SAP S/4 HANA(SAP Business Suite 4 SAP HANA、エスエイピー・エスフォーハナ)は、SAP社のインメモリーデータベース「SAP HANA」を標準プラットフォームとするERP製品であり同社においては、「SAP R/3」および「SAP ERP」の後継であり第4世代のERPとして位置付けられています。
本稿では、SAP S/4HANAについて理解していただくために、そのベースとなるSAP HANAから解説しSAP S/4HANAの特徴などについてご紹介します。
そもそもSAP S/4 HANAは売れているの?
SAPは世界的に利用されているERPソリューションを有するリーディングカンパニーであり、世界のForbes 2000企業の90%以上が同社の顧客だと言われています。そして、2015年2月に販売が開始されたSAP S/4HANAは、どれくらい多くの企業に採用されているのでしょうか。同社は、年次イベント(2016年5月開催)において販売開始から1年で3,200社がSAP S/4HANAを採用したと発表しています。そして最近の発表(2019年7月)では、11,500社にまで成長しているとのことです。Microsoft やGoogleなど世界的に有名な企業はもとより、日本国内においても多くのユーザーがSAP S/4 HANAを採用しています。
SAP HANAとは?
そんなSAPが2010年に提供開始したのが、SAP HANAと呼ばれる「インメモリデータ処理プラットフォーム」です。SAP HANAは、全てのデータをメモリー上に保有するため圧倒的に高速なデータ処理を実現することが可能になります。そのためSAPに代表される基幹システムだけでなく大規模データ解析などの用途にも幅広く利用可能になっています。もちろん、ご想像の通りSAP S/4 HANAのERP基盤として利用されるのがSAP HANAというわけです。
ここまででインメモリデータ処理が大きな特長の一つということはおわかりいただけたかと思います。
一般的なデータベース製品では、搭載されたハードディスクにデータを保持しながら動作することが基本になります。ハードディスクへのアクセスはメモリへのアクセスに比べて非常に遅いというデメリットがあります。このような欠点を補うためにSAP HANAではすべてのデータをインメモリに展開しながら動作します。自由にデータの読み書きが可能な半導体メモリが使用されており、データの読み書きを超高速に処理できるという特徴があります。
このインメモリデータベースであるSAP HANAは、パブリッククラウドやプライベートクラウド、オンプレミスなど自由に展開が可能になっています。例えば、SAP HANAをパブリッククラウドであるMicrosoft Azureに展開する場合、スケールアップで最大 24 TB、スケールアウトで最大 60 TB のメモリを備えたシステムを数分で作成できます。
また、SAP HANAを一躍有名にしたのは、2014年にブラジルで開催されたFIFAワールドカップではないでしょうか。SAPの本拠地であるドイツが優勝した背景に、SAP HANAを利用した徹底的な分析があったことは、あまりにも有名です。
SAP S/4HANAとは?
SAP S/4HANAは、インメモリデータベースのSAP HANAをプラットフォームとして利用しているSAP ERPソリューションです。2015年2月に発表され、2016年から日本でも利用できるようになりました。
SAP S/4HANAは、従来のSAP ERPを単純にSAP HANAに移行したものではありません。実は、従来のSAP ERPソリューションとはまったく異なるアーキテクチャを持ちます。
SAP S/4HANAはSAP HANAの性能を最大限引き出すために、アーキテクチャを全面的に再構築して、データモデルを可能な限りシンプルにしています。例えば、従来のSAP ERPソリューションでは、ある商品在庫情報に関する項目だけでも30近くのテーブルが存在し、何万点もの部品点数を持つようなアセンブリー商品のバックフラッシュ処理(部品在庫の引き落とし)を行う場合は、処理性能が不足しがちでした。一方、SAP S/4HANAでは中間テーブルを排除し、たった2つだけのテーブルを使用しします。ワークロードが少なくなった上、SAP HANAの高速処理を採用することで、瞬間的に在庫数の計算処理が完了します。
さらに、ユーザーエクスペリエンス設計を大幅に改良しているのもSAP S/4HANAの特長です。従来のSAP ERPソリューションでは、各業務の処理は機能別にまとまった画面を使うため、多数の画面を行き来しながら処理を実行するということがありました。一方、SAP S/4HANAではユーザーごとにロール別画面を設計することで、画面の行き来が大幅に減少しています。例えば特定の処理では、従来10画面必要だったのに対して、SAP S/4HANAではたった4画面で業務を完了させることが可能になっています。
SAP S/4HANAのメリット
来る「SAP 2025年問題」に対して大きな不安を抱えているSAPユーザーが、SAP S/4HANAへ基幹システムを移行することでどのようなメリットが享受できるのでしょうか?
分析やレポーティングをすべて同じ基盤で
従来のSAP ERPソリューションで分析やレポーティングを行おうとすると、個別に構築したDWH(Data Warehouse)が必要でした。一方、SAP S/4HANAは分析もレポーティングもすべて同じ基盤で行え、経営意思決定に欠かせない判断材料をスピーディに調達します。
システムのタイムラグがゼロになる
SAP HANAのインメモリデータベース技術を全面的に採用したSAP S/4HANAは、これまでに実感したことのない速度でのデータ処理が可能です。ほぼ全ての業務において高い処理速度を実現し「ゼロレスポンスタイム」を目指せます。
TCOおよびインフラコストの削減に繋がる
ERPソリューションのレスポンスタイムが改善されると、ビジネスプロセスの見直しが従来よりもずっと簡単になります。部門ユーザーのオペレーションは減少し、TCO(Total Cost of Ownership)が削減され、データサイズが小さくなることでインフラコストの削減にもつながります。
オンプレミス・クラウド・ハイブリッド、自由な選択で
SAP S/4HANAの導入先はオンプレミスでもクラウドでも、ハイブリッドでも自由に選択できます。Microsoft Azureなどにも対応しているためより戦略的な企業情報システムを実現することも可能です。
SAP S/4HANAは今でも進化している
SAP S/4HANAがリリースされた当初、シンプル性を追求したことが要因となり、SAPユーザーから「機能面での不足が多いのではないか?」という疑念がありました。そして、SAPではその意見を真摯に受け止めて、SAP S/4HANAに度重なる改良を加えています。
その結果、もっとも現実的かつ実用性の高いERPソリューションとして提供されています。そんなSAP S/4HANAには「データベースサービス」「分析処理」「アプリの開発」「データアクセス」「管理」「セキュリティ」という6つのカテゴリごとに豊富な機能が搭載されており、企業のビジネスプロセス最適化と処理高速化を実現することで企業経営を支えます。
今後も進化を続けるSAP S/4HANAと、SAP S/4HANAを構築するために用意されたさまざまなプラットフォームにぜひご注目ください。