製造業において欠かせない仕事のひとつが設備メンテナンスです。機械設備が安全かつ安定的に稼働し続けるためには、適切なメンテナンスの実施が重要です。本記事では設備メンテナンスの基本的な仕事内容や重要性、今後の展望などを解説します。本記事を参考にぜひ設備メンテナンスへの理解を深め、業務改善に繋げてください。
設備メンテナンスの仕事とは
一般に設備メンテナンスとは、設備の安全性や性能を正常な状態に保つために行う仕事と定義できます。設備メンテナンスの対象といえば、工場設備が真っ先に連想されますが、実際には建築物やインフラ、工具類など多種多様なものを含みます。設備メンテナンスにおいては、設備の監視を行う「保守」の視点と、安全性を維持する「保全」の視点の両方が重要です。
設備保全との違い
「設備メンテナンス」と「設備保全」の2つの言葉の違いが気になる人も多いのではないでしょうか。実のところ、両者の業務内容に大きな違いはありません。ただし大まかな傾向としてみれば、会社における設備の維持活動全般を総称して「設備保全」と呼ぶ場合が多いでしょう。これに対して「メンテナンス」という言葉は、「メンテナンス作業」「定期メンテナンス」などとよく言われるように、個々の設備点検や復旧作業を指して使われる場合が多いかもしれません。また、設備保全は「保全」という言葉が示すように、設備の「安全性確保」を第一義とした活動ですが、一般的には、メンテナンスはどちらかといえば「正常な稼働状態を守る」というニュアンスを持っていると言われています。保守や点検を行う場合、たとえば電気工事士やボイラー技士、消防設備士など、業種によってさまざまな資格制度があります。
設備メンテナンスの役割とは
設備メンテナンスの役割は、主に「予防保全」「予知保全」「事後保全」の3つに分かれます。以下では、それぞれの違いを解説します。
トラブル防止のための「予防保全」を行う
設備メンテナンスの第一の役割は「予防保全」です。予防保全とはその名の通り、設備が重大な故障や不具合を起こす前に、予防的に修理や整備を行うことを指します。予防保全は基本的に定期メンテナンスを通して実施され、事前に定められた時期・時間に作業を行うのが一般的です。
予防保全のメリットは、あらかじめスケジュールを定めて実施できることや、予期せぬ故障が発生する危険を抑制できることです。これによって企業はダウンタイムの発生による経済的損失を防ぎ、設備の安定的かつ安全な稼働を実現できます。また、定期的なメンテナンスは、設備の寿命を延伸することにも繋がり、企業の重要なビジネス資産を守り、長期的に維持活動できるようにします。
トラブルの兆候を捉える「予知保全」を行う
設備メンテナンスの第二の役割は「予知保全」です。予知保全とは、センサー機器などを用いて設備の状態を常時監視し、そこで収集・分析されたデータや記録に基づいて、故障の兆候などを事前に検知する取り組みを指します。
スケジュール重視の定期メンテナンスによる予防保全だけだと、不必要な部品交換など設備の実態を正しく反映していない作業や、それによるコストが発生してしまいます。しかし予知保全を活用することで、リアルタイムに設備の不調を察知し、無駄なコストをかけることなくダウンタイムを回避可能です。予知保全におけるモニタリングや分析は、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)によって自動化できることから、設備メンテナンスの省人化にも寄与します。
トラブル発生時の「事後保全」を行う
設備メンテナンスの第三の役割は「事後保全」です。事後保全とは、設備に故障などのトラブルが発生した後に修理や原因究明を行う作業を意味します。事後保全はその性質上、事前にスケジュールを設定できず、障害が発生してから突発的に行われることになります。
いくら予防保全を行ったとしても、トラブル発生のおそれを0にすることは難しいため、事後も必要不可欠な仕事です。とはいえ、「故障してから対応すればいい」という考え方だと、早期に対応すれば大した問題にならなかった故障や劣化が深刻化する可能性もあり、重大な事故が発生したときに取り返しがつきません。したがって、事後保全に頼り切るのは避け、予防保全や予知保全を併せて活用することが一般的に推奨されます。
設備メンテナンスの課題
設備メンテナンスに際して、企業はどれほど設備の安全性・安定性に対してマージンを取るか、コストと相談しながら判断していかなければなりません。そのバランスの取り方を誤ると以下のような課題が生じます。
オーバーメンテナンスの可能性
定期メンテナンスを重視しすぎた結果起こりうるのがオーバーメンテナンスのおそれです。たとえば部品交換のタイミングを、実際の状態よりも事前に定められたスケジュールから決めている場合、メンテナンスチームがまだ使える部品を早く交換しすぎてしまい、余計なコストが発生してしまっているかもしれません。このように、時間や時期を基準にした定期メンテナンスは、ときにコスト面での非合理性をもたらす場合があります。
維持管理不足によるダウンタイムの発生
前項では、硬直的な定期メンテナンスのデメリットを指摘しましたが、かといって設備メンテナンスを怠っていると、維持管理不足によって設備に故障や不具合などが生じ、ダウンタイムが発生してしまうかもしれません。昨今では人員不足によって設備保全においても省人化が求められていますが、事故発生の背景には人的要因も多く見受けられます。
たとえば、消防庁が毎年公表している「石油コンビナート等特別防災区域の特定事業所における事故概要」の令和2年版によれば、人的要因による事故発生率が37%存在するとされています。なお、同調査では維持管理不十分による事故の割合は10%存在するとされており、このことからも設備メンテナンスの重要性が窺えるでしょう。
設備メンテナンスはこれから「予知保全」が重視される
働き方改革やDXなど、業務改革に取り組む企業が増えている現在、設備メンテナンスの在り方は今後どのように変化していくのでしょうか。当面の展望としては、デジタル技術の活用がさらに進むのに伴って、これからさらに予知保全が重視されていくものと予想されます。
というのも、リードタイムの短縮化が望まれる現代において、設備メンテナンスはダウンタイムの削減を目指すべきであるという見方が強まっているからです。障害が発生してから対応に当たる事後保全はもちろん、不必要なメンテナンス作業で日常業務を阻害するおそれのある予防保全よりも、予知保全の方がこの点で優れていることはすでに説明したことからも明らかでしょう。
最近はIoTやAIの活用も進んでおり、設備をリアルタイムに自動監視しつつ、データ分析によってトラブル発生を的確に防ぐことが可能になってきています。設備メンテナンスの適正実施を、熟練の作業員による勘やコツに頼っている現場は未だ多く存在しますが、最新のICT技術を活用した予知保全の導入は、そうした属人化を解消する方法にもなりえます。
今後少子高齢化に伴って人手不足が深刻化していく日本において、デジタル技術の活用による設備メンテナンスの自動化・効率化はますます注目されていくでしょう。
まとめ
今後の設備メンテナンスはデジタル技術の活用が重要です。Microsoft社の最新MRソリューション「AzureHoloLens 2」を用いれば、リモートの作業指示者がヘッドマウントディスプレイを通して現場の作業員と視野を共有するので、メンテナンス作業を効率化できます。また、予知保全の観点からも大きな貢献が期待できます。