パフォーマンスを改善することによって、仕事の効率化やコストの削減など、さまざまな効果が見込めます。
今回は、パフォーマンスを改善する理由や手順、注意点などを詳しく解説していきます。
パフォーマンス改善が必要な3つの理由
パフォーマンスの改善によってもたらされる影響は沢山あります。その中でも特に影響が大きく、改善の理由となり得るものが3つ存在しており、これを理解したうえで取り組むか理解せずに取り組むかで効率や効果が大きく変わってきます。
まずはその目的となる3つの理由をわかりやすく解説していきましょう。
ユーザー体験の満足度の向上
パフォーマンスの改善は現場にだけ効果があるものではありません。業務の効率化によって生まれる余裕や、全体的な作業の質の向上がユーザー体験の質を向上させ、満足度がより良いものへとグレードアップします。
もちろんこれは、改善を行ったからすぐに効果が出るものではありません。改善した下地を元に、より良い機材を導入することで質の良い商品を開発できるようになり、結果的にユーザー体験の満足度を向上できるといった、未来に対する投資の意味合いもあるでしょう。ユーザー体験が良くなれば、サービスに対する定着率が上がるため、固定顧客を獲得しやすい環境を構築できます。
コストの削減
業務における無駄は、余分なコストとなり事業を圧迫します。単純に利益の伸びを妨げるだけでなく、業務内容の複雑化や数々のトラブル、ヒューマンエラーの原因につながることもあるでしょう。
パフォーマンス改善で最適化されることにより、余計なコストを削減する効果も期待できます。削減したコストを人材育成や機材導入に回すことができれば、優秀な人材や機材によって効率的な環境が整い、事業全体が改善されるといった良い循環が生まれるでしょう。
しかし、パフォーマンスの改善自体にも相応のコストがかかります。一言にパフォーマンス改善と言っても、その原因や対処法はさまざまであり、原因を見極めて効果の大きい対処法から実行することがコスト削減のコツと言えるでしょう。
事業全体の効率化を図る
パフォーマンス改善の最大の目的と言えるのが、事業全体の効率化です。パフォーマンスの改善とは、無駄を無くすことであり、無駄を無くせば自ずと効率化できます。事業というものは、一つひとつの業務が独立して成果を上げているわけではなく、それぞれの業務が流れるようにつながることで成果が生まれるものです。どれか一つでも滞ったり、非効率的なものであれば、結果的に事業全体の成果が滞ると言っても過言ではありません。
パフォーマンス改善を図ることで事業を全体的に見直し、滞りのない効率的な流れを生むことができれば、事業全体が効率化できると言えるでしょう。その結果、更に事業を展開していき、市場の独占も現実的になるかもしれません。
パフォーマンスを改善する手順
パフォーマンスの改善を実現するために必要な手順はいくつかあります。基本的には、原因を探し出して原因に合った対処法を考え、対処法を実行するために必要なデータや技術を集め、それを元に改善案を作成して実行し、最終的に結果を見て調整していくような流れです。
そういった複数の工程があり、どれかが欠けてしまうと改善の効果も大きく低下してしまいます。効果的なパフォーマンス改善が行えるように、それぞれの手順でどの程度の結果が必要であるかを把握しておきましょう。
1.パフォーマンスが悪い部分の状況を洗い出す
まずは、事業や企業全体を見てどの部分でパフォーマンスが悪化しているか、成果を上げられていない場所はどこかを洗い出しましょう。原因の特定に欠かせない工程であり、洗い出しを怠ると、把握していない部分でパフォーマンスが低下したまま、想定した効果が得られない可能性が生じます。
また、パフォーマンス改善によって、十分な効果が得られるかどうかを見極めることも大事になるでしょう。全てを改善すれば良いわけではなく、改善した結果どの程度効率化されるか、効果が得られるかによって「コストに見合うかどうか」が決まります。
余計な部分に注力してしまうと、かえって無駄がコストになってしまったり、期待していた効果が得られないなどの結果に終わります。ここで決めるべきなのは「優先度」です。パフォーマンス改善にかけるあらゆるコストに対してどれだけの効果が得られるか、それを比較したうえで対象を絞り込むと効果的な改善が行えるでしょう。
2.定期的な計測を行い基準を定める
改善する部分を決めたのであれば、次はその部分を定期的に計測して基準値を設定しましょう。実際に比較して目に見える形で改善結果を確認するために必要なものであり、基準値を用意しておくことで今回行ったパフォーマンス改善案が正しいものだったのか、それとも期待していた程の効果を得られなかった失敗案だったかを判断できます。
そのために必要な基準値は平均だけでなく、最高値と最低値を合わせた3つ、そして値の揺らぎの原因や因果関係などのデータです。平均値・最高値・最低値は、基準値を定めるうえで必要なデータであり、揺らぎの原因や因果関係は後述する手順に必要なデータです。
計測には2つの環境で行う手法が存在します。1つは同一のスペックの機材で計測を行う手法で、「Synthetic monitoring(合成モニタリング)」と言います。常に一定のデータが算出されるため、変更による影響を確認しやすいメリットがある反面、ユーザーによるリアルなデータでは無いため、机上の空論や理論値でしかないといった欠点が存在しています。
対してサービスを利用しているユーザー環境を元に計測を行う手法も存在していて、こちらは「Real user monitoring(リアルユーザーモニタリング)」と言います。メリットは、実際にサービスを利用しているユーザーの環境を利用しているため、現実的なデータが計測可能です。欠点はユーザーごとに使用している機器が異なるため、コード変更の影響にばらつきが生じ、結果がわかりづらいといったものがあります。
3.システム構成の見直しとデータの収集
基準値を定めたところで、次に行うのはシステム構成の見直しとデータの収集です。前述した基準値の割り出しの際に集めるべきデータとして、平均値とは異なる最高値と最低値のデータや、値が揺らぐ際の原因や原因と値の因果関係のデータが関わってきます。このようなデータを収集しておくことで、「なぜパフォーマンスが悪いか」という原因だけでなく、「どのような時にパフォーマンスが向上しているか」といった、改善するためのヒントになるような情報が見つかる場合もあるでしょう。
システム構成の見直しは単純なシステムアップデートだけでなく、不要な部分があれば削除したり、効率化できる部分を改善するといった設計そのものの見直しも含みます。システム内の機能それぞれにどのような役割があり、どのような効果と影響があるのかをデータとしてまとめておくことで、改善すべきかどうかを考える材料になるでしょう。
そしてこれは、人材においても同じことが言えます。人の能力はそれぞれ違っていて、適材適所があります。特定の業務に人が多すぎて無駄が生じているのであれば、そこを削減することで人件費を減らせるでしょう。そして人手が足りていない部分に適した人材を回すだけで、パフォーマンスが劇的に改善する場合があります。
システム構成を見直した結果、そのシステムに共通する固有の問題・欠点が見つかる場合もあります。
4.パフォーマンス悪化の原因調査と改善案の策定
洗い出しによって見つけたパフォーマンスが悪い部分、そしてシステム構成の見直しとデータ収集によって集めたデータを元に原因を調査します。何がパフォーマンスを低下させているのか、逆にどのような時にパフォーマンスが向上しているか、そして改善したとしてどの程度パフォーマンスが向上するのかなど、原因調査とパフォーマンス改善で期待できる効果を元に改善案を策定します。
基本的にパフォーマンス改善における有効な手段は、「阻害要因」を取り除いて「促進要因」を強化するというものです。阻害要因はそのままパフォーマンスを低下させる原因のことであり、促進要因はパフォーマンスを改善するために必要な要素のことを指します。つまり、パフォーマンスが悪化している原因を解決し、機材や人材などを改善することでパフォーマンスを向上させるという、言ってしまえば単純なことが最も効果的なのです。
5.パフォーマンス改善の実行
パフォーマンス改善の前提準備が完了し、いよいよ改善案を実行する工程に移ります。パフォーマンスの改善は主に2つあり、1つは「トップダウン方式」、もう1つは「ボトムアップ方式」です。
トップダウン方式は、全体的な改善方法をガイドラインやチェック項目としてテンプレート化し、全体に実施する方法です。ボトムアップ方式は、現場ごとに問題点や改善案を出し、現場に合った方法で改善を行っていく方法です。
改善効果や速度そのものを見た場合、ボトムアップ方式の方が効果的であると言えます。トップダウン方式のように全体的に適用できるような改善方法はどうしても効果が小さくなり、その現場特有の問題を解決できないことが多いため、根本的改善には不向きであると言えます。対してボトムアップ方式は、現場ごとに最適な改善方法を実行できるため、ピンポイントに問題解決を行える可能性があります。ただし、ピンポイントな問題であればある程他の場所で適用できないため、改善に必要なコストはかかります。
ボトムアップ方式は、現場に問題解決を委ねる関係上、現場のモチベーション次第で効果が出るかどうかが左右されてしまう問題が存在しているため、パフォーマンス改善の段階でモチベーション維持といった課題が同時に発生します。人材のモチベーションが高ければそれだけ良いパフォーマンスの発揮を期待できますが、そのためには相応の工夫が必要になるでしょう。
6.結果を見て調整していく
改善案を実行した後は。その結果を観察・基準値と比較しながら調整を行います。実行後・あるいは実行中にわかったことで改善案を修正したり、改善後に出てきた新しい問題への対応、場合によっては改善前に戻して再度案を練り直す必要もあるでしょう。
重要なのは「改善によって期待していた効果を得ることができるか」であり、「改善案を実行したこと」そのものは重要ではありません。期待していた効果が得られていない・性急に実行したことで環境に適応できず、逆にパフォーマンスが低下したという結果が出ることもあるでしょう。その時に実行してしまったことにこだわって無理に維持してしまうと、無駄にコストをかけてパフォーマンスの悪い状態を維持しているといった、本末転倒な状態に陥ってしまいます。
人材も機材も、どちらか片方だけが優れていても本来のパフォーマンスは発揮できません。高性能な機材を取り揃えていても、それを扱う人間の能力が足りていなければ上手く扱えず、優秀な人材が揃っていても機材の性能が悪ければ能力を持て余してしまうでしょう。
結果を見て、そういったバランス部分を調整していくことで、より良い結果につながる可能性が高まると言えます。
パフォーマンスが悪化してしまう3つの原因
手順を解説したところで、実際にどのような場合にパフォーマンスが悪化してしまうのか、その原因を解説しましょう。
改善を実行するうえで正しく原因を把握していなければ、コストに見合った結果を得ることはできないでしょう。
1.処理するデータ量の増加
インターネットサービスなどは特に顕著ですが、利用者の数やWebサイトにアクセスする人が増えると、それだけデータが増えて処理に負荷がかかります。処理量が増えるとどうなるかと言えば、処理速度の低下によるパフォーマンスの低下です。
ネット上に限らず、現実においても人が多くなれば渋滞が起きて移動が遅くなり、手続きの処理速度が低下していくでしょう。これを解決する方法は2つあります。増えた人を減らすか対応する窓口を増やすかです。ネット上であればオペレーターやサーバーを増やすことで対応できますが、コロナ禍による半導体不足によって、容易にサーバーを増設できないのが2022年時点の問題です。
前者は顧客を減らすという、対処法としては愚策とも言える方法ですが、この原因で最悪なパターンは、アクセス過多などでサーバーダウンしてしまうことです。処理速度が低下しているだけであれば、パフォーマンスが悪化していてもまだマシと言えますが、サーバーダウンが発生すれば処理自体が停止してしまうため、処理が進まないうえに顧客が減るといった結果につながります。
そのため、最悪な結果だけは避けるために、アクセス制限や利用者制限をかけることで一時的に顧客を減らし、パフォーマンス維持を図るといった対処法を取れます。
パフォーマンス悪化が原因である場合は、サーバー増設や負荷の分散、処理の最適化といった改善案が必要と言えるでしょう。
2.システム改修や継ぎ足し開発による非効率化
機材やシステムの一新には、膨大なコストがかかり、特にインターネットに関わるPCなどの精密機器の性能は一年で大きく向上します。しかし、それを毎回買い直していくのは無駄が多く、結果的にコストを抑えるためシステムを改修する程度に留まったり、継ぎ足し開発でどんどん処理の効率が悪くなる場合があります。システム改修で冗長性が生まれているのであれば拡張性が高まっていると言えますが、大抵は後付で機能を追加して負荷が増えていくだけであるため、機能性と効率性をトレードオフするかたちになるでしょう。
コストを抑えて最低限必要な性能を確保しようとした結果、無駄の多い非効率的なシステムで開発を行うといった状態に陥ります。この場合、根本的なシステムの見直しや機材の一新が必要になるため、相応のコストがかかってしまいます。
しかし、部分部分であれば安上がりで済むものもあり、例えばクラウドサービス系のソフトを用いることで、ハード面を揃えるだけの予算が無くても低コストでデータ管理やサーバー利用が可能です。
3.システムそのものの複雑化
時代が進むと対応できなくなるシステムも出てきます。処理するデータに対応できないシステムを使い続けることでエラーを吐くようになり、まともに処理ができなくなったり、古いシステムを無理やり対応させるために改修していった結果、特定のプログラマーしか把握していないような状態になる場合もあります。そうなると、そのプログラマーが引き継ぎを十分に行わずに辞めてしまった際に誰も内容を理解できなくなり、手出しできなくなるでしょう。
パフォーマンス改善をする際の注意点
パフォーマンス改善で注意するべきポイントも解説していきましょう。改善と言っても、間違った方法であれば逆にパフォーマンスの悪化を招いてしまったり、何の成果にもつながらない無駄なものになる可能性があります。
計画を事前にしっかりと立ててから改善していく
当然の話ではありますが、改善するうえで計画はしっかりと立てておきましょう。計画を立てる際に問題になりがちなのが、「今更計画を変更できない」というものです。予算や社会的な地位といった計画そのものに関係のないことが要因で、無理のある計画をそのまま実行してしまう場合があります。
当然ながらそれは無理のある計画で、始めから破綻していたり成功しない計画である以上、やる意味はありません。同じように納期などに急かされるかたちで計画を煮詰める前に実行してしまうパターンも、失敗する可能性が高いと言えるでしょう。
確実に改善の成果を出すためには、事前にしっかりと立てておく必要があります。
多様な角度から問題点を探す
問題点は必ずしも一つの視点で見えるとは限りません。思いがけない部分が原因でパフォーマンスを低下させている可能性も十分に考えられます。例えば、最もわかりやすく、そして問題点を探すうえで最もわかりづらいのが「人間関係」です。
システム面の問題や、機材が古い・足りない、人材が足りていない・能力が足りていないなどの問題は、わかりやすい問題点と言えます。しかし、現場の人間関係やモチベーションなどは、データだけではわかりづらい問題点であると言えます。
優秀な人材であるはずが、期待していた程の成果を出せていない原因を追求していった先に、人間関係が起因したトラブルが原因で業務を妨害されている、といった理由でパフォーマンスが低下している可能性もあります。
ただデータと睨めっこするのではなく、多様な角度からパフォーマンスが低下している原因や問題点を探すようにしましょう。
推測よりも計測した数値を見て考える
推測とは、どれだけ詰めても推測、想像でしかありません。「これがこうだからこうなるだろう」という推測は、例えそれが経験則に則ったものであったとしても当てにしてはなりません。
きちんと計測したうえで、その数値を元に考える必要があります。数字は嘘をつきません、仮に計測した数値が間違いであったとしても、それは計測方法が間違っていたか、前提となる環境が間違っていたかのどちらかでしょう。
最終的に何をしたいのかをブラさない
場当たり的な対処は、結果に対して最も無責任な対処法と言えるでしょう。計画とは、最終的な目標を定めたうえで、その目標に対して足を進めていくものである以上、最終的に何がしたいかがブレた時点で計画は崩壊します。
逆に言えば、「最終的な目標がブレない限りはいくらでも修正できる」というのが計画です。最終的に何がしたいかという目標を計画段階で定めておき、計画実行中はその目標に到達できるかどうかを常に考えましょう。
最終目標に到達できないということは、計画が破綻しているということであり、その場合は別の計画が必要になります。
理想としては、計画通りに進んで目標を達成し、想定していた結果を得られるというものですが、そう上手くいかないこともあるでしょう。計画を進めることで対処しなければならないことがある、そのような時も最終的な目標はブラさず対処していきましょう。
パフォーマンス改善をするためのツールを使うと効率的
最後に、パフォーマンス改善に取り組むうえで効率的に進めることができるツールを解説していきましょう。前述したように、パフォーマンス改善において効果的なのが「クラウドサービス」です。
環境の改善となると機材を一新する必要がありますが、ハード面の一新には膨大なコストがかかります。しかし、クラウドサービスは機材導入をする必要がなく利用できるため、低コストで必要な機能を利用できます。
例えばWindowsを開発しているMicrosoftが提供しているクラウドサービス「Microsoft Azure」は、IaaS・PaaSと呼ばれるサービス形態を取っています。
- IaaS:ファイアウォール・仮想サーバー・ストレージといったインフラをネット上で提供するサービス形態
- PaaS:データベースやプログラム実行環境を提供するサービス形態
このように、クラウドサービスを利用することで機材が不足している状態でもネット上で必要な機能を揃えられるため、パフォーマンス改善に取り組むうえで低コストかつ効率的な効果を期待できます。
まとめ
以上、パフォーマンス改善についてわかりやすく解説をしました。パフォーマンス改善にはしっかりとした計画と、その計画を立てるために必要なデータ、計画を進めた結果を比較するための基準値計測など、さまざまな手順が存在しています。
原因を間違えたり対処法を間違えたりしない限りは、パフォーマンス改善は一定の効果は約束されているため、ある意味成功しやすい計画であると言えるでしょう。だからこそ、しっかりと計画を立てることでより効果的な結果を得ることができ、業務の効率を高められます。
「Microsoft Azure」のようなクラウドサービスは、コスト削減と必要な環境の構築両方を行える便利なツールであるため、活用して計画を立てることをおすすめします。