クラウドネイティブなシステム環境の構築を目指すものの、具体的なメリットが把握できず、オンプレミスからの脱却に踏み切れない企業も少なくありません。そこで本記事では、クラウドとオンプレミスの概要や、それぞれの特徴について詳しく解説します。クラウド環境への移行を検討中の企業は、ぜひ参考にしてください。
クラウド、クラウド移行とは
「クラウド」とは、コンピューターネットワーク経由でITリソースを利用する技術「クラウドコンピューティング」を意味する用語です。そして、自社にITインフラを構築することなく、オンライン経由でファイルサーバーやストレージ、メールクライアントなどのコンピューターリソースを活用できるサービス形態を「クラウドコンピューティングサービス」と呼びます。
諸説ありますが、クラウドという概念が登場したのは1990年代後半といわれています。そして2006年、当時GoogleのCEOだったエリック・シュミット氏がクラウドコンピューティングについて言及したことで注目を集め、同年に現在のクラウド市場で圧倒的なシェアを誇る「AWS(Amazon Web Services)」が登場しました。その後、2008年には「Google Cloud Platform(現Google Cloud)が、2010年には「Microsoft Azure」がリリースされ、クラウド市場の規模は右肩上がりで急成長しています。
クラウドサービスの需要が高まる背景にあるのは、デジタル技術の活用による経営改革「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の実現です。現在、国内では少子高齢化やそれに伴う生産年齢人口の減少といった社会問題が深刻化しており、こうした状況を打破すべく、優れたITソリューションを活用した経営改革が喫緊の経営課題となっています。
そして、DX実現における要となるのが、ビッグデータの戦略的活用です。情報通信技術の発達とともに、企業が取り扱うデータ量は指数関数的に増大しており、いかにして蓄積されたビッグデータをマネジメント領域に活用するかが課題となっています。そのためにはクラウドネイティブなシステム環境と、BIツールやマシンラーニングなどを活用したデータ分析基盤の構築が欠かせません。このような背景から、時代の潮流はクラウドファーストへと加速しており、オンプレミス環境からクラウド環境への移行を推進する企業が増加傾向にあるのです。
具体的なクラウドサービスについて
クラウドサービスには、大きく分けて「SaaS」「IaaS」「PaaS」という3つの形態があります。SaaSは、アプリケーションとして提供されるITリソースを活用するクラウドサービスです。IaaSは、サーバーやストレージ、CPUやメモリなどのITインフラをクラウド環境に構築するサービス形態を指します。PaaSは、IaaSが提供するITインフラに加え、OSやミドルウェア、ランタイムなど、アプリケーション開発のプラットフォームをクラウド環境で利用できるサービス形態です。
SaaS型の代表的なクラウドサービスとしては、「Microsoft 365」「Office 365」「Google Workspace」「Box」などが挙げられます。AzureやAWS、Google Cloudなどは複数のソリューションによって構成されており、IaaSとPaaSそれぞれの性質を併せ持つクラウドサービスです。たとえばAzureでいえば、仮想マシンの「Azure Virtual Machines」はIaaS、データベースサービスの「Azure SQL Database」はPaaSに該当します。
クラウド環境で実現できること
クラウド環境では、オンプレミス型のように自社に物理的なITインフラを構築する必要がありません。そのため、システムの設計・開発・運用におけるコストを大幅に削減できる点が最大のメリットといえます。
また、サーバー機器やネットワーク機器などのハードウェアが不要になることで、システムのメンテナンスや冗長化といった保守・運用管理が不要になるのも、クラウド環境ならではの利点です。システム管理部門の業務負担が軽減されるため、浮いた人的資源をコア業務に集中することで、経営基盤の総合的な強化につながります。
オンプレミスとは
「オンプレミス」とは、自社のデータセンターにサーバー機器やネットワーク機器を設置して、ITインフラを構築する運用形態を指します。いわゆる「自社運用」と呼ばれるシステム形態です。オンプレミス環境は自社で設計・開発を行うため、カスタマイズ性に優れ、独自の機能要件と非機能要件を完璧に満たすシステムを構築できます。しかし、ハードウェアの導入やシステムの設計・開発に高額なコストを要し、安定した稼働を担保するために継続的な保守・運用管理が必要です。
オンプレミス環境の限界について
オンプレミス環境はアドオン開発によって独自の要件を定義できるため、堅牢なセキュリティ環境を構築できる点が最大のメリットです。しかし、セキュリティパッチの更新やソフトウェアのアップデートなど、システムの保守・運用管理の手順が煩雑であり、システム環境が肥大化・ブラックボックス化しやすい傾向にあります。
また、システムの安定稼働には高度な知見を有するエンジニアが必須であり、人材確保や従業員の教育に多大なコストを要する点もデメリットといえるでしょう。
オンプレミス環境とクラウド環境の比較
オンプレミス環境とクラウド環境は異なる特性をもち、それぞれにメリットとデメリットがあります。たとえば、ERPシステムを構築すると仮定した場合、オンプレミス環境では数千万円~数億円の開発費用と、1〜3年の開発期間を要する事例も珍しくありません。ITインフラを構築する必要がないクラウドERPであれば、導入費用を大幅に削減でき、さらに開発期間も数ヶ月〜1年程度に短縮可能です。
しかし、クラウド型はサービス事業者が提供する機能や性能に依存するため、アドオン開発を行えるオンプレミス型と比較した場合、カスタマイズ性の観点では大きく劣ります。そのため、必ずしも自社のシステム要件を満たせるとは限らず、業務プロセスの変更を余儀なくされる可能性も否定できません。
このようにオンプレミス型とクラウド型は相反する特性をもつため、システムの導入目的や会社の事業形態を考慮し、製品を選択する必要があります。
色々選べるクラウドシステム
先述したように、クラウドサービスにはSaaS・IaaS・PaaSなどの形態があり、それぞれに一長一短があります。たとえば、SaaSは最も初期投資を抑えられ、比較的簡単に利用できるクラウドサービスです。しかし、複数のユーザーがリソースを共有するパブリック環境にデータやファイルが保管されるため、財務・会計や人事などのクリティカルな情報を扱う場合、セキュリティ面での不安が懸念されます。このような場合は、オンプレミス環境でIaaS・PaaSを運用するプライベートクラウドを構築することで、セキュリティを担保できます。
また、機密度の高い情報はオンプレミス環境で管理し、共有データはクラウド環境で運用するなど、ハイブリッドクラウド環境の構築も有効なセキュリティ対策です。こうした柔軟なクラウド環境の構築を目指すのであれば、Azureの活用がおすすめです。Azureはインフラストラクチャやファイルサーバー、BIツールや仮想マシンなど、さまざまなソリューションによって構成されており、パブリッククラウドやプライベートクラウド、ハイブリッドクラウドなど、要件に応じて柔軟なシステム環境を構築できます。
事業計画に見合ったクラウド環境
MicrosoftやAmazon、Google、Oracle、IBMなど、さまざまな企業が多種多様なクラウドサービスをリリースしているため、自社に適したソリューションを選定するのは簡単ではありません。そのため、まずは経営ビジョンや企業理念に基づき、どの事業領域にクラウドコンピューティングを活用したいのかを明確化する必要があります。
そして、クラウド環境へのマイグレーションを検討する際は、SIerの移行支援サービスやコンサルティングサービスなどの活用がおすすめです。クラウドサービスの導入から運用までを全面的にサポートしてくれるベンダーを見極めることで、マイグレーションにおけるファイル破損や移行の失敗といったトラブルを最小限に抑えられます。
まとめ
DXを実現するためには、優れたデジタル技術の活用が欠かせません。多種多様なクラウドコンピューティングを提供するAzureは、DXの実現を推進し、経営基盤の総合的な強化に寄与します。クラウド環境への移行を検討している企業は、ぜひAzureの導入を検討してみてはいかがでしょうか。