近年、自社システムをオンプレミスからAzureへ移行する企業が増えています。そこで活用したいのが、システムのAzure移行をサポートする「Azure Migrate」です。
本記事ではAzure Migrateの概要や、移行時の注意点などについて解説します。また、どのクラウドサービスを使うか迷っている企業向けに、Azureに移行することによるメリットも紹介します。Azure移行を安全に行う方法を探している方は、ぜひ参考にしてください。
Azureへの移行ツールとは
「Microsoft Azure」のクラウドプラットフォームで提供される製品や利用できるサービス数は200を超えており、多くの企業の事業を支えています。しかし、それらの便利ツールを自社のビジネスで有効活用するには、オンプレミスからの移行作業が必要で、実行するのはなかなか大変です。
そういった、 移行作業でかかる負担を少しでも軽減したい場合は、Microsoftが提供している移行支援ツール「Azure Migrate」を使うとよいでしょう。
Azureの概要やメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
Microsoft Azureとは|何ができる?入門内容からわかりやすく解説
AzureMigrateとは
Azure Migrateとは、オンプレミスの物理サーバーや仮想環境、現在利用しているクラウドサービスで稼働中のマシンのAzure移行をサポートするツールです。移行ガイダンスなどの機能を備えており、Azureへ移行する際のハブになります。
以前は「Migrate Project」という、診断だけを行うサービスとして提供していましたが、Azure Migrateにアップデートされてからは、移行に必要な機能が一通りそろった状態になっています。これを利用することで、迅速かつ安全にAzureへの移行ができます。
移行支援機能としては、移行するサーバーの評価機能や移行実行機能、不具合検出機能、オンプレミスのデータベースをAzureに移行する機能などが代表的です。多様な環境からのAzure移行に対応しており、Windows、Linux Server、Webアプリ、SQLなど主要なワークロードの移行をサポートします。
計画的に移行できるように、中央ダッシュボードから分析や進捗情報をチェックできるのも便利です。また、Azure対応性の分析やコスト見積もり、アプリの依存関係の視覚化といった、移行に便利な機能が数多く備わっています。
AzureといえばIaaSやPaaSがよく知られていますが、VMware vSphere環境を利用できる「AVS」というサービスもあります。移行先をAVSにすべきかどうか悩んでいるという場合でも、移行支援ツールのAzure Migrateを活用すれば、移行の可否や大まかな費用を簡単に確認でき、最適な移行方法を探る手段としても活用できます。
Azure Migrateが有する主要な機能は以下の4つです。それぞれ詳しく紹介します。
- ServerAssessment
- ServerMigration
- AzureDatabaseMigrationService
- DataMigrationAssistant
Server Assessment
「Server Assessment」は、オンプレミス環境の物理サーバーや、VMwareなどのソフトウェアで構築した仮想サーバーの評価ができるツールです。
クラウド移行を行うには、移行ができるかどうかを初めに確かめる必要があります。Server Assessmentはその確認作業を行う移行評価ツールで、移行の可否や仮想マシンの推奨サイズ、月間のコストを表示します。
Azureの対応性で移行の可否や、問題なく移行できるかどうかが分かります。問題がある場合は修復方法を提示してくれるため、適用することで推奨環境に最適化することが可能です。
Server Migration
「Server Migration」は、評価したオンプレミスや仮想サーバーのAzure移行をサポートするツールです。エージェントベースの移行とエージェントレス移行の両方に対応しています。
テスト移行機能も搭載されており、実行することで予定通りに移行が完了するか確かめることが可能です。テスト時は複製したデータを使ってAzure VMを作成し、テストシミュレートが実行されます。予定外のトラブルを避けるためにも、一度はテスト移行を試しておくことをおすすめします。
Azure Database Migration Service
「Azure Database Migration Service」は、オンプレミスのデータベースをAzureに移行するためのツールです。複数のデータベースソースのAzureプラットフォーム移行をサポートします。
移行する前にData Migration Assistantを使用することで、評価レポートを生成でき、推奨される必要な変更や実行手順を知ることが可能です。実行するかどうかはユーザーの判断に任せられます。準備が完了したら、ベストプラクティスを利用して移行に必要な手順をツールがすべて実行してくれます。
移行方法はオフラインとオンラインに対応しています。オフライン移行を選択した場合は、移行開始と同時にアプリケーションのダウンタイムが発生します。テスト移行ができるため、ダウンタイムが許容範囲に収まるかどうか確かめておくとよいでしょう。
一方、オンライン移行を選べば、ダウンタイムがほぼ最小になるような移行が可能です。Azureへシームレスに移行させたい場合は、オンラインをおすすめします。
Data Migration Assistant
「Data Migration Assistant」は、Azure SQL Databaseへ移行する際、オンプレミス側のSQL Serverの影響によって不具合が起きるかどうかの可能性を検出するツールです。
移行に影響がありそうな問題を検出し、解決方法のガイダンスを提供します。検出する問題は主に、移行の障害となる互換性の問題や、機能がサポートされているかどうかなどです。新機能の推奨事項も確認できます。
Azureへ移行するメリット
Azure Migrateは、オンプレミスや他のクラウドサービスで構築して運営している環境をAzureに移行するサービスですが、Azureへの移行には多くのメリットがあります。その主なメリットについて3つ紹介します。
セキュリティが強固になる
Azure Migrateを利用したAzureへの移行は、セキュリティを強化する一環として大きなメリットがあります。Azureは堅牢なデータセンターでのデータ保護、データの暗号化、アクセス制御、不正侵入検知などのセキュリティ機能が標準で提供されており、オンプレミス環境よりも安全にシステムを運用できる可能性が高いです。
例えば、Azureのファイアウォールや統合セキュリティセンターを活用することで、不正アクセスやデータ漏えいのリスクを大幅に低減できます。
コストパフォーマンスが向上する
Azure Migrateを活用したAzureへの移行で、コストパフォーマンスが期待できることもメリットの1つです。Azureでは、従量課金制を採用しています。リソースを利用した分だけ料金が発生するため、オンプレミス環境よりもコスト削減につながりやすいです。
またAzureでは、コスト削減を支援するさまざまな機能やサービスが提供されています。例えば「Azure Cost Management」では、クラウドサービスの利用状況を可視化して、コスト削減に向けた的確なアプローチが可能です。
管理が一元化され業務効率化につながる
Azure Migrateを活用したAzureへの移行で、統一した管理が可能なため業務効率化が図れることもメリットです。
Aというベースのクラウドサービスを利用していて、別のある機能も使いたいからBのクラウドサービスと組み合わせて利用する、というマルチクラウドとして利用するケースがあるでしょう。Azureでは、265種類以上と非常に多くのサービスを利用できます。それらのサービスや機能を1つのクラウドサービスで利用できるため、管理にかかる業務効率を上げることができます。
AzureMigrateを活用してAzureへ移行する流れ
Azure Migrateを利用してAzureに移行すると多くのメリットがありますが、そのメリットを最大限得るためには、計画的に移行することが重要です。ここでは、移行する際の流れについて解説します。
1. 目的の設定・事前準備
Azureへの移行を開始する前に、明確な目的を設定し、必要な事前準備を整えることが重要です。移行日時や全て移行するのか、一部システムのも移行するのかを検討します。
移行の目的については、コスト削減、パフォーマンス向上、セキュリティ強化など、具体的にはっきりと定めるべきです。また、現在のシステム環境の詳細なドキュメント作成やリソースの特定などもこの段階で行います。
2. データ収集
Azure Migrateを利用した移行プロジェクトの成功には、正確なデータ収集が欠かせません。データベース、アプリケーション、ネットワーク設定など、移行対象のすべての要素を詳細に収集します。
この段階でデータの複製やバックアップも行い、データの損失を防ぐ対策も行います。
3. 判断・評価
Azureへの移行は、これまでと運用方法が変わったり、データ損失の可能性があったりするなどのリスクを伴います。このステップで移行の評価を行い、予想される問題や障害を特定します。
また、移行先のAzureリソースを適切に設計し、システムのパフォーマンスや可用性を確保するための計画を立てます。評価の結果に基づいて移行戦略を調整しましょう。
4. 移行
最後に、Azure Migrateで移行作業を実施します。データベースの移行、アプリケーションの設定変更、ネットワークの切り替えなど、具体的な移行手順を実行します。
移行作業中は監視を行い、問題が発生した場合には迅速に対応します。移行が完了したらテストを行い、システムが正常に稼働していることを確認しましょう。
Azureへ移行する時の注意点
Azure移行にあたっては、いくつか注意点があります。以下のポイントをしっかりと押さえた上で、移行を実施しましょう。
システム設計の見直し
オンプレミスからクラウド環境へ移行しようとしている場合、移行前後でシステムの仕様が異なるため、計画段階でシステムの確認やテストなどを十分に行っておく必要があります。確認が不十分だと、既存のシステムをクラウド環境で再現する予定だったのに、選んだクラウドサービスでは要件を満たせず、稼働させられない恐れがあるからです。この場合、稼働させるためには予定外のシステムが必要になることもあります。
よくある失敗としては、「IOPS」が不足する事例があります。IOPSとは、SSDやハードディスクの性能指標のことで、1秒間に読み書きできる回数のことを指します。Azureではディスク容量とIOPSが紐付けられた関係になっているため、仕様を見落としていると「移行の前後でIOPSが実は違っていた」ということが起こり得ます。オンプレミスと同じディスク容量をAzureでも選択すればよいと判断しがちですが、あとになってからIOPSが不足していることに気付き、ディスク構成から検討し直すことになるケースもあるのです。
オンプレミスからの移行を成功させるには、準備段階が鍵となります。移行後に大きな変更が発生しないようにするためにも、十分な設計やシステムの洗い出しを行い、Azureの仕様を把握しておくことが重要です。
セキュリティ対策を検討
AzureはMicrosoftが提供しており、強固なセキュリティ体制が整えられています。しかし、クラウドという仕組み上、どうしてもインターネットに接続されている状態となるため、完璧に安全であるとは断言できません。
Azureを提供するMicrosoftはセキュリティの責任を負っていますが、その責任範囲(責任分界点)は、利用者がIaaSとPaaSのどちらを選んだかによって変わってきます。例えば、利用者がIaaSを選んだ場合、仮想マシンやネットワークなどのITインフラのセキュリティに関しては、Microsoft側に責任があります。利用者が責任を持つ範囲は、提供されたインフラ上で稼働させるデータベースやアプリケーションなどのセキュリティです。すべての保護をAzure任せにはできないため、機密性が高い情報など重要なデータを扱う際は、自社でセキュリティ対策を講じる必要があります。
とはいえ、セキュリティの状態を確認するにも手間がかかるものです。Microsoftが提供するサービスの1つ「Azure Security Center」を利用すると、無料で現在のセキュリティ対策の状況を分かりやすく可視化・評価してくれます。また、従量課金制ですが、ワークロードを脅威から保護する機能もあります。保護機能は30日間無料で試せるため、必要に応じて利用してみてください。
まとめ
Azure Migrateを利用することで、オンプレミスからAzure環境へ、安全かつ円滑に移行できます。移行に必要な機能が利用でき、オンプレミスの評価から移行の実行まで、1つのサービスで実現できるため、おすすめです。移行の際は、計画段階から十分に設計し、移行の際のセキュリティ対策も自社で行うことを忘れないようにしてください。
オンプレミスからAzureに移行することでコストの削減となり、他のクラウドサービスからAzureに移行することで業務効率化を図れるメリットがあります。費用面や業務効率に課題を感じている企業は、Azure Migrateを利用してAzure環境への移行を検討しましょう。