近年、クラウドファーストの潮流が加速しており、多くの企業がERPシステムをクラウドへと移行しています。そんななかで注目を集めているのが「SAP on Azure」です。本記事では、ERPシステムをクラウドへ移行するメリットや、SAPのクラウド運用基盤としてAzureが選ばれる理由について解説します。
ERPをクラウドへ移行するメリット
「ERP」とは「Enterprise Resource Planning」の略称で、直訳すると「企業資源計画」を意味する用語です。企業にとって最も重要な経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報を一元管理し、最適化するマネジメント手法を指します。広義では経営資源を運用するマネジメント手法を指す概念ですが、近年では企業の統合基幹システムをERPと呼称するのが一般的です。
近年、このERPシステムをオンプレミス環境からクラウド環境へと移行する企業が増加傾向にあります。ERPシステムをクラウド化することで、一体どのようなメリットを得られるのでしょうか。
最新技術の活用
ERPシステムをクラウド化するためには、「PaaS」と呼ばれるクラウドプラットフォームが必要になります。PaaSは「Platform as a Service」の頭文字をとった略称で、OSやストレージ、アプリケーション開発に必要なミドルウェアやランタイムといったプラットフォームをクラウド上で提供するサービスです。代表的なソリューションとしてはMicrosoftの「Azure」、Amazonの「AWS」、Googleの「GCP」が挙げられ、この3つは「3大クラウドサービス」と呼ばれています。
PaaSは、ただ単にERPシステムのクラウド運用基盤となるだけではありません。たとえば、ビッグデータ分析基盤やAIソリューション、あるいはIoT運用基盤やハイパーバイザーなど、さまざまなサービスが含まれています。これらを活用することで、高度なデータ分析に基づく経営戦略の策定や需要予測が可能になります。とくにMicrosoftが開発しているAzureは、Office製品やTeamsといったアプリケーションとの円滑な連携が可能であり、組織全体の生産性向上に寄与するソリューションです。このように、ERPシステムの運用基盤をPaaS型のサービスへと移行することで、さまざまな最新技術を活用できます。
コスト削減
オンプレミス環境からクラウド環境へ移行する大きなメリットのひとつが、システムの導入費用と管理コストの大幅な削減です。オンプレミス型のERPシステムの場合、サーバーやネットワーク機器を導入する必要があるほか、それらITインフラを管理する施設やスペースも不可欠です。事業規模が大きくなるほど大規模なITインフラを構築する必要があるため、莫大な導入費用を調達しなくてはなりません。同時に、システムの運用・保守における継続的な管理コストも必要です。
クラウド環境は、こうした大規模なサーバーやネットワーク機器を必要としないため、初期費用を大幅に削減できます。導入費用を無料としているサービスも多く、継続費用に関しても月額課金制もしくは従量課金制になるため、事業規模に適したプランを選択することでランニングコストの最適化が可能です。さらにシステムの運用・保守も不要になるため、情報システム部門の業務負担軽減と人件費削減につながり、コストを抑えつつ経営資源を最適化できる点も大きなメリットです。
セキュリティの強化
ERPシステムは、企業の根幹となる基幹情報を管理するソリューションです。そのため、セキュリティ管理の最適化は最も重要な経営課題といっても過言ではありません。
クラウドサービスの多くはセキュリティサービスやバックアップソリューションが含まれており、コストや手間の大幅な削減につながります。たとえばAzureは、日本セキュリティ監査会が制定した「クラウドセキュリティゴールドマーク」を取得しており、これは国際的な情報セキュリティ基準を満たす証です。バックアップの自動化も容易なため、ERPシステムのセキュアな運用が実現します。
SAPのクラウド移行にAzureが選ばれる理由
「SAP ERP」は2027年にメインストリームサポートの終了が予定されているため、「SAP S/4HANA」への移行が急がれます。このバージョンアップを契機として、クラウド環境へ移行する企業が増加しているのです。このような背景もあり、MicrosoftとSAPのパートナーシップによって開発されたサービスが「SAP on Azure」です。
SAP on Azureは、SAPのERPシステムをAzure上に構築できるサービスで、Microsoftが提供する各種アプリケーションとの連携性に優れるという特徴を備えています。オンプレミスとの親和性が高く、ハイブリッド構成に適しているなど、ほかにはない豊富なメリットを享受できる点が、Azureが選ばれる理由のひとつです。
Azureを利用してSAPを移行させる手順
ERPシステムをクラウド環境へと移行する際は、データの破損や消失といったリスクが存在します。SAP on Azureではクラウド移行におけるサポートを提供しているため、データ消失リスクを最小限に抑えられます。具体的なサポートのプロセスとしては、まず現在のSAP環境を評価して、移行計画を立案するのが最初のステップです。その後、開発環境・テスト環境・本番環境を構築し、要件定義とKPIに基づいてチームを配置します。
次は、構想にマッピングするランドスケープを計画する段階です。システム要件やセキュリティ環境、あるいはデータベースのニーズに合わせてクラウド環境を最適化し、企業規模や事業形態に応じたSAP環境を構築します。その後はデータ復旧とパフォーマンスのテストを重ね、クラウド運用の知見に基づいてランドスケープを最適化します。そして更新システムを組み込み、クラウド環境を継続的に強化するというのが、サポートの基本的なプロセスです。
SAP on Azureのメリット
SAPをAzureに移行することで得られるメリットは、大きく分けて3つあります。それが「セキュリティの強化」「基幹業務の効率化」「コスト削減」です。先述したように、Azureは国際的な情報セキュリティ基準を満たしているため、ERPシステムのセキュアな運用が可能になります。Microsoftのさまざまなサービスとの連携が可能になり、基幹業務の効率化につながるのも大きなメリットです。また、オンプレミス環境からクラウド環境へと移行することで、サーバーやネットワーク機器の運用・保守に必要な管理コストの削減に貢献します。Azure上にSAPを構築することでセキュアな部門間連携が可能になり、意思決定の迅速化や労働生産性の向上につながるでしょう。
まとめ
ERPシステムの主流はオンプレミスからクラウドへと移行しつつあります。とくに、2027年にメインストリームサポート終了が予定されているSAPは、今後の運用の在り方が問われます。旧世代SAPを利用している、またはERPシステムのクラウド化を検討中の企業は、ぜひSAP on Azureを導入してみてはいかがでしょうか。