テクノロジーの発展に伴って、企業が取り扱う情報量は指数関数的に増え続けています。そして、膨大なデータを事業戦略に活用するうえで重要となるのが、「データガバナンス」の整備です。本記事では、データガバナンスの重要性を解説するとともに、実践に役立つフレームワークをご紹介します。
データガバナンスとは
「データガバナンス」とは、データの運用および管理体制を統制する仕組みのことです。「Governance」は英語圏で「統治」「管理」「支配」といった意味合いをもつ言葉であり、ビジネスの領域では企業の健全化を目指す管理体制を指します。つまり、組織内におけるデータの運用ルールを策定し、そのルールを遵守する体制を統制する仕組みがデータガバナンスです。
現代は情報爆発時代と呼ばれており、いかにしてビッグデータをマネジメント領域に活用するかが重要な経営課題となっています。企業に蓄積されたデータを効率よく活用するためには、情報管理やセキュリティポリシーなどのルールを統一しなくてはなりません。この仕組みが整備されていなければ、データが散在してしまい、情報の堅牢性や検索性の低下を招きます。データの運用ルールを統制するデータガバナンスは、膨大な情報を活用するうえで欠かせない施策といえるでしょう。
ちなみにデータガバナンスは、組織内のデータ管理を最適化することではなく、そのルールの策定・運用・監視という統制プロセス全般を指します。その特性から、国家を統一的に運営する三権(立法権・行政権・司法権)にたとえられます。つまり、「ルールを定める立法」「ルールを運用する行政」「ルールの遵守を監視・統制する司法」の三権を、データの運用と管理の領域に用いた仕組みがデータガバナンスです。
データマネジメントとの違い
「データマネジメント」とは、「ヒト」「モノ」「カネ」に次ぐ第4の経営資源である「情報」の管理を最適化し、企業の成長と発展に活用する経営戦略を指します。データは、収集するだけでは意味を成しません。収集・蓄積された膨大なデータを定量的に分析し、可視化することで初めて経営戦略に活用できます。このデータの収集・分析・可視化を通して、情報を経営戦略に活用する取り組みがデータマネジメントです。
一方でデータガバナンスは、記事冒頭で述べたように「情報」の運用・管理におけるガイドラインを示し、ルールを統制する仕組みです。変化の加速する現代市場において、企業が競争優位性を確立するためには、効率的かつ戦略的なデータマネジメントが求められます。このデータマネジメントの実行を監視・支援する役割を担うのが、データガバナンスです。
たとえばERPシステムを導入し、財務・会計・調達・生産・販売といった基幹業務のデータを統合管理するのは、データマネジメントの領域です。データガバナンスは、ERPシステムのアクセス権限設定やセキュリティポリシーなどの運用ルールを策定し、そのルールが守られる体制を整備する仕組みを指します。つまり、データマネジメントを「実行側」と定義した場合、「監督側」に該当するのがデータガバナンスといえるでしょう。
データガバナンスはなぜ必要?
データガバナンスが必要とされる理由は、市場における競争優位性の確立とセキュリティインシデントの防止です。情報通信技術の進歩に伴って、さまざまな産業が発展を遂げる一方で、市場の競争性は激化の一途を辿っています。このような社会的背景のなか、企業がイノベーションを創出するためには、定量的なデータ分析に基づく経営戦略の立案が欠かせません。そして、データ分析のプロセスを効率化するためには、データをどこに集約し、どのような形式で保存するのか、といった具体的なルールを整備する必要があります。
また、企業の情報システムには製品開発情報や顧客情報などの社外秘情報や、従業員の個人情報のような社内秘情報など、決して流出してはならない機密情報が保管されています。このような機密情報が漏洩した場合、企業の社会的信用を失墜させるだけでなく、損害賠償や事業の停止といった損失をも招きかねません。
たとえば、2014年に国内最大手の教育関連企業の顧客情報が約2,895万件流出したという事例があります。このセキュリティインシデントの原因は、データベースの業務委託先の元社員による不正な情報流出でした。このような事態を回避するためには、不正アクセスやマルウェアから情報システムを保護するのはもちろん、従業員の人為的ミスや不正な情報流出を防止する仕組みが求められます。
データガバナンスを整備できれば、データの運用効率を最大化しつつセキュリティリスクを最小化し、さらに組織全体のコンプライアンス意識の向上にもつながるでしょう。データガバナンスの重要性と必要性については、総務省と経済産業省が公表した「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブックver1.1」にて詳しく解説されていますので、一読をおすすめします。
データガバナンスに役立つ3つのフレームワーク
ここからは、データガバナンスやデータマネジメントの領域で役立つ3つのフレームワークをご紹介します。
DMBOK
「DMBOK」とは「Data Management Body of Knowledge」の頭文字をとった略称で、データマネジメントに関する知見を体系化した書籍です。本著ではデータガバナンスを中心とした、データマネジメントにまつわる11の知識領域について解説されています。データマネジメントについて網羅的にまとめられていますが、内容の抽象度が高いため、具体的なアクションに落とし込むためには深い知識が必要です。
データガバナンス成熟度モデル
「データガバナンス成熟度モデル」は、リサーチ&アドバイザリ企業のガードナー社が定義した、データガバナンスの達成度を定量化するための指標です。データガバナンス成熟度モデルには6つの段階があり、それぞれのフェーズで求められるアクションが具体的に記されています。ただし、大枠の取り組みしか記載されていないので、そのまま取り組めるマニュアルではありません。
データマネジメント成熟度モデル
「データマネジメント成熟度モデル」は、カーネギーメロン大学が開発したプロセス改善モデルで、データマネジメントの達成度について具体的な指針を定義したフレームワークです。DMBOKやデータガバナンス成熟度モデルとは異なり、具体的かつ詳細なガイドラインが記載されているため、より実用性の高い指標といえます。
データガバナンスツールを利用するならAzure Purview
ビッグデータ分析の重要性が高まるとともに、企業が取り扱う情報量は爆発的に増加しており、データスワンプに陥る企業も少なくありません。「データスワンプ」とは、多種多様かつ膨大なデータが無秩序に保管され、情報の検索性が著しく低下している状態を指します。このような状態に陥るのを防ぐためには、膨大な情報を構造的に管理する体制を整備しなくてはなりません。
そこでおすすめしたいのが、Microsoft社が提供するデータガバナンスソリューション「Azure Purview」の導入です。Azure Purviewは、オンプレミスやクラウドといったシステム環境を問わず、サイロ化しているデータを統合的に管理します。細やかなアクセス権限設定や職務分掌の定義も可能なため、高度なセキュリティ環境のもとでデータガバナンスを整備できます。
まとめ
情報はヒト・モノ・カネに次ぐ第4の経営資源であり、企業経営においてデータの重要性は年々高まっています。デジタル技術の高度化とともに増大し続ける経営データを効率よく運用するためには、データガバナンスの整備が不可欠といえるでしょう。ぜひ本記事を参考にして、データガバナンスの構築に取り組んでみてください。