世界で流通するデータの量や種類が激増している昨今では、資産としてビジネスに活かす目的で、データの価値が高くなってきています。この記事では、その価値を最大化させ、新たな価値を創出させるためのアプローチ方法や、その価値を評価する方法について解説します。
データの価値とは?
データは重要な役割を担っていますが、そもそもどのような価値をもっているのでしょうか。
米国の格付け会社であるS&P(S&P Global Ratings)の500種指数において、上位5銘柄であるAppleやMicrosoft、Amazonなどは、すべて膨大なデータを保有・活用している企業です。これらの銘柄が保有するデータ量は、全体の約26%を占めるほどとなっており、企業が活用するデータの価値の高さがうかがえます。
めまぐるしい技術革新によって、世界で取得可能な有益なデータ量や種類は、今後もさらに急増すると見られています。現在、世界で生成されるデータ量は1日あたり2.5QB(クィンティリオンバイト)といわれていますが、IDC社とSeagate Technology社が共同で実施した調査によると、2025年には世界でつくられるデータ量が175ZB(ゼタバイト)に達すると予想されています。
引用元:IDC「The Digitization of the World From Edge to Core」
それら膨大なデータを有効活用するため、すでに世界の約1/3の企業が、利益を目的としたデータの商業化に取り組んでいます。さらに、データ分析プラットフォームベンダーのSplunk社が調査した結果によれば、データ活用に成功している企業は、年間総売上高の12.5%をデータ活用によって獲得しているとのことです。
引用元:Splunk「データの本当の価値を探る」
このように、データに高い価値を見出し、適切に活用することで経済的な効果が高まると考える企業が増えてきているのです。
データの価値を最大化し、新たな価値を創造するアプローチとは
とはいえ、多くの企業は膨大なデータを目の前にして、どのように活用すべきか、また必要な技術にどの程度投資すべきか頭を悩ませているのも事実です。それらの課題を乗り越えるためには、まずデータありきではなく、「自社のどの事業で、どのような価値を創造したいのか」というビジョンをもつことが重要です。「自社が競合よりも大きな価値を生み出せそうなのは何か」「それを実現するために必要な資産は何か」が明確で、それを実現する戦略があってこそ、データ活用が真に活きてくるからです。
では、資産としてのデータの価値を上げ、新たな価値を創出するためには、どのような戦略をとればよいのでしょうか。以下で具体的なポイントを解説します。
商品力の強化
目的に沿って取得した新しいデータから分析・利用を行うと、自社が既存事業としてもつ商品やサービスについて、強みや弱みが明確になります。それらを改善・強化していくことで、販売力の向上や売上の拡大につながり、競争優位性を高められます。
コスト削減
データ活用の目的は、何も収益を上げることだけではありません。顧客に関する深いインサイトを得た結果、効率的な戦略を立てられ、よりターゲットを絞り込んだ施策が可能となります。つまり、無駄なコストをかけなくて済むようになるのです。
コスト削減の主な取り組み例としては、在庫管理の最適化や顧客情報管理の強化、マーケティング施策における「ROI(Return On Investment:投資収益率)」の改善などが挙げられます。なお、これらコスト削減の取り組みは、収益を上げる取り組みよりも成果が顕著に出やすい傾向にあります。
新サービスを売り出す
既存の自社商品やサービスを改善したり強化したりするだけでなく、データ活用によって新しいサービスを開発することも可能になります。中には、社内の購買データを取引先に提供し、共同開発して新たなイノベーションを創出したり、魅力的な商品開発につなげて市場を活性化したりする例もあります。
データのライセンスを提供
企業によっては、自社が保有するデータのライセンス事業を展開しているところもあります。たとえばTwitterは、刻々と蓄積されるツイートデータをマーケティングや災害対策として、データマイニングを行う企業に販売しています。その収益は年間で5億ドルにのぼるとされており、データそのものの価値が認められている例といえます。
Twitterからデータを購入した企業は、消費者のマインドやトレンドを理解できるようになり、自社の新製品開発のアイデアに役立てられます。また、投資の判断材料として用いられるケースもあります。
データの価値を評価する方法
データには極めて高い資産価値があり、それを利活用することで、直接ユーザーから利益を得たり、商品力の強化などによって間接的に利益を上げたりできます。しかし、個々のデータを見てみると、その価値は唯一無二のものです。また、データが企業の財務資産として計上されていなかったり、データの管理上、開示が困難であったりするため、事実に即した詳細な評価は困難とされています。
とはいえ、企業の資産と同様に、一般的な価値を評価することは可能です。ここでは、マーケット・コスト・キャッシュフローを軸にした3つの評価方法をご紹介します。
企業価値をベースに算出
先述したように、データはどれだけ価値を生み出していたとしても、企業のバランスシートに計上されず、無形資産としても認識されません。ただ、その企業が過去に合併や買収、破産申請、データ売却などを行っていた場合は、その取引履歴や金額からデータの価値を推定できます。
たとえばソーシャルメディア業界では、アクティブユーザー(MAU)をデータとして算定します。2012年には、当時のFacebookがInstagramを1MAUあたり20ドルで買収しました。またTikTokの米国事業では、自国で1人あたり600MAUとして算出し、600億ドルの価値が見込まれている事例もあります。
コストをベースに算出
2つ目の評価方法として、データ収集からストレージ、加工分析にかかるコストから、基本的な価値を推定する方法があります。収集コストを考慮しなければ、クラウドに蓄積されているデータは、おおよそ50GB(ギガバイト)あたり月1ドルといわれています。
動画配信サービスで有名なNetflixを例に挙げると、ユーザーの閲覧データを取得することで嗜好の動向を把握し、新しい映画やテレビ番組の制作や選定に役立てています。これをコストベースでデータの価値を測ろうとすれば、閲覧データ量やデータストレージコスト、分析コストをもとに算定するわけです。
しかし、この方法はプロバイダとの交渉次第でストレージコストが上下したり、将来的な成長予測が困難であったりするデメリットもあります。本来の価値を過小評価しないためにも、さまざまな要素を丁寧に確認することが必要でしょう。
データの市場価格をベースに算出
3つ目に挙げられるのが、データをキャッシュフローに転換させて本質的な価値を測ろうとする方法です。先述したTwitterの例に見られるように、データを販売していれば、その価格から価値を推定できます。
Twitterは1日あたり5億以上のツイートを蓄積し続けており、さまざまな企業が自社のマーケティング戦略に基づき、それらのツイートから得られるデータを購入しています。事実、Twitterのデータライセンス収益は2015年から2020年にかけて倍以上に増加しており、ビジネスにおけるデータの価値がいかに高まっているかがうかがえます。
今後もますますデータの価値が上がるとされており、2025年にはTwitterのデータライセンス収益が自社総額の約8%を占めるほどにまで成長すると見込まれています。
引用元:GLOBAL X「デジタル世界におけるデータの価値」
まとめ
世界に存在するさまざまなデータは、有益な資産としてその重要性を増しています。それらデータの価値を高めるためには、新しい価値を模索するアプローチが欠かせません。Microsoft Azureのように、データ収集から分析まで一気通貫で利用可能なデータ基盤を導入することで、よりスムーズに実践できるでしょう。