SAPは世界中であらゆる規模の企業が採用するERP(Enterprise Resource Planning)システムを提供しており、業種や業態など適用領域を問いません。中堅・中小企業から大企業まで、幅広い企業をターゲットとしており、複数のERPシステムを提供することでそれぞれのニーズに対応しています。業界や業種ごとのテンプレートも豊富で、オンプレミスでもクラウドでも運用できることから多くの企業や組織に導入されています。
その一方で、製品の選択肢が多く、SAPの導入を検討する企業にとってどのような製品を選べば良いのかわからないという声も聞こえていきます。また、そもそもSAPはSAPという一つの製品だけを提供していると勘違いしている人も多いのではないでしょうか。
SAP ERPの導入およびアップグレードを検討している企業では、自社のニーズや予算を把握した上で適切なERP製品を選ぶことが大切です。本稿では、SAPが提供する5つのERPシステムの特徴を解説していきます。それぞれの特徴を知り、SAP ERP導入検討時の判断材料としてください。
SAPが提供する5つのERPシステム
それでは、現行製品を注意点とともにご紹介していきます。
SAP ERP
SAPの主力製品ともいえるのがSAP ERP(SAPが提供する統合基幹パッケージシステム)であり、最新バージョンは6.0となっています。SAP ERP 6.0は2006年に利用可能になり、2016年に最新の拡張パッケージがリリースされました。前身となる製品は1992年7月に発表されたSAP R/3であり、SAPはその後10年以上にわたって大型ビジネスアプリケーション市場を席捲しています。
SAP ERPの特徴を他のERPシステムと比較して考えた場合、高い研究開発投資と万全を期したサポート体制が敷かれていることで、長期にわたって利用可能なIT基盤を構築できます。事実、10年以上SAP ERPによって基幹業務を支えている企業はたくさん存在します。
さらに、他多くのERPパッケージが一定の機能を積み上げて構成されているのに対し、SAP ERPは業務プロセスそのものの実現を重視しています。業務プロセスが遮断されないよう、各システムで総合に矛盾や不整合が発生しない仕組みに最新の注意を払っている、というわけです。
またグローバル企業においても、その機能性は高い評価を得ています。25の業種、37の言語、47のローカライズが利用できることも大きな利点です。SAP ERPならば各国の法令基準へ対応するのも難しくありませんし、世界の有力企業の多くがSAPの顧客なので、SAP ERPを利用しているというだけで安心感もあるでしょう。
2025年末にサポート終了
ただし、SAP ERPのサポート期限は2025年12月31日をもって終了することが決まっています。2015年、2020年と2度のサポート期限延長を経て、その長い歴史に幕を閉じようとしているのです。従って、これからSAPのERPシステムの導入を検討している企業では、この製品の選定はありません。
SAP S/4HANA
SAPの主力製品であるSAP R/3、SAP ERPの後継製品として2015年2月に発表されたERPシステムです。2016年5月に開催されたSAPの年次イベントでは、リリースからわずか1年間で3,200社がSAP S/4HANAを採用し、SAP史上最速のペースで拡大していると発表しました。
SAP S/4HANA最大の特徴は、SAPが開発するインメモリデータベースシステムのSAP HANAを基盤としていることです。SAP HANAは従来のデータベースに比べて極めてリアルタイム性に優れており、SAP S/4HANAでは組織全体の情報を含めた経営状況を、限りなく素早く参照できることが利点となっています。
オンプレミスでの導入はもちろん、Microsoft Azureなどのパブリッククラウドでの運用も可能であり、企業ニーズにあわせた柔軟な展開が可能になります。ちなみにMicrosoftではSAP S/4HANAをMicrosoft Azure上で適切に運用し、収益性を最大化するためのサービス「Azure on SAP」が提供されており、世界に点在する50名以上のSAPプロフェッショナルがサポートしています。
2025年にサポート期限が終了するSAP ERPを現在運用している企業の中にも、SAP S/4HANAを新しい基幹システムとして採用する動きが活発になっており、今後の拡大に更なる期待が集まっています。
SAP S/4HANA Cloud
SAP S/4HANAをクラウドサービスとして提供されている製品がSAP S/4HANA Cloudです。クラウドサービスなため、ネットワーク構成を見直したり専用サーバーを調達したりするのは不要であり、システム管理にかかるコストや労力を最小限に止めることが可能になります。
SAP S/4HANAの機能を踏襲しているため、予測分析データにもとづく意思決定や、機械学習による自動化、効率化、俊敏性の強化なども可能です。さらに、SAP S/4HANA Cloudを2層構造で導入・展開することによって、本社と子会社間の連結と統合をシンプルにできます。SAP S/4HANA Cloudでは無料評価版を入手できるため、試験的に導入して自社内で評価することができます。
SAP Business ByDesign
中堅・中小企業向けのクラウド型ERPシステムがSAP Business ByDesignです。必要に応じてBase Package、Self-service user、Team user、Enterprise user4つのプランから選択でき、財務、顧客管理、人事、プロジェクト管理、調達・購買、サプライチェーン管理、ローカリゼーションなど幅広い機能を備えています。
クラウドサービスなので、ピーク時に合わせてリソースを拡張できるため、ハードウェア資産やソフトウェア資産を持つ必要がありません。システムの運用や保守工数も削減できることから、運用負担軽減にもつながります。
SAP Business One
SAP Business Oneは中小企業のニーズに合ったERP機能を提供しています。財務管理、販売・顧客管理、購買・在庫管理、BI(Business Intelligence)、分析とレポーティング、業種別の機能を提供しており、中堅・中小企業が持つ幅広いニーズに応えることが可能です。
中堅・中小企業向けのERPシステムでありながら、42か国の国別要件と27の言語に対等していることから拡張性が高く、グローバル展開にも強い製品です。海外子会社のERPシステムとしても広く採用されています。
いかがでしょうか?以上が、SAP が提供する5つのERPシステムの特徴です。SAPを検討する際は、各製品の特徴を十分に理解した上で選択しましょう。