学校のIT化を進めるためには、すべての生徒が快適にPCを使える環境を確保しなくてはなりません。そのために注目されているソリューションが「VDI(Virtual Desktop Infrastructure)」です。本記事では、VDIの概要や学校に導入するメリットに触れつつ、学校現場における導入事例をご紹介します。
VDI(仮想デスクトップ)とは
「VDI(仮想デスクトップ)」とは何かを知る前に、まず「仮想化」について簡単におさらいしましょう。仮想化とは、サーバーなどのハードウェアをソフトウェアによって一元的に管理し、自由な性能のハードウェア環境を再現する技術のことです。
たとえば仮想化では、1TBのハードディスク10台(合計10TB)をソフトウェアによって統合し、ユーザーの希望によって自由に振り分けます。ユーザーAは3TBのハードディスクを、ユーザーBは7TBのハードディスクを使えるようになるのです。このように、ハードディスク環境をソフトウェアによって仮想的に再現することから、「仮想化」と呼ばれます。
次にVDIとは、「Virtual Desktop Infrastructure」を略した言葉です。日本語では「仮想デスクトップインフラ」と訳します。「Virtual desktop interface」の略で「仮想デスクトップインターフェイス」と訳されることもありますが、内容的にはどちらも変わりません。
VDIは文字通り、PCのデスクトップ環境を仮想化するための仕組みです。具体的には、複数の仮想化したデスクトップ環境をサーバー上で一元管理します。そのうえで、ユーザーは離れた場所からサーバーにネットワーク経由で接続し、サーバー上のデスクトップ環境を利用するわけです。
VDIを利用することによって、ユーザーはどこからでも同じデスクトップ環境を利用できます。またサーバー側からしても、サーバーの性能を複数のデスクトップ環境によって「仮想的に」分け合うことで、効率的に使えるようになるメリットがあります。
学校におけるVDIの特徴
近年、文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」などの取り組みにより、学校現場のIT化が推進されています。しかし、学校をIT化するにあたっては、生徒用PCの運用管理に課題が残ります。膨大な数のPCを管理するには、管理者への過大な負担が懸念されるうえ、セキュリティ対策も重要です。そうしたなかで、VDIの活用が注目されています。
VDIを学校に採用する場合、生徒全員分のデスクトップ環境をサーバー上で一元管理できるようになります。また、生徒には必要最低限の性能を備えたPC(シンクライアント)を提供し、そのPCでサーバー上のデスクトップ環境を利用してもらいます。
それでは、学校にVDIを採用することによって、一体どのようなメリットがあるのでしょうか。次項で詳しく見ていきましょう。
学校がVDIを導入するメリット
学校へのVDI導入には、さまざまなメリットがあります。主要なメリットとしては、まず多くの生徒に提供するデスクトップ環境をサーバー側で一元管理できるため、管理者の負担が軽減されます。
たとえば、ソフトウェアのアップデートが必要な場合、従来ではPCごとに適用のための操作をしなくてはならず、それゆえ作業の遅れや作業漏れが発生するケースも少なくありませんでした。その点、VDIであればサーバー上で一括適用することが可能です。作業遅延や作業漏れの発生を予防でき、セキュリティも強化されます。
また、VDIを利用する場合、生徒用に高性能PCを確保する必要がありません。ソフトウェアの処理はサーバーが行うため、必要最低限の性能さえ備えていれば、サーバー上のデスクトップ環境を快適に利用できます。
加えて、生徒が使うPCにデータが保存されない点も、セキュリティ的には大きなポイントです。VDIにおいては、デスクトップ上で利用したデータはすべてサーバー上に保存されるため、生徒が使うPCには保存されません。これにより、万一生徒がPCを紛失してしまった場合も、情報漏えいを防止でき、セキュリティが強化されるわけです。
さらにVDIは、学校側だけでなく生徒側の利便性も向上させます。VDIがあれば、学校外からでも学校内で使っていたデスクトップを利用可能です。つまり、VDI上に本来は学校でしか使えない専門的なソフトウェアがインストールされていた場合、それが自宅からでも使えるようになるのです。たとえば、VDI上で図書館の蔵書データベースへアクセスできるようにしておけば、それを自宅からでも参照できます。
もちろん教員も同様に、自宅から学校内で使っているデスクトップ環境にアクセスできるようになるため、教員用のテレワーク環境を確保したいときもVDIが役立てられます。
学校現場におけるVDIの導入事例
実際の学校現場では、どのような形でVDIが導入・運用されているのでしょうか。以下では3つの事例を取り上げ、それぞれVDIによってどのように課題が解決されたのかを見ていきましょう。
私立大学の事例
ある私立大学では、学生が自由にPCを使えるスペースを用意し提供しています。同校では、それまで「ネットブートシステム」を採用していたことから、PCの起動に時間がかかるなど、学生の利便性に問題がありました。なお、ネットブートシステムとはPC起動時にネットワークを通じて、サーバーからOSのイメージを取得する仕組みのことです。
また、学生向けのPCスペースが複数キャンパスに点在していたことから、管理者の負担も問題視されていました。キャンパスごとにPC環境が統一されていなかったため、管理が煩雑化していたのです。
これらの課題を解決すべく、同校はVDIの採用に踏み切ります。VDIの導入によって、まずPCの起動時間が大幅に短縮化され、学生の利用率が向上しました。さらに、各キャンパスのPC環境を統一し、一元的に管理できるようになったことから、管理者の負担軽減も実現しています。
国立大学の事例
ある国立大学では従来、専用スペースにあるPCでしか、学習に必要な情報処理ソフトなどを使えませんでした。端末数や利用時間も限られており、「使いたいときに使えない」と学生から不満が上がっていたのです。
そこで同校はVDIを採用し、学生が持ち込んだPCからでも学内のPC環境を使えるようにしました。学生が持つPCは、それぞれ性能が異なるため、そのすべてで情報処理ソフトなどが正常に機能するとは限りません。しかし、VDIであれば同一のデスクトップ環境を学生に提供できるため、その心配も不要です。利用するデータによって、学生が持つPCのデスク容量が消費されてしまうこともありません。
また同校は、学内サーバーがあまり稼働していない夜間に、学生が自宅からでもVDIにアクセスできるようにしました。その結果、サーバーの性能をより効率的に活用できるようになり、学生の利便性向上に成功しています。
独立行政法人の事例
ある独立行政法人では、2つの部署がそれぞれ別々のオフィスを構え、職員がその両拠点を移動しながら業務するという体制をとっていました。しかし、オフィス移動により普段とは違うPC環境を利用しなければならず、セキュリティなどの観点からノートPCの持ち運びもままならないため、業務効率の悪化を指摘する声が噴出していたのです。
こうした課題を解決するために採用されたのがVDIです。VDIの導入によって、職員がどちらのオフィスからでも同じデスクトップ環境へアクセスできるようになりました。
また管理者についても、VDIによって運用負荷の軽減が実現しています。それまでは新しいPCをセットアップする都度、オフィスを移動しなくてはなりませんでしたが、VDIの採用によりその必要もなくなり、効率的な管理体制の構築につながっています。
まとめ
VDIの採用により、学校現場に必要な性能のデスクトップ環境を確保・提供でき、管理者の負担軽減や学校・生徒双方の利便性向上などにつながります。中でも「Azure Virtual Desktop」は、Windows10および11のマルチセッションを活用し、コストを抑えつつ快適なVDI環境を構築できるためおすすめです。