働き方改革の推進や近年の時流を背景に、リモートワークやテレワークを導入する企業は年々増加しています。日常生活でも耳にすることの増えたこれらの言葉には、明確な違いがあるのでしょうか。
「リモートワーク」と「テレワーク」のそれぞれの意味や特徴について、またそれらを導入する際の注意点についても解説します。
「リモートワーク」と「テレワーク」の違いとは?
「リモートワーク」と「テレワーク」はどちらも、「オフィスなど本来の勤務場所から離れて、自宅やカフェ、サテライトオフィスのような場所で勤務すること」を指す言葉です。ICT(情報通信技術)を利用したこのような勤務制度は、総務省が進める働き方改革の一環として、現在多くの企業で取り入れられています。
同じ「オフィス以外の場所で働く」という意味を持つリモートワークとテレワークですが、両者の違いは「働き方に明確な定義があるか否か」というところにあると言えるでしょう。リモートワークはテレワークに比べて言葉の定義がはっきりしておらず、オフィス以外の遠隔地で働くことをざっくりと言い表すのみです。一方のテレワークは、一般社団法人である日本テレワーク協会によって、働く場所ごとに「自宅利用型テレワーク」や「施設利用型テレワーク」など、より細かい勤務形態が定義されています。ちなみに、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を指す言葉として、総務省が採用・発信しているのも「テレワーク」です。
近年の働き方の変化に伴い、IT業界等を中心として自然と生まれた言葉がリモートワーク。そして、古くからオフィシャルな場で使用される言葉として、より明確にその意味を定義づけされてきたのがテレワーク、という考え方ができます。
それを踏まえた上で、それぞれの言葉の語源や歴史について、もう少し具体的に説明していきます。
リモートワークとは
「リモートワーク」は、英語で「remotework」と表記します。「遠い・遠方の・遠隔の」といった意味を持つ「remote」と、「働く」という意味の「work」が組み合わさった造語です。
一見和製英語のようですが、テレワーク発祥地のアメリカでもリモートワークという言葉は一般的に使われています。テレワークとほぼ同じように使われる日本とは少し異なり、どちらかというとオフィス以外をメインの勤務場所とする「フルリモート」的な働き方について「リモートワーク」という言葉を当てることが多いようです。
その語源や発祥については諸説あり、テレワークと比較すると言葉としての歴史が浅いため、未だ明確な語義も定められていません。
テレワークとは
「テレワーク」は、1973年にアメリカのJack M. Nillesが「遠い・離れたところ」という意味の「tele」と、「働く」という意味の「work」を組み合わせて作った造語です。そのまま「telework」と表記します。同時に、ほぼ同じ意味を指す「テレコミュート(telecommute)」という言葉も生まれましたが、日本では「テレワーク」のほうがなじみ深いのではないでしょうか。
日本でテレワークという勤務形態が初めて登場したのは、NEC(日本電気)が1984年にサテライトオフィスを設置したことだと言われています。結婚や出産などで退職してしまう女性社員を減らすために、通勤の負担を少しでも軽減できないかと考え導入されました。その後1991年には、サテライトオフィスを推進し、企業活動の効率化やゆとりのある働き方の実現を目指すための「日本サテライトオフィス協会(任意団体)」が設立され、今日の「一般社団法人日本テレワーク協会」に続いています。
そして、この日本テレワーク協会が、「テレワーク」を働く場所の違いによって「自宅利用型テレワーク(在宅勤務)」・「モバイルワーク(移動中や顧客先での勤務)」・「施設利用型テレワーク(サテライトオフィス勤務等)」の3つに分類しました。リモートワークよりも言葉の定義がはっきりしている背景には、こうした日本での歴史の古さも関係しているのです。
リモートワークとテレワークの使われ方の違い
テレワークという言葉が生まれた地であるアメリカでは、オフィス以外の場所をメインに働くことを「リモートワーク」、オフィスをメインに、週に数日自宅やサテライトオフィスで働くことを「テレワーク」と呼び分ける風潮があります。では、この2つの言葉がほぼ同義で用いられている、日本での使い分けはどうでしょうか。
Google Trendsを用いて検索数を調査すると、「リモートワーク」よりも「テレワーク」という言葉を使っている人が倍以上多いことがわかります。
働き方改革を進める総務省が「テレワーク」という言葉を用いており、国や自治体の助成金など、公的な制度の名称にも「テレワーク」が使われていることから、「リモートワーク」よりも一般に広く認知されたのかもしれません。しかし、求人サイト等の傾向を見てみると、ITやWeb系の企業では「リモートワーク」という言葉を使う場面が多いようです。公的な機関で多く使われるテレワークと、エンジニアやデザイナーなどが特に多く使う傾向にあるリモートワーク。同義でも、職種ごとのなじみ深さによって言葉が使い分けられている、といった印象を受けます。
テレワーク・リモートワークを導入する際の注意点
テレワークやリモートワークといった「オフィスから離れた働き方」を実際に導入するにあたり、情報通信システム・機器の用意やセキュリティ、働く人の執務環境の整備、そして労働管理の方法といった点をどうするか、それぞれ検討する必要があります。
まず注意したいのは、情報漏洩やデータ紛失のリスクです。業務によってはオフィス以外の場所へ機密情報を持ち出すことになるため、研修を行うなどして従業員一人ひとりの情報保護意識を高く保たなくてはなりません。業務で使用するパソコンや、通信回線のセキュリティ強化も必須です。場合によっては、会社から使用機器や通信環境をすべて貸与する必要も出てくるでしょう。
また、環境の整備に関しては、光熱費や環境整備費等、業務を行うために必要な経費負担の扱いをどうするのか、あらかじめ取り決めておくことが大切です。
そして、上司や同僚の目から離れたところで仕事をするにあたって、個人の労働管理をどのように行っていくかという部分も、事前に考えておきたいポイントです。働いている様子を直接確認できないため、業務の進捗状況を確認しづらかったり、勤務態度の観点から人事評価を下しにくかったりといった問題の発生が考えられます。
また従業員側も、他の社員とコミュニケーションをとる機会が減るために、孤独感に苛まれたり、オフィスへ出社しているチームメンバーから孤立したりするかもしれません。組織力の低下を防ぐためにも、チャットツールを導入するなど、コミュニケーションを密にとり、状況把握が容易にできるシステムの構築が求められます。
まとめ
日本において、リモートワークとテレワークはほぼ同義と考えてよいでしょう。公的には古い歴史を持つテレワークが多く使われていますが、業種やシチュエーションによって適宜使い分けるとよいでしょう。ただし「テレワーク」は働く場所によってさらに細分化された呼び方があるためそれらを混同しないようにご注意ください。