SAP社が提供するERPソリューション(以下SAP)は、世界で最も多くの企業に利用されているシステムであり、あらゆる業界標準に対応した基幹システムです。多くの実績があるためこれからERPを導入しようとしている企業にとってSAPは安心できる選択肢となります。
しかし、その一方で導入に際し「失敗しないか不安だ…」という声も少なくありません。「世界的なERPソリューションといっても、海外製品が自社にフィットするのだろうか?」、「SAPという強力なシステムを導入して扱い切れるだろうか?」などなど、その理由を挙げればきりはないでしょう。期待が大きいほど不安も大きくなるのは、自然です。本稿では、そんな不安をかかえているERP担当者に向けて、SAP導入に失敗しないための重要なポイントについて解説します。
SAP導入に失敗しないための重要ポイント
1.費用対効果を算出して、目先のコストにとらわれない
SAPは基幹システムであり、企業の経営を支える基盤です。そのため会社の業績を左右するシステムと言っても過言ではないほど重要であることに間違いはありません。しかし、その適用範囲や導入の仕方によっては非常に高価になりがちです。そのため、目先のコスト優先でSAP導入を考えてしまうケースが、どうしても無くなりません。
たとえば、導入段階でコスト軽減ばかりに目が行ってしまうと、本来SAPで一元化されるべきデータが管理されず、紙資料や他の業務ソフトウェアを併用した複雑な管理が要求されます。その結果、業務効率化は実現されず、SAP利用が徹底されなくなってしまったというケースもあります。
何事も大切なのは「費用対効果」です。100のコストから得られる120%の効果よりも、200のコストから得られる500%の効果の方がビジネスに与える影響と、利益拡大に繋がる要素が大きいのは明白でしょう。そしてこれこそ費用対効果の考え方であり、目先のコストばかりにとらわれないことが非常に大切です。
2.SAP導入後の効果的な運用について十分議論を重ねる
SAPを導入することで得られる効果は無数にあります。業務プロセスが改善され経営の可視化が可能になるだけでなく、グローバルビジネスを効率化させ、ガバナンスやコンプライアンスの強化にも繋がります。
しかし、ただ漠然とグローバル競争力を手にしたいという企業も多いのではないでしょうかそうした漠然とした目的意識ではSAP導入に失敗する可能性が高くなります。
「SAPを導入したらあれとこれを連携して…」と導入後のシステム環境をイメージしている企業は多いでしょうが、「連携して、その後どうやって運用するのか?」まで意識を固めている企業はそう多くありません。
大切なのは「SAP導入後にどのような運用をするか?」まで、十分な議論を重ねておくことです。そのためには現在のシステム課題と業務課題を整理する必要があります。それぞれの課題を理解していれば、業務効率をアップするのに必要な運用方法が見えてくるはずです。
3.エンドユーザーとなる部門担当者がプロジェクトに加わる
SAPはよく「経営課題を解決するためのシステムだ」と言われます。しかし、実際にシステムに触れるのは担当者であり、彼らがシステムを正しく扱えるどうかが成功の握るカギになるのは間違いありません。
エンドユーザーがシステム環境や運用について理解できていないまま導入が進むと、逆に業務効率が下がる原因になるでしょう。そこで、SAP導入段階から実際の想定利用者をプロジェクトに巻き込み、企業全体がチームになって1つのSAPを導入していく気持ちが必要になります。
4.既存システムのとの連携性を考慮して極力自動化を図る
SAPを導入する場合でも、現在運用しているすべての業務ソフトウェアを一元的に統合できるわけではありません。企業ごとの事情によって既存システムを一部残す場合もありますし、クラウドで提供されるソフトウェアを利用しているケースもあるでしょう。その際はSAPと既存システムの連携性を確認しておきましょう。
せっかくSAPを導入しても、一部のデータ入出力が主導で行わなければならないとなると、業務効率は下がりますしシステムトラブルも増えてしまいます。余計なリスクを回避するためにも、既存システムとの連携性を意識してください。
5.インフラ基盤としてクラウド(IaaS/PaaS)を検討する
SAPを導入するにあたり、同時に新しいインフラ基盤の検討もおすすめします。既存のオンプレミス環境ではインフラ調達までに時間と手間がかかりますが、クラウドならものの数分で仮想マシンをインスタンスできます。インフラ調達にかかる時間を大幅に短縮することで、短い期間でプロジェクトを完了させられる上に、コストも削減できます。また、企業のコアコンピタンスとは関係のないシステムのお守りなどは後々企業にとって多くの負担になることは明白です。そのためにもクラウド事業者がしっかりと管理する構成を考えることが重要です。
クラウドの中ではMicrosoft Azureがおすすめです。SAP社とMicrosoft社は長年のパートナーシップによって互いのテクノロジーを生かすよう設計されています。さらに、Microsoft Azureのリザーブドインスタンス(長期利用)によって仮想マシンコストを大幅に削減できますので、運用費用のカットにも繋がります。
SAPはなぜクラウドがよいのか?
上記のメリット5で、SAPのインフラ基盤としてクラウドがおすすめと説明しました。ここでは、その理由について具体的に解説します。まず、クラウドには以下のような一般的なメリットがあります。
- システム環境の調達に時間がかからない
- 長期量で仮想マシンのコスト削減ができる
- 信頼性の高いインフラ上でシステム環境を構築できる
- インフラの保守運用負担の軽減ができる
- インフラの保守運用費用の削減ができる
- BIと接続することでSAPデータの活用を促進できる
- AI/機械学習やIoTなどとの連携により質の高い経営を実践できる
- サービスとしてバックアップやDS(災害復旧)を組み込める
- 保守運用にかかるコストをある程度視覚化できる
このように、IaaS/PaaSといったインフラやプラットフォームを提供するクラウドをインフラ基盤に選び、そこにSAPを導入すると様々なメリットが得られます。
例えばSAPをクラウドで動作させるときに真っ先に検討したいMicrosoft Azureは、他のクラウドに比べてコストや移行性に優れており、Azure Active Directoryのユーザー情報をSAPアプリケーション及びSaaS認証に利用することで、ユーザー管理の統合とシングルサインオンかを実現できたりします。
さらに、OSライセンスコストの最適化によって仮想マシンコストを大幅に削減できたり、SAPから購入したSQL Serverライセンスを無償で持ち込みも可能です(契約形態によります)。また、 SAP HANA専用マシンまで提供されているので、最大サイズ24TBまでスケールアップが可能です。
この他にも、Microsoft Azureは他のクラウドにはないサービスを多数提供しており、SAP社と長年のパートナーシップによるインフラ設計で、SAPにとって大変メリットの大きいクラウドとなっています。SAP導入検討の際は、同時にMicrosoft Azureも検討してみてはいかがでしょうか。