製造分野に携わる企業にとって、生産設備の安定稼働は非常に重要な経営課題のひとつです。そこで重要となるのが、定期的な点検によって設備や機器の故障を防止する「予防保全」です。本記事では、予防保全の概要や種類について解説するとともに、AI技術を活用した「予知保全」についてご紹介します。
予防保全のメンテナンスとは
「予防保全」とは、生産設備の安定稼働を担保し、故障を防止するために実施する定期的な点検やメンテナンスを指します。製造業において、工場内の電子機器や駆動装置、計器類、工作機械などの生産設備は付加価値を創出する源泉です。この設備や機器に異常が発生した場合、製造ラインの停止によって事業活動に支障をきたすのはもちろん、重大な事故につながる可能性も否定できません。
そのため、ものづくりの分野に携わる企業にとって、生産設備の安定的かつ恒常的な稼働は最重要課題のひとつといえます。そこで定期的な点検やメンテナンスを実施し、設備や機械の故障を防止するのが予防保全の役割です。予防保全は3ヶ月や半年などの一定期間で定期的に点検する「時間計画保全」と、部品の劣化具合に応じて対応する「状態監視保全」という2つのパターンによって実施されます。
時間計画保全
時間計画保全は、過去の経験や説明書の内容に応じて、あらかじめ設定された周期で点検やメンテナンスを実施し、設備や機器の故障を予防する設備保全です。生産設備の状態にかかわらず定期的な保全を実施することで、突発的なインシデントの防止や設備寿命の向上、保全管理コストの平準化に寄与します。時間計画保全は保全計画を立てやすいというメリットがありますが、保全周期を見誤ると点検回数の増加や使用可能な部品の交換につながり、保全管理コストの増大を招くリスクをはらんでいます。
状態監視保全
状態監視保全は、生産設備の稼働状況を監視し、部品の状態に合わせて適宜調整や交換を実施する設備保全です。時間計画保全では使用可能な状態であっても、一定期間を経過した部品はすべて交換対象になるのに対し、状態監視保全は部品の劣化具合に応じて柔軟に対応します。状態監視保全は不要な部品交換を行うリスクを最小化できるというメリットがありますが、設備や機器に異常が発生する兆候や部品の寿命を見抜く高度な知識と技術が求められます。
事後保全とは
「事後保全」とは、生産設備に故障や不具合が発生した段階で対策を講じる設備保全です。一般的には、電子機器や駆動装置などが完全に作動しない、または機能の一部が停止している状態に陥った場合に実施します。自動車に例えるなら、予防保全は1年や2年といった期間に応じて実施される車検に該当し、事後保全は突発的な故障や不具合が発生した際の緊急修理に当てはまるといえるでしょう。
事後保全は、予防保全のように定期的な点検にリソースを割く必要がありません。点検やメンテナンスに要する人材やコストを削減できるため、業績向上に直結するコア業務にリソースを集中できる点が大きなメリットです。しかし、生産設備が故障した際に長期間のダウンタイムが生じるとともに、修理費用が膨大になるケースも少なくありません。生産施設の安全性を担保するためにも、予防保全と事後保全を組み合わせた管理体制を整備する必要があります。
予知保全とは
AIやIoTといった技術革新の進展とともに、製造分野で大きな注目を集めているのが「予知保全」です。予知保全とは、生産設備の稼働状況を常時モニタリングし、対象に異常や故障が発生する兆候を検知する設備保全です。予防保全は「時間」、事後保全は「故障」をトリガーとするのに対し、予知保全は不具合が発生する「故障の兆候」を検知した場合に保全を実施します。
予防保全の問題点
時間計画保全は使用可能な部品を交換するオーバーメンテナンスにつながる可能性があり、状態監視保全は故障の兆候を検知するのに高度な知識と技術が求められます。そして、時間計画保全と状態監視保全の2つに共通する問題点として挙げられるのが、保全業務に対するリソースの集中です。一般的に保全業務のプロセスに人材やコストを割くほど、コア業務に投じるリソースの減少を招きます。
製造業に従事する企業は製品の生産を通じて付加価値を創出し、それを市場に提供することで利益を得る組織です。そのため、製造ラインにおける生産性向上にリソースを割くべきであり、直接的な付加価値の創出に寄与しない業務は可能な限り省人化すべきといえるでしょう。生産設備に故障や不具合が発生する兆候を確実に予知できれば、予防保全に投じていたリソースを削減しつつ、設備と機器の安定稼働を担保する一助となります。
予防保全からAIを活用した予知保全へ
国内の製造分野は人材不足の深刻化や就業者の高齢化など、さまざまな課題を抱えている業界です。経済産業省が2020年5月に発表した調査によると、製造分野に携わる企業の約40%が「人材不足」を深刻な経営課題として挙げています。日本は人口減少と高齢化率の上昇が加速しており、今後さまざまな産業で人材不足が深刻化していくと予測されます。
こうした製造分野の課題を解決する技術として注目を集めているのが、AIやIoTといった最先端のデジタル技術です。とくにAIの機械学習による異常検知システムを活用できれば、人間を遥かに凌駕する高精度な予知保全が可能となります。ここからは、AIを活用した予知保全を生産体制に取り入れるべき理由と、それによって得られる具体的なメリットを紹介します。
予知保全を検討すべき理由
人材不足と就業者の高齢化が加速する製造業では、いかにして人的資源に依存しない生産体制を構築するかが重要な経営課題です。先述したように、時間計画保全は、使用可能な部品を交換するオーバーメンテナンスにつながる可能性があります。そして状態監視保全は、生産設備の故障や不具合の兆候を見抜くために、熟練工のもつ高度な知識と技術が必要です。
AIの機械学習を用いた予知保全が可能になれば、保全業務に割いていた人的資源を製品の設計や開発といったコア業務に集中できると同時に、人材不足や就業者の高齢化といった課題を解決する一助となるでしょう。また、IoTセンサーが収集した生産設備の稼働データを適切に活用するためには、AIの機械学習アルゴリズムを用いた高度なデータ分析が不可欠となります。
AIを活用した予知保全のメリット
予知保全の精度を向上するためには、生産設備を監視し続けるシステムが必要であり、その要となるのがAIとIoTです。まずIoTが機器や設備をモニタリングしてデータを収集し、そのデータをAIが分析することで故障や不具合の予兆を検知できます。熟練工の知識に依存した属人的な体制から脱却でき、オーバーメンテナンスの解消にもつながるため、従来と比較して保全管理コストを大幅に削減可能です。
具体的な企業事例として、大手建設機械メーカーのK社は「Microsoft Azure」で稼働する機械学習サービス「Azure Machine Learning」を活用し、劣化部位の特定と部品の寿命を算出する予知保全システムを構築しています。BIツールの併用によってデータや部品の寿命をビジュアライズすることで、経験の浅い人材でも生産設備の稼働状況を把握できるため、熟練工のもつ高度な知見への依存度を最小限に抑えた設備保全を実現しています。
まとめ
予防保全とは、生産設備の故障を防止する点検やメンテナンスを指します。近年ではAIやIoTといった先端技術を活用することで、故障の兆候を事前に検知する予知保全が注目されています。生産体制に予知保全を取り入れたい企業は、機械学習サービスを搭載するMicrosoft Azureの導入を検討してみてはいかがでしょうか。