開発にかかる時間とコストの削減につながるため、開発者は自社のアプリ開発に注力できるようになります。
Azure AI Studioを使ったモデルのデプロイ手順
実際にAzure AI Studioを使ったモデルのデプロイ手順について、本記事では、モデルカタログで公開されているモデルをデプロイする方法を紹介します。
まずは、左側のメニューから「デプロイ」を選択してください。
すると、以下のような画面が表示されますので、「モデルのデプロイ」を選択します。
すると、このようにデプロイするモデルを選択できます。
今回は、「gpt-4o-mini」 を選択します。モデルの説明を確認した上で、「確認」ボタンを選択します。
以下のようにデプロイ名を記入したり、デプロイの詳細をカスタマイズしたりすることが可能ですが、今回はそのままでデプロイしましょう。
これでデプロイが完了しました。
右上の「エンドポイント」の欄にあるターゲットURIにアクセスすることで、デプロイしたモデルを利用できます。
なお、エンドポイントの利用方法については、右下のリンクより確認できますので、実開発の際にはあわせて参考にしてください。
このように、ブラウザの操作だけで容易にモデルをデプロイし、利用できるようになります。
Azure AI Studioのデプロイにおける注意点
モデルをデプロイするとインターネットに公開されることになるため、特にセキュリティ面や料金について注意しましょう。
エンドポイントへのアクセスには、モデルのデプロイ時に生成されたキー情報がないと利用できないのですが、このキーが流出してしまうと、悪意のある第三者にモデルを利用されてしまいます。
またモデルの多くは利用数に応じた課金が発生しますので、想定外の大量アクセスによって想定外の請求を受ける場合があるため、料金の推移については定期的に確認しましょう。
Azure AI Studioのプロンプトフロー (Prompt Flow)とは?
Azure AI Studioのもう1つの特徴として挙げられるのが「プロンプトフロー」です。
プロンプトフローは、AIモデルとユーザーの対話を最適化できるツールであり、プロンプトフローを利用することでより精度の高いコンテンツの生成に役立ちます。自然言語を使用したインタラクションを効率的に管理することで、より正確な応答と快適なユーザー体験を提供します。この機能は、チャットボットやカスタマーサポートシステムなど、対話型のアプリケーションに特に適しており、設定がシンプルで、複雑な会話パターンにも対応可能です。
プロンプトフローの基本的な仕組みと使い方
Prompt Flowは、AIモデルに送られるプロンプト、すなわち入力する文章と、その応答を最適化します。
ユーザーが入力した情報にもとづいて、AIモデルはその応答を生成しますが、プロンプトフローを使うことで、複数の入力やコンテキストを効率的に処理できます。
簡単にいうと、「AIモデルに対して入力されるプロンプトをうまくカスタマイズし、より高精度の回答が得られるようにするものである」と考えるとよいでしょう。プロンプトフローを介してAIモデルに対するプロンプトをカスタマイズすることで、よりスムーズで自然な対話を実現できます。これにより、カスタマーサポートやチャットボットの構築における精度向上に大きく貢献します。
プロンプトフローを使ってできること
プロンプトフローを利用することで、マウス操作でプロンプトのカスタマイズができます。
定型文として入力するテンプレートを指定して一定の回答を得やすくしたり、Pythonのプログラムでさらに細かいチューニングをしたりすることが可能です。
なお、プロンプトフローで定義した操作は、「グラフ」として視覚化されます。どんな順番でどのようにプロンプトをカスタマイズするかや、どのような条件で分岐するのかが視覚的に分かりやすく表示されるため、非エンジニアであってもプロンプトの流れが理解しやすいというメリットを持ちます。
まとめ
Azure AI StudioはAIを容易に構築するためのプラットフォームであり、カスタムAIモデルの構築からデプロイまでをサポートします。特に、Prompt Flow機能を利用することで、複雑な対話シナリオを効率的に作成でき、ユーザーとの自然なやり取りを実現可能です。
Azure AI Serviceはブラウザで完結するため、AI開発に深い知見のないユーザーでも容易にAIが開発できるように構築されています。もちろん細かいチューニングをするためには専門の知識が必要ですが、既存のAIモデルを利用したり、自社に合わせたカスタマイズをするのであれば容易に利用できますので、ビジネスモデルに合わせて選択してはいかがでしょうか。