テレワークを実現するのに有効なVDI(仮想デスクトップ)が注目を集めています。この記事では、そもそもVDIとはどんなものかといった基本から、オンプレミス型と比べクラウド型が注目を集める理由を解説します。VDIの導入を検討されている方に、主要なクラウド型VDIの比較もしています。
VDI(仮想デスクトップ)とは?
VDI(Virtual Desktop Infrastructure)とは、PCのデスクトップを仮想化してサーバー上で集約管理するシステムのことです。VDIではサーバー上で仮想マシンとしてデスクトップを実行し、ネットワークを通してユーザーの端末へ転送します。ユーザーはキーボードやマウスなどでデスクトップを操作し、その操作内容はネットワーク経由でサーバーへ転送されます。
VDIでは、OSやアプリケーションは全てサーバー上で動作し、ユーザーの端末には仮想デスクトップの画面が転送されるのみです。そのためユーザーの端末では、OSやアプリケーションが実行されることによる負荷は発生せず、高いスペックも求められません。
VDIを導入すると、いつでもどこでも同じデスクトップ画面が使える
VDIを導入すると、手元に接続用の端末とネットワークさえあれば、使い慣れたデスクトップ画面をいつでもどこからでも利用することが可能です。たとえばオフィスで使っているデスクトップ画面に対して、自宅のPCからインターネット経由でアクセスしたり、出先でPCを開いてモバイルWi-Fiなどのネットワークを使ってアクセスしたりすることができます。
また端末を買い替えたとしても、仮想デスクトップ自体はサーバー上にあるため、ユーザーはアプリケーションのインストール等を改めて行う必要はありません。買い替え前と同じ環境をすぐに利用することができます。
VDIが注目されている背景
働き方改革において、テレワークを実現する手段としてVDIが注目されています。VDIがあれば、オフィスで利用するのと同じデスクトップ環境をカフェや自宅などで再現できるためです。
テレワークではデータがオフィス外で処理されることで常に情報漏えいのリスクがあります。しかし、VDIでは、データは手元の端末には残らず、サーバー側に保存されるため、端末の盗難や紛失などによる情報漏えいのリスクを軽減することができます。
オンプレミス型VDIとクラウド型VDIの違い
VDIには「オンプレミス型」「クラウド型」の2種類があります。VDIを導入する場合、それぞれの特徴を比較してより自社にあった方を選びたいところです。以下、オンプレミス型VDI・クラウド型VDIの概要やメリット・デメリットについて解説します。
オンプレミス型VDI
オンプレミス型VDIとは、自社で構築・管理するサーバーで仮想デスクトップ環境を運用するタイプを指します。運用を全て自社で行うことになるため、利用に合わせた細やかなカスタマイズを自由に行えるのがメリットです。
セキュリティポリシーでクラウドにデータを預けることができない企業の場合は、オンプレミス型VDIを利用することにより、安全に運用できます。
一方、デメリットとしてあげられるのは初期コストと運用負担が大きいことです。オンプレミス型VDIを導入する場合、そのためのサーバーはもちろんのこと、ストレージや仮想化を実現するためのソフトウェアを用意する必要があり、まとまった金額の初期コストが発生します。
またオンプレミス型は、仮想デスクトップ環境の管理を全て自社で行う必要があり、その負担は決して軽くありません。サーバー・ストレージ等のハードウェアの管理はもちろんのこと、VDIの運用はサーバーに大きな負荷がかかるため、それを軽減するためのチューニングも必要です。これらの作業は、専門的な知識や技術が欠かせないことから、対応が可能な専門技術者を確保しなくてはなりません。
クラウド型VDI
名前の通り、クラウド上のVDIを利用するタイプです。クラウド型VDIは「DaaS(Desktop as a service)」とも呼ばれています。クラウド型のVDIでは、提供元が用意・管理するVDI環境をそのまま利用します。
オンプレミス型と比較した場合のクラウド型のメリットは、初期コストの安さと運用の手間がかからないこと、スピーディに導入できることです。サーバー・ネットワーク・仮想化を実現するソフトウェア等は、全て提供元が手配するため、初期コストを抑えることができます。構築済みの環境を利用することから、申し込みから利用開始までの期間も短くてすみます。またサーバー等の運用についても、提供元が行ってくれるためユーザーはその負担もかかりません。
一方でデメリットは、オンプレミス型と比べカスタマイズ性が低いということです。クラウド型はあらかじめ決められた形の仕様で利用することになるため、オンプレミス型と比較するとどうしてもカスタマイズできる部分は少なくなります。
またサービスの仕様や種類によっては、ランニングコストが高くなります。その結果、中長期的な視点で比べてみると、オンプレミス型の方が安く済む可能性も否定できません。
近年はクラウド型が主流に
これまで見てきたように、オンプレミス型・クラウド型ともにメリット・デメリットがあり、一概にどちらの方がよいとは言えません。しかし初期コストや人的リソースが少なくてすむことから、多額の予算を組みにくい中小企業や、スモールスタートでまずは試験的に導入したい企業を中心としてクラウド型が選ばれることが多くなっています。
いま注目のクラウド型VDIサービス4選
ここでは、現在注目されている代表的なVDIサービス4つを紹介します。それぞれの特徴も解説します。
Azure Virtual Desktop(旧Windows Virtual Desktop)(AVD)
Azure Virtual Desktop(旧Windows Virtual Desktop)(以下AVD)は、マイクロソフトが提供するVDIサービスです。他のVDIサービスと比較した場合のAVDの最も大きなメリットは、「Windows 10 マルチセッション」が利用できることです。
マルチセッションに対応していない他のVDIサービスでは、ユーザーがWindows 10の仮想デスクトップ環境を利用する場合、1人のユーザーに対して1つの仮想マシンを割り当てる必要があります。対してセッションに対応していれば、Windows 10がインストールされた1台の仮想マシンに、複数のユーザーが同時に接続して利用することができます。その結果、運用のコストを大幅に抑えられます。
VMware Horizon Cloud on Azure
VMware Horizon Cloud on Azureは、実績が豊富なオンプレミス型VDI「VMware Horizon」をクラウド化したサービスです。VMware Horizonは堅牢で可用性が高く、金融・公共をはじめさまざまな業種で利用されている代表的なVDIサービスです。
VMware Horizon Cloud on Azureは、独自の画面転送技術によりモバイルWi-Fiなどの環境でも快適に仮想デスクトップ環境を利用できます。また従来のVDIでは、システムを止めるのが難しいことから、提供元のアップデートを適用するハードルが高いという悩みがありましたが、VMware Horizon Cloud on Azureでは、システムを止めることなく管理画面での簡単な操作だけでアップデートが可能です。またビジネスシーンに合わせて、同時接続数・利用ユーザー数のいずれかから課金体系を選択できるのもメリットです。
Citrix Virtual Apps and Desktops
Azure Virtual Desktop(旧Windows Virtual Desktop)やVMware Horizon Cloud on Azureと並ぶ代表的なVDIサービスです。「Citrix HDX」テクノロジーにより、手元のPCを操作しているような感覚で遅延なくスムーズに仮想デスクトップの操作が可能です。またUSBリダイレクト等の機能によって、手元のPCに接続した周辺機器を仮想デスクトップ上で利用することができます。
Amazon WorkSpaces
Amazon WorkSpacesは、Amazon.comが提供するクラウドサービス「AWS」上で動作するVDIサービスです。仮想デスクトップ環境を安価に導入できる上、自分が起動した WorkSpaces に対してのみ料金を支払う仕組みになっているため、無駄な費用を削減できます。また仮想デスクトップの構築から破棄までを管理画面から一元的に実行でき、管理負担を軽減することが可能です。さらに企業がAmazon EC2を利用して業務サーバーなどを運用している場合、ネットワークに近い場所で仮想デスクトップを運用できるというメリットもあります。
クラウド型VDIサービス比較表
以下、これまで紹介した4サービスについての比較表を掲載します。サービスを選択する際の参考にしてください。
【主要クラウド型VDIサービス比較表】
|
AVD |
VMware Horizon Cloud |
Citrix Cloud |
Amazon WorkSpaces |
ライセンス形態 |
ユーザー単位 |
ユーザー単位/同時接続数 |
ユーザー単位 |
ユーザー単位 |
ライセンスの最小購入数 |
1 |
25 |
25 |
1 |
管理画面 |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
ハイブリットクラウド対応 |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
アプリケーション管理 |
FSLogix |
FSLogix/AVM |
FSLogix/AppLayering |
非公開 |
まとめ
VDIにはオンプレミス型とクラウド型がありますが、現在注目されているのは初期コスト・必要とする人的リソースが少なくて導入しやすいクラウド型です。またクラウド型にはAVDなど4つの主要なサービスがあり、それぞれ特徴が異なります。クラウド型VDIサービスを導入する場合、どれが自社に適しているかの検討が必要です。