クラウド移行(インフラ・DB)

SAP on Azureとは?移行メリットやAWSとの違いを解説

SAPのエンタープライズ向け業務基幹システム(ERP:Enterprise Resource Planning)は多機能かつ大規模であり、企業の中枢ともいえる機密性の高いヒト・モノ・カネ・情報の経営資源を扱うため、オンプレミスの運用が一般的でした。

しかしクラウドの利用拡大を背景に、SAPもクラウド化に注力しています。それが次世代型ERPスイートである「SAP S/4HANA」です。
Microsoftは「SAP on Azure」のパッケージとしてSAP S/4HANAをサポートしています。SAPのアプリケーションの性能を最大に引き出すパブリッククラウドの役割をAzureが担い、迅速なレスポンス、柔軟なシステムの拡張、運用コストの低減を実現します。

ここでは、SAPとMicrosoftのパートナーシップを踏まえて、SAPのシステムをAzureに移行するメリットと、SAPを稼働させるクラウド基盤としてAzureとAWSを比較した場合について、日本マイクロソフト株式会社の資料をもとに解説します。

SAP on Azureとは?移行メリットやAWSとの違いを解説 01

クラウド移行 まるわかりガイド

「SAP on Azure」とはSAPをAzure上で稼働させるサービス

SAP on Azureとは?移行メリットやAWSとの違いを解説 02

SAP on Azureはその名の通り、SAPをAzure基盤上で稼働させるサービスです。SAPはもともとクラウド上で動かすべきではないとされてきました。しかしMicrosoft社が費用を投入し、Azure基盤上でSAPを利用する際のさまざまな課題を解決してきた結果、現在ではパフォーマンスを発揮できるSAPソリューションを提供しています。例として、従来のSAP on Azureは一定スペックのインスタンスのみ使えましたが、現在では12TBまで利用可能です。

Azureの概要については、下記の記事で解説しています。ぜひ本記事と併せてご覧ください。
Microsoft Azureとは|何ができる?入門内容からわかりやすく解説

SAP on Azureが登場した背景

SAPとMicrosoftは、1993年以来、パートナーとして相互の信頼関係を築いてきました。両社のコラボレーションは、プラットフォームやクライアントアプリケーションの共同開発にとどまらず、ユーザーサポートにも至ります。

SAPとMicrosoftの相互関係は端的に記載すると、以下のようになります。

SAP社内で運用されている10以上のSAPシステムをAzureに移行決定
Microsoft社内のSAPユーザーは11万人
SAP社内のMicrosoftユーザーは8万4,000人
つまり、両社ともにお互いの製品やソリューションをユーザーとして利用してノウハウや知見を開発にフィードバックし、性能や品質の向上に役立てているということです。

このような相互関係を踏まえた上で、SAPのシステムをAzureに移行するメリットを「生産性向上とTCO削減」「バックアップの強化」「先端サービスの活用」の3つから解説します。

SAPのAzure移行メリット1:生産性向上とTCO削減

SAPのシステムをAzureに移行するメリットの第1としては、変化の激しいビジネス環境においてリアルタイムで多様な業務データを処理できること、柔軟に構成を変えられること、企業全体のTCOを削減してビジネスメリットを最大化することがあります。

迅速性、柔軟性、そしてTCO削減の側面で移行メリットをピックアップします。

迅速性:SAP S/4HANAに最適化された環境

SAPのシステムをAzure上で稼働させるために、最大12TBのメモリを搭載した仮想マシンと、クラウド環境でサーバーを提供する24TBメモリを搭載したSAP S/4HANA専用ベアメタルサーバーのインフラストラクチャーが用意されています。また、Azure BackupによってSAP S/4HANAのデータのネイティブバックアップが可能です。

柔軟性:システム要件に合わせたSLA、クラウドならではのリソースコントロール

SAPのシステム移行を大規模から小規模までプロビジョニングし、業務のニーズに合わせて拡張と縮小が可能なリソースコントロールを備えています。リザーブドインスタンス(1年/3年)は変更およびキャンセルができます。シングル構成の仮想マシンにおいて99.9%のSLAを提供し、システム要件に合わせて柔軟な構成を実現しています。

TCO削減:ライセンス面における効率化

クラウドの優位性はコスト削減にあります。既に解説した迅速性と柔軟性も、TCO削減において大きなメリットになります。さらにライセンス面における効率化としてMicrosoft Software Assurance(SA)の契約が不要です。

システム構築にあたっては、オンプレミスなどで保有しているSQL Serverのライセンスをクラウドに持ち込むことが可能です。ただし、Microsoft Enterprise Agreement(EA)契約へのアメンドメント付与の申請が必要になります。

SAPのAzure移行メリット2:バックアップの強化

BCP(事業継続計画)の視点から業務基幹システムを考えると、バックアップは欠かすことができない必須の機能といえるでしょう。SAPのシステムをAzureに移行するメリットの第2は、バックアップやDR(災害対策)、監視を行うPaaS機能を標準で搭載していることです。

オンプレミスでSAPのシステムを構築した場合、バックアップのためのストレージなどの物理的な設備投資が必要です。しかしAzureであれば初期コストを抑えたシステム構築と運用が可能になります。また、バックアップの自動化を容易にできるため、運用業務の負荷を軽減しながらバックアップを強化します。

Azureには業界最大レベルのクラウド基盤があり、米国の国防総省(US DoD)にも採用されています。日本では東日本、西日本にリージョンを置き、日本国内の災害対策の実績があります。

さらにAzureとOffice 365(現在のMicrosoft 365)は、日本セキュリティ監査協会(JASA)の制定した「CS(クラウドセキュリティ)ゴールドマーク」を、日本で初めて取得しました。これは国際的な情報セキュリティ標準ISO/IEC 27017の水準を満たしているという、第三者認定です。

認証面ではAzure Active DirectoryによりMicrosoft 365とAzureの認証を統合し、サードパーティー製SaaSのシングルサインオン(SSO)を可能にします。SAPのシステムをクラウドで運用する場合に、バックアップはもちろん、認証を含めて堅固なセキュリティを実現します。

SAPのAzure移行メリット3:先端サービスの活用

Azureにはビッグデータ、人工知能、IoTに関する先端サービスが次々と追加ならびに更新され、最新のサービスを統合された環境ですぐに活用できます。これがSAPのシステムをAzureに移行する第3のメリットです。

従来の業務システムは記録の正確さを重視した「SoR(System of Record)」でした。しかし、「SoE(System of Engagement)」として、顧客とのつながりを重視するシステムの需要が高まっています。SoRが静的なシステムであるのに対して、SoEはユーザーとシステムの関係性によって動的にデータ構造が変化する点で異なります。

SAPが提供してきたオンプレミスのERPなどの基幹系システムはSoRが中心でしたが、クラウド上のシステムはSoE重視に変わりつつあります。このSoRとSoEを結合して、データドリブンの経営、エンタープライズの業務におけるデジタルフォーメーション(DX)を加速します。

Azureに移行することにより、大規模なSAPベースの基幹系システムを中心に、オンプレミス、IaaS、PaaS、SaaSなどを統合して、企業全体で最適化されたソリューションの利用が可能になります。効率化やコスト削減に加えて、先端技術による高付加価値ビジネスを展開する上で重要です。

SAPのAzure移行メリット4:コストの削減

Azureに移行することで、SAPが稼働するインスタンスをサイジングできるため、コスト削減につながります。オンプレミス上のSAPでは、運用開始後に行うハードウエアのサイジングはハードルが高いものです。一方でAzure上のSAPは、顧客のSAP利用状況や時間とともに移り変わる要件に合わせ、好きなタイミングで最適なサイジングができるため、Azure移行後にSAPの稼働コストを削減できます。

SAPのAzure移行メリット5:強固なセキュリティ

SAP on AzureはIaaSであることから、ハードウエアのセキュリティ対策をMicrosoftが行います。オンプレミス上のSAPでは、セキュリティ対策に人材、費用などリソースが多く必要です。一方でAzure上のSAPではハードウエア部分のセキュリティ対策はMicrosoftが担うため、セキュリティ対策にそれらのリソースは不要となります。

またSAPレイヤー以上もAzureのサービスと組み合わせることで、より強固なセキュリティ対策が可能です。

【比較】SAP on AzureとAWSの違い

SAP on Azureとは?移行メリットやAWSとの違いを解説 03

代表的なパブリッククラウドとして挙げられるAzureとAWS。SAP on クラウドを利用する際にどちらを利用するべきかを、性能、料金、サポート体制の3つの面で比較します。結論はどちらも得手不得手があり、互角という結果になりました。

インフラ、ストレージ、ネットワーク性能は一長一短

インフラ、ストレージ、ネットワークはそれぞれ、AzureとAWSで同じ目的のサービスが用意されています。似たサービス同士の性能を比較すると、インフラはAWS、一方でストレージやネットワークではAzureに軍配が上がりました。システム運用時はインフラ、ストレージ、ネットワークを組み合わせて利用するため、性能だけでこちらを使うべきだ、という判断はできません。

料金・プランを比較

料金面は、以下3点の異なる特徴があります。

  • Azureはリセラー経由の料金体系(パッケージ購入によるAzure利用)がある
  • 支払い通貨はAzureは17種類、AWSが19種類
  • 無料期間はAzure、AWSともに12カ月間(使用できるサービスに制限あり)

構築内容によって利用するサービスとその料金が異なるため、料金・プランの特徴ではSAPを構成すべきクラウドの優劣を決められませんでした。

サポート体制には大きな違いはない

サポート体制でも、AzureとAWSに大きな差はありません。

  • どちらも無料サポートを提供
  • 開発者向けのサポートプランは、Azureが8時間以内の回答で月額29ドル、AWSが12時間以内の回答で月額29ドル(または使用量の3%の大きい方)、とほとんど差がない
  • ビジネス向け以上でも同様

AzureとAWSのどちらでSAPを稼働させても、サポート体制は互角という結果でした。

Microsoft社内におけるSAPシステムとAzureの事例

SAPのシステムのAzure移行メリットを解説してきましたが、最後にSAPユーザーであるMicrosoftの社内的な取り組みについて紹介します。

Microsoftでは、自社内でSAPのシステムを構築し、運用によって得たノウハウをもとに自社内の製品部門でSAPのソリューションを最適化するとともに、顧客にも知見を公開しています。

たとえばMicrosoftのFinance部門では、SAPのデータから機械学習によって回収プロセスの改善を行いました。

売掛金管理における得意先の適切な信用付与と回収プロセスの改善が必要でしたが、そのためのインサイトを得られないことが課題でした。回収リスクに関しては売掛金の残高と支払いサイトに依存し、得意先のフィルタリングができていなかったため、回収遅延リスクの低い顧客にまで対応する非効率な状態が生じていました。

そこでSAPのシステムなどによる入金関連データから機械学習モデルを作成し、遅延リスクの高い取引先を識別、Power BIを用いてリスクレベルを可視化、アクションの優先付けを行いました。

当初、得意先に関するデータをAzureのクラウド上に置くことに懸念がありましたが、リスク管理チームのレビューにより、安全基準を満たすことを確認。現場対応者からの問い合わせが多い信用枠や売掛残高について自動回答のチャットボットを公開し、回収チームの負荷軽減とユーザーへのサービスレベル向上を実現しました。

このようにMicrosoft社内で実際にSAPのシステムとAzureを活用した業務改革を試みていることと、その結果をフィードバックしてSAPとMicrosoftでエコシステムを築き上げていることがSAP on Azureの信頼性を高めているポイントです。

さらにSAP、Microsoft、Adobeおよび参画企業による「Open Data Initiative」を立ち上げ、シームレスなデータの連携や分析の実現をめざしています。

まとめ

SAPとMicrosoftは単なるビッグネームの企業として共同開発を行っているだけでなく、お互いの製品やソリューションをユーザーとして利用していることが注目したいポイントです。

世界標準ともいえるERPを提供するSAPと、Azureによってクラウド市場で飛躍的な成長を遂げたMicrosoftは、互いの製品やソリューションを熟知しています。SAPをクラウドで利用するとき、AWSとAzureを比較してMicrosoft製品を多く使うシステム構築を考えるのであれば、親和性が高いAzureを選択すべきといえるでしょう。

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