消費者の消費傾向はモノからコトへと変化しつつあり、製造業はモノの売り切りという従来のビジネスモデルの転換を迫られています。サービタイゼーションという発想が普及し、製造業のサービス化が成長の鍵になっているのです。コト消費の時代を迎えた製造業の現況と、今後必要とされる戦略を知り、顧客満足の実現につなげましょう。
消費はモノからコトへ
現在、国内や先進各国において、消費傾向がモノからコトへと移りつつあります。20世紀のようなモノ不足の時代は終わり、あらゆる製品が消費者のもとへ行き届く豊かな時代を迎えました。それにより物質的なモノ自体の価値が薄れ、消費者にとって真に価値あるものとして注目されているのがコト、つまり体験です。
モノ消費とは、何らかの形ある製品・サービスの機能的価値を消費する行為です。例えば、自動車は主要な役割として運搬機能や効率的な移動機能などを持っています。このような機能を価値とみなして自動車を購入・消費することが、典型的なモノ消費だといえるでしょう。
モノ消費の特徴として、価値が目に見えやすく定量化しやすいという点が挙げられます。先の例でいうと、自動車は運搬や移動などに使ってこそ価値があるという考え方であれば、「どのくらいの人数が乗れるのか、どれだけたくさんの荷物が運べるか」あるいは「どのくらいの速度が出せるのか」といった観点によって、価値が決まるでしょう。これらは物理的な尺度で計測することができます。
一方のコト消費とは、体験や付属的なストーリー性などを価値とみなす考え方です。必ずしも物質的なモノが手に入るわけではなく、提供されるサービスや時間、空間などに対価を支払います。典型的な例としては、映画館での映画鑑賞やテーマパーク、ライブコンサートといったエンターテインメントサービスが挙げられます。これらのサービスに対して、大抵の消費者は物質的なモノではなく、そこで過ごす時間やコンテンツ体験に価値を見出しています。
また、モノを購入する場合でも、そこにコト要素として体験を求めるケースも数多く考えられるでしょう。例えば、自動車についても単なる運搬・移動機械とみなすのではなく、ファッションのアイコンや快適な空間デザイン、ステータスの象徴として価値を見出す考え方です。この考え方では、消費者が自動車という有形物を購入してはいるものの、広義的にはコト消費として解釈することが可能です。
コト消費への変遷の背景には、いくつかの要因が考えられます。先述のとおり、国内において生活に必要なモノは安価で行き渡るようになり、消費者がモノ自体に対してあまり執着しなくなってきていることが第一に挙げられます。豊かな時代を迎えたことで、消費者が求める娯楽や体験は、物質的な製品から体験や付加価値にシフトしているのです。
もう一つの理由として、インターネットやIT技術、スマートフォンなどの普及も挙げられます。従来ではその場に足を運んだり、店舗で購入したりしなければならなかった製品・サービスでも、現在は手軽に入手できる環境です。例えば、従来の動画コンテンツは映画館やレンタルショップなどの利用が主な手段でしたが、現在ではネット動画専用サービスが普及したため、スマホがあればいつでもどこでも視聴できます。こうした便利なサービスが大衆化したこともあり、コト消費を重視する今に至ったのです。
今後の製造業は、「サービス化」が成長の鍵に
コト消費は、モノづくりによって収益を得てきた製造業にとって、これからの生存をかけて取り組まなければならないテーマです。特に、モノの提供によるビジネス方針を転換し、「サービス化」へシフトしていくことが成長につながっていきます。
製造業がサービス化するためには、顧客が製品に関わるあらゆる場面において、企業が積極的に関与していく考え方が大切です。例えば、自動車メーカーにおいては、自動車を企画・生産して顧客に販売する時点で収益が発生します。販売後はメンテナンスなどのアフターサービスがあるのも事実ですが、極端な話、「製品を生産して販売する」という一点がメーカーの中核を成しているといえます。
サービス化を実現するには、このようなメーカーとしてのビジネスモデルを一旦再考し、より幅広い範囲で顧客に価値や満足を提供する方法を検討しなければなりません。顧客が自動車を使用する際、故障対応・駐車場確保・車検・自動車保険・ローン・乗り換え・売却・廃車処分など、考えなければならないことは多岐にわたります。また、近年ではカーシェアリングやライドシェアといった新しい動きも生まれつつあります。メーカーは、売りっぱなしでその後の対応は消費者に委ねるのではなく、このような消費者・市場の動向も注視しながら、サービスを企画していくことが求められるのです。
サービス化へシフトするにあたって、従来の「価値提供」の考え方に加え、「価値共創」を意識することも重要です。これはメーカーの発想だけでなく、顧客のニーズや発想も柔軟に取り入れながら、ビジネスを生む手法です。サービス業であれば、サービス内容や業態を問わず、顧客の立場に立った価値創出が求められます。その際、製品という有形のモノを媒介して、顧客の悩みや要望を解決するようなサービスを付加し、顧客が体験することで初めて完結するといった消費設計が理想的です。
例に挙げた自動車メーカーに限らず、あらゆる製造業は消費者の獲得競争が激化する中、サービス業への転換を避けられない事情があります。競合他社や他業界とも戦える競争力を獲得し、収入源を確保するためにも、これからはサービス業的な発想がより重要となるのです。
サービス化を成功させるには
サービス化を成功させるためには、過去の事例を知ることが先決です。ここでは「ロールスロイス」社の航空エンジン事業の例を紹介しましょう。
ロールスロイスは、30機種を超える航空機向けにエンジンを納入してきた企業です。かつては航空メーカーに対してエンジンを納品する、製造業型のビジネスモデルを採用していました。そのような折、2017年、同社は「R2 Data Labs」という研究所を発表し、AI(人工知能)・機械学習・データ分析といった先端技術を研究する取り組みを開始したのです。
この研究所では、IoTやAIといった先端技術を用いて、同社がエンジンを納入した航空機からデータを取得・蓄積できるシステムを研究しています。そして、航空機の稼働データを活用することによって、資産の効率的な利用・メンテナンス・安全性向上・コンプライアンスといった新たな価値の提供に成功しました。メーカーならではの技術力や、先端技術を活かしつつ、従来の「売り切り」という製造業の枠組みを越えて、顧客視点の発想でサービス化への転換を果たした事例といえるでしょう。
Azureで始める製造業のIoT
Microsoft社が提供する「Microsoft Azure」というサービスであれば、IoTをスムーズに製造業に取り入れられます。このMicrosoft Azureとは、個別の製品やソリューションの中から、自社が使用したい組み合わせを自由にカスタマイズし、アプリケーションを自在に構築できるクラウドサービスです。
数あるサービスの中でMicrosoft Azureを選ぶメリットの一つに、導入のしやすさがあります。好みに合わせてツールやフレームワークのカスタマイズができるため、まずは特定の用途に限ってサービスを開始し、本格的に拡大したい場合にはその都度機能を追加していく、といった使い方も可能です。
Microsoft Azureは、日本の商習慣に合わせた対応もできます。例えば、円建て請求・請求書対応・日本法に準拠したプロセスを実施する際にも支障ありません。日本国内にデータセンターがあるため、海外を経由しないネットワークを構築することも可能です。
ロールスロイス社の事例からも分かるとおり、製造業が本来持つ技術力と、IoTやAIといった先端技術の融合は、企業や顧客にさまざまなメリットをもたらします。今後、製造業のサービス化に向けて新たなビジネスモデルを検討する場合、こうした先端技術の導入も一考に値するでしょう。
まとめ
コト消費の拡大や多様化により、製造業界は従来の発想からの転換を迫られています。特に鍵となる考えの一つが、製造業のサービス化です。製造業は今後、「価値提供」のみならず「価値共創」も意識した新戦略の検討を求められるでしょう。その際、AIやIoTといった先端技術や、顧客の意見を取り入れた、柔軟な発想が要になると考えられます。